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真実

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 目を覚ますと、ベッドで寝ていることに優里は気がついた。ただ見慣れない天井に、見慣れない家具。広さからいっても、自分の部屋ではないのは一目瞭然だった。記憶を辿って、ここが病院だろうと思ったが、部屋のしつらえからすると、どこかホテルの一室のようにも見える。

 ドアがスライドする音がし、そちらへ視線を向けると、ちょうど聖吏が部屋へ入ってくるところだった。

「聖吏!」
「優里、気がついたのか!」
「うん、たった今……ところで、ここは?」
「病院だが……。皇琥の知り合いの病院って聞いたぞ」
「へぇ、病院にしては病室っぽくないなぁって思って」
「……特別室…ってドアの外に書いてあった」
「げっ、特別室……」

 なるほど…どうりで病室っぽくないしつらえだったのか。雑誌がテレビで見るような、スイートルームかと思っていたから、あながち間違えではないのかも。それにしても…やはり住む世界が違う。

「ところで、気分は?」
「もう大丈夫。でもまだ足首が痛い……」
「中度の捻挫らしいぞ。他にも怪我をしていないか、MRIも撮って検査したそうだが、足首以外は異常なかったと聞いてる」
「そっかぁ…」
「なにわともあれ、捻挫だけで済んでよかった……」

 聖吏を見ると憔悴しきっているのが分かった。いつもは冷静で、あまり表情を出さない聖吏だけに、相当心配をかけたらしい。

「ごめんな…聖吏」
「お前が謝る必要はない。どっちかというと、俺のほうが悪かった。お前を一人にすべきじゃなかったと……ごめん」
「……あん時はまさかこうなるとは思ってなかったし……それより、聖吏はどうやってここへ?」
「皇琥から連絡をもらった。まぁいろいろ小言を言われたけどな……」
「ごめん」
「だから、お前が謝るなって」

 頭をがしがしと聖吏に撫でられた。子供の頃からの聖吏の癖。それがいまは安心をくれて、思わず笑みが溢れた。

「なぁ、優里」
「ん、なに?」
「お前、どうして海照(あまみ)の蔵へ行ったんだ?」
「えっと、それは……」

 そうだった。あの時、蔵にさえ行かなければ、暴漢に襲われることも、怪我をすることもなかったかもしれない。

「控え室へ行く途中、神鏡を探してるスタッフがいて、それでまだ蔵にあるかもしれない……って」
「そのスタッフって?」
「…えっと、丈。高良丈っていう奴……」

 丈からされたことを思い出して、とっさに首筋を触った。それに小さな声で言った『ごめん……なさい』という言葉も頭に浮かぶ。あれは一体どういう意味だったのだろう。

「……神鏡は、……ちゃんと本堂にあった。それにおばさんも、祭りの前日には全ての神具を準備したと言っていた」
「えっ…そうなんだ。それじゃ、なんで……」
「その高良丈なんだがーー」

 ふたたびドアのスライド音がし、そちらへ視線を向けると皇琥が入ってきた。

「……聖吏、もう来ていたのか」
「……ああ」
「優里、具合は?」
「うん、足以外は、もう大丈夫……」

 皇琥と聖吏を交互に何度も視線を移して見た。どうも二人の様子がおかしい。よそよそし過ぎる。皇琥の屋敷では仲良さそうに話していた記憶があるだけに、目の前の二人の間の空気というのだろうか、どことなく、干渉するなオーラを醸し出している。

 そこで優里は聖吏に、それとなくさっきの話の続きを促してみることにした。丈は無事に神社へ着いたのかと。

 一瞬、ほんの一瞬だけ聖吏の動きが止まった。優里のところからは聖吏の視線が見えないが、皇琥の視線が聖吏を捉えているところをみると、どうやら二人は目で合図しているようだ。少し諦めたような笑みが皇琥の顔に浮かんだ気がした。

 ゆっくりと聖吏が優里の方へ顔を向け、そして先ほどの話を続けるように言った。

「その…優里、高良丈は……」
「?」

 小さな吐息をつくと、聖吏は首を横に振って皇琥のほうへ顔を向けた。

「やっぱりこれは、俺よりもお前から言うべきだ、皇琥」
「……」

 どういうことだろうか。高良丈と皇琥は関係があるのだろうか。それにしては、皇琥が助けてくれた時、皇琥と丈はお互いに初対面の印象を受けた。

「優里……」

 皇琥が真っ直ぐに優里の瞳を見つめた。いつもなら鋭い視線なのに、この時ばかりは、なぜか悲しそうな色を帯びていた。そう、あの満月の時に見た横顔を彷彿とさせる。

「高良丈は……、俺の従兄弟だ」
「えっ! いとこ?!」
「ああ、そうだ」

 パズルのピースがピシッと嵌るような、そんな音が頭の中で聞こえた気がした。だからあの時、丈は謝ったのだろうか。皇琥の従兄弟だから? でもなぜ神鏡のことは嘘をついたのだろう。

 目をぱちぱちと瞬きし、皇琥を見つめ続けた。そして、今度は大きな吐息が皇琥からもれ、再び静かに言葉を綴った。

「高良丈という名は、本名じゃない。本名は宝条昂毅ほうじょうこうき。そして……昂毅あいつが脅迫状を出した本人だ」
「?!」
「それから、優里?」
「えっ、まだあるのか、聖吏?」
「……ああ、昂毅こうきというべきだろうが、ここはあえてと言う。なぜなら、あいつも前世の記憶持ちで、しかも……ジョーは、俺の部下で、ユーリ王子お前の近衛だった」
「!!!」

 優里の頭の中は、真っ白だった。どう言えばいいのかさえ、なにも思いつかない。

 病室の中に沈黙が漂った。
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