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殺気

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 無理矢理に舌をねじ込み、歯列をなぞり、舌を甘噛みし、舌を吸った。その間、聖吏は抵抗するでもなく、されるがままだ。どうして?

 口内は唾液で溢れ、唇の端から流れ出す。聖吏の息が絶え絶えになっているのに気づきながらも、唇を貪った。

「んっ……ん…んっ……」

 聖吏はいつもそうだ。優里がなにをしようと、いつも黙って傍にいる。でもーー。

(いま、俺は何をしてる? 違う……俺は……こんなことをしたいんじゃ…ないっ!)

 ようやく唇を離した優里が聖吏の顔を見ると、目をぎゅっと瞑って、眉間に皺を寄せていた。苦虫でも噛んだような表情だ。そして聖吏の頬が濡れているのに気がついた。涙? 聖吏の? 

 優里が自分の口を腕で拭っていると、うっすらと瞳を開けた聖吏と目があった。

「優里? なぜ泣いてる?」

 聖吏はいつも優里のことばかり気にかけている。今だってそうだ。無理矢理キスされていたのに。責めるどころか、心配さえしている。

「……怒らないのかよ」
「優里……?」
「どうして……どうして、聖吏は…いつも、いつもそうやって!」

 聖吏が上体を起こし、優里の頬に流れる涙を手で拭った。

「……どう…して」

 聖吏が目を瞑って、小さく息を吐いた。それは何かを決心したような、少し諦めが混じった表情だった。

 でも次の瞬間、静かに目を開けた後の聖吏の顔は、穏やかで慈愛にみちていた。

「……誓ったんだ。前世で……二度」
「……」
「一度目は、お前…ユーリが皇帝の許婚だと知ったとき、……もう二度と会えないと思った。それでも……もしもお前の傍に居られるなら、俺自身の身を投じてもお前を守ると。そして二度目は……」
「二度目は……?」
「もし生まれ変わって、お前に会えたら……、今度こそ俺は、お前を守ると。俺自身もお前を傷つけないし、お前を傷つけようとする者から必ず守ると……。それなのに、俺はお前のことを叩いた……。俺には…もうお前を守る資格も、傍にいる資格もないのかもしれないな」
「……どうして、なんで、そこまでして俺を守るんだよ! 幼馴染だから?」
「……そうだな…幼馴染……だからかもな……」

 聖吏の視線が空を泳いだ。嘘だ。これは聖吏の癖で、嘘ついた時には視線が遠くの空でも見るように仰ぎ見る。優里は小さい頃から何度か見て知っていた。

「……いまの…嘘だろ、だってーー」
「ふぅ……やっぱりお前に嘘はつけないな……」
「じゃあ教えろよ、本当のこと!」
「……さっ…き殺…気
「さっき?」
「今日、誰かと争わなかったか?」
「あ……」

 忘れていた感情が沸々と蘇って、心臓の鼓動が早くなる気がした。それを悟られないよう、優里は俯いた。聖吏の声が降り注ぐのと同時に、頭を優しく撫でられた。

「俺は……お前の殺気を…抑える役目があるんだ…少なくとも前世では、そうだった」
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