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星と騎士(1)

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ーー星見神社

 遅咲きの桜が境内に咲き誇り、鳥たちは陽気に鳴いている。早朝にも関わらず、桜見物を兼ねた参拝客が星見神社へと少しずつやって来ていた。

 都心から程よく離れた星見神社は、緑豊かな場所で森林浴としても人気がある。またその名の通り、夜になると天の川が見えるほど澄んだ空気の場所だ。

 そんな麗かな情景とは別に、星見家の長男であり、星見神社の跡取りの優里ユウリは、急いで大学へ出かけていくところだった。

 いつもなら幼馴染の聖吏ショウリが優里を迎えにくるのだが、あいにく風邪を引き寝込んでいるらしい。

 食卓に慌ただしく駆け込んできた優里。朝食をとる時間もなく、今日も食パン一枚を持って、大学へ行こうとしていた。

「母さん、俺のパンどこ!」
「さっきテーブルの上に置いといたわよ。それより優里、聖吏君の風邪、治ったの?」
「いや、まだだって」
「あの子が病気なんて珍しいわね」
「まぁ、聖吏も普通の人間だった、ってことじゃね。やべ、時間が! じゃ、いってきます!」

 食パンをつかむと、そのまま優里は玄関へと急ぎ、ドアをガラッと開けたところで、誰かと正面衝突した。

「いってぇー」
「ごめん優里。大丈夫か……」
「……え、聖吏。お前、風邪じゃなかったの?」

 優里がぶつかった相手は、寝込んでいるはずの聖吏だった。背が高く、体格のいい聖吏の胸に優里が飛び込んだ形になった。がっしりとした厚い胸。それに太い腕に支えられ、優里は気恥ずかしくなり、顔に熱が集まってくるのを感じた。

「もう熱はないから迎えにきた」
「いや、でも具合悪そうに見えるぞ」

 見上げると聖吏の顔にうっすらと汗が滲んでいるのが見えた。ショートヘアの黒髪に青い切長の瞳。その瞳に自分が映っているのを見て、優里は思わず顔をそむけた。

「大丈夫だ。それにこれ以上、お前をひとりにさせられるか」
「俺なら大丈夫だって。聖吏は相変わらず過保護だなぁ。それよりいい加減放せって」

 聖吏から離れようと試みるが、ここ数日会っていなかったせいもあり、なかなか解放してくれない。しかも顎をクイっと持ち上げられ、キスされそうになった。

「まったぁ!」

 聖吏の口元を優里の手が塞いだ。

(そりゃ聖吏とのキスは高校の時にしたけど、やっぱりまだ恥ずかしい。それにあの話だって、俺はまだ認めちゃいない……)


 あの話ーーとは、許婚のことである。この二人は先祖代々が決めた許婚同士だ。

 星見優里ホシミユウリ、今春から大学へ進学した18歳。家が神社で長男ということもあり、将来は家業を継ぐ予定。大学もそれにちなんだ学科を専攻している。

 幼馴染の來住聖吏キシショウリ、同じく18歳。優里と同じ大学に通っているが、専攻は別。里見神社の近くに住んでおり、幼少期より優里と仲が良い。

 遥昔から星見家と來住家は家族ぐるみで付き合ってきた。その仲の良さから、互いの子供同士を結婚させようと昔々先祖が決めたそうだ。それを証明する古文書がそれぞれの家に残されている。

 しかし優里にとって聖吏は、幼馴染であり、そして親友としか思っていない。キスしたのだって、あれは事故だと思っている。

 そう、あれは事故なんだーー。
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