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本編
動き出した心
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名無し
そう呼ばれる少女は、先程の出来事を思い返していた。
『大丈夫か?!痛みは!』
答えがない事は分かっていたが、ライオネルは気にせず傷の具合を見て問いかけた。
﹣だいじょうぶ、いたくない、へいき﹣
そう思っただけだった。
なのに、なぜか伝わった。
私にもよく分からないけど、あの人が何に怒ってるのか何となく分かった。
私の事……
私が自分の事を、物だと言ったこと……
でも、なんで?
私は物で道具……それは、ずっと変わらなかったこと。
なのに、なんで……?
それが、悲しいと思ってしまった。
私を心配する人は初めてで、私の事を物じゃないって思ってくれた人も初めてで、分からない……
名前を聞いてきた人も初めてだ……
道具に名前なんてないのに…
考えちゃダメって分かってるけど……
忘れられないの……
どうして?
少女は、初めての感覚に戸惑っていた。
胸の奥が、痛くて苦しいの……会いたくて、そばに居たくて、とても苦しいの。
私は!感情を持たない、意志を持たないはずだったのに……あの人の…傍に居たい?そんな気分になる。
なんで……?
分からない……苦しい。
私は、セスティア王国で産まれて、要らない物だとお城に売られた。
私を手に入れた王様は、殺しても死なない道具を手に入れて、喜んだ。
そう、私は死なない、傷付かない、化け物……そう言われた。
何故かは分からない…
けれど、直ぐに直って(※1)しまうの。
深い傷も、少ししたら綺麗に直ってるの。
普通の人間は、絶対にありえないって。
だから、私は……
『お前……同胞なのか?』
同胞……同じ?
なにが……?
分からない……けれど、知りたい。
もっと……あの人の事を……
竜 帝 国……ライオネル様……
少女は気付いなかったが、その頬はほんの少し赤く色付いていた。
その頃……ライオネルは、名無しと呼ばれた少女を想っていた。
「フェル、彼女は、あの子は……」
「俺たちと同じか?」
「ああ、……十中八九そうだろう。竜人特有の脅威の回復力を備えてるところを見るとな」
なぜ、こんな所に居るのか分からないが……
俺達の同胞、俺の番。
彼女の苦しみが、俺に伝わってくる……
「化け物と……言われていたな」
「あぁ、人間共は俺達を、そう呼ぶからな」
「あの子も、ずっと言われてたんだよな……その上…道具か?」
クソったれ、何が道具だ化け物だ!人間よりも少し頑丈で回復力が高いだけだっ。
幼い頃からそんな環境で育てられ、彼女は耐えてきたのかと思うと……
そりゃ、言葉をなくし、心を失い、感情すらも捨てるわな……自分を守る為に。
「フェル、ヨハンを呼べ。あの娘は、俺が連れて帰る」
「了解だ」
この国に滞在する間、二度とあんな目には合わせない!
俺が、守る。
数時間後、ライオネルの部屋に青い髪に琥珀色の目をした青年が訪れた。
「ヨハン、娘の護衛を頼まれてくれ。あの娘は、俺の番だ」
「!マジっすかっ!分かりました!」
「何があっても、娘を最優先にしろ。セスティア王に逆らっても構わん。俺が何とかする」
ヨハンは、ライオネルの言葉に驚きはしなかった。番を持つ者が、何を置いても相手を思う事はいつもの事だからだ。
「直ぐにでも娘を連れて帰りたいが……」
「あの糞王が何か言ってくるかもな」
「ああ」
「呉々も、頼んだぞ!ヨハン」
「はっ!この命にかえてでもっ!竜帝陛下の番様は御守り致します!我らが同胞ならば尚のこと!」
ヨハンは跪き、誓いを言葉にして立ち去った。
─────
※1
少女は、自分の事を物だと思っているため、治るでは無く、直ると言っている。
そう呼ばれる少女は、先程の出来事を思い返していた。
『大丈夫か?!痛みは!』
答えがない事は分かっていたが、ライオネルは気にせず傷の具合を見て問いかけた。
﹣だいじょうぶ、いたくない、へいき﹣
そう思っただけだった。
なのに、なぜか伝わった。
私にもよく分からないけど、あの人が何に怒ってるのか何となく分かった。
私の事……
私が自分の事を、物だと言ったこと……
でも、なんで?
私は物で道具……それは、ずっと変わらなかったこと。
なのに、なんで……?
それが、悲しいと思ってしまった。
私を心配する人は初めてで、私の事を物じゃないって思ってくれた人も初めてで、分からない……
名前を聞いてきた人も初めてだ……
道具に名前なんてないのに…
考えちゃダメって分かってるけど……
忘れられないの……
どうして?
少女は、初めての感覚に戸惑っていた。
胸の奥が、痛くて苦しいの……会いたくて、そばに居たくて、とても苦しいの。
私は!感情を持たない、意志を持たないはずだったのに……あの人の…傍に居たい?そんな気分になる。
なんで……?
分からない……苦しい。
私は、セスティア王国で産まれて、要らない物だとお城に売られた。
私を手に入れた王様は、殺しても死なない道具を手に入れて、喜んだ。
そう、私は死なない、傷付かない、化け物……そう言われた。
何故かは分からない…
けれど、直ぐに直って(※1)しまうの。
深い傷も、少ししたら綺麗に直ってるの。
普通の人間は、絶対にありえないって。
だから、私は……
『お前……同胞なのか?』
同胞……同じ?
なにが……?
分からない……けれど、知りたい。
もっと……あの人の事を……
竜 帝 国……ライオネル様……
少女は気付いなかったが、その頬はほんの少し赤く色付いていた。
その頃……ライオネルは、名無しと呼ばれた少女を想っていた。
「フェル、彼女は、あの子は……」
「俺たちと同じか?」
「ああ、……十中八九そうだろう。竜人特有の脅威の回復力を備えてるところを見るとな」
なぜ、こんな所に居るのか分からないが……
俺達の同胞、俺の番。
彼女の苦しみが、俺に伝わってくる……
「化け物と……言われていたな」
「あぁ、人間共は俺達を、そう呼ぶからな」
「あの子も、ずっと言われてたんだよな……その上…道具か?」
クソったれ、何が道具だ化け物だ!人間よりも少し頑丈で回復力が高いだけだっ。
幼い頃からそんな環境で育てられ、彼女は耐えてきたのかと思うと……
そりゃ、言葉をなくし、心を失い、感情すらも捨てるわな……自分を守る為に。
「フェル、ヨハンを呼べ。あの娘は、俺が連れて帰る」
「了解だ」
この国に滞在する間、二度とあんな目には合わせない!
俺が、守る。
数時間後、ライオネルの部屋に青い髪に琥珀色の目をした青年が訪れた。
「ヨハン、娘の護衛を頼まれてくれ。あの娘は、俺の番だ」
「!マジっすかっ!分かりました!」
「何があっても、娘を最優先にしろ。セスティア王に逆らっても構わん。俺が何とかする」
ヨハンは、ライオネルの言葉に驚きはしなかった。番を持つ者が、何を置いても相手を思う事はいつもの事だからだ。
「直ぐにでも娘を連れて帰りたいが……」
「あの糞王が何か言ってくるかもな」
「ああ」
「呉々も、頼んだぞ!ヨハン」
「はっ!この命にかえてでもっ!竜帝陛下の番様は御守り致します!我らが同胞ならば尚のこと!」
ヨハンは跪き、誓いを言葉にして立ち去った。
─────
※1
少女は、自分の事を物だと思っているため、治るでは無く、直ると言っている。
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