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第2話 公爵家
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王家が主催する式典にて婚約破棄を言い渡された私は、同時に国外追放と隣国との平和協定の人質交換に任命されました。
国外追放は、国民に知らされることはありませんでした。何故ならば私は、偽物と糾弾されても教会に属す聖女で多くの国民を治療してき為、名と顔が知れ渡っていたからです。
なので国外追放は、私と私の家族にのみ言い渡されました。二度とラトーニの地を踏むことは許されぬ……と。
その為、表向きは隣国カウゼルとの長引く戦争を終わらせる為の人質交換として、国の為、人々の為にという大義名分のもと旅立つ事となりました。
……国民の支持はあっても、貴族の支持はなかった。それがいけなかったのでしょうね。
国民の声が、私を称える声が、王や教会の癪に触ったのでしょう。
公爵家の玄関の前、目の前には質素な作りの馬車。
「陛下の命で、お前には何も持たせてやれぬ……本来ならだがな」
お父様の言葉は最後まで聞き取れませんでしたが、私は従者の方の手を借りて馬車に乗り込みました。
公爵家の令嬢が乗るとは思えない質素な馬車……
「……?」
……のはず。
けれど、乗り込んだ馬車の中は、ふかふかのクッションに暖かいひざ掛け……外の見た目と違い、中はとても質のいい物が揃えられていました。
従者も、護衛も……
「私共は、公爵家をクビになりました。なので、勝手にお嬢様について行かせて頂きます」
……と。
公爵家お抱えの騎士団の中でも、有能とされている騎士たちがクビ?
「お父様?」
「何もしてやれず、助けてもやれず、すまなかった。……こんな事しかしてやれないが、お前には公爵家が誇る騎士団から選りすぐりの騎士を与える。お前だけの騎士だ。クビにしたのは、公爵家の物を与える事を禁止されたから…公爵家の騎士でなくなったなら問題なかろう?」
と、馬車の窓から顔を出した私の頭に優しく手を乗せて、撫でながら言うお父様。
「お母様?」
「体に気をつけて、病気も怪我もしないようにね」
目元の涙を拭いながら、私の頬に手を添えて私の健康を祈ってるわと言うお母様。
「お兄様?」
「良いか、呉々も男には気をつけるんだぞ。優しい言葉に騙されるな。男は皆、獣だと思え」
真剣な目で私を見つめ、結婚する相手が公爵だろうと、男を信じるなと何度も力説するお兄様。
「……ジャミル……」
「姉様……もう二度と会えないの?……そんなのやだ!姉様と会えないのやだ!僕も一緒に行く!」
目にいっぱいの涙を浮かべて私に縋りよってくる弟ジャミル。
「……どうして?」
私は、呆れられたのではないの?
治癒の力が顕現し教会に入ってから、会う機会は少なくなって……
あの日……婚約破棄を言い渡された日、家族とは何ヶ月ぶりかに会ったけれど……みんな険しい顔をしていたから、私はてっきり呆れられ嫌われたと思っていたのに……違ったの?
「お前が、聖女キャシーを虐めてないことぐらいお見通しだ。国民の治療の為に地方に赴いていた事が多いお前に、どうしてキャシーを虐められる?」
「そもそも、キャシーは聖堂から出ないだろ?あの馬鹿王太子がキャシーに惚れ込み、お前との婚約が邪魔になっただけだ!」
「無実だと分かっているのに、何も出来ない私達を許して欲しい……なんて言わないわ。1番辛いのはリィシャですもの」
「グスッ……ねぇ様ぁ」
あぁ、お父様達は信じてくれていたのですね。私の無実を……
一家臣であるにも関わらずお父様は、陛下に何度も進言して下さったそうです。私の無実を……でも、どうにも出来なかったと。
お母様は、自分達を一生許さなくて良いから、ずっとずっと元気に過ごしていて……と。泣きながら言いました。
お兄様もジャミルも、お父様もお母様も……気が付けば屋敷の皆が私を見つめ泣いていた。
そして私も、頬を伝う涙に気が付きました。
馬車が走り出しても、私は窓から顔を引っ込めることは出来ませんでした。泣きながら手を振るみんなの姿を、この目に焼き付けたいがために。
国外追放は、国民に知らされることはありませんでした。何故ならば私は、偽物と糾弾されても教会に属す聖女で多くの国民を治療してき為、名と顔が知れ渡っていたからです。
なので国外追放は、私と私の家族にのみ言い渡されました。二度とラトーニの地を踏むことは許されぬ……と。
その為、表向きは隣国カウゼルとの長引く戦争を終わらせる為の人質交換として、国の為、人々の為にという大義名分のもと旅立つ事となりました。
……国民の支持はあっても、貴族の支持はなかった。それがいけなかったのでしょうね。
国民の声が、私を称える声が、王や教会の癪に触ったのでしょう。
公爵家の玄関の前、目の前には質素な作りの馬車。
「陛下の命で、お前には何も持たせてやれぬ……本来ならだがな」
お父様の言葉は最後まで聞き取れませんでしたが、私は従者の方の手を借りて馬車に乗り込みました。
公爵家の令嬢が乗るとは思えない質素な馬車……
「……?」
……のはず。
けれど、乗り込んだ馬車の中は、ふかふかのクッションに暖かいひざ掛け……外の見た目と違い、中はとても質のいい物が揃えられていました。
従者も、護衛も……
「私共は、公爵家をクビになりました。なので、勝手にお嬢様について行かせて頂きます」
……と。
公爵家お抱えの騎士団の中でも、有能とされている騎士たちがクビ?
「お父様?」
「何もしてやれず、助けてもやれず、すまなかった。……こんな事しかしてやれないが、お前には公爵家が誇る騎士団から選りすぐりの騎士を与える。お前だけの騎士だ。クビにしたのは、公爵家の物を与える事を禁止されたから…公爵家の騎士でなくなったなら問題なかろう?」
と、馬車の窓から顔を出した私の頭に優しく手を乗せて、撫でながら言うお父様。
「お母様?」
「体に気をつけて、病気も怪我もしないようにね」
目元の涙を拭いながら、私の頬に手を添えて私の健康を祈ってるわと言うお母様。
「お兄様?」
「良いか、呉々も男には気をつけるんだぞ。優しい言葉に騙されるな。男は皆、獣だと思え」
真剣な目で私を見つめ、結婚する相手が公爵だろうと、男を信じるなと何度も力説するお兄様。
「……ジャミル……」
「姉様……もう二度と会えないの?……そんなのやだ!姉様と会えないのやだ!僕も一緒に行く!」
目にいっぱいの涙を浮かべて私に縋りよってくる弟ジャミル。
「……どうして?」
私は、呆れられたのではないの?
治癒の力が顕現し教会に入ってから、会う機会は少なくなって……
あの日……婚約破棄を言い渡された日、家族とは何ヶ月ぶりかに会ったけれど……みんな険しい顔をしていたから、私はてっきり呆れられ嫌われたと思っていたのに……違ったの?
「お前が、聖女キャシーを虐めてないことぐらいお見通しだ。国民の治療の為に地方に赴いていた事が多いお前に、どうしてキャシーを虐められる?」
「そもそも、キャシーは聖堂から出ないだろ?あの馬鹿王太子がキャシーに惚れ込み、お前との婚約が邪魔になっただけだ!」
「無実だと分かっているのに、何も出来ない私達を許して欲しい……なんて言わないわ。1番辛いのはリィシャですもの」
「グスッ……ねぇ様ぁ」
あぁ、お父様達は信じてくれていたのですね。私の無実を……
一家臣であるにも関わらずお父様は、陛下に何度も進言して下さったそうです。私の無実を……でも、どうにも出来なかったと。
お母様は、自分達を一生許さなくて良いから、ずっとずっと元気に過ごしていて……と。泣きながら言いました。
お兄様もジャミルも、お父様もお母様も……気が付けば屋敷の皆が私を見つめ泣いていた。
そして私も、頬を伝う涙に気が付きました。
馬車が走り出しても、私は窓から顔を引っ込めることは出来ませんでした。泣きながら手を振るみんなの姿を、この目に焼き付けたいがために。
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何度もすいません😓
国外追放を言い渡されたのが私と家族だったとの事ですね。
すいません
完全に私の認識不足でした。
これからも楽しみにしています。
この作品を手に取って頂き、ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾
文言が分かり難かったですか?
ねずさんの仰る通り、国外追放を言い渡されたのが、主人公のリィシャとリィシャの家族です。
もう少し分かりやすい文言を考えてみますね。
今週末までには更新しますので、お待たせしてしまいますが……最後までよろしくお願いします。
すいません😓
ちょい疑問が‥
私と家族何追放ってなってるのですが
後から行くのかな?
国が違う?
私の認識不足なのでしょうか?
お話はすごく面白いのでお気に入りポチしたのですがこの疑問だけがどうしても気になりまして😓