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第8話 植物の精霊ベトゥラ・アルバ

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……

…………

………………

「??」

目が覚めると全く知らない場所でした。白と金を基調としていますが、ギラギラした豪華な感じじゃなくシンプルで落ち着いていて、でも凛とした様な……なんて言えばいいのか分かりませんが…
プフランチェ王城や教会とは違うっていうか、目に優しいというか……

そこに、静かに扉を開ける音が響く。
音がした方に目を向ければ、入ってきた侍女の方と目が合って……

「まぁ!お目覚めになりましたか?!姫様!」

驚いたあと、小走りで私の近くまでやってきて額に手を当て「熱はありませんね」とか、手首を握って「脈も正常値ですわ」とか言った。

「あの、ここは?」
「失礼しました、姫様。ここは、シャムス・サハラーァの首都オレーア・オアジにある王宮ですわ。姫様は、シャムス・サハラーァに着いた後お倒れになりました。覚えておりますか?」

たおれた?

確か、プフランチェを出て植物の力を借りてラ・メール国に入って……ナイシャル様に会って、船で海の向こう側の国シャムス・サハラーァ国に連れてってくれるってなって……

船で移動中、植物の力で聖獣になったカメのクレーテを見つけて……シャムス・サハラーァ国の東の桟橋に降り立つと、ナイシャル様のご両親が来てて……それで……







そうだ!
ナイシャル様のご両親が、私の本当の……

「……さま、ひ…様、姫様?」
「……え?」
「大丈夫ですか?まだ御具合が悪いのでしょうか……もう少し、横になっていて下さい。お医者様を呼んでまいります」

侍女の方はそう言って、部屋を出ていった。

私としては助かる。
だって、考えられるから……

綺麗な女の人だった……
凄く大きくて、怖そうだけど…倒れた後に聞こえた声は心配気な男の人
そして、ここまで凄く優しく接してくれたナイシャル様……

この人達が、本当に私の家族?
まだ、信じられない……
この国の王族が私の家族なんて……

どうしても、信じられない……

「……」

私は寝かされていたベッドを抜け出して、窓の方に近寄った。その時窓に写った私の姿は、ボロボロのローブ姿じゃなかった。白い薄手のワンピースみたいな服装で、軽くて可愛いもの。

暫く自分の姿に見入ってしまっていたけれど、部屋を扉をノックする音で振り返る。

「失礼しますわ、姫さ……!」

すると、部屋に入って来た侍女と目が合ったから、急いで視線を外せば後ろにいた人達とも目が合ってしまった。

「まぁ、イルちゃん!ダメよっ!まだ横になってないと!」
「イル!起きて大丈夫なのか?!」
「もう少し、横になってなさい。医者を呼んだから」

リュナ様、ナイシャル様、ソゥ様が順番に話しかけてきて……最終的には、ナイシャル様に抱き上げられベッドに戻されました。

「だ、大丈夫ですよ?」
「ダメよ、休んでて頂戴……ごめんなさいね」
「え?」

王妃様は私の頭を優しく撫でて、そして、急に謝られました。何故、謝るのでしょうか?わたし、王妃様に何かされた覚えはないのですけど……

「本当の事とはいえ、急ぎすぎたわ……会えたのが嬉しくて我慢出来なかったの……」

撫でていた手を下ろし私の手を両手で握る王妃様。

「イルちゃんは疲れてるのに、急に言われても困っちゃうわよね……本当にごめんなさい」
「い、いえ!こちらこそ、ごめんなさい。信じなくて……」
「イルちゃんは悪くないわ!急に言われて、信じられないのは当然だもの!」
「あの、教えてくれませんか……?私の事、おふたりの事、ナイシャル様のこと、この国のこと。今はまだ信じられないけど、知りたい、です」

ずっと、知りたかった。
両親のこと、私のこと、巫女の力のこと、国のこと
でも、誰も何も教えてくれなかった。
字は書けないし、文字も読めない。
巫女の力や歴史、使い方も教わらなかった。ただ見て覚えただけ……それも皆力が違うから、他の子達が教わってるのを盗み聞きして感覚で覚えたの。

「「「…………」」」

3人とも黙ってしまった。
やっぱり、無神経だったかな……信じられないのに、知りたいなんて…

ナイシャル様達は顔を見合わせるとひとつ頷き、私に向き直って優しげに微笑み「もちろん」と頷いてくれた。

「もちろん、良いわよ~」
「うむ、答えられることなら。なんでも聞きなさい」
「歴史も文字も、教えてやれる。まぁ、巫女の力は流石に俺には分からないけどな」

『巫女の力なら、僕が教えてあげるよ』

そこに、人の声とは思えない無機質な声が響いた。
でも、誰も声は出ていない……

「誰だ?!」

知ってる声……私が力に目覚めてから、ずっとそばに居てくれた子。私の力が弱いせいで、ずっと眠ってた子。

「あるば?」
『うん、僕の巫女』
「イル、この声の主を知ってるのか?」
「うん、私に力を貸してくれる精霊……植物の精霊ベトゥラ・アルバ」

精霊という言葉で、王様やナイシャル様達に動揺が走った。

『ふ~ん、女神を嫌う者達……か』
「っ!?」
『良いよ、女神は君たちを許してる』

精霊の言葉に、そんな筈は無い……と、ナイシャル達は思っていた。それならば、何故シャムス・サハラーァに巫女は生まれないのか……と。

『巫女が生まれないのは、必要ないからだよ』
「……どういう事だ?」
『僕の巫女がいるだろう?』
「え?」

イルフィルナは、不思議に思っていた。イルフィルナだけじゃなく、ナイシャル達も不思議に思っていた。

『巫女が生まれてないのに、水不足に悩まされながらも今までやってこれた理由を考えたことは無いのかい?』

「……」
「それは……」

『君達が女神を恨んだ声は届いているよ。女神も、流石に予想出来なかったんだ……彼らがあんな行動をとるなんてさ。予知能力がある訳じゃないからね』

「……」

『女神も反省したんだよ……』

無機質な声は「一応ね」と、最後に言った。そして、僕の巫女が戻るまで国が無くならない様に、力を注いでいたんだと言った。

「アルバ、もう起きたの?」
『う~ん、ごめんね僕の巫女。まだもう少しかかるかな?でも、眠りの周期は短くなったから、お話は出来るよ』

君の知りたいこと、話してあげれるよ。とアルバは言った。だから、……巫女の力や、この国の巫女や女神様、のことを教えてもらうことにしたの。

でも、聞きたいって言ったら、王妃様が明日にしなさいって……

「イルちゃんは、もう休む時間」
「お医者様がもう大丈夫と言っても、体力は戻ってないんだ。今日は早めに休んだ方がいい」
「精霊様も構いませんか?」

『うん、僕も賛成だよ。また明日、お話しに来るよ。君達も聞きたいんだろ?』
「私達も同席してよろしいのですね?」

王妃様が、真剣な顔で宙を見上げどこにいるかも分からない声だけの存在に確認を取る。

『うん、構わないよ。僕の巫女が望んでるからね』
「分かりました。では、明日の昼に」
『うん、分かったよ。明日の昼に、ここで』

そう言って、アルバの声は聞こえなくなった。
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