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第6話 シャムス・サハラーァ(ソゥ視点)
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シャムス・サハラーァ国 首都オレーナ・オアジ
国王執務室
息子ナイシャルには、ラ・メール国で情報を集めてくるよう命じ送り出したはずだった。しかしナイシャルは、何故か1枚の報告書を自身の従者に持たせ帰らせた。
そして、必ず私に渡すよう強く厳命されたそうだ。
今まで、こんな事は無かった。奴の従者は全員ナイシャルに忠誠を誓っている。国にではなく、ナイシャルだけに忠誠を誓ったヤツらだ。
その為、ナイシャルの信用を得ている彼が手紙や報告書を持ってくる事は何度かあっても、私自身に必ず直接渡すよう指示することはなかったのだが……何かあったのか?
……15年前、プフランチェに取られた娘……
あの子の身に、何かあったのではなかろうな?
そう思ったのだが……それにしてはこの男、嬉しそうじゃないか?眼鏡の奥が少し笑っている気がするんだが……
ナイシャルの従者は3人いるのだが……
一人はアーキス、近衛兵で護衛官
一人はナジム、影の暗殺者で諜報員
そして、俺の元にナイシャルの手紙を届けに来たハーリス、奴は影を束ねる者で次期宰相だ。
ハーリスは次期宰相という立場ということもあり、感情を表に出すことは必ずと言っていいほど無い。
そのハーリスが今は、俺にも分かるほどに嬉しそうに笑っている。
「気味が悪いな……どうした?」
「王妃様が来たら手紙をお渡しします」
先程からずっとこの調子だ……俺に直接渡すと言いながら、妻が来なければ渡さないと言う。
「はぁ」
一体なんなんだ?何が起きたと言うんだ?
嬉しそうに笑ってる事から、悪い事ではなさそうだが……
そこに、慌ただしい足音が響く。
勢いよく開かれた扉から入ってきたのは、誰でもない俺の妻だ。
「あなた!ナイシャルから手紙が来たですてぇ?!イルーシャの身に何かあった訳じゃないでしょうね?!」
「落ち着きなさい、リュナ」
俺たちは、プフランチェに何度も影を送り込もうとしたんだが……奴らの有する巫女により阻まれてきた。巫女の情報も制限されており、他国には流れては来ない。
俺たちは娘がどういう状態なのか、知る術がなかった……もう、攻めるしか方法がない。娘を取り戻す為に俺達は、国民と協力し戦争の準備に励んできた。
もう少し、もう少しで準備が整う。
この状態で、ナイシャルは一体どんな情報を持ってきたというのだ?
「ハーリス」
「畏まりました。こちらが、我が主から託された手紙(報告書)にございます」
ハーリスから渡された報告書を手に取り横目で彼を見ると、笑みをふかめ誰が見てもわかるほどに笑っていた。
リュナと一緒に渡された報告書を開き読み進めれば……紙を握る手が震える。
「な、なんと……!」
「っ!これは、本当なの?!ハーリス!」
「確かにございます。私もこの目で見ました。髪色はソゥ様に似て、瞳はお2人を混ぜたような綺麗な赤紫…そして、そのお顔を見れば誰もが分かるでしょう…ソゥ様、リュナ様お2人の子だと」
「なんて事……」
リュナは、両手で顔を覆い泣き崩れた。
「報告書にある、追放とは?」
「詳しくは聞いておりません、あまりいい話ではなさそうでしたので……」
宮殿についてから、ゆっくりと話を聞いた方がよろしいかと……とハーリスは語った。
15歳になる娘は、私達がつけた名があるにも関わらず、プフランチェの奴らに名付けされた名を名乗っているそうだ。
奴らは娘を奪っただけじゃなく、名前まで奪ったのか!!?
更に、15歳になると言うのに痩せ細り婚約破棄?だと?その上、巫女失格の烙印、国外追放?
「ふざけるな!」
机の上の物を払うようになぎ払い、力任せに手を叩きつける。
「娘を奪った癖に!追放だと!?」
「許せない!私達の娘を奪ったのに、使えない?偽ってた?!だから追放?そんな事ある?」
「だが、そのお陰で娘をプフランチェから引き離すことが出来た……許せんがな!」
怒りを内に秘め、怒気を収める。
ナイシャルが……娘を連れて船に乗り、シャムス・サハラーァの東の桟橋に船をつけるそうだから。こんな怒りの形相で娘には会えん……
シャムス・サハラーァには港町というのは無い。我が国の東に町や村はなく、桟橋がある場所に砦があるだけだった。町は、砂漠に点在するオアシスを中心にあり、砂漠を移動しながら暮らす一族もいる。
シャムス・サハラーァの国民その殆どが、戦闘民族で屈強な戦士が多数存在する国柄だ。男も女も関係なくみな戦士だ。
「えぇ、えぇ!許せません!私もこの弓で戦うわ!あんな国、滅ぼしてしまえばいい!娘を取り戻す事が出来たなら、もう何も気にする必要は無いもの!」
「うむ、そうだな」
俺の妻もまた、戦う戦士なのだ。
イルーシャがあの国にいたから、むやみやたらに攻撃する事は躊躇われたが……娘がこの国に来てくれるなら、もう何も気にする必要は無い。
「イルーシャを迎える準備をするぞ」
「あなた!桟橋へ、迎えに行きましょう?」
「そうだな、ナウファル」
「承知しております、私の方で歓迎の準備を進めておきます」
「頼んだわよ、ナウファル」
「はい」
歓迎の準備や執務は、ナウファル達に任せ俺達はイルーシャを迎えに行く事にした。
イルーシャとは、15年会っていない。俺達が両親だと言って信じてくれるかは分からない……
だが、それでも……
俺達は娘を一日たりとも忘れたことは無い。画家に頼み、娘の成長した姿を想像し描いてもらったものもある。
髪色は何色だったか……瞳は?
想像してる時は、辛くもあったが楽しくもあった。
会いたかったが、巫女は外に出ることがない。他の巫女は儀式やパフォーマンスで出てくることもあったが……娘は1度たりとも無かった……
どんな姿に成長してるのだろうか……
ハーリスが言うには、髪色は俺に似ているらしい。
瞳は俺の赤、妻リュナの青を混ぜたような赤紫……
顔立ちは、俺たち2人によく似ている……と。
あぁ、早く会いたい……走らせる馬に鞭を打ち、さらにスピードを上げる。
もうすぐ会えるよ、俺達の大切な娘イルーシャよ。
国王執務室
息子ナイシャルには、ラ・メール国で情報を集めてくるよう命じ送り出したはずだった。しかしナイシャルは、何故か1枚の報告書を自身の従者に持たせ帰らせた。
そして、必ず私に渡すよう強く厳命されたそうだ。
今まで、こんな事は無かった。奴の従者は全員ナイシャルに忠誠を誓っている。国にではなく、ナイシャルだけに忠誠を誓ったヤツらだ。
その為、ナイシャルの信用を得ている彼が手紙や報告書を持ってくる事は何度かあっても、私自身に必ず直接渡すよう指示することはなかったのだが……何かあったのか?
……15年前、プフランチェに取られた娘……
あの子の身に、何かあったのではなかろうな?
そう思ったのだが……それにしてはこの男、嬉しそうじゃないか?眼鏡の奥が少し笑っている気がするんだが……
ナイシャルの従者は3人いるのだが……
一人はアーキス、近衛兵で護衛官
一人はナジム、影の暗殺者で諜報員
そして、俺の元にナイシャルの手紙を届けに来たハーリス、奴は影を束ねる者で次期宰相だ。
ハーリスは次期宰相という立場ということもあり、感情を表に出すことは必ずと言っていいほど無い。
そのハーリスが今は、俺にも分かるほどに嬉しそうに笑っている。
「気味が悪いな……どうした?」
「王妃様が来たら手紙をお渡しします」
先程からずっとこの調子だ……俺に直接渡すと言いながら、妻が来なければ渡さないと言う。
「はぁ」
一体なんなんだ?何が起きたと言うんだ?
嬉しそうに笑ってる事から、悪い事ではなさそうだが……
そこに、慌ただしい足音が響く。
勢いよく開かれた扉から入ってきたのは、誰でもない俺の妻だ。
「あなた!ナイシャルから手紙が来たですてぇ?!イルーシャの身に何かあった訳じゃないでしょうね?!」
「落ち着きなさい、リュナ」
俺たちは、プフランチェに何度も影を送り込もうとしたんだが……奴らの有する巫女により阻まれてきた。巫女の情報も制限されており、他国には流れては来ない。
俺たちは娘がどういう状態なのか、知る術がなかった……もう、攻めるしか方法がない。娘を取り戻す為に俺達は、国民と協力し戦争の準備に励んできた。
もう少し、もう少しで準備が整う。
この状態で、ナイシャルは一体どんな情報を持ってきたというのだ?
「ハーリス」
「畏まりました。こちらが、我が主から託された手紙(報告書)にございます」
ハーリスから渡された報告書を手に取り横目で彼を見ると、笑みをふかめ誰が見てもわかるほどに笑っていた。
リュナと一緒に渡された報告書を開き読み進めれば……紙を握る手が震える。
「な、なんと……!」
「っ!これは、本当なの?!ハーリス!」
「確かにございます。私もこの目で見ました。髪色はソゥ様に似て、瞳はお2人を混ぜたような綺麗な赤紫…そして、そのお顔を見れば誰もが分かるでしょう…ソゥ様、リュナ様お2人の子だと」
「なんて事……」
リュナは、両手で顔を覆い泣き崩れた。
「報告書にある、追放とは?」
「詳しくは聞いておりません、あまりいい話ではなさそうでしたので……」
宮殿についてから、ゆっくりと話を聞いた方がよろしいかと……とハーリスは語った。
15歳になる娘は、私達がつけた名があるにも関わらず、プフランチェの奴らに名付けされた名を名乗っているそうだ。
奴らは娘を奪っただけじゃなく、名前まで奪ったのか!!?
更に、15歳になると言うのに痩せ細り婚約破棄?だと?その上、巫女失格の烙印、国外追放?
「ふざけるな!」
机の上の物を払うようになぎ払い、力任せに手を叩きつける。
「娘を奪った癖に!追放だと!?」
「許せない!私達の娘を奪ったのに、使えない?偽ってた?!だから追放?そんな事ある?」
「だが、そのお陰で娘をプフランチェから引き離すことが出来た……許せんがな!」
怒りを内に秘め、怒気を収める。
ナイシャルが……娘を連れて船に乗り、シャムス・サハラーァの東の桟橋に船をつけるそうだから。こんな怒りの形相で娘には会えん……
シャムス・サハラーァには港町というのは無い。我が国の東に町や村はなく、桟橋がある場所に砦があるだけだった。町は、砂漠に点在するオアシスを中心にあり、砂漠を移動しながら暮らす一族もいる。
シャムス・サハラーァの国民その殆どが、戦闘民族で屈強な戦士が多数存在する国柄だ。男も女も関係なくみな戦士だ。
「えぇ、えぇ!許せません!私もこの弓で戦うわ!あんな国、滅ぼしてしまえばいい!娘を取り戻す事が出来たなら、もう何も気にする必要は無いもの!」
「うむ、そうだな」
俺の妻もまた、戦う戦士なのだ。
イルーシャがあの国にいたから、むやみやたらに攻撃する事は躊躇われたが……娘がこの国に来てくれるなら、もう何も気にする必要は無い。
「イルーシャを迎える準備をするぞ」
「あなた!桟橋へ、迎えに行きましょう?」
「そうだな、ナウファル」
「承知しております、私の方で歓迎の準備を進めておきます」
「頼んだわよ、ナウファル」
「はい」
歓迎の準備や執務は、ナウファル達に任せ俺達はイルーシャを迎えに行く事にした。
イルーシャとは、15年会っていない。俺達が両親だと言って信じてくれるかは分からない……
だが、それでも……
俺達は娘を一日たりとも忘れたことは無い。画家に頼み、娘の成長した姿を想像し描いてもらったものもある。
髪色は何色だったか……瞳は?
想像してる時は、辛くもあったが楽しくもあった。
会いたかったが、巫女は外に出ることがない。他の巫女は儀式やパフォーマンスで出てくることもあったが……娘は1度たりとも無かった……
どんな姿に成長してるのだろうか……
ハーリスが言うには、髪色は俺に似ているらしい。
瞳は俺の赤、妻リュナの青を混ぜたような赤紫……
顔立ちは、俺たち2人によく似ている……と。
あぁ、早く会いたい……走らせる馬に鞭を打ち、さらにスピードを上げる。
もうすぐ会えるよ、俺達の大切な娘イルーシャよ。
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