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第2話 魔獣討伐隊

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騎士に連れてこられた場所は、魔獣討伐を行う際の砦のひとつだった。

砦の前に立つ人物が、私を見て眉を顰めた。
この方の鎧は、アルクトゥルスの……アルクトゥルス王国の騎士のようです。

私の話は既に聞いているのでしょう。
睨む目が、鋭く細くなるのを感じます。

だが、彼らはミナージュを睨んでいたのではなく、左右の騎士を睨んでいたのだった。

そして、砦の地下に連れて行かれ鎖に繋がれた。
魔獣討伐の時にだけ、鎖から外されるのだと私を引き摺ってきた騎士は言う。

私は、決して許されない罪人なのだと。
一瞬で死ぬなど生ぬるい、魔獣に食われ苦しみのなか死ねと彼らは吐き捨てるように言い去っていった。


それくらい私にも分かっています。
全ての人に死を望まれている事は……でも、それでも、ただ死ぬのではなく誰かの為に死ねるなら……私にとってそれは、ただ首をはねられる事よりも良い事のような気がします。

もしかしたら……

この魔獣討伐は、神様がくれたチャンスなのかも知れません。聖女様を愛す神様ですが、癒しと慈悲を司ると聞いています。神様の愛す聖女様に嫌がらせをした私にも、慈悲を与えてくださったのでしょう。

ならば、私は、討伐隊の皆を守りましょう。
たとえ大型の魔獣が現れても怪我をしても、討伐隊の皆の為に……



どれくらいの時間、経ったのか……遠くから足音が近付いてくる微かな音を私の耳は拾いました。

(だれ?)

「ミナージュ殿……」
「…………」

ヴェイグ様?
そこには、ヴェイグ様とレヴィン様がいました。
レヴィン様は、アヴィオール王国の第三王子だったと記憶しています。

この2人は、討伐隊で隊長と副隊長を毎回担っている方々です。腕前は、ヴェイグ様が武術、レヴィン様が魔術で相当強いと聞き及んでいます。

「すまん、ミナージュ殿」
「……?」

ヴェイグ様は、私が繋がられている牢に入って来て謝罪し、レヴィン様も頭を下げられました。

なぜ、私に謝罪するのでしょうか?
私の事を、王様たちから聞いているでしょうに……
王様は各国に、私の事を聖女様を害したと吹聴して回ったそうですし、彼らも私をよく思ってないでしょう。



と思ったのですけど……?
謁見の間で見た時も、睨んでいた気がしたのですけど……?

「本来なら、貴方様をこんな場所に置いておきたくは無いのですが……」
「…………」

ヴェイグ様が謝罪後黙ってしまったので、レヴィン様が後を継ぐように話し始めました。

「申し訳ありません、暫くの間我慢して下さい」

レヴィン様は、何度も「申し訳ありません」と口にして頭を下げました。

「…………」

言葉を話せない私は、仕方ないのでレヴィン様の手を取りてのひらに文字を書きました。

『あやまらないで、ください。おうさまもいったように、このいのち、すてごまにでも、おつかいください』
「「っ!!」」

レヴィン様は、私が手に書いた文字を1文字づつ読み上げる。最後の文字を書き終わり、私は2人に微笑む。

聖女様を害した悪の魔女に頭を下げる所を、誰かに見られたらこの2人が悪く言われます。

なのに、2人は「すまない」「申し訳ありません」と謝罪ばかり……どうしたら、良いのでしょうか?

冷たい地面に手を付き、涙を流すレヴィン様。
同じく冷たい地面に手を付き、額を抑えながら苦悶するヴェイグ様。

「お話中失礼します。ヴェイグ様、聖女様がお越しです。如何なさいますか?」

その時、外から牢番と思しき人が声をかけてきて、

「「チッ」」

(え?舌打ち……?気の所為?)

報告を聞いた2人が、小さく舌打ちしたのを聞きました。私だけじゃなく牢番にも聞こえたらしく、しきりに頭を下げ謝罪しています。

牢番と一緒に2人は離れていきましたが、少ししてから戻って来ました。聖女アイリス様と第二王子様も連れて……

アイリス様とククルト様の後ろで、ヴェイグ様とレヴィン様は先程と打って変わって、物凄く怖い顔でこちらを睨んでいました。

(また、私を睨んでる……?)

何かしてしまったのかと、私は口に手を当てて彼らを見つめてしまいました。でも、私と目が合ったヴェイグ様は目元を和らげ笑ってくれました。

だとするならば、先程の怖い顔は、なんだったんでしょう?


そして、アイリス様とククルト様が、私が繋がれた牢の前に来るとアイリス様が泣き崩れました。

「ご、ごめんなさいっ!ミナージュ様……わたしの力が及ばず、こんな場所に……っ」

アイリス様の目から、涙は一滴も出ていません。
でも……ククルト様もプロキオンの騎士も、彼女の泣く姿に心打たれたらしく、アイリス様を慰め始めました。

「アイリス、君が気にする必要は無い。この女は、自業自得だ。聖女である君を殺そうとしたのだからな!」

ククルト様はアイリス様の肩を抱き寄せ、声高に私の悪事を言いました。それは、ヴェイグ様やレヴィン様、この場に居るアルクトゥルスの騎士や、アヴィオールの魔道士に聞かせるように……

「…………」
「何か話したら、どうだ?……いや、話せないんだったな!」

あっはっは、と笑うようにククルト様は言い、

「そろそろ出るぞ?アイリス。こんな汚い場所に君のような清らかな存在は、相応しくない」
「はい、ククルト様。ミナージュ様……この戦いが終わったら、王様に許して貰えるよう伝えますから頑張りましょうね?」

……ニヤリと笑う顔が、許す気などない事を物語っています。きっと2人は、私が死んだのを確認したいのでしょう。プロキオンの王は騎士は民は、私が死ぬのを強く望んでいますから。


「貴様が、無様に死ぬ瞬間を楽しみにしているぞ!」

ククルト様が捨て台詞を吐いた瞬間、殺気が辺りに充満しました……が、アイリスは気付いていないみたいです。ククルト様は、肩を揺らし背後を確認しましたが、その時には殺気は収まっていました。

犯人は、ヴェイグ様とレヴィン様です。
2人はニコニコと笑っていますが、先程放たれた殺気はこの2人から発せられたものです。

ククルト様は、気の所為かとアイリス様を連れて出ていきました。

ヴェイグ様とレヴィン様は、残っています。

「すみません、ミナージュ殿。断わったのですが、押し切られてしまいました……」

レヴィン様が謝罪しますが、私は首を振って答えます。

「ミナージュ殿、明日は明け方に出発する。迎えに来るから、それまでに起きていて欲しい」
「……」

私は頷く、地下は時間が分からないけれど…何とか起きれるように頑張りましょう。

「明け方1時間前に起こすよう、牢番に伝えておく」
「…………」

(それは、とても助かります)

私はまた、頷いた。

「明日の討伐が終わる頃には、少しだけここも過ごしやすくしておきますね」
「……?」

それは、罪人相手にどうなんでしょうか……

聖女と王子が居るせいで、鎖は外せなくなりましたし……」

全く、あのクソ共は……と何やら呟くレヴィン様にヴェイグ様は苦笑を漏らすと、私に真剣な眼差しを向けてきました。

「お前を捨て駒にする気は無いし、お前は死なせない、絶対」
「……っ」

低く、真剣な声色に私の心臓が跳ねました。
……ヴェイグ様の声が言葉が、頭の中で何度も再生されますが、私は……もう、生きる意味が無いのです。

どうせ、生き残っても処刑されるのが目に見えています。それならば私は、皆を守って死ぬほうが良い。

私は……死にたいのです、ヴェイグ様……


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