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結婚?!

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「ほう、これほどの実力者を手放すか……」

後ろを振り返らなくても分かる、この冷たく冷ややかな気配と威圧力は……あのお方しかいないっ……

先ほど見た……黒髪の赤い目をした……

「ならば、俺が貰っても構わぬという事だな?」

大国イシフェルドの皇太子、クレイド・イシフェルド殿下っ?!

私は驚いて声が出なかった。
当然、私に婚約破棄を告げたカルド様も声が出ないようだった。

「どうした?何も言わぬなら、俺が貰っていくが?」

イシフェルド殿下が私の肩に手を乗せる。私より頭1つ分ほど大きい殿下は、手も私より幾分大きかった。

カルド様は、今も動く事も話す事も出来ないでいた。

「ふむ、令嬢。貴方の名は?」

殿下の手が離れ……私はイシフェルド殿下に向き直り、跪き自身の名を告げた。

「私の名は、キサラ・ディオンドルと申します。イシフェルド皇太子殿下」
「ふむ、やはりディオンドル家の者か…」

殿下は、顎に手を当てて考え込んでいる様子。

……これを言ってはまずいんだろうが、私とそんなに歳が変わらないと聞くが……
精悍な顔つきだからか、凛々しいからか、数々の戦場を体験しているからか、分からないが年齢よりも上に感じるな。

……カルド殿下を見てきたからか、余計にそう思うのかもしれない。というか、カルド様と同い年じゃなかったか?

カルド様は、私より3つ上だから今は23歳のはず……?

って、事は……?

跪いたまま、こっそりと顔を盗み見る。
……23には見えないな、うん。

「ふっ、今失礼な事考えなかったか?」

殿下がしゃがみ、私の顎に手を添えて上向かせた。その顔には、隠しきれない喜びが現れていた。

そして私の手を取ると、そのまま立ち上がらせてくれる。

「も、申し訳ありません」

謝罪は、先程私が失礼な想像をした事と立たせて頂いたことに対してだ。

「いや、構わん。それより、ブシード国王よ、俺はキサラを気に入った!追放する位なら、俺が貰ってくが構わんな」
「……え?」

その言葉に、カルド様が正気に戻った。

「はぁ?!ふざけんな!そんな筋肉女を貰ったら、おま…じゃなくて、クレイド殿下が恥をかくことなるぞ!」

……はぁ

イシフェルド殿下に、言い直したとはいえ、「おまえ」は無いでしょう……それに、言葉使いだって…。

「筋肉女?」

クレイド殿下の視線が私を捉えます。

「カルド様が私を呼ぶ呼称です」

私は小さくため息をつきました。
流石にクレイド様に、そんな説明をしたくありませんでした……

「ふむ、誇り高き騎士に、その呼称は無いな」
「なんだと?!」
「俺には敵が多くてな、俺と結婚する者もそれなりに強い者でなくば務まらん」

あぁ、確かに…
大国だからこそなのか、暗殺や呪殺が横行し皇族が狙われているとも聞く。

「風呂時も、寝ている時も関係なく狙われるからな……常に危機意識を持った女性が居るなど、俺にとっては有難い」
「……確かに、殺気や気配で目を覚ましますし、風呂時でも剣は持って行きますが……」

そんな女性だからこそ俺は欲しい、と殿下は付け加えた。カルド様は全て嫌がったのに…

「キサラ・ディオンドル嬢に、イシフェルド帝国皇太子クレイド・イシフェルドが結婚を申し入れる」

クレイド殿下が私に跪き手を差し出す。

あちこちから悲鳴と歓声が響き渡る。
一瞬何を言われたのか、分からなかった。
殿下の声が頭に入ってこない……

「どうか、この手を取ってくれるかな?お嬢さん」

……いや、え?

クレイド殿下は跪き私に手を伸ばしたままで、私は状況を理解出来ず固まったままで……

「いつまで、殿下を跪かせておくのだ」
「!!?…父様!」
「お前が手を取らないと、殿下は跪いたままだぞ?」
「兄様!?」

なによ、さっきまで全然助けてくれなかったくせに……!

イシフェルド殿下は、相変わらず目を閉じて私が手に取るのを待ってるし……

(もう、どうにでもなれ……!)

私は、静かにイシフェルド殿下の手に自身の手を乗せた。その瞬間、殿下は私の手を握り引いて、手の甲に唇を落とした。

「っ!」

閉じた目を開いて、真っ直ぐに私を見つめる。赤い目は、私を離すことなく見つめ続ける。

(っ、引き込まれそう……)

「感謝する。今はまだ、お互いよく知らない関係だろうが、これから貴方のことを知る努力はしよう。不安に思うことは無い、俺を信じ付いてくれば良い」

殿下はやっと立ち上がり、私をそっと抱きしめて下さった。私よりもがっしりしていて、安心感のある温もり……

カルド様にも、抱き締めて貰ったこと無いのに……
『お前を抱き締めても硬いだけだ。女としての魅力も無い』と言って。

カルド様と違いクレイド殿下は、利害関係の一致と言えど私を知る努力をすると言ってくれた。それだけで、私は殿下を信じることが出来る。

婚約破棄された直後に、結婚なんて……醜聞になるかもしれないけれど…

いいわ、どうせ私は既に醜聞まみれですもの!

傷物令嬢になった私を引き取って下さるのだから、感謝しなくてはね!

「これで、お前を自由にしてやれるな」
「あんな奴に、キサラは勿体なかったですからね」
「え?」
「クレイド殿下に幸せにしてもらえ」
「これで、無理に令嬢を気どる必要も無いだろ?」

父様も兄様も、いい笑顔で私を見つめている。

これを……待っていたんだろうな。

カルド様は、私の一族を筋肉しか脳の無い頭の悪い一族だと罵っていたけれど……
頭が悪い人間が、騎士団長や護衛を務められるものか。常に先を読み、あらゆる攻撃から主を守るのが護衛なんだぞ。それは、武器だけに留まらず、悪意ある悪口や嫌がらせから守る事も含まれる。

……私は……これでも、守っていたつもりだ。
カルド様を馬鹿にする言葉からも、悪口からも。1度だって、貴方の耳には入ってこなかったでしょう?

騎士としての私は嫌だと言うから、令嬢として武器を隠し持ち、ずっと……

「俺の妻になってくれるなら、無理に令嬢を振る舞う必要はない。キサラらしい生活をおくってくれれば良い」

私らしい……?

もう…無理に派手なドレスを着る必要はないって事?動きやすいドレスでも良いの?
高いヒールも履かなくて良い?



私は、クレイド殿下を見つめた。
私の視線を受け止めたクレイド殿下は、エスコートするかのように私に手を伸ばして


「俺の国においで、キサラ」

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