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本編

水の最高位ディーネ・アクア

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「うぅ……う~」

セシリアは、見知らぬ小屋の中で1人……
先程まで見ていた大道芸の人も、シェイドも居ない……

けれど、近くに精霊をみつけたセシリアは、不安を押し込めて彼らを呼んだ。

『精霊さん、精霊さん……返事して…精霊さんっ』

セシリアは、祈るように精霊に呼びかけた。
足は縄でぐるぐるに縛られ、手は後ろに回され縛られている。口には布を巻かれ話すことも叫ぶことも出来ない。

『リアっ!!良かった!』
『目を覚まさないからっ!心配したよっ!』

小さき精霊は、セシリアの側まで飛んでいく……だが、彼女は精霊を見ることは出来なかった。

なぜなら……彼女の目もまた、布を巻かれていたから…

『精霊さん、ここ……どこか、わかる?』
『分からない…』
『精霊さんは、2人だけ?』

一緒に街に出た時、私の周りには確かに5人の精霊さんが居たはず……でも、聞こえる声は聖の精霊さんと、風の精霊さんだけ。

『炎の子は、あの場所に残ったよっ』
『土の子は、この辺りを探ってるよっ』
『『水の子は、来れる最高位様を呼びに行ったよっ』』

シェイドさん……心配してるよね……
離れたらダメって言われてたのに……

目の前の曲技や演奏に目を奪わて、最前列まで出てしまった私の責任…

もし、私に何かあったら、護衛をしてくれていたシェイドさん達が責められるのに……
私は……なんて、軽率な事しちゃったんだろう…

謝らなきゃ……
でも、まずは、この状況を何とかしないと……
大丈夫、酷い事には慣れてるもの……私を連れて行ったってことは、殺すのが目的じゃないって事だよね?

お母さん達から聞いたもの
精霊士は貴重だから、シェイドさん達をかわして接近して来るかもしれないって……
もし何か起きても、冷静さを失ったらダメって……必ず助けに行くから、生き残る事だけを考えなさいってっ

ガチャ

部屋のドアノブが回される音が聞こえて来た。

「おいっ、起きてるか?嬢ちゃん」
「ぅう」
「お、起きてるな」

男の人は、私の腕を持つと乱暴に立たせました。足も縛られてるから上手く立てないけれど、男の人が腕を持ってるから転ばなくてすんでる……

そのまま男の人は、私を持ち上げると肩に担いだと思う……暴れないように足を持っているから。前にも伯爵様にされた事があるから、分かる。

そして運ばれた場所は……たくさんの人の気配がする場所だった…

「ぅ~」
「この娘が、そうなのか?」

(だれ?)

「あぁ、あんたご所望の精霊士とかいう娘だ」
「ふむ、おい小娘っ!わしのために精霊石なる物を作れっ!」
「ぅう、うぅう」 

(やだ、いやだよ)

この人は、私に精霊石を作れって言った。

でも、怖い……
この人はダメ……

「おい、口の布を取ってやれ」
「はいよ」
「娘、作れ。もなくば、命は無いものと思え」

彼は知らない。
精霊に愛された彼女に手を出したものの末路を……その、発言が既に死を招くことを。

「いや、です」
「生意気な娘だ。まぁいい、奥に閉じ込めておけっ!食事を抜けば、言うことを聞く気にもなるだろう」

と、この男は考えていた。
だが、セシリアは実家であるシルヴィアス家で、4日間食事を抜かれた経験がある。
もちろん、それに気付いた精霊が果物を取ってきていたが…

(平気……1日くらい食べなくても生きてける。それに、ここに来る前に沢山食べてきたもの)

目の布は付けられたままだから、分からないけれど……だいぶ寒い……もう夜かな…

『精霊さん、もしかして……もう夜?』
『寒い?リア……。ごめんね……炎の子は、いないの』
『あっ、ファルク様が残してくれた子は?』

ファルク…が残してくれた……こ?

『炎の、精霊さん……居ますか?』
『……マスター……?!』

私の元にファルクに使えている、中位精霊さんが降り立ってくれた。それだけで、周囲が陽だまりにいるように暖かくなる。

『どうなさったのですか!?マスター!まさか、あの人間共に何かされたのですか?!私が、主に代わり燃やし尽くしますっ!』
『え?だ、ダメだよっ!精霊さんは、人に手を出しちゃダメなんでしょ?!』

中位精霊さんが、その身に炎を纏わせて小屋ごと燃やそうとするのを必死に止めた。
だって、人に手を出すと精霊界が滅びるってランティスから聞いたもんっ

『ですがっ!マスターっ』
『今はダメっ、大丈夫……きっと、シェイドさんが来てくれる。絶対……助けてくれる』
『……分かりました、マスターが言うなら…。ならばせめて、マスターを暖めさせてください』

中位精霊さんは私の側まで来ると、優しく抱き寄せた。



その時だった……

「ぎゃぁぁぁあ!」

外から悲鳴が聞こえ始めたのは……

それと同時に、懐かしい気配がした……優しい風と共に水の気配がする。

「すみませんでしたぁぁぁ!」
「ゆる、ゆるしてくださいっ!もうしませんからァ!」

『ふーん、わたしが許すと本気で思ってんの?』

冷たく底冷えするような気配を含ませた、大切な友達の声……

「ディ……ネ……?」

『あんたたち全員、溺れて死ね…っ!』

その言葉と同時に、悲鳴は消えて……数分経ってもなんの音も聞こえてこなかった……

っ?!
死んじゃったの……?!

精霊は人を害したら、精霊界が大変って言ってたのに……っ!私がそう思った瞬間、咳き込む男の人の声が聞こえた。

「ゴホォッゴホッ、ゲホッ……!はぁはぁ」
「ゆる、して、くれ」

『いやよ』

また聞こえなくなる声……それが何度も何度も繰り返された。

『あーぁ、もう止まらないよアレ』

そして聞こえる、呆れるようなもうひとつの声……

「フィール?」

『久しぶりっ!リア』

私の声に答えたのは、風の精霊さん。
フィールだった……

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