大国に売られた聖女

紫宛

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第6話 解呪

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……この方を蝕んでいるもの……

それは……呪いです。

呪いは、聖女が治療する状態異常に属しません。そのため、呪いの存在は一般人には知らされていません。力ある聖女のみに伝えられ、全ては教会に秘匿されています。

現在、呪いの存在を知らされている聖女は、私を含め世界に3名のみです。クレアは、呪いについて知らされていないみたいです……理由は分かりません。力はあるのに、何故なのでしょうか…?

呪いには、特別な治療が必要になるんです。

それは……

聖幻樹の葉、聖幻樹の雫、聖幻獣の鱗です。

聖幻樹とは、聖女の中で育つ特別な樹で…神様より力を授かってから、その存在を感じる事が出来るようになります。そして聖幻獣とは聖幻樹を守る存在です。

……聖幻獣と聖幻樹は、その名の通り聖なる幻です。聖女の中だけの存在なので、聖女にしか触れる事は出来ません。私達の成長と一緒に、聖幻獣と聖幻樹は育ちます。

力ある聖女のみに存在するとされてますから、他の聖女は知らないと思います。

私の中にも存在します。
ノルンと名付けた、白い鱗と毛を持つ大きな猫の聖幻獣が……

私が会った事がある聖女は、御歳72歳の大先輩です。私の指導をしてくれた方で、この方の聖幻獣は白い鱗と毛を持った大きな大きな犬でした。

今は、ソルシエラでもなくルナファルナでもない国で、活躍されていると聞きます。他の方は一つどころに留まらず、旅をしていると聞きます。

……話が逸れましたが……とにかく呪いの治療は、限られた聖女にしか出来ないという事です。

直ぐに必要な材料を揃えなければなりません。彼の状態を見るに、かなり我慢をされてたようです。

「必要な材料を揃えますので、その間少し離れていてくれますか?ゾファロ様、お医者様」
「わ、分かったっ」
「危なくはないのだな?」
「……ないと思いますよ」

聖幻獣を呼び出すため、強い聖気が辺りに充ちます。当然ですね、聖幻獣は聖気の塊ですから…
その聖幻獣に、聖幻樹の葉と雫を持って来て貰うんです。

まぁ、その間は無防備になりますが、強い聖気なので魔獣は近寄りません。悪い人は……近づくかも知れないけれど、ノルンが気付いてくれますから…大丈夫だと思います。今まで、大丈夫だったので。

「……ギリギリの所で立っている」

将軍様は、聖気の影響が出ないギリギリの所で待つと言って下がりました。私の言葉を信じてない訳じゃないけど、心配だからと。

この国に来てから、いいえ…ゾファロ様と旅立った時も宿に泊まった時の事も、邪推してしまいましたが…本当に心から心配し守ろうとしてくれていたんですね。







(ノルン、どうかこの声に答えて……聖幻樹の葉と雫をここへ)

私が胸に手を当てて祈れば目の前に、白い鱗と毛に覆われ全身が透けた大きな猫が現れる。その口には、私の中に確かにある聖幻樹の葉と、雫が入った瓶の入れ物が咥えられていた。

『あるじ、もってきた』
「ありがとうございます、ノルン」

ノルンが姿を現すと、一応説明はしましたが、お医者様やゾファロ様、患者さんも驚いた顔をしていました。

……知られるの良くなかったかな?でも仕方ないよね、治療せず放置して…この人が亡くなったら、絶対に後悔すると思うし……何より、治せるだけの力があるのに何もしないなんて……私には出来ないですから。

聖幻樹の葉と雫、そして聖幻獣の鱗で作られる呪い消しの薬は……取ったその場で聖女の力と合わさって解呪薬となり、その効力は…作った直ぐに使わないと失われ、ただの空気?になる。

ノルンが持ってきた材料も、直ぐに私の力と合わさり解呪薬になった。その薬を持って、呪いに苦しむ患者さんの傍に行き……ただ只管ひたすらに祈りを捧げる。

(神様……どうかこの薬で、この方の苦しみを和らげ回復させてあげて下さい。痛みも苦しみも癒し、魔瘴気からも解放させてあげて下さい…どうか)

解呪の治療は時間がかかります。患者さんの治療を始めてから、結構な時間がかかってると思いますが……聖気から伝わる感じでは、まだまだ時間がかかりそうです。

ましてや私は、解呪を苦手としている。他2人の聖女よりも、余計に時間がかかってしまう。

ゾファロ様には待たせてしまい申し訳ありませんが、治療に手を抜くことは出来ません。この方の治療を始めた時に、他の患者さんには離れて頂きました。なので今は、全力で事に当たっています。

(神様……どうかこの方が、この先も健やかに過ごせますよう、お力添えを……)

かなりの力が、この方に注ぎ込まれています…前回、呪いの治療した時も疲れましたが、今回はその比ではありません。

次第に体がふらつき、瞼が落ちかけた時…聖気から伝わる感じから、患者さんの呪いが解けた事を理解しました。

「感謝します、神様……」
「聖女、様」
「もう、大丈夫ですよね?」
「あぁ」

そういえば、治療を行う際に聖気を浴びると良くないと言いましたが…治療を受けている患者さんには影響が無いんですよ、実は。


最後の一人を治療し、立ち上がろうとしたけれど…体がふらつき、何も無いのに目の前に転びそうになりました。もちろん転ぶことはなく、ゾファロ様に支えられ抱き上げられましたが……

「治療は済んだな、帰るぞ」
「ちょ、ちょっと待って下さいっ」
「なんだ?」

ゾファロ様の表情は厳しく、威圧感を放っていましたが怯む訳にはいきません。折角持ってきた治療薬を、渡さずに帰るなんて出来ませんから。

「私が、向こうで作った薬です。役に立てて下さい」
「宜しいのですか?とても助かります!ありがとうございました、聖女様」

降りて渡そうとしたけれど、ゾファロ様がおろして下さらなかったので…鞄をそのまま渡しました。
お医者様に鞄を渡すと、無言のままゾファロ様は領主様のお屋敷に一直線に帰りました。

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