終末のエリュシオン

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終末の序章

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 その世界は人間の生きる世界ではなく、外獣と呼ばれる化け物の住む世界であり、人間はその中で隠れるように生きる弱くて小さな生き物でしかなかった。

 人間の生存圏は狭く、一つは土地に根付いて外と内とを隔たる大気、マナの壁の内側に住み外敵を牽制し、一つは空を悠々と飛び回る航空移動船の都市でもちろん空にも外獣はいる。最後は陸を移動する駆動工業都市だ。

 地上に根付く街の名は【武術国家デサリウス】。

 空に浮かぶ街の名は【航空移動船商業都市ヨルムンガンド】。

 地を這う街の名は【駆動工業都市ザラタン】。

 それらの街を除いて、大規模な人口のある人間の生存圏はない。

 それは主に外獣が原因であり、人類の生存圏外には空気中に外獣の卵が飛散していて、吸うことで肺に根付くからだ。

 卵は数か月潜伏後、幼獣として体外へと出る。

 それらのことから、人類はマナと呼ばれる特殊な大気の集まる場所、マナを発生させた場所でしか生きることができない。

 マナは外獣が嫌い外獣の卵も腐ってしまうことから、卵を一切含ませることのない気体であり、それにより人は狭いながらも生きる場所を得た。

 それと同時に外獣は人を襲う傾向があり、時々人はその脅威に怯えることになる。

 だがしかし、人も全てが弱いわけではない。

 武術、武闘と術、それらを総称して武術呼ぶ。

 武闘使いは内外気勁を鍛錬で修得し、内気勁は体内の気を巡らせることで身体を強化し、外気勁は外に溢れる気を操り身に纏うことや移動や攻撃防御などの行動に対して使用する。

 法則として、内気勁に特化する者は外気勁を損ない、逆もまた然りだ。

 術師はマナを操ることに長け、それによる兵器や武器を使いこなす。

 回復などという行為には不向きなものの、遠距離で攻撃するのに特化している。

 そういう武術を操る者たちを武術者と呼び、彼らが外獣を倒すことになる。

 ただ、外獣にも強さに違いがあり、普通の外獣程度なら普通の武術者なら問題なく戦える。

 しかし、階級1の四足獣からは別格であり、それなりの強者でないと数百人規模の戦いで何とか倒せる相手になる。

 階級2の六足獣ともなると、その体に鎧骨格を纏うため、数千人いてやっと退治できる。

 階級3の八足獣になると、体の鎧骨格が堅牢鎧骨格になり、数万人いて半数を犠牲にしても倒せるか分からない相手になる。

 そんな外獣もある意味一生に一度会うか会わないかであり、人類側ももしもに対する対策としてしか戦力を揃えていない。

 規格外の外獣に対し、規格外武術者を常に常駐させることも厳しいものがあり、ある時に人類側も人ではなく武器に依存することに必然的になる。

 それが宝剣や法具と呼ばれる物であり、宝剣は武闘使いが持ち、法具は術師が持つ。

 武術国家デサリウスには宝剣が三本、法具が三具ある。

 航空移動船商業都市ヨルムンガンドには宝剣が二本、法具が一具ある。

 駆動工業都市ザラタンには宝剣一本に法具が二具ある。

 元々は過去に単一の技術者によって設計されたそれらは、マナや内外気勁に反応するようになっているが、その機構や構造は一部の技術者でも完全に把握はできていない。

 武術を修得している者なら誰でもそれ一本、一具を手にするだけで階級1の外獣を一人で屠ることができる性能を持っているのがそれらに当たる。

 ただ、何にでも規格外というものはあり、宝剣法具の中には階級3すらも一人で屠れるものもあったり、それ以前に武術のみで外獣を一人で屠る者もいたりする。

 そういった者たちは、時に現れるが、その強さゆえに外獣と戦うことで何かを満たす者や、あるいは全てがどうでもいいようにただ怠慢に堕落して怠惰に過ごす者たちに分かれる。

 そして、こんな世界にもおかしな人間はいる。

 外獣を神として、外獣のみが生きる世界にする。そんな宗教があって、数万人を超える信徒がいるのだ。その信念は外獣を単一存在に、外獣が世界に溢れることが人の救いであると考えている宗教の教祖は女だという。


「ブリンガル家に仕える近衛とは、この武術国家デサリウスにおいて最強の強者の集まりだ」

 ブリンガル家とは、武術国家デサリウスを統べる王族に当たり、現王であるザウィード・ヘクトン・ブリンガルはつい先日53歳の誕生の祝いの宴を開いたばかりだ。

「この一大事!貴様らならば!易々乗り越えられる壁だと私は疑わない!」

 近衛の武術者の前で声を張る男は、その屈強な体付きに加え、腰に持つ宝剣が周囲に注目される要因の一つだ。

「室長、張り切っているな」

 彼は王宮の護衛室室長であるランスロット・エクトロアノースだ。

 ザウィード王に任命された宝剣を持つ近衛の長。

 その白髪はこの国では珍しくはない。

「皆!心して当たるように!」

 彼がここまで声を荒げるのは、この武術国家デサリウスを今まさに外獣が襲おうとしているが故だった。

「階級1が十五体、階級2が三体、階級3が一体……とてもではないが、守り切れぬのではないか?ランスロット」

 白髪、もとは黒髪の紳士だった男は整えられた髭を蓄えて、ささやかな金の王冠を載せている。

「ザウィード王、ご心配には及びません。宝剣保持者である二人に階級2の三体を足止めさせています。私も参戦すれば、数時間後には倒すことができます」

「階級1は法具保持者と近衛で対処するのだろうが……階級3、国殺しはどうする?」

 階級3は過去に人間の生存圏の一つだった国を滅亡させた存在故に、【国殺し】と称されるようにもなった。

「……王には隠していましたが、我が友アグスーラ・ヴァン・ゼンデルークの弟子がおりまして、その者が一人で倒しに向かっております」

「なに!一人でだと!そ、その者は宝剣や法具は持ってはいないのだろ?」

「はい、ですが、アグスーラの言葉を信じるなら、彼は宝剣法具を持つ私よりも格段に勝るということです。そして、その強さ、事前に我が眼で確認しておりますれば」

 そう言ったランスロットに、王は隣に座る王妃へと視線を向けた。

 第一王妃メサリアは33で白髪の白い瞳をしていて、その隣の第二王妃エミーナは31で黒髪に黒い瞳をしている。

 二人の若い妻も王の視線に微笑みを返す。

「いざとなれば、その者に娘たちの内のいずれかを褒賞とすることも許す」

 そう言う王にランスロットは頭を下げて言う。

「その必要はございません」
「しかし、命を賭け死闘に赴いた者に何もないでは」

「何の心配もありません。かの者アグスーラの弟子は王家に忠誠を誓っております」
「まことか!それほどの傑物がどうして……」

「傑物であると同時に、かの者は怠惰になってしまったのです。将来は昼寝でもしながら一人余生を寝て過ごしたいなどと申す者です、褒賞など興味がなく、栄誉など不要と言えるでしょう」
「ではなぜその者は死闘に赴くのだ?」

「それはリューが……」

 リュー・ヴァン・リヴェインが圧倒的なまでに強いからでありますれば。
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