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八章
八章ノ参『不穏な影』3
しおりを挟むその日から日に日に大きくなるタンダに付いた影は、もうタンダの後ろにもう一人の人が抱き付いているようにしか見えない程になっていた。
「どうしたんですか?カロナちゃん」
「……ううん、なんでもないよノノちゃん」
「そうかな、僕には平気なようには見えないけど」
「トスル、大丈夫だよ」
そう言って、誤魔化すカロナは、この日一つの思いを行動に移すことにしていた。
「メイちゃん、私ね、あの影を消してみようと思うの」
白猫にそう話すカロナ、でも、あの影はカロナでは消すことは叶わないことを白猫は伝えるすべがなく、ただ、いつものように乳をいじられている。
「きっと、あの影がタンダ教諭に悪い事をさせてるに違いないの」
それは違う、そう白猫は悶えながら思う。
タンダという男の悪い部分に引かれて、あの影は彼に付いたのだ。
人の影に巣食い、人の闇を喰らう物。それが奴らの正体で、その根幹は人に寄生する存在だ。
「私、助けられるかな?お母さんみたいに沢山の人を助けたいな」
この子は本当に優しい、あのカイナの子だとはっきりと思える。
そして、責任感が強い部分、使命感にかられ行動する部分は、ロウの子であると、リナである部分が肯定している。
「ニャー」
「うん、大丈夫、きっと上手くできるよメイちゃん」
ロウの子であるカロナは守杜の力を持つ、だけど、その力の使い方は何も知らない。だから、カロナが影を消し去ることは不可能だろう。
白猫はそう思いつつ、それでも、カロナを止めはしない。
あの子が予見の子であるか、ないか、それを把握するいい機会かもしれない。
「タンダ教諭」
「……あ~カロナ院生、とうとう決心してくれましたか?この僕の玩具になることを」
カロナは震えていた。体は丈夫、でも、心はまだ幼さの残る少女でしかない。
影は何本もの触手をタンダに巻きつけ、胴の部分はもうカロナには見えないほどに覆われている。
「前回の成績を見て気が変わった子も多かったようですし、あなたのクラスのネア院生には昨日たっぷりと遊ばせて頂きました」
それを聞いたカロナは自身の服を強く握った。
ネアちゃんは、タンダ教諭の科目を落としたら、その時点で落第点になるって、でも、この前の試験はとても出来が良かったって話していたのに。
「彼女に何をしたんですか!」
「……まず、耳を舐めまわすのが僕の愛情表現で、そして、頬、鼻、最後に口へとね……」
カロナは身の毛がよだつ思いで、服を握る手に力を込めた。
「で、カロナもそうなりたいのかね?」
「わ、私は必要ないです」
落胆するタンダ教諭は、そのまま黒板に向くと、「なら用はありませんね」と言う。
背を向けた彼の背中にそっと近づくカロナは、その手を徐に影へと伸ばす。
しかし、その瞬間に首にかけた護石が反応し、水でそのものが竜のような姿を成して彼女の手の前に現れた。
現れたそれは、その影に対して何かするわけでもなく、ただただ、カロナが影に近づけないようにしていて、彼女は困惑の表情を浮かべていた。
どうして影じゃなく私を止めるの?
そう思うカロナに、白猫は当然その解を告げることはしない。
スイリュウの護石はカロナに対する抑止でしかない、おそらくは一度守護が発動すれば、石自体が破壊され、二度は彼女を救うことはない代物だ。
そもそも、スイリュウの加護さえ得られないカロナには、到底その力を制御しようもない。
ロウならともかく、カロナは影に対する対策が一切できないのだ。だから、私が傍に就いているんだけど。
白猫はいざとなれば、影を消し去るつもりで、カロナの行動を見守っていた。
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