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八章
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しおりを挟むそして、もう何度目かの薬草の授業で、カロナはある問題に直面していた。
いつもは、長机が並ぶ中で、一番前の席の内のどれかに、カロナとノノとトスルの三人で座って授業を受けていた三人は、この日に限って三人以外の低学年一年生の院生が先に座っていて、空いている席が、男子二人の席二つと女子二人の席一つが空いていた。
カロナはどうしようと迷っていると、ノノが率先して男の子の隣に座ると言う。
「私があの男の子二人の席に座ります、カロナちゃんはあの女の子二人の席に座って下さい」
「でも、いいの?」
「全然問題ないですよ」
そうノノが言うと、トスルも開いているもう一つに席に座る。
そうして問題は解決したかに見えたが、授業が始まってみると、さらにカロナに問題が降りかかる。
薬草の種類を当てるため、薬草が一束だけ各机に配られると、カロナの机では一番左のカロナが手に取れない一番右側の女の子が手に持ち、二人だけで薬草が何かを話始めたのだ。
「あの、私にも見せて」
その声にその二人が反応することはなく、カロナはポツンとただ一人で、授業を受けている気持ちになった。
そして、そういう時に限って、満点単頭合格者という立場が、彼女を回答者として選ばれてしまう要素になるのだ。
「カロナ、あなたには簡単な問題よね」
そう担当の教諭がカロナの名を呼ぶと、ようやく彼女が一人でのけ者にされている事実にノノとトスルは気付く。
ノノは明らかに腹を立てている様子で、その二人を前の席から睨み付け、反対側の席のトスルもいつもの笑みを消して視線を送る。
二人は互いに知らぬ振りをすると、教諭はカロナの名をもう一度呼ぶ。
「カロナ?どうしたの?答えて下さい」
「はい」
そう言って立ち上がるカロナの椅子の音に紛れて、別の席の女子たちがクスと笑い声を出すと、今度はノノがその席を睨む。
「ハンケチョウ、ミナモ草とも呼ばれる薬草です、主に胃薬の原料となり、比較的安価で取引されています、群生しているため容易に見つけることができます」
六十一名がいる教室が静まり返り、教諭が口を開くとカロナへの賛美が響く。
「凄いわカロナ、あなたの回答は私の補足の必要も無いほど完璧な解答よ」
座ったカロナは、特に何事も無かったような顔をしているが、ノノは両側の男の子が驚くほどに手を振り上げて喜びを表した。
「さすがカロナちゃん!」
トスルも笑みを浮かべると、安心して視線を教諭へと戻す。
再び授業が進む中、どうしてカロナが正解を言えたのか、それを疑問に思った二人の女の子はコソコソと会話をする。
「ど、どうして分かったのかしら……」
「わ、私ちゃんと手で隠してたのに」
戸惑う二人に、カロナは囁くように言う。
「ニオイだよ、私ニオイだけでも薬草が何か分かるの、だから別に見せなくても大丈夫だよ、二人はよく薬草を見て勉強してね、頑張れ!」
嫌がらせであるのは確実なのに、そういった経験が無いカロナは、二人が必死に学んでいるのだと思い込み、そう声をかけた。
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