84 / 95
八章
八章ノ壱『ケイカ薬学院入院式』1
しおりを挟むケイカの薬学院の入院式当日。
寮へと前日から荷物をダブハとアシュとで運び入れたカロナは、同室の友で次頭のノノと一緒に制服を身に着けていた。
単頭であるカロナは胸元に金月花を、次頭であるノノは銀陽花を飾っている。ちなみに、末頭であるトスルの胸にはデンレと呼ばれる木の枝がかざられているが、それはデンレの枝先がうな垂れた末頭の合格者を表しているためとされている。
カロナの首には、ロウから届いたスイリュウの護石が内側に大切に身に着けられ、頭にはカイナが送ったキリン草を模ったの髪飾りが控え目に飾られていた。
濃い緑の髪に薄いその髪飾りが、程よく主張している。
「綺麗な色の髪飾りねカロナちゃん!キリン草でしょ!」
「うん、お母さんがくれた入院祝いなの」
そう言うカロナは、八歳にしてもう森の民の美的な容姿が風貌に現れて、ノノの隣に並ぶと年齢の差がずいぶんあるように見えてしまうほどになっている。
ノノが身長的に低いのも合わさって、二人が一緒に歩くと姉妹のようだと言う者もいる。
ノノは黒の髪に黒い瞳で童顔に低身長であるため、学院内で歩くと迷子と思われてしまうことがあり、できるだけカロナと一緒に歩くようになったのも、二人が姉妹みたいと言われる要因になった。
「ニャ~」
「あ!メイちゃん!ほら!こっちおいで~ほらほら~」
ノノがメイちゃんと呼ぶ白猫は、カイナの傍からにいた猫の姿の猫仙人であるシャンリンメイだ。そして、ノノはその猫の可愛さに日々声を高くしている。
「どこ行ってたの、あんまり危ないところに行ったらダメだよメイちゃん。大体学院の先生には言ってないんだから、見つかったら追い出されちゃうよ」
カロナが床の位置にいるメイちゃんに言う通り、その白猫は勝手にカロナについて来てしまった猫、ということになっている。
実際にはカロナと同室のノノ以外には見えないように、仙人の力で普段は姿を隠している。
白猫がどうしてカロナの元にいるのか、それは今のところ彼女本人にしか分からない。
カロナは白猫を抱き上げるノノに、制服が汚れちゃうよと言うと、白猫は内心汚くないニャと思う。
「大丈夫だよ!メイちゃんに汚されるなら本望です!」
「私はメイちゃん苦手だな~、何か……猫と思えないから……」
カロナは白猫の真実は知らない、が、人狼で守杜の血脈である彼女ならではの勘で、違和感を感じていた。
やはりロウの血筋ね、勘が良いのは良い事よ。
「カロナちゃんは猫嫌いじゃないんだよね?どうしてメイちゃんは抱っこしないの?」
「どうして?え~っとね、とても失礼な気がするの、メイちゃんは凄く存在が貴い気がするからかな~」
そう言われた白猫は、まんざらでもない様子で尻尾をうねらせる。
そんな白猫を寮の自室に置いて、二人で学院内にある屋根のある吹き抜けの広場へ廊下を使って移動する。もちろん、白猫は姿を消してその後をついて行く。
院内は土足であるため、よく見れば足跡もあったりするが、殆どの廊下が綺麗に雑巾がけされていてホコリなどは全く無い。
カロナとノノが廊下を歩いていると、皆が歩む動線で二人の前に男子院生が一人で待っているのを見つける。
その男子院生は、その視線で二人を捉えると、ニコリと笑みを浮かべて名前を呼んだ。
「やぁ、カロナにノノ、遅かったね、女の子だから当然か」
そう言うのは、デンレの枝を胸に飾る末頭合格者のトスルだ。
ノノは、明らかに不機嫌そうに眉を顰めると一応挨拶をする。
「待ち伏せをしているそちらは、末頭のトスルではありませんか!おはようございます」
「無礼なのか丁寧なのか分からない挨拶だねノノ」
二人のやり取りが終わるのを確認したカロナは、ニコリと軽く会釈してみせる。
すると、三人の隣でカロナに見惚れて突っ立ってしまっていた男子に、カロナの横顔に見惚れてしまった男子がぶつかって、三人の視線がその二人へと向く。
「大丈夫?怪我とかない?」
カロナがそう声をかけると、二人はカロナに向かって直立して、大丈夫です!と言う。
頭の後ろで長い緑の髪を束ね、束ねたところに飾られた髪飾りに、微笑みが合わさると同じ歳の男の子は頬をポっと赤く染める。
その奥で先を進む女子の集団の中から、〝ッチ〟と舌打ちが鳴るが、その時はカロナやノノには一切聞こえない。
「ここで僕たち……いや、カロナがこうしてたら後ろが詰まってしまうから、歩きながら話そうか」
そうさりげなくトスルは二人の間に入って手を繋ぐと、ノノは反射的に手を払ってからカロナとトスルの間に割って入る。
「カロナちゃんと手を繋ぎたいだけでしょうが!やらせませんから!」
キョトンとするカロナに、ノノは気を付けて下さいと言う。
トスルは割って入ったノノの手を繋ぐと、仕方ないな~と呟いて歩き始める。
「カロナちゃんは友として私が守ります!安心して下さい!」
「?うん、よく分からないけど、ありがとうノノちゃん」
そうしてカロナたちが広場に集まると、そこには数百人の上級生たちがいて、教諭も一同に並んで立っていた。
新入院生たちは入口の教諭に促されて列に並ばされる中、カロナとノノとトスルは教諭によって別の教諭へと案内が変わる。
それは元々聞いていた通り、単頭次頭末頭の三人は全薬学院生の前で名前を呼ばれる恒例の行事を行う必要があるためだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる