上 下
62 / 95
五章

しおりを挟む

 マトの国、内乱は王宮内で最小の規模で行われ、アシム王子率いる私兵と、ウジ大臣率いる私兵の戦いで行われていた。

 それは流行り病で軍隊はほぼ動かせないままで、そんな中でアシム王子がウジに宣戦した。

 アシムは今実権が必要だった。カイナを探すため、カルの国へ攻め込むためには今必要だったのだ。だから、今は形振り構わず噛みついている。

「ウジ様、我々の戦力では王子派閥の私兵と戦うことは難しい状況です」
「何故だ!?どうして勝てない!我々の方が数では上であろう?」

 王子の私兵は王家の剣、ウジの私兵は金で動く傭兵、その意志の重さ深さで強さの強弱ははっきりと出た。

「人は死ぬ、永遠に生きてる人などいない、そうだろウジ?」
「お、王子……自ら出てくるとは、意外ですね」

 王子はその右手に血に染まった剣を持ち、ウジは背後に刃の細い短剣を持つ。

「おやじや、親父側の強い私兵を貴様が亡き者にするために泳がせた……結果、貴様はよく泳いでくれた、おかげでこうして難なく私が実験握ることができるわけだ」

「泳がせただと?ふっ面白い戯言だ――」

 ウジはここまで全ての計画が自身の手のひらで行われている、そう思い込んでいたが、前王が病に伏したのはアシムによる工作であり、前大臣のホウが薬師を雇うよう仕向けたのも彼であることは事実だった。だが、ウジはそれを理解することはない、そう、その首を刎ねられるその瞬間も。

「暗躍する者、大概その背後を気にすることはない、見ていて滑稽だったぞ。……さぁ、カイナを迎えに行く準備ができたな、フフフッ待っていろカイナ!」

 その近日、マトの国がカルの国へと宣戦布告し、攻め立てることになった。

 カルの国の街テンにいるユイナは、マトとカルとの戦争に巻き込まれてしまう。

 だが、戦争といってもほぼ一方的なもので、カルは首都を制圧され簡単に王は打ち取られてしまった。

 その迅速な戦いの期間はたった二日間で、その短い間にカルという国は無くなり、カルだった場所は、元々の土地の名を使いジュカクと命名され、マト国ジュカク州として統治されることになった。

「カルの金貨が鋳つぶされ、マトの金貨に変わった以外、他に変化はなかったわね」

 そう言うユイナもその流れの中心にいたが、大した変化はなかった感覚でいた。

「いや、かなりの変化だよ、薬学院は全体の職員が無職になって、再度学のある者を採用すると聞いたし、僕もこれで学院教諭になれそうだよ」

「たしか、お義父さんを嫌っていた現学院長に採用を不採用にされていたんだっけ?でも、ダブハさんならうちの店かお義母さんの店で働けば問題ないのに」

 ダブハの母の店は今も好調で、ユイナの店もその支店としてかなり盛況である今は、ダブハが働く場などどうとでもなる。だが、ダブハは前から薬学の教諭になりたくて勉学に励んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...