44 / 95
四章
四章ノ弐『生まれくる命』1
しおりを挟む王宮から脱出した私たちは、人狼の森から住む場所を変えることにした。
それは、第一王子のアシムが私たちを探すため私兵を派兵したからだ。
そして、私は移住の前にリユイ村へ立ち寄り、その様子を眺めていた。
狼の姿のロウが、それでいいのか?と言わんとする表情で見る。
「迷惑はかけられないから」
私は挨拶することなく村に向け頭を下げた。たった数年だったけど、本当にこの村の人たちには助けてもらってばかりだった気がする。
ヒノさん、ダンさん、テルさん、アリユさん、今は亡き村長さん。
私たちは南のカルの国にある人狼の森と同じ森、でも呼び名がジュカクの森という場所へと向かった。
その理由としては、ジュカクのキリン眷属が既に人間に狩られ、魔の物が森の奥から湧いてきているからだ。人狼の森の奥から出てくる魔の物は、実はジュカクの森の奥から湧いたということはロウが夢に見たと言う。ロウはただの人狼ではなく、聖獣と呼ばれるメイロウの魂が宿っているのだそうだ……と言われても私にはよく分からない、それでもロウがせっかく話してくれたからちゃんと覚えておこうと思う。
カルの国は聖獣の眷属に敵意が強く、聖獣をただの獣として考えているけど、既にキリンとその眷属がいなくなって久しく、誰もロウが人狼であるとは思わなかった。
といっても、ロウが人の姿でいることが一番気付かれない理由だけど、たまに狼の姿を見せて欲しいと私はお願いする。人の姿だろうと狼の姿だろうと、本当はどちらでも構わないけど、人の姿のロウと目が合うとっても気恥しい……顔立ちが男前すぎるから。
ジュカクに移り住んで半月経った頃、私は気持ちが悪くて食べた物を吐いてしまった。
「どうしたんだろう、おかしいな、急に気持ち悪くなってきたな」
ロウは心配そうに私の背中をさすってくれる。
「……カイナ、俺の弟の話を覚えているか?」
それはロウの弟さん、ムロという名の人狼の話。
「うん、あなたの大切な弟だった人よね」
「ムロを母が授かった時……今のカイナのように急に具合が悪くなったことがあったんだ。母はそれを〝つわり〟と言っていた」
なるほど!と私は内心納得しつつ、声を上げて驚きを露にした。
「え!じゃ、私のお腹の中にロウとの子どもが!?」
まだ確証もなかったのに、私は嬉し過ぎて宿った命に歓喜した。
祠も無いジュカクの森で、私とロウは最初野宿しながら過ごしていた。
私はロウさえいれば森での生活を苦に想うこともなかったけど、さすがにずっとこのままだといけないと考えて、例のはやり病で薬を売ったお金で、近くの村の大工さんにお願いして、森の中に質素な小屋を立ててもらった。
「ここが新しい我が家よ」
「祠より少し狭いくらいか?もっと広い建物にしてもらえばよかったんだ、砂金ならまだ残っていただろ?」
ロウが集めた砂金は初めて換金した時の数十倍はあって、それを元に家を建てようと提案してくれた。でも、私はそれを断った。
「この砂金はいつかこの子のために使うのよ……子どもってお金がかかるって母さんも言ってたし、もし、私に何かあった時、ロウだけでこの子の面倒を見るんだよ」
「……確かに、俺はまだこの辺の砂金の場所は分かってないからな、その内見つけるがな」
私はその言葉に、砂金って探せる物なんだ、と少しだけ、ならもう少し大きな家を建てておけばよかったかな、そんな事を思ってしまった。
その後、直ぐに頭を振った私は言う。
「薬師として、稼いだお金で私はもっと広いお家を建てるんだから、見ててロウ」
「俺も薬草採取は手伝う、カイナのおかげでカイナが扱っていた物の場所ならニオイで直ぐに見つけられる」
そのロウの言葉に私また、ニオイだけで探せるんだ、と少しだけ羨ましく思ってしまう。
「そ、その、ロウのお鼻ってどれくらいの正確なニオイが分かるの?ワンちゃんと同じくらい?」
「いや、犬の数十倍とか……ツナム・ハジクが言うには、他人の尿意が分かるくらいの嗅覚だと言っていた。だが、正直尿意は分からないからそれはあてにはならない、せいぜい誰がしたものか分かるくらいか、カイナのものはもう嗅ぎ慣れているから直ぐに分かるぞ」
その時の私の顔はさぞ綺麗に赤く染まっていたんじゃないかな、好きな人に排泄物のニオイを覚えられてるなんて、恥ずかしさの極致だと思うし。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる