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三章
三章ノ弐『薬師』4
しおりを挟む祠を新しくしてひと月、その日はロウが朝から元気がなく、一歩も動こうとしなかった。
最近、魔の物がいないからロウが森に入らなくなったと考えていた、だから今は、ロウにも少し休憩する機会が来たのだろうと思っていた。
でも、それから二日、三日、四日、と徐々にロウが元気がなくなっていくと、私は本当にゆっくりと大切なものを引き裂かれている感覚で堪らなかった。
そして、それが病気であると分かったのは、ロウが食事中に甘えて舌で頬を舐めてきた時、彼の舌を舐め返したことがきっかけだった。
「ロウ!あなたの舌すごく冷たいわ!」
体は熱いのに舌が冷たい、堕熱(風邪)かと思い、それ用の熱冷ましを飲ましたけど、具合は悪くなる一方で、私はロウが死んでしまうのではと半泣きになりながら、色々な薬を飲ませて少しでも良くしようとした。
「やだよロウ、元気になってよ」
私はロウの傍で一日中ついて、泣き続け、泣き疲れて寝てしまう。
どれ位寝てたのか分からないけど、ハッして目を覚ますと傍で寝ていたはずのロウの姿がなくて慌てて祠を飛び出た。
「まさか、魔の物を退治しに?あんな身体で――」
私は薬草採取用の鎌を持ち森へ向かおうとしたけど、森からロウが帰ってくるのを見つけるとホッと鎌を手放し傍に駆け寄った。
「ロウ!大丈夫?!」
ロウはヨロヨロと歩きながら、その口に何かを銜えていた。口に銜えていたのはキリン草の葉、それとカイダレという根に毒のある草の茎だった。
ロウが何の意味もなくそんなものを取りに行くはずがない。私はロウのことを信じて、その二つを煎じて飲ませようとした。でも、ロウは自身で飲む力もない様子で、私はすぐに自分の口からロウの口を開いて牙に頬を当てながら無理やりに飲ませた。
ロウが人ならもっとちゃんと飲ませられるのに、そんなことを考えつつ、薬を全部飲み終えるまで、私はロウの口に顔を入れて少しづつ舌の奥へと流し込んだ。
今思えば、煎じた薬草の汁を集める抽出器(スポイト)を使えばよかったんだけど、正直私はロウのこととなるともう周りが見えなくなってしまう傾向にあるらしく、その時はまったく考えもつかなかった。
寝たきりになったロウに付きっ切りで介護し続ける私は、手元にある量だけで足りるのかだけが不安で仕方がなかった。
これでロウの病が治る確証もない、そう考えると祈る事だけが私にできる唯一のことだった。
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