上 下
31 / 95
三章

三章ノ弐『薬師』4

しおりを挟む

 祠を新しくしてひと月、その日はロウが朝から元気がなく、一歩も動こうとしなかった。

 最近、魔の物がいないからロウが森に入らなくなったと考えていた、だから今は、ロウにも少し休憩する機会が来たのだろうと思っていた。

 でも、それから二日、三日、四日、と徐々にロウが元気がなくなっていくと、私は本当にゆっくりと大切なものを引き裂かれている感覚で堪らなかった。

 そして、それが病気であると分かったのは、ロウが食事中に甘えて舌で頬を舐めてきた時、彼の舌を舐め返したことがきっかけだった。

「ロウ!あなたの舌すごく冷たいわ!」

 体は熱いのに舌が冷たい、堕熱(風邪)かと思い、それ用の熱冷ましを飲ましたけど、具合は悪くなる一方で、私はロウが死んでしまうのではと半泣きになりながら、色々な薬を飲ませて少しでも良くしようとした。

「やだよロウ、元気になってよ」

 私はロウの傍で一日中ついて、泣き続け、泣き疲れて寝てしまう。

 どれ位寝てたのか分からないけど、ハッして目を覚ますと傍で寝ていたはずのロウの姿がなくて慌てて祠を飛び出た。

「まさか、魔の物を退治しに?あんな身体で――」

 私は薬草採取用の鎌を持ち森へ向かおうとしたけど、森からロウが帰ってくるのを見つけるとホッと鎌を手放し傍に駆け寄った。

「ロウ!大丈夫?!」

 ロウはヨロヨロと歩きながら、その口に何かを銜えていた。口に銜えていたのはキリン草の葉、それとカイダレという根に毒のある草の茎だった。

 ロウが何の意味もなくそんなものを取りに行くはずがない。私はロウのことを信じて、その二つを煎じて飲ませようとした。でも、ロウは自身で飲む力もない様子で、私はすぐに自分の口からロウの口を開いて牙に頬を当てながら無理やりに飲ませた。

 ロウが人ならもっとちゃんと飲ませられるのに、そんなことを考えつつ、薬を全部飲み終えるまで、私はロウの口に顔を入れて少しづつ舌の奥へと流し込んだ。

 今思えば、煎じた薬草の汁を集める抽出器(スポイト)を使えばよかったんだけど、正直私はロウのこととなるともう周りが見えなくなってしまう傾向にあるらしく、その時はまったく考えもつかなかった。

 寝たきりになったロウに付きっ切りで介護し続ける私は、手元にある量だけで足りるのかだけが不安で仕方がなかった。

 これでロウの病が治る確証もない、そう考えると祈る事だけが私にできる唯一のことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...