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三章
三章ノ弐『薬師』2
しおりを挟むそれから、私は大工さんのところへ行き、祠を見てもらう約束をしておくことにした。
「お!カイナちゃんじゃないか!あれ?!胸……」
その時の大工さんのガッカリした顔は、きっといつまでも忘れそうにない。
祠の話をすると、大工さんは月末には見積もりに行くと約束してくれた。その日の薬の売り上げは銅貨十二枚、話からすると見積もりは銀貨二百三十枚程、貯めたお金は総額銀貨百六十四枚と銅貨五十八枚、とてもじゃないが足りない。だから私は考えた、どうやって残りを稼ぐかを……そして。
「お手上げだよ~、ちょっと無理かもしれないよ~」
こればかりはロウにはどうしようもできない、けど、困っているのが何となく分かる。
「そう言えば、若い娘は街では稼げるって商人さんが言ってたっけ」
そう呟いた私に、珍しくロウが唸って、ウオォン!と吠えた。
「ど、どうしたの?冗談だよ、ロウを置いて出てくわけないよ」
私はそっとロウに抱き付いて、私はロウとずっと一緒だよ、と言うとようやくロウは唸るのを止めてくれた。しかし、どうにかお金は稼いでおかないと、そんなことを考えて、その日はゆっくり眠りに付いた。
朝、まだ日が昇る前、ロウが私の顔をペロペロと舐めてくる。甘えたいのだろうと、私はペロペロしてくる舌をペロペロするとロウが慌てて飛び退いた。
「……どうしたの、そんなに驚かなくても」
ハチミツ酒を呑んだロウとは、ほぼ毎回している愛情表現の一種だった。私にとってロウは誰よりも、人よりも信頼のおける存在だったから、恋人にキスするのと同じ感覚で。
ロウは私について来て欲しそうに尻尾を立てて向けて、私はアクビをしながら体を起こした。
ロウが私を起こしたのは、ある物を見せたかったからで、私は最初それが何なのか分からずに、ジッと凝視して落ちていた枝を拾い突っつく。
見た目は古いツボで、土やコケでとてもじゃないけどタダの古い割れたツボ以外のなにものでもなかった。
ロウはそのツボに水を口で吹きかけ、何度も吹きかけるため、洗いたいのだろうと思い、私はそのツボを拾い、水を入れた洗濯用の広い桶に浸けた。
しばらく泥を取り続けて、ようやくロウの言わんとすることが理解できる物を見つけた。
「これって、砂金?」
ツボに付いた泥が水の中で溶け、キラキラと輝く物を出し始めたのだ。砂金は量にもよるけど、少量でも価値の高いものであることは、子どもの私でも知っていることで、私は塩をこすための網の荒いザルと細かいザルを持ち出して砂金を回収した。ロウはその様子を満足げに横で眺めていた。
数時間かけ砂金を集めた私は、それを薬を入れるための安紙にサラサラコロコロと置き丁寧に折ると、「換金してくる!」と朝餉も忘れて、換金屋がいるマトの街の傍にある商人溜まりまで駆けた。
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