1 / 95
序章
序章
しおりを挟む
聖獣――それは六体の聖なる獣であり、何かしらを司る存在だ。
木を司るキリン、火を司るエンコ、水を司るスイリュウ、風を司るフウチョウ、光を司るメイロウ、そして影を司るアンジャがいる。
木を司るキリンは木鱗と書かれる、それは森や平地に天を貫こうとそそり立つ木々に宿る聖獣で、その身は鹿に似た身体に木の鱗を持っている故に木鱗でキリンと呼称する。
火を司るエンコは、炎虎と書かれ、ある地方の活火山の周囲に住む虎に宿る聖獣で、数いる虎の中で、エンコが宿る虎の毛並みが燃えるような姿であることから炎虎と書きエンコと呼称される。
水を司るスイリュウ、姿は水ヘビのようにも見えるが、その巨体に生えた翼は伝説に伝う龍の子孫だと言われ、水龍と書かれスイリュウと呼称されるが、その住処は広い海原のどこかと言われている。
風を司るフウチョウは謎が多い、ただ風を切る翼に鳥のようなものであるだろうと風鳥と書かれフウチョウと呼称されている。
光を司るメイロウは最も身近な存在で、主に狼に宿り獣の姿で光を纏ったようにいつも輝いていることから、明狼と書かれメイロウと呼称される。
影を司るアンジャは最も賢いと言われている、そして、その姿は影と同じく虚ろであると同時に蛇のような形でありながら、だがしかし、影であることから暗蛇と書きアンジャと呼称されるようになった。
そして、聖獣が棲む世界に人という存在は無かったが、古に初めて人という生き物が現れたのは、聖獣らが自身らで恋愛感情を持ち始めた時だった。
古からそれぞれの眷属として人と木、人と虎、人と龍、人と鳥、人と狼、人と蛇と縁を結んでいる。
互いに領域を侵犯することなく過ごしていた中で、長年眷属中の巫子と呼ばれる存在に命を産み出させ、聖獣は眷属とともに過ごすようになる。
だがある時、アンジャが恨みに飲まれ、世界に魔の存在が現れ始めた。
それ以来、聖獣の眷属の中で最も戦いに秀でた者たち、守杜と呼ばれる者が魔の存在を退ける役目を担い、それぞれの領域を守るようになった。
キリンの眷属は世界の中心にある深き森を、エンコの眷属は世界の南東を占める火山地帯を、スイリュウ眷属は海原を、フウチョウ眷属は空を、そしてメイロウは北や東西に広がる平地を守護した。
「先生!アンジャはどうして恨みを世界に持ってしまったんですか?」
教壇に立つ教師に幼い生徒がそう言うと、笑みを浮かべて教師は答える。
「いい質問ですね、アンジャが何を恨んだのか、それについてはこの本――」
そう言って教師は一冊の本を手に取り言う。
「この〝ダブハ日誌〟にて、我らがダブハ元学院長様がお書きになられているわ」
教師がそう言うと、生徒たちは自身の知識にまた一つ書き足していく。
マト国国営薬学院、その先代学院長が記したダブハ日誌にはこうある。
『アンジャは魔の森を作り出したが、それは嫉妬のためであるとされる。だが、それが本当でないことを私は知っている。私がまだ青年と呼ばれていた頃、教えを乞うた我が師の夫である方が、そのことを詳しく話して下さった。名を〝ロウ〟と言い、嘘偽りなく言うならば、彼は人狼であり内に聖獣を宿す者でもあり、アンジャの恨みを晴らした者でもあるのだ』
それは今から数百年前に遡る。
天にフウチョウの眷属あり、地にメイロウの眷属あり、森にキリンの眷属ありと言わす処。
キリンが人に成りたがりその身を六つに分け、フウチョウの眷属は消え、アンジャの恨みを宿す魔の物現れり。メイロウ平地ではなくキリンの消えた森へと入り、人との約定の下人狼に守護を命じる。
それから人狼は森を広範囲に守り、その甲斐あってある一点の魔の物が湧く位置を特定し、魔の物を退治し続けた。
そうして人狼は、その深き森の番人として過ごす中で数百年過ぎた頃、ある代のメイロウの宿る人狼が老衰で死んでしまったため、再び巫子を宿す母体が孕むのを待つことになった。
そんな時代に、人と人狼の盟約は薄れ、人が深き森の資源を欲して人狼の領域へと踏み入ろうとしていた。
だがしかし、人狼はメイロウとの盟約である〝人に害を成すべからず〟を守り、決して人へ危害を加えることはなかったのだった。
木を司るキリン、火を司るエンコ、水を司るスイリュウ、風を司るフウチョウ、光を司るメイロウ、そして影を司るアンジャがいる。
木を司るキリンは木鱗と書かれる、それは森や平地に天を貫こうとそそり立つ木々に宿る聖獣で、その身は鹿に似た身体に木の鱗を持っている故に木鱗でキリンと呼称する。
火を司るエンコは、炎虎と書かれ、ある地方の活火山の周囲に住む虎に宿る聖獣で、数いる虎の中で、エンコが宿る虎の毛並みが燃えるような姿であることから炎虎と書きエンコと呼称される。
水を司るスイリュウ、姿は水ヘビのようにも見えるが、その巨体に生えた翼は伝説に伝う龍の子孫だと言われ、水龍と書かれスイリュウと呼称されるが、その住処は広い海原のどこかと言われている。
風を司るフウチョウは謎が多い、ただ風を切る翼に鳥のようなものであるだろうと風鳥と書かれフウチョウと呼称されている。
光を司るメイロウは最も身近な存在で、主に狼に宿り獣の姿で光を纏ったようにいつも輝いていることから、明狼と書かれメイロウと呼称される。
影を司るアンジャは最も賢いと言われている、そして、その姿は影と同じく虚ろであると同時に蛇のような形でありながら、だがしかし、影であることから暗蛇と書きアンジャと呼称されるようになった。
そして、聖獣が棲む世界に人という存在は無かったが、古に初めて人という生き物が現れたのは、聖獣らが自身らで恋愛感情を持ち始めた時だった。
古からそれぞれの眷属として人と木、人と虎、人と龍、人と鳥、人と狼、人と蛇と縁を結んでいる。
互いに領域を侵犯することなく過ごしていた中で、長年眷属中の巫子と呼ばれる存在に命を産み出させ、聖獣は眷属とともに過ごすようになる。
だがある時、アンジャが恨みに飲まれ、世界に魔の存在が現れ始めた。
それ以来、聖獣の眷属の中で最も戦いに秀でた者たち、守杜と呼ばれる者が魔の存在を退ける役目を担い、それぞれの領域を守るようになった。
キリンの眷属は世界の中心にある深き森を、エンコの眷属は世界の南東を占める火山地帯を、スイリュウ眷属は海原を、フウチョウ眷属は空を、そしてメイロウは北や東西に広がる平地を守護した。
「先生!アンジャはどうして恨みを世界に持ってしまったんですか?」
教壇に立つ教師に幼い生徒がそう言うと、笑みを浮かべて教師は答える。
「いい質問ですね、アンジャが何を恨んだのか、それについてはこの本――」
そう言って教師は一冊の本を手に取り言う。
「この〝ダブハ日誌〟にて、我らがダブハ元学院長様がお書きになられているわ」
教師がそう言うと、生徒たちは自身の知識にまた一つ書き足していく。
マト国国営薬学院、その先代学院長が記したダブハ日誌にはこうある。
『アンジャは魔の森を作り出したが、それは嫉妬のためであるとされる。だが、それが本当でないことを私は知っている。私がまだ青年と呼ばれていた頃、教えを乞うた我が師の夫である方が、そのことを詳しく話して下さった。名を〝ロウ〟と言い、嘘偽りなく言うならば、彼は人狼であり内に聖獣を宿す者でもあり、アンジャの恨みを晴らした者でもあるのだ』
それは今から数百年前に遡る。
天にフウチョウの眷属あり、地にメイロウの眷属あり、森にキリンの眷属ありと言わす処。
キリンが人に成りたがりその身を六つに分け、フウチョウの眷属は消え、アンジャの恨みを宿す魔の物現れり。メイロウ平地ではなくキリンの消えた森へと入り、人との約定の下人狼に守護を命じる。
それから人狼は森を広範囲に守り、その甲斐あってある一点の魔の物が湧く位置を特定し、魔の物を退治し続けた。
そうして人狼は、その深き森の番人として過ごす中で数百年過ぎた頃、ある代のメイロウの宿る人狼が老衰で死んでしまったため、再び巫子を宿す母体が孕むのを待つことになった。
そんな時代に、人と人狼の盟約は薄れ、人が深き森の資源を欲して人狼の領域へと踏み入ろうとしていた。
だがしかし、人狼はメイロウとの盟約である〝人に害を成すべからず〟を守り、決して人へ危害を加えることはなかったのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる