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ダイバー編

十四話 ダンジョンフォレスト

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 巨大な樹木がくり貫かれたような入り口、そこから入ると、冒険者を出迎える自ら光を放つ花があり、それが幻想的な光源となって鮮やかにやさしく辺りを照らす。

 フォレストには階層という観念がなく、ルートによって難易度が変わり、イースタやウエスタは最深部に到達するルートが無いとされている。

 イースタから入ると、『雑草ルート』、ウエスタからなら『花ルート』、サウスタからは『茨ルート』と呼称されて、最深部に唯一到達できるのがサウスタからの茨ルートだといわれている。

 どのルートも奥に進むほど難易度が高くなるされ、モンスターのレベル台によって生える植物の色が違う。

 始めは緑、それから黄色、赤へと変わり、最も高難易度の床は黒だと確認できている。

 床は完全に鉱石でできていて、草や木は一切生えていない。その代わりなのか壁から植物が生え、中には人を襲う植物のモンスターがいたりもする。

 モンスターを連れて入れる広さがるフォレストだが、数十体も大きなモンスターを戦わせるほどには広くなく、かといって東西の幅が場所によっては数百バレンもあったりと、狭いというわけでもない。

 どのルートも直線的ではないので奥まで見るというわけにはいかないが、その距離は数十ガレンにも達し、タワーのように飛び降りて戻る手段がないために地道に引き返すしかない。

 つまり、深く冒険しようと思えば、数日から数週間単位で冒険の準備が必要なのである。

「だからウチは料理もできて!荷物も運べる!有能なクーリエなのさ!」
「はいはい、キミのおかげでボクは温かい料理が食べられるんだね、本当にありがとう」

 サウスタの入り口からフォレストに入ったカイネル・レイナルドとホチアとコロロは、辺りに生えている植物の色が橙に変わったところで昼食を兼ねて休憩していた。

 ここまでは順調にカイネルたち、二人と一匹は攻略できた。

 時々会うウォーカーが、「クーリエを連れて一人で奥に行くなんて変な奴だ」と呟かれることもあったが、それ以外は特に何も言われることもなかった。

「ところでホチア、キミはいくつだい?」
「今年で17だけど」

 それを聞いたカイネルは、スプーンをその手から落とした。

「17だって?」

 見た目メイネと変わらないのに、発育不順なのかな……。

 そんなカイネルの失礼極まる心の声を察してか、ホチアはカイネルの頭をはたく。

「誰が発育不順だ~!」
「き、キミはボクの心の声も聞こえるのかい!」

「そんな顔してたら聞こえなくても分かるよ!」

 二人のそんなやり取りをコロロは、ご飯でもある養分たっぷりの水に体を浸してご満悦の様子で見ていた。

 休憩を終えた二人と一匹は、再びフォレストの奥に進むために歩き出す。

 すると、歩き出して数分でモンスターが多くいるところにつく。

「どうやら魔窟、モンスターの溜まり場のようだね」
「コロロが言うにはレベル55台のモンスターがいっぱいらしい!かなり危険ってこと!」

 カイネルはホチアの言うことを聞いていたが、その足を止めることはなかった。

「リミテッドソードメイド」

 そう呟いたカイネルの前に床からカタナが生え、それを引き抜くと赤い閃光を放ちながらその手に収まった。

「何度見ても不思議なスキルだねコロロ」

 魔窟にいたモンスターはレッドテイルフレイムというドラゴンで、赤い尻尾に茶色の体にドラゴンと言う割には翼がないのが特徴的なモンスターだ。

 侵入者に気がついたレッドテイルフレイムたちは、次々に駆け寄って尻尾を振り回す。

 だが、カイネルはその尻尾を次々斬り落としていった。

「あの硬いレッドフレイムドラゴンの尻尾がスパスパ斬れるなんて、……まるで木片を斬ってるように見えてきたよ」

 4体ぐらいが尻尾を斬られたところで、他のレッドテイルフレイムは一斉にカイネルに火を噴いた。

「ブレス攻撃!カイネル!」

 カイネルがいた場所が炎に包まれ、そしてその炎が治まるとそこにはカタナだけが残されていた。

「カイネル?」

 ホチアはカイネルが炎によって燃え尽きたと思ってしまうが、コロロが彼女にカイネルの居場所を教えた。

「上!?」

 天井の植物に右足を絡めて逆さになり、真下のレッドテイルフレイムを見上げていたカイネルは再び呟く。

「リミテッドソードメイド」

 呟きと同時にレッドテイルフレイムの足元から無数の刃が生えて襲い掛かり、あっという間に貫いてしまった。

 コウモリの如くぶら下がっていたカイネルは、その身を回転させながら地上へと降り立つ。

 慌てて駆け寄ったホチアは、その身を案じて声をかける。

「カイネル!あんたあんな高いところから飛び降りて!足、大丈夫?!」
「心配するところはそこかい?ほら、このとおり全然平気だよ。足だけは丈夫なんだ」

 そう言って笑顔を浮かべるカイネルに、ホチアは疑問に思ったことを聞いてみる。

「あのさ、さっきからそのスキル、バンバン使ってるけど……いいのそんなに使ってさ?他人に知られたくないんじゃないの?」

「……確かにこのスキルはあまり多用したくはないけど、今回のフォレスト攻略にはあまり時間をかけられないからね、ようは時間短縮。それにブラックスミスなしに装備を消耗させ続けるのは無理な話だしね」
「ん~確かに装備の磨耗はウチには直せないからな~」

 そう言いながらホチアは、その手に持ったエリカ・グレーゴル・アルバーが作ったカタナをカイネル見せる。

「これだけの名剣を作れる人はそういないからね~」
「それは名剣じゃなくて名刀というんだよ」

 そしてカイネルはそのカタナを見ながら、「エリカのいないところで折ったりなんかしたら……後が怖いからね」、と言ってホチアが抜いたカタナを鞘に収める。

 そのままフォレストの奥に進むと、辺りの植物が赤く変色してくる。

 そして、カイネルは気づく、まだ最高攻略粋まで達してないのにウォーカーが一切いない。

「やけにウォーカーが少ないね……いつもこんな感じかい?」
「いんや、いつもならこの辺にもいっぱいいるんだけど、近々なんかバルファーデンに攻めるらしくて、ウォーカーたちをドラゴンヘッドのギルマスが集めているって聞いたけど」

 おそらくはドラゴンヘッドが、集めたウォーカーを訓練して戦争できる軍隊にしようとしているのだろう。そうカイネルは考えて、「なら急がないとね」と言う。


 バルファーデンの北東にある国境は、強固な防衛要塞であるガリュード要塞によって護られている。

 代々バルファーデンの将軍は中将の時に、この要塞の国境警備司令官として短くても3年間はその任に就く決まりだ。

 現在の国境警備司令官は、四十代の男で名前はハイトレンといい、ナエリカがいなければ今頃彼が将軍に就いていたと噂される男だ。

 そんなガリュード要塞に、今かなりの兵が集結しつつあった。

 コトーデから派遣された王宮軍のカーハス・ロバルトアールが率いる兵や、凱旋となった西軍司令官ナエリカ将軍とその部下に、何故か第5王女のリサーナがいた。

 ナエリカとリサーナは満面の笑みを浮かべているが、その場の空気は凍てついている。

「どうしてお前がここにいる?お前は軍属ではないだろリサーナ……」
「あら姉様、聞いていないのですか?私はドラゴンヘッドのいるフォレストへ偵察に行ったワールド様、彼の報告を王にお伝えすることを仰せつかっておりますの」

 二人の会話には、ハイトレンとカーハスはただただ静かに座っていた。

 ハイトレンは、女のケンカはモンスターも食わんと思い。

 カーハスは、何この空気!これが世に言う嵐の前の静けさってやつなのか!と思っていた。

「ところで姉様、ワールド様はいつお戻りになるのですか?」
「ん?私は知らないが――」

 するとリサーナは笑みを浮かべてナエリカに伝えた。

「すみません姉様、私本当はいつ戻るのか知っているんですの。近日中にお戻りになりますよ」
「な、なぜお前がそのようなことを知っている!」

 ナエリカは激しい動揺を見せてリサーナを睨み付ける。

 その時、咳払いをして話を始めたのはハイトレンだった。

「おほん!お二方、他国の方の前ではしたないですぞ。今回このような席を設けたのはこんな話を聞かせるためではございません」

 リサーナはナエリカをチラ見して肯くと、ナエリカは口を尖らせて肯いた。

 やれやれと呟いたハイトレンは咳払いをしてからそれを話し始める。

「現在このガリュード要塞は厳重警戒中ですが、それはドラゴンヘッドが近々こちらに侵攻するかもしれないからです」

「それは密偵の情報ですかハイトレン司令?」
「ええ、カーハス殿。密偵によると相当数の冒険者がモンスターを引き連れてカフドへ移動したとのこと」

 カフドとはバルファーデンの北の国でフォレストとも隣接している。

 フォレストの東側は、元々この国の領地だったとも伝えられ、ドラゴンヘッドともバルファーデンとも親交がある。

「やはりここではなくカフドからくるか……、あそこは中立などと言ってこちらにもあちらにも属さない。かわりに領地を通ってもなんら文句も言わんが、戦いが起これば自衛のために軍を派兵するという。厄介な国だ」

 そう言うナエリカは、元々ここの司令官だっただけにこの近辺の情勢には詳しい。

 リサーナも後学のためにバルファーデンとその近辺の政情には詳しく、また頭も良いためにすぐにそれを提案した。

「ただちに我らもカフドへ派兵するべきです」
「そうなるとカフドとも戦うことになるやも知れんぞリサーナ」

 リサーナは卓上の地図を見ながら言う。

「このままカフドからの侵攻を許せば、わが国とドラゴンヘッドの戦場はフューイとなり、土地や民が荒らされることになります。ですが、派兵することでわが国とドラゴンヘッド、そこにカフドの軍も加わって三軍の睨み合いになることでしょう。そうすれば」

 ハイトレンもカーハスもリサーナの意見に関心を示したが、ナエリカは違った。

「それで時間を稼ぎ、ワールドが言っていた秘密兵器とやらを用いて勝利を得ようと?ふ、笑わせる!彼がカフドを戦場にすると思っているのか?」

 ナエリカは、ユラダリアを救うためにワールドが戦ったことを知っている。だからリサーナにそう言ってみせたが、彼女は笑いながら反論した。

「彼はカフドを戦場にいたします。これは言うべきではないと思いましたが、ここで言わなければ姉様を納得させることができないようですので言います」

「なんだ?申してみろ」
「彼が出立する前におそらくこうなることをお伝えしたところ、彼はこう申しました、中立国こそ害悪だと」

 ナエリカはリサーナの言葉に怒鳴り声を上げた。

「そのようなことをワールドが言うはずがないだろ!」
「いいえ、彼はそう申しました。理由もはっきりと伺っております。自国の安寧を図るために中立を貫くのは害じゃない、だが自国が戦争に加担しなくとも利用されるのを見て見ぬ振りをすることは、実際に戦争に参加するよりもずっと卑劣だ、と」

 ナエリカは怒っている様子だが、しっかりとリサーナからワールドの言葉を聞いていた。

「彼は言いました、中立なら常に友好を謳いそれを通し、他国が戦争などしようものなら身を挺して止めに入るべきだ。中立とは関わらないことではない、積極的に関わっていくことこそ中立だ、と申しました」

「関わることこそ中立……」
「最後に彼は、見て見ぬ振りは第三の敵だ、と……この考えに、私は酷く自己嫌悪に陥りました。自国のことばかり考えていた私はなんと愚かなことか、人は生まれながらに平等ではなく、喜びも悲しみも平等ではありません。ですが、それらは共有することのできる物!相手の痛みを知ること、相手の喜びを知ること、それで世界は少しだけやさしくなる。彼の言葉に私は胸打たれる思いです」

 リサーナが目を光らせながらワールドを語っているのを見て、カーハスは思う。

 ヤッベー……完全に心酔しきっている、なにこれ宗教?ワールド様神教ですか?なんか、俺怖くなってきちゃった、ツボとか買わされて宝石とか売りつけられそう~怖!

 一方のハイトレンは、リサーナに「しかし!」と言う。

「それでは関係ない国を戦火に巻き込むことになりますぞ?」

 そのハイトレンの言葉に反論したのは意外にもナエリカだった。

「関係なくはない、ハイトレン……戦争にとって一番大事なことはなんだ?」
「……補給ですかな」

「そうだ、そして、補給をするためには補給路を確保しなくてはならない。今回ドラゴンヘッドは補給路を確保しなくてもいい、なぜならカフドの国内は安全に通れるのだからな。それに加えて、今回補給はキャンプから運ぶよりも効率のいい方法で手に入れることができる」
「……カフドで購入すればいいということですな」

「うむ、そしてそれはカフドが戦場となれば、わが国とてそうすることが効率がいい……経費はそれなりにかかるだろうがな」

 カフドがそれを図ってしているかは分からないが、だとしてもコトーデもバルファーデンも何も言えない。戦争とは彼らにとってそれほどに身近なのだ。

 ナエリカはそう思いつつ、ワールドの言葉に内心感銘を受けていた。

「分かりました。ところで、こちらからフォレストへ攻めることもできるのにそうしない理由は、要塞にも攻めるだけの戦力をドラゴンヘッドはキャンプに残している、そうお考えがあってのことでしょうか?」
「いいや、攻めてはくるまい。おそらく防衛には残しているだろう、移動させるのには大きすぎる魔物を置いているに違いない」

 ナエリカの言葉にハイトレンは納得して、ならばとカーハスに言う。

「カーハス殿もカフドへ向かっていただけますか?ここの護りは必要な数はおりますし」
「もちろんです。俺は一応ダンダ軍統括から、ナエリカ将軍に加勢するように、と言われていますから、喜んでどこへでもお供いたしますよ」

 そう言ってカーハスは笑顔を浮かべた。

「でしたら、後はワールド様の報告を受けること、私に任せて姉様はカフドへ進軍して下さい」

 満面の笑みのリサーナに、ナエリカは同じく笑みを返して言った。

「うむ、ならばワールドに伝えよ、カフドの地で待っているとな」
「ええ姉様、必ずお伝えしますよ」

 その言葉にカーハスは思うのだった。ぜってー伝えないよこの人、と。


 辺りは黒い植物に囲まれて、光はところどころ木漏れ日が射すだけ、風が悲鳴のように響き渡るが、それで居心地が悪くなるわけではなく、むしろ心が休まるともいえる。

 フォレストの最奥はかなり暗い、光源だった花たちが無くなってしまったのがその要因で。

 枝に巻きつけた布を可燃性の植物の液体で濡らし、火をつけて松明で辺りを照らす。

 ホチアはその辺のウォーカーよりも植物に詳しく、モンスターの嫌がる植物も知っていて、それがコロロの助言からということを聞いたカイネルはコロロを撫でて褒めた。

 カイネルは普通なら数日かけて進む距離を一日で到達できたのだが、ホチアの体力が限界に来てしまいその暗い中で休憩をしていた。

「ウチがバカだったよ……カイネルの足を引っ張っていたなんてさ!」

 地面を殴って苛立ちを露にするホチアに、カイネルはやさしく言葉をかける。

「そんなことはないよ、こうやって無事に来る事ができたのはホチアとコロロおかげだよ」
「でも!ウチがいなければ数時間でここまでこられた、でしょ?」

 コロロがホチアに何かを伝えて、それを聞いた彼女はカイネルに言う。

「……カイネルのスキルは、ほとんど隠密に長けたものってコロロが言ってる。本当ならモンスターに気づかれることなくここまでこれたんじゃないかって言っているもん」

 カイネルのスキルが見えるコロロには、隠し事などできない。カイネルは、コロロを撫でながらホチアに彼女が必要だった理由を話した。

「ボクはコロロの言うとおり、ヘイトを下げるスキルばかり所有している。けど、フォレストはこれだけ入り組んだ道になっているからね、道案内無しじゃ結局もっと時間がかかったかもしれない。それにこうやって安全な場所も分からないし、だからねホチア、キミの案内無しには今日ここまでこられなかったと僕は思うよ」

 同情でなく本心からカイネルがそう言っているのが理解できたホチアは、泣くのを止めてコロロを突き出して言った。

「道案内はコロロがしてくれてんだ、ウチはコロロの声をカイネルに伝えるのが今回の仕事さ!」
「ああ、よろしく頼むよ」

 そうしてカイネルたちは交代で数時間の仮眠を取ると、いよいよ未到達領域に足を踏み入れた。

 最奥まで攻略の手が伸びているが、結局のところクリアしていないのが現状のフォレスト。

 奥へ行くにつれて、植物のモンスターも多くなり、ドラゴンもその大きさを増していく。

 錬金生命体が少ないことが、カイネルにとっては少し気がかりだった。

 野生感あふれるモンスターたちが多いという事は、その法則などない行動に、奇襲を受けることも多い。危険度で言うならタワーよりもずっと高いのだ。

「ヴァイナー3!ブラックヘッドドラゴン2!レベルは83から85!」

 ホチアのレベルは17で、本来はレベル83などは目に見えないが、コロロのスキルはモンスターやウォーカーのレベルに関係なく、それを確認できるために彼女はそれをカイネルに伝えた。

「問題ない見えているよ!」

 ヴァイナーは植物系の触手を8本持ち、その胴体は獣系のように見えた。

 ブラックヘッドドラゴンは、頭部の黒く体が赤い翼のあるドラゴンで、巨大な体を自在に浮かせて毒の液体を吐いてきた。

 スキルでカタナを剣製して攻撃するカイネルは、斬りつけては武器を放して姿を消して、またカタナを剣製しては斬りつけるを繰りかえす。

 さすがのモンスターも、その速さについていけずに次々息絶える。

「すごいすごいとは思ってたけど、速すぎて目じゃ追えない……」

 次元の違う戦闘に、ホチアは見惚れてしまっていた。

 スキルの力だけではない、戦闘経験値の高さがが目に見えて分かるからだ。

 これまで出会ったどのウォーカーとも違う、その強さにその胸は高鳴り心臓の脈動が速くなる。それは興奮している状態に違いなかったが、歳若いホチアが『恋』と勘違いするのも仕方のないことだった。

 モンスターを倒しきったカイネルが、ホチアに近づいてその身を気遣う。

「怪我はないかい?……ホチア?」
「へ?あ!だ、大丈夫だよ!ほら元気元気!」

 コロロはそんなホチアが珍しいのか、目をパチパチさせて見ている。

 そして、彼女に何かを言って怒らせてしまう。

「コロロ!……そんなんじゃないさ!ち、違うってば~!」

「ん?コロロがどうしたって?」
「なんでもないさ!」

 頬を染めたホチアがカイネルから顔を背けてそう言うと、たまたまそれに気がついた。

「カイネル!アレ!」

 それは、上から射しこむ太陽の光ではなく、不自然に横光する光源だった。

 やたら明るくて、だがそれを遮るように植物が蔽い茂っている。

 黒い植物のあるルートは、現状サウスタからの入り口からしか確認できてない。

 そして、黒の先がどうなっているのかも知る者はいない。

「これは……隠し部屋?いや、正規の道かな、リミテッドソードメイド!」

 邪魔な植物を数本の剣が床から生えその道を切り開く。

 その瞬間、圧倒的な光量に瞼が自然に塞がる。

「何この明るさ!眩しい~!」

 細い道を抜けると、そこには白く輝く植物の生える広い空間があった。

「白い植物……それにこいつは」

 カイネルの目には、巨大で広げた翼が30バレンはあろうかというドラゴンが映った。

 コロロがプルプルと震えてホチアの懐に入る。

「コロロが何も見えないって言ってる!カイネル!そいつ強いよ!」

 ホチアはカイネルに近寄ろうとするが、ドラゴンの怒号のような叫びに足が竦む。

「ホチアは下がってるんだ!……レベルは112、フルホワイトドラゴンか、ステータスが全て視認できない……これが」

 これがフロアボスか、そう言い終わる前にカイネルは息を整える。

 これは緊張、不安、焦り……無理もない、ボクにとって初めて対峙する存在なんだから。

「フロアボスじゃない、この場合ルートボスといったところか、リミテッドソードメイド!」

 剣製したカタナがフルホワイトドラゴンの周りに無数に生えると、その瞳がギロリとカイネルを見下ろし、その咽下の炎道が赤く光り、胸にある火炎袋から大量の炎が口へと移動して、一気に吐き出される。

 駆け出したカイネルは、一瞬にして背後に回り床から生えたカタナを引き抜くと、それを投げつける。一本、二本、三本、四本と投げつけた、が、それらは硬い外皮によって次々弾かれて、逆に巨大な尻尾が旋風を起こしながら向かってくる。

 だが、すでにカイネルは別のカタナを手に左足の下へ移動していた。

「はぁ!」

 一閃はドラゴンの足の外皮を切り裂き肉を斬った。が、ドラゴンは毛ほども痛がらない。

「痛みはなくても耐久値さえ削れば!」

 耐久値は生命を数値化したもので、たとえ五体満足であっても、それが0になると冒険者もモンスターもその生命活動を止めてしまう。

「ナノマシンによってスキルやレベルシステムが影響しているなら、それによって命が尽きるのもシステムの一部だ!」

 数回斬りつけると、カタナが赤く閃光を放ちながら砕けて散る。

「やはり耐久値が低い!」

 剣製されたカタナはエリカの作ったカタナの半分も耐久値がないため、使えばすぐに壊れてしまう。リミテッドソードメイドの弱点は、武器がいくら同じ切れ味の攻撃力に重さを具えていても、耐久値だけは本物に劣ること。

 使い捨てるようにカタナでドラゴンに斬りつけるカイネルだったが、すでに数百もの傷に対し耐久値は一割も減っていない。

「持久戦になりそうだな――」

 そう言うカイネルに、フルホワイトドラゴンは翼を羽ばたかせて風圧によって吹き飛ばそうとする。辺りのカタナがその風圧で弾かれるように飛ばされるが、カイネルは複数並べて剣製した大剣でその身が吹き飛ぶのを止めた。

 風圧が止むと同時に、カイネルは斬りかかろうとカタナを剣製する。

 だがしかし、ドラゴンは空中にその巨体を浮かせ、巨体を落下させると地響きでフォレストというダンジョンが揺れた。

「カイネル!」

 風圧で壁に飛ばされたホチアは、圧し掛かられたであろうカイネルの名を叫ぶ。

 巻き起こった粉塵がその視界を遮り、ホチアはその姿を探して駆け寄ろうとするが足元が揺らいでその場に倒れてしまう。

「く!あぁ!」

 そして、フルホワイトドラゴンが再び羽ばたくと、巻き起こった粉塵が消し飛ぶ。

 消し飛んだ粉塵の中で、立っているカイネルを見つけたホチアは驚愕する。

「カ、カイネル!」

 直立するカイネルは、その右腕が中ほどから潰されて血がドクドクと溢れ出ていた。

 駆け寄ろうと走り出したホチアだったが、カイネルの声に足を止める。

「くるな!」
「カイネルでも!今すぐ回復薬を飲まないと血が!」

 そう言うホチアにカイネルは笑顔を向けた。

「大丈夫だよホチア」

 左手に持った小さなボトルを口に当てそれを飲むと、拉げた腕が見る見る治っていく。

 それは【霊酒】、外傷なら一瞬で回復する貴重な回復薬。

「耐久値はまだ1万を切っていないし体もまだ動く、ボクはまだ戦える……戦わなくちゃ、それしかできないからボクは」
「カイネル?」

 体が淡く青白く光り、その光りだけを残してカイネルは消えた。

「……え?なに」
「アクセル、全開――」

 圧倒的な速さで、カイネルはカタナをフルホワイトドラゴンに突き刺した。

「そんな!武器を持って加速なんて……できないって」

 本来、オーバーアクセル・ジ・ワールドは、武器防具を身につけていない場合に限って素早さを何倍にも跳ね上げる。なら、どうやってカイネルがカタナを持ってそれをドラゴンに突き刺せたのか?それは、単純に加速させた状態で剣製したカタナを宙で握り、速さを維持したまま突っ込んだからだ。

「ギャアァアアァア!」

 それはフルホワイトドラゴンの叫び。

「いやぁあぁああ!」

 そしてホチアの叫び。

 加速した状態で突進したカイネルの右手と、その速さを殺すために使用した右足が見るも無残に拉げていた。

 加速に使ったであろう左足も、骨が折れて皮膚を突き破っている。

「カイネルゥ!」

 ホチアはもう苦しくて仕方がなかった。

 あれだけ強いカイネルが、その身を自分で痛めつける姿に胸が張り裂けそうになる。

 カイネルは、すぐに左手の小さなボトルから口に霊酒を流し込む。

 全身が瞬間的に治癒していき、完治する前にカイネルは再び移動してカタナを剣製する。

 それは諸刃の奥の手で、加速が速ければ速いほどカタナがドラゴンの皮膚を貫きその耐久値を削る。その威力と代償にカイネルの体には相応の負荷がかかり、今までにも何度か試してはいたが、体の負担が大きいために使うのを控えていた技だ。

 しかし、霊酒が手に入ったことで、体の負担を気にする必要性が無くなったため、カイネルの頭には奥の手として片隅にいつも置いてあった。

「後、何度かな……霊酒ならまだまだあるぞ!」

 完治した体で、再度カイネルは突進した。


 カイネルが死闘を繰り広げていることなど、ホチア以外誰も知らないその時。

「兄さんですか?タワーに行ってますよ、帰りは来週になると言ってました」

 アリア・レイナルドは、その笑顔を目の前の男へ返す。

「そ、そうなんですか~、家とか大丈夫なんですか?女ばかり三人じゃ危険なんじゃ~」

 彼の名はセル・レッヘルト、アリアに気がある15歳。

「うん全然平気!」

 アリアにはその気は無い様子。

「そ、そうですか~、もし男手が必要ならぼくに言って下さい!ね!」

「男手は足りてるよ」
「え!か、彼氏とかですか!?」

「?違うよレイフさんだよ」
「……あ~、よかった~」

「?よかった??ん??」

 アリアは不思議そうにセルを見ながら、何がよかったのかな?と首を傾げた。

 二人の後ろから澄んだキレイな声がして振り向くと、肩にかからない程度の薄い青色の髪に瞳は薄い紫の女性が立っていた。

「何?何の話をしているの?」
「シアさん」

 シア・ラドクロスが、ギルドに入った依頼の紙を手にアリアとセルに話しかける。

 シアにとっては、アリアは仕事をする上で右腕、セルはただのギルドの新人ダイバー。

 アリアがセルに言い寄られているように見えると、すぐに話しかけるのが癖になってきているため、自分でもお節介なおばさんになっちゃったな~と、内心軽く自己嫌悪する。

「兄さんがいないことを心配してくれているんです。やさしいですよねセルくん」
「そ、そんなやさしいなんて!あ、ありがとうございます」

 照れたセルは両手を素早く振りながら、徐々にアリアから離れて行きギルドから出て行く。

「出ていったね彼」
「はい……変なセルくん」

 依頼を掲示板に貼り、仕事に一段落ついたシアはアリアをお茶に誘った。

「どうおいしい?」

「はい!これなんてお茶ですか?」
「リョク茶っていう古代のお茶なの。前にケイブのあるチュアールの交易商から仕入れて、袋に入っているから簡単に入れられておいしいのよ」

 ケイブは、コトーデの北の北にある国、サンテシリュカの南の領地チュアールにあるダンジョンだ。

「リョク茶ですか、リョクって確か緑って書くんですよ」

 アリアが自慢げにそう言うとシアは、「カイネルくんから教わったの?彼は教え上手だからね~、私も色々と教わったわタワーのこととか」と微笑みながら言う。

 シアの言葉に、自慢の兄ですから、と言ったアリアは再びリョク茶で喉を鳴らす。

「でもカイネルくんはいつもタワーの上層の話になると逃げるようにいなくなるのよね~。何も逃げなくて良いのに……」
「兄さんは秘密主義ですから……」

 二人は、「ふ~」とため息を吐き顔を見合わせて笑った。

「そう言えばあの三人も秘密主義よね」
「ああ~エリカさんにベルベットさん、あとレイフさんですね」

「この間も三人でこそこそしちゃってね~浮気かしらね」

 しれっと毒づくシアの目は、少し本気のようにも見えアリアは困った顔をして答えた。

「それは無いと思いますよ。レイフさんはお二人に扱き使われているんですよ、多分」
「……そうかしらね~」

 二人がそんな会話をしていると、急にギルド内に何かが割れる音がする。

「?何かしら」

 見てきますよとアリアが席を立ち音の方へと向かい、少しして戻ってくるとその手には割れたコップを持っていた。

「それカイネルくんの?」
「はい……」

 それはカイネルが普段ギルドで使っている栗色のコップ。

「兄さん大丈夫かな……」

 アリアはそのコップを見て兄に何かあったのでは、とカイネルの身を案じるのだった。


 ギルドノラの集いで、カイネルの栗色のコップが割れる数分前。

 フルホワイトドラゴン断末魔は、フォレストの内外に響いた。

 最後の一撃は、二本のカタナが心臓近くを深く貫いた攻撃だった。

 ドラゴンの体が赤く染まり、勝者のはずの男も自らの血で染まっていた。

 倒れているドラゴンには、数十本ものカタナが胸周辺に深く刺さっていて、戦闘の激しさが伺えるほどに辺りはボロボロになっている。

 立ち尽くすカイネルに、ホチアは駆け寄るとその体はゆっくりと彼女に倒れこんだ。

「カイネル!カイネル?大丈夫!」

 カイネルの体は酷いあり様で、ホチアは完全に混乱する。

 両手を使って突進したために両腕の骨は粉砕して、あっちこっちから割れた骨が肉を貫いて突き出している。両足も血管が弾け、決して普段は曲がらない方向へ向いている。

 カイネルの息は荒く汗も酷くかいている状況に、ホチアは混乱を増していく。

「どうしたらいい?ウチどうしたらいい?」

 フルホワイトドラゴンと戦う前までは、汗一つ掻いてなかったカイネルのその姿が、あまりにも酷いので彼女は冷静になれないのだ。

「れ、霊酒を――」

 その言葉にホチアは、カイネルの左腰の布袋から小さなボトルを取り出す。軽く振るとほんの少しだけ入っているようだった。

「はい!カイネル!口あけて!」

 力なく口を開くカイネルは、すでにもう口を開く力も無かった。このままではカイネルが死ぬかもしれないと思ったホチアは、意を決してそれを口に含んだ。

「……」

 ゆっくりとカイネルの口に自分の口を重ねて、霊酒を溢さないように移す。

 コロロが静かに見守るなか、口に含んだそれを全て移し終えたホチアは、完全に気を失ったカイネルの汗を拭う。

「……もう大丈夫だよね」

 傷が見る見る治っていくのをただただ見守るホチアは、その時思うのだった、『この人は一人にしてはいけない、いつか自分で自分を壊してしまう』と。

 コロロはカイネルの顔を覗いていると、ホチアがもう一度気絶したカイネルに顔を近づけて再び唇が触れ合う。

 そうして長い時間、ホチアがカイネルと唇を重ねているのをコロロはそっと見守っていた。

 目を覚ましたカイネルは、その額の布を外して上半身を起こした。

 まず倒れたドラゴンを見て、次に自分の手足、最後に姿の見えないホチアを探す。

「気を失っていたのか……いったいどれくらい――」

 立ち上がったカイネルは、上着を着ていないことに気づいた。

 たぶん、血まみれの体をホチアが拭ったんだろう、と彼は察した。ホチアの大きなカバンから換えの上着を取り出して、すぐに身につける。

 フルホワイトドラゴンの骸を触りながら、辺りに目を向けてようやくそれを見つける。

「ここか……」

 それはフルホワイトドラゴンが健在の時には、壁があった場所だった。

「攻略の報酬部屋――」

 広さは数十人入れる程度だが、目的の物はそこにあった。

 白い正方形の物と、その台座に書かれた古代語、その文章は『攻略おめでとう』と読めて、もう一つの文は報酬の内容だった。

「コール・オブ・ヴァハムート?……深淵の、ゲンジュウ?呼び出す、いや、召喚かな?」

 報酬を受け取るために白い正方形の物体に触れるカイネルは、久しぶりの激しい痛みが左腕に走る。

「く!またこれか――」

 それはEX、エクストラスキル【リミテッドソードメイド】を手にした時にも、右手に走った痛みだった。右腕に輪を描き模様が刻まれたように、左腕にも黒く模様が刻まれる。

「くっそ!」
「カイネル!」

 いつの間にか後ろに立っていたホチアが、その足元に抱き付く。

「もう!いつの間にかいなくなって!まだ起きたばかりなんだろ!無茶しちゃだめだよ!」

「大丈夫……すぐに終わる」
「全然大丈夫じゃない!カイネルはもっと自分を大切にしなきゃだめ!一人で勝手に動いちゃだめ!一人で先に行っちゃだめ!」

 ホチアはその目に涙を溜めてカイネルにそう言う。

「ふっアレはだめコレはだめ……それじゃ、ボクは何もできなくなっちゃうよ?」

 カイネルの言葉にホチアは、「もうウチに黙って勝手に無茶しちゃだめ」、と言って泣き崩れてしまった。

「優しいなホチアは、少しボクの妹の一人に似てるよ」

 頭を優しく撫でる手、耳に響く声、全てが愛おしく感じてしまうホチアは、より一層強くカイネルを抱きしめた。

 痛みが治まったカイネルは、泣き疲れて眠ってしまったホチアを抱えてその場を出る。

「無理もない、ボクが戦い始めて結構な時間が経ったからね」

 ホチアの胸から出てきたコロロが、カイネルの頭の上に移動してコロコロと転がりだした。

 頭……撫でてくれているのかな?そうカイネルは思いながら、ホチアの大きなカバンを肩に提げて白い部屋を出ようとする。すると、その声が響いた。

「キュィィィイ」
「アレは……?ホワイトドラゴン……の子どもか?」

 幼竜と見てとれる小さな白いドラゴンが、空中から舞い降りて、倒れたフルホワイトドラゴンに寄り添う。小さいと言っても大きさ的には十分大きく、カイネルは黒と白の境目からその姿を窺っていた。

「親子だったのかな……」

 ジッと見ていたカイネルは、少し悲しい気持ちになった。が、次の瞬間倒れたドラゴンに大きく口を開けた小さなドラゴンが噛み付くと、肉を食い千切って食べ始める。

「え!食べるの――」

 美味しそうに肉を食す姿は、やはり野生の獣系、とてもホチアには見せられたものじゃない、と、カイネルは苦笑いを浮かべながらその場を立ち去った。

 サウスタに着くと、キャンプの中はフォレストとキャンプに響いたモンスターの叫びの話題で騒然としていた。

 ホチアは目を覚ました時点で、辺りがすでに赤い植物に囲まれていたことに驚いて、その後フルホワイトドラゴンの素材を手に入れられなかったことをかなり残念がていた。

 そしてカイネルは、すぐにガリュード要塞に向かうとホチアに話す。

「報酬はそのカバンに入っている素材や鉱石、それだけあれば数十年は困らないと思うよ」
「……」

 今回のフォレスト内で手に入れた素材や鉱石をホチアに全て差し出すというカイネル、しかし、ホチアは返事をしないで何かを考え込む。

 そしてようやく口を開いたホチアは、予想外なことを言い出す。

「報酬はいらない!その代わりにウチをカイネル専属のクーリエにして!」

「ホチア?どうしたんだい急に?」
「この二日カイネルと一緒にいて分かったの!カイネルは一人で何でもできるけど、何にもできないって!」

「何でもできるけど、何もできない?矛盾ってやつだね」
「カイネルは誰かが一緒にいないと絶対いつか迷子になる!違う!もう迷子になってる!」

「……迷子か」
「お願いカイネル!ウチを傍において」

 カイネルは腕を組んで目を瞑った。

 ホチアをクーリエとして傍に置くということは、ワールドのこと戦争やこの星のことなど色々知ることになる。

「悪いがそれは無理だ――」
「いやだ!」

「いやだって言われても、ボクの傍にいたら危険なんだ。今回はキミが戦うことがなかったからパーティーメンバーとして認識されていなかった。でも、いずれ傍にいればキミ自身が武器をとることがあるかもしれない、そうなればボクのレッドスキルにキミはスキルを封じられ、結果キミは何もできないまま死ぬかもしれない」

「それでも、……それでも!」

 ホチアは、自分がカイネルの傍にいることで足を引っ張るのは理解している。しかし、それでも一人で今回のドラゴンとの戦闘と同じことを繰り返せば、カイネルはいつかは。

「ウチは今回の報酬を要求しているんだ!カイネルの専属クーリエとして一緒にいること!これがウチの報酬さ!」

 ホチアを手伝おうと、コロロもその瞳をウルウルとさせてカイネルを見つめる。

 おお、これが泣き落としというやつか。

 カイネルは苦笑いを浮かべながら言う。

「……ボクが歩いているのは茨の道でもなければ細い崖でもない、言わば業火の上、一本の細い糸が張られた奈落の上……あるいは屍の上、親しい者、憎い者、知らない者たちの無数の亡骸の上を歩いている、それでもキミは」
「それでもウチはカイネルのクーリエになる!」

 その真剣な眼差しにカイネルはいよいよ決心する。

 巻き込む覚悟、いつかベルベットの言っていた言葉は、誰かを巻き込まなくても誰かを代わりに巻き込む。それならいっそ、覚悟を決めて巻き込んでその上で護ればいい。

「うん、分かったよ、降参する」
「ホント!ウチを連れて行ってくれるの!」

「こうなったら絶対に折れないのが女性の頑固なところだからね。本当に、ボクの周りの女性は強いな」
「……どうやら、ライバルが多いらしいよコロロ」

 コロロと何かを話すホチアにカイネルは、「どうかした?」と声をかけるが、「なんでもないさ!」と返事が返ってくる。

 こうして、一人と一匹の同行者を連れて、カイネルはフォレスト攻略報酬をその身に宿し、一路ガリュード要塞へ帰還するのだった。

 もちろん、ドラゴンヘッドがカフドへ向かったこともサウスタで耳にしていて、ガリュード要塞に着くまでに、ホチアに彼が今している色々なことを話たのは言うまでもない。
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