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領地視察編
ゲイルの気持ち
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カケル様たちが屋敷に帰るのを見送った後、俺はすぐに家に戻った。
薄汚れた木の板が敷き詰められた床に座り、カケルから受け取った手紙をポケットの中から取り出した。
あの時のカケル様の様子からとても重要なことが書いてあるに違いない。
それにカケル様のリュックを盗んだやつのことについても書いてあると言っていた。それを知っているということはカケル様自身に何かあったのかもしれない。
封を切って中身を確認する。
封筒の中には3つの手紙が入っていた。そのうちの一つを取り出して読み始める。
『 ゲイルへ
この手紙を読んだらすぐに家の床下の地面に埋めてくれ。
突然だが、2ヶ月後の4歳になる時に僕は王都にあるクリスセント学院に行かなきゃいけなくなった。
この前ゲイルのところに行った時にしたことがバレたんだ。でもこのことで色々とわかったことがある。そのことを踏まえてどうしてもゲイルに伝えたいことがあって手紙を書いたんだ。
詳しいことはもう一枚の手紙に書いてある。
すぐに読むことはできないと思う。だからゲイルには覚えてほしいことがあるんだ。この封筒の中に表が入っている。それが覚えてほしいことだ。今後王都に行った僕とやり取りをする時にはそれを使おうと思ってる。
時間がかかってもいいからな。覚えたらその表もこの手紙と一緒に地面に埋めて
それじゃあ頼んだぞ
カケル 』
あまりに急な報告に俺は驚いていた。
しかし本当に驚くべきはその内容である。
普通10歳からしか学院に入学することができないのにたった4歳で入学するなんてあり得ねぇ。
しかも入学しようとしてるのがあのクリスセント学院って。こんな平民の俺でも聞いたことがあるくらい有名なところだ。
10歳ですら難しいのに4歳でとなると可能性なんてこれっぽっちもないはずだ。
誰もが聞いたことがあるであろうその学院へのカケル様の入学に、俺の頭には不可能の3文字が浮かんだ。
しかし入学できなかったら一体どうなるんだ? こんな馬鹿げた決定を下したからには何かしら考えがあるはずだ。
カケル様のしたことがバレたと書いてあった。俺たち領民に余計なことをしたために、たとえ息子であっても邪魔するものは排除するつもりでーーーー
……もしかしてカケル様を殺す気でいるのか?
そう勝手に思考を巡らせた俺の拳は無意識のうちに強く握りしめられており、そこには怒りが込められていた。
しかしもう一度手紙を見るとあることに気づく。
入学することは強制的に決められたことだが、それに対して嫌だ、行きたくないなどという、それを否定する言葉が一切書いてない。それどころかカケル様は学院に行くことを受け入れ、自分のことより俺たちのために何かを伝えようとしてくれている。
先ほどまでの勝手な考えや怒りは何処かへ消え去り、今はカケル様への感謝でいっぱいになっていた。
それならば俺はカケル様に言われたことをちゃんとやることだけだ。
俺は床の板を外してさっき読んだ手紙を埋めた。
そして元に戻した後、封筒の中から残りの手紙と表を取り出す。
手紙に見ると、そこにはびっしりと文字らしきものが書かれていた。それはカケルの言うとおり全く読めなかった。
次に表を見るとそこには見慣れた文字と今読めなかった文字らしきものが対応するように書かれていた。
俺はこの表の意味をすぐに理解した、と同時にあることを思った。
カケル様は一体何者なのか。
こんな暗号のようなものを思いつき、それを完璧に俺の知っている言葉に対応させている。3歳児で思いつくような発想ではない。
あの時感じた3歳児なのかという違和感が再び俺の中に生まれた。
しかし、今考えることじゃないとそんな思いを頭の片隅に置いて、俺は表をひたすら覚えていった。
思ったよりもこの文字に慣れるのが難しく、完全に覚えるまで一日を要した。
翌日、俺は表を床下に埋めてからもう一枚の手紙を読み始めた。
『 ゲイルへ
これがよめるってことはちゃんとおぼえたんだな。よくやった、ゲイル。
このさきかかれていることにきっとゲイルはうたがいたくなるだろう。ほんとうなのか? って。いまはしんじなくてもいい。ただとにかくしっておいてくれ。
ぼくがおうとにむかうまであと2かげつはある。このあいだになにかおこることはないとおもう。だからすこしずつでいいからてがみのないようをきちんとせいりしてほしい。
まずはぼくのことについてかくことにするよ。
ぼくのなまえはカケル。カケル・ゴレイではなくニッタ・カケルだ。わけがわからないでしょ? ちゃんとせつめいするよ。
ぼくはにほんというくににうまれーー』
「何言ってるんだ………?」
いきなり意味のわからないことが書かれていた。この世界の人間じゃないってなんだ? 全く理解できない。でもここで止まっていたら先に進まない。
とりあえず一通り読んでみようと、どんどん読み進めていく。
『ーーーーそれじゃあゲイル、あとはたのんだよ。 カケル』
「とんでもねぇなこれ……」
手紙を読み終えた俺は静かに呟いた。
この手紙には最初から最後まで信じられない内容ばかりが綴られていた。
そして俺はあの時カケル様が言っていた言葉の意味を思い知らされた。
"全てを疑え。信じるな。"
あの時俺はこの言葉を軽い気持ちで受け止めていた。しかし事実を知った今、誰かを信じること、誰かに信じてもらうことの難しさやそこにある気持ちの大切さや重さを理解することができた。
だからこそ今はあの時とは違って、ちゃんとしたとした気持ちを持って言える。
"俺はカケル様を信じてる"
全てを伝えてくれたのは俺を信じてくれているからだと思う。手紙を通してその気持ちが言葉とともに伝わってきた。
俺はそれに応えたい。応えなければならない。本当ならカケル様は領主様のように自由に豪華で楽な暮らしができる。それなのにカケル様は自分のためでなく俺たちのために動いてくれている。ならば当人の俺たちが動かなくてどうするんだ。
俺はカケル様に忠誠を誓おう。
この先何があってもついていこう。
そして、カケル様の思い描く未来を一緒に作り上げていこう。
気持ちを固めた俺はカケル様に頼まれたことをすべく、家から出て仲間の元へ向かった。
薄汚れた木の板が敷き詰められた床に座り、カケルから受け取った手紙をポケットの中から取り出した。
あの時のカケル様の様子からとても重要なことが書いてあるに違いない。
それにカケル様のリュックを盗んだやつのことについても書いてあると言っていた。それを知っているということはカケル様自身に何かあったのかもしれない。
封を切って中身を確認する。
封筒の中には3つの手紙が入っていた。そのうちの一つを取り出して読み始める。
『 ゲイルへ
この手紙を読んだらすぐに家の床下の地面に埋めてくれ。
突然だが、2ヶ月後の4歳になる時に僕は王都にあるクリスセント学院に行かなきゃいけなくなった。
この前ゲイルのところに行った時にしたことがバレたんだ。でもこのことで色々とわかったことがある。そのことを踏まえてどうしてもゲイルに伝えたいことがあって手紙を書いたんだ。
詳しいことはもう一枚の手紙に書いてある。
すぐに読むことはできないと思う。だからゲイルには覚えてほしいことがあるんだ。この封筒の中に表が入っている。それが覚えてほしいことだ。今後王都に行った僕とやり取りをする時にはそれを使おうと思ってる。
時間がかかってもいいからな。覚えたらその表もこの手紙と一緒に地面に埋めて
それじゃあ頼んだぞ
カケル 』
あまりに急な報告に俺は驚いていた。
しかし本当に驚くべきはその内容である。
普通10歳からしか学院に入学することができないのにたった4歳で入学するなんてあり得ねぇ。
しかも入学しようとしてるのがあのクリスセント学院って。こんな平民の俺でも聞いたことがあるくらい有名なところだ。
10歳ですら難しいのに4歳でとなると可能性なんてこれっぽっちもないはずだ。
誰もが聞いたことがあるであろうその学院へのカケル様の入学に、俺の頭には不可能の3文字が浮かんだ。
しかし入学できなかったら一体どうなるんだ? こんな馬鹿げた決定を下したからには何かしら考えがあるはずだ。
カケル様のしたことがバレたと書いてあった。俺たち領民に余計なことをしたために、たとえ息子であっても邪魔するものは排除するつもりでーーーー
……もしかしてカケル様を殺す気でいるのか?
そう勝手に思考を巡らせた俺の拳は無意識のうちに強く握りしめられており、そこには怒りが込められていた。
しかしもう一度手紙を見るとあることに気づく。
入学することは強制的に決められたことだが、それに対して嫌だ、行きたくないなどという、それを否定する言葉が一切書いてない。それどころかカケル様は学院に行くことを受け入れ、自分のことより俺たちのために何かを伝えようとしてくれている。
先ほどまでの勝手な考えや怒りは何処かへ消え去り、今はカケル様への感謝でいっぱいになっていた。
それならば俺はカケル様に言われたことをちゃんとやることだけだ。
俺は床の板を外してさっき読んだ手紙を埋めた。
そして元に戻した後、封筒の中から残りの手紙と表を取り出す。
手紙に見ると、そこにはびっしりと文字らしきものが書かれていた。それはカケルの言うとおり全く読めなかった。
次に表を見るとそこには見慣れた文字と今読めなかった文字らしきものが対応するように書かれていた。
俺はこの表の意味をすぐに理解した、と同時にあることを思った。
カケル様は一体何者なのか。
こんな暗号のようなものを思いつき、それを完璧に俺の知っている言葉に対応させている。3歳児で思いつくような発想ではない。
あの時感じた3歳児なのかという違和感が再び俺の中に生まれた。
しかし、今考えることじゃないとそんな思いを頭の片隅に置いて、俺は表をひたすら覚えていった。
思ったよりもこの文字に慣れるのが難しく、完全に覚えるまで一日を要した。
翌日、俺は表を床下に埋めてからもう一枚の手紙を読み始めた。
『 ゲイルへ
これがよめるってことはちゃんとおぼえたんだな。よくやった、ゲイル。
このさきかかれていることにきっとゲイルはうたがいたくなるだろう。ほんとうなのか? って。いまはしんじなくてもいい。ただとにかくしっておいてくれ。
ぼくがおうとにむかうまであと2かげつはある。このあいだになにかおこることはないとおもう。だからすこしずつでいいからてがみのないようをきちんとせいりしてほしい。
まずはぼくのことについてかくことにするよ。
ぼくのなまえはカケル。カケル・ゴレイではなくニッタ・カケルだ。わけがわからないでしょ? ちゃんとせつめいするよ。
ぼくはにほんというくににうまれーー』
「何言ってるんだ………?」
いきなり意味のわからないことが書かれていた。この世界の人間じゃないってなんだ? 全く理解できない。でもここで止まっていたら先に進まない。
とりあえず一通り読んでみようと、どんどん読み進めていく。
『ーーーーそれじゃあゲイル、あとはたのんだよ。 カケル』
「とんでもねぇなこれ……」
手紙を読み終えた俺は静かに呟いた。
この手紙には最初から最後まで信じられない内容ばかりが綴られていた。
そして俺はあの時カケル様が言っていた言葉の意味を思い知らされた。
"全てを疑え。信じるな。"
あの時俺はこの言葉を軽い気持ちで受け止めていた。しかし事実を知った今、誰かを信じること、誰かに信じてもらうことの難しさやそこにある気持ちの大切さや重さを理解することができた。
だからこそ今はあの時とは違って、ちゃんとしたとした気持ちを持って言える。
"俺はカケル様を信じてる"
全てを伝えてくれたのは俺を信じてくれているからだと思う。手紙を通してその気持ちが言葉とともに伝わってきた。
俺はそれに応えたい。応えなければならない。本当ならカケル様は領主様のように自由に豪華で楽な暮らしができる。それなのにカケル様は自分のためでなく俺たちのために動いてくれている。ならば当人の俺たちが動かなくてどうするんだ。
俺はカケル様に忠誠を誓おう。
この先何があってもついていこう。
そして、カケル様の思い描く未来を一緒に作り上げていこう。
気持ちを固めた俺はカケル様に頼まれたことをすべく、家から出て仲間の元へ向かった。
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