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領地視察編
敵の思惑
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カケルが部屋で勉強をしている頃、ウールの書斎ではあるやり取りがされていた。
「なぁ、本当にこれでよかったのか? こんなに焦らずとも、数年後でもよかったんじゃないか? 我は息子にあんなことを言ったが、今はまだ3歳、それにたった4ヶ月であのクリスセント学院に合格できるだけの学力を身に付けることができると思うか?」
我の息子なら優秀な成績で合格できるなんて言ったはいいが、本当にそう思ってるわけではない。生まれて4歳であの学院に入学できるわけがない。
それに冷静になった今ならわかるが、3歳児に一体何ができるというんだ。
ウールにはずっと疑問に思っていたことがあった。
我は贅沢をするために、部下の提案を採用し、その通りに行動を起こした。それは税率を上げる、徴収の回数を増やすというものだった。
領民は我がどれだけ搾り取っても決して家族を売ることはなく、税を納めてきた。
おかげで、ものすごくいい暮らしができている。最初はそのことを素直に喜べていたが、2年経ってから次第におかしいと思うようになった。我が言うのも変だが、とても領民が毎度支払えるような額じゃない。食料すらろくに食べることなどできないはずだ。それなのに餓死する人は誰一人いない。
誰かが手助けをしているはず……
我はその誰かを突き止めるため、今まで部下に探させていたがその尻尾すら掴めずにいた。毎回部下からの未だわかっておりませんという一言のみの報告に悔しい思いをしてきた。
しかし、この一件は突然終わりを迎えることになった。
2日空けていた屋敷に帰る道中、手紙を読んだ時に思わず、ふぇ⁈ っと変な声が出てしまうくらいに驚いた。その手紙は泊まっていた高級な宿を出るときに受け取ったもので、差出人は部下であった。
そしてそこに書かれていたのは今まで領民に手助けをしていた、我に反抗する犯人の名前であった。
だが、驚いたのは犯人が見つかったからではない。その犯人が予想もしなかった人物だったからだ。
《ウール様にはお伝えしづらいのですが、犯人はカケル様です。》
その文を見たとき訳がわからなくなってしまった。たかが3歳児がそんなことするはずがない、できるわけがない。そんなこと分かりきっていることなのに、動揺してしまった。それほどまでにウールにとって衝撃的なことだったのである。
だからこそ、単純なことに気づくことができなかった。
ウールがおかしいと思い始めたのが3年前からだということに。
我は屋敷に帰ってきてすぐに、手紙の差出人であり、この一件にずっと関与してきた執事のジェイスからある提案をされた。
「カケル様を4歳になった時に学院へ入学させましょう。」
贅沢をしたいと言った時もあの提案をしたのはジェイスだった。
「学院がそれを認めると思うか? 入学は10歳からだぞ?」
「大丈夫です。私がすでに手回しをしておきました。あとはウール様がカケル様にこのことを伝えてくださればと」
我は彼を信頼していた。彼は前の領主にも仕えていて、ここの領地、領民のことを熟知していた。そして我に仕えてからその情報を存分に活かしてくれ、我の贅沢をしたいという望みを叶えてくれていたからだ。
「そうか。わかった」
だからこの提案もすんなり受け入れた。
「これでよかったのです。カケル様はまだ幼いです。それ故に純粋であるため、何をするかわかりません。ならば学院に入学させ、そこで貴族とはどういうものなのかを学ばせた方がカケル様のためなのです」
そう言われたら、その通りだと思ってしまう。
「しかし、4歳で合格できると思うか?」
「ええ。カケル様は優秀ですから」
そう言って薄っすら笑みを浮かべるジェイスにウールは息子を褒められたと素直に嬉しくなり、彼と同様に笑みを浮かべた。
ウールはまた気づかなかったのである。
なぜジェイスが笑みを浮かべたのか、その顔の裏に何が隠されているのか。
そして、そんなウールを見て彼は再び思うのであった。
”なんて操りやすいのだろう"と。
ーーーーー
俺はこいつを一目見た時から予想していた。強欲な奴なのだということを。
実際この領地に領主として来てからというもの、毎日口を開けば文句ばかりだった。前の領主ができていた普通の暮らしが我慢ならないようで、常に金が欲しい、贅沢したいと言っていた。
だから俺は見極めるためにこいつにある提案をした。
「今のままでは税率が低いように思えます。前の領主様には欲というものがなく、失礼を承知で言いますがとても貴族らしくありませんでしたので……。なので税率を上げてみてはどうですか? ウール様はここの領主です。何事も最終判断はウール様に委ねられます。つまり自由なのです。ですから、税率を上げ、徴収回数も増やしてみては?」
「た、確かにそうだな! ……いや、しかし急にそんなことをすれば我は領民に殺されるんじゃないか? 贅沢はしたいが死にたくはないのだ」
随分弱気な奴だな。少し大袈裟に持ち上げてみるか。
「ウール様! あなたは領主であり、貴族なのですよ? 貴族は選ばれし者でしょう? それならば恐れることはありません」
「……そうだ。我は貴族なのだ! 選ばれし者だ! すっかり忘れてしまっていたぞ! してジェイスよ、どうしたらよいのだ?」
クククッ、こいつ本物だ。
「まずは先ほど申し上げた通り、税率を上げ、徴収の回数を増やしましょう。そして領民の反乱の恐れをなくすために粗末な小屋をこの屋敷から少し離れたところに建て、そこに領民を住ませましょう。現在住んでいる家は全て壊すのです。そうすればウール様に反乱を起こそうなどと考えるものはいなくなるでしょう」
「よし、わかった! ジェイス、お前に任せよう。我の願いを叶えてみせよ!」
「わかりました、ウール様! 全てお任せください」
俺は実に単純で安易な提案をこいつにした。誰が聞いてもバカだと思うだろうし、他の領主に同じ提案をしたならきっと俺は殺されているだろう。
しかし、こいつはそんな提案を採用したんだ。そして自分で行動するのではなく、俺に全て任せてきた。
この時俺は確信した。
こいつは”本物”だということを。
そして俺はこの領地を乗っ取るという計画のために準備を進めてきた。
しかし、ウールが少しずつおかしいと思い始め、俺はその犯人を探すように言われた。どうにか誤魔化していたが、バレるのも時間の問題だと思っていた。領民のところへ行かれたら気づかれてしまう。
そんな時あるところから信じがたい情報が流れてきた。だが、それは同時に嬉しいものでもあった。
《カケルが計画の邪魔をしようとしている》
ただの子どもに何ができるというんだ、それに3歳児が領民の暮らしを理解できるものなのかと疑った。
しかし、その情報に間違いはなかった。その証拠にと渡されたものに見覚えがあったからだ。
青い、星の模様の入ったリュックである。
俺はすぐに頭を切り替え、身代わりにしようと考えた。
そしてウールに2度目の提案した。今回も思い切った提案だった。カケルを犯人に仕立て上げたが、ちゃんと考えればわかってしまうのだ。
ウールがおかしいと思い始めたのが3年前、カケルが生まれたのも3年前ということが。
しかし当の本人は犯人がカケルであることに信じられないと驚き、動揺していた。そんなことに気づかなかった。だからその場ですんなり通った。
予定が狂ってしまったが、カケルが王都に移ったら計画を前倒しで進めることにしよう。
これが上手くいけばあの方に認められてこの領地を与えてもらえるかもしれない。
俺はウールと話しながら薄っすら笑みを浮かべた。
「なぁ、本当にこれでよかったのか? こんなに焦らずとも、数年後でもよかったんじゃないか? 我は息子にあんなことを言ったが、今はまだ3歳、それにたった4ヶ月であのクリスセント学院に合格できるだけの学力を身に付けることができると思うか?」
我の息子なら優秀な成績で合格できるなんて言ったはいいが、本当にそう思ってるわけではない。生まれて4歳であの学院に入学できるわけがない。
それに冷静になった今ならわかるが、3歳児に一体何ができるというんだ。
ウールにはずっと疑問に思っていたことがあった。
我は贅沢をするために、部下の提案を採用し、その通りに行動を起こした。それは税率を上げる、徴収の回数を増やすというものだった。
領民は我がどれだけ搾り取っても決して家族を売ることはなく、税を納めてきた。
おかげで、ものすごくいい暮らしができている。最初はそのことを素直に喜べていたが、2年経ってから次第におかしいと思うようになった。我が言うのも変だが、とても領民が毎度支払えるような額じゃない。食料すらろくに食べることなどできないはずだ。それなのに餓死する人は誰一人いない。
誰かが手助けをしているはず……
我はその誰かを突き止めるため、今まで部下に探させていたがその尻尾すら掴めずにいた。毎回部下からの未だわかっておりませんという一言のみの報告に悔しい思いをしてきた。
しかし、この一件は突然終わりを迎えることになった。
2日空けていた屋敷に帰る道中、手紙を読んだ時に思わず、ふぇ⁈ っと変な声が出てしまうくらいに驚いた。その手紙は泊まっていた高級な宿を出るときに受け取ったもので、差出人は部下であった。
そしてそこに書かれていたのは今まで領民に手助けをしていた、我に反抗する犯人の名前であった。
だが、驚いたのは犯人が見つかったからではない。その犯人が予想もしなかった人物だったからだ。
《ウール様にはお伝えしづらいのですが、犯人はカケル様です。》
その文を見たとき訳がわからなくなってしまった。たかが3歳児がそんなことするはずがない、できるわけがない。そんなこと分かりきっていることなのに、動揺してしまった。それほどまでにウールにとって衝撃的なことだったのである。
だからこそ、単純なことに気づくことができなかった。
ウールがおかしいと思い始めたのが3年前からだということに。
我は屋敷に帰ってきてすぐに、手紙の差出人であり、この一件にずっと関与してきた執事のジェイスからある提案をされた。
「カケル様を4歳になった時に学院へ入学させましょう。」
贅沢をしたいと言った時もあの提案をしたのはジェイスだった。
「学院がそれを認めると思うか? 入学は10歳からだぞ?」
「大丈夫です。私がすでに手回しをしておきました。あとはウール様がカケル様にこのことを伝えてくださればと」
我は彼を信頼していた。彼は前の領主にも仕えていて、ここの領地、領民のことを熟知していた。そして我に仕えてからその情報を存分に活かしてくれ、我の贅沢をしたいという望みを叶えてくれていたからだ。
「そうか。わかった」
だからこの提案もすんなり受け入れた。
「これでよかったのです。カケル様はまだ幼いです。それ故に純粋であるため、何をするかわかりません。ならば学院に入学させ、そこで貴族とはどういうものなのかを学ばせた方がカケル様のためなのです」
そう言われたら、その通りだと思ってしまう。
「しかし、4歳で合格できると思うか?」
「ええ。カケル様は優秀ですから」
そう言って薄っすら笑みを浮かべるジェイスにウールは息子を褒められたと素直に嬉しくなり、彼と同様に笑みを浮かべた。
ウールはまた気づかなかったのである。
なぜジェイスが笑みを浮かべたのか、その顔の裏に何が隠されているのか。
そして、そんなウールを見て彼は再び思うのであった。
”なんて操りやすいのだろう"と。
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俺はこいつを一目見た時から予想していた。強欲な奴なのだということを。
実際この領地に領主として来てからというもの、毎日口を開けば文句ばかりだった。前の領主ができていた普通の暮らしが我慢ならないようで、常に金が欲しい、贅沢したいと言っていた。
だから俺は見極めるためにこいつにある提案をした。
「今のままでは税率が低いように思えます。前の領主様には欲というものがなく、失礼を承知で言いますがとても貴族らしくありませんでしたので……。なので税率を上げてみてはどうですか? ウール様はここの領主です。何事も最終判断はウール様に委ねられます。つまり自由なのです。ですから、税率を上げ、徴収回数も増やしてみては?」
「た、確かにそうだな! ……いや、しかし急にそんなことをすれば我は領民に殺されるんじゃないか? 贅沢はしたいが死にたくはないのだ」
随分弱気な奴だな。少し大袈裟に持ち上げてみるか。
「ウール様! あなたは領主であり、貴族なのですよ? 貴族は選ばれし者でしょう? それならば恐れることはありません」
「……そうだ。我は貴族なのだ! 選ばれし者だ! すっかり忘れてしまっていたぞ! してジェイスよ、どうしたらよいのだ?」
クククッ、こいつ本物だ。
「まずは先ほど申し上げた通り、税率を上げ、徴収の回数を増やしましょう。そして領民の反乱の恐れをなくすために粗末な小屋をこの屋敷から少し離れたところに建て、そこに領民を住ませましょう。現在住んでいる家は全て壊すのです。そうすればウール様に反乱を起こそうなどと考えるものはいなくなるでしょう」
「よし、わかった! ジェイス、お前に任せよう。我の願いを叶えてみせよ!」
「わかりました、ウール様! 全てお任せください」
俺は実に単純で安易な提案をこいつにした。誰が聞いてもバカだと思うだろうし、他の領主に同じ提案をしたならきっと俺は殺されているだろう。
しかし、こいつはそんな提案を採用したんだ。そして自分で行動するのではなく、俺に全て任せてきた。
この時俺は確信した。
こいつは”本物”だということを。
そして俺はこの領地を乗っ取るという計画のために準備を進めてきた。
しかし、ウールが少しずつおかしいと思い始め、俺はその犯人を探すように言われた。どうにか誤魔化していたが、バレるのも時間の問題だと思っていた。領民のところへ行かれたら気づかれてしまう。
そんな時あるところから信じがたい情報が流れてきた。だが、それは同時に嬉しいものでもあった。
《カケルが計画の邪魔をしようとしている》
ただの子どもに何ができるというんだ、それに3歳児が領民の暮らしを理解できるものなのかと疑った。
しかし、その情報に間違いはなかった。その証拠にと渡されたものに見覚えがあったからだ。
青い、星の模様の入ったリュックである。
俺はすぐに頭を切り替え、身代わりにしようと考えた。
そしてウールに2度目の提案した。今回も思い切った提案だった。カケルを犯人に仕立て上げたが、ちゃんと考えればわかってしまうのだ。
ウールがおかしいと思い始めたのが3年前、カケルが生まれたのも3年前ということが。
しかし当の本人は犯人がカケルであることに信じられないと驚き、動揺していた。そんなことに気づかなかった。だからその場ですんなり通った。
予定が狂ってしまったが、カケルが王都に移ったら計画を前倒しで進めることにしよう。
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