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領地視察編

魔法の存在

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 「うぇ……」

 優しい朝日に照らされ爽やかな朝を迎えたかったが、異世界で初めての朝は胃もたれしていて不快感でいっぱいだった。

 昨日の夜ご飯の出来事を思い出すとさらに気持ち悪さが増してくる。あんなのは二度とごめんだな。

--------

「おお~! カケルよ、待っておったぞ! 早く席に座りなさい」

「もう体調は良さそうね! 今日はご馳走よ!」
 
 四人掛けのテーブルの空いてる席に座ると、後ろから執事が食事用のエプロンをかけてくれた。
 中身は17歳なので恥ずかしさでいっぱいだ。

 目の前には両親の二人が、隣にはサイラが座っている。

「うわぁ……! すごいな!」

 きっと今の僕は目をキラキラさせているだろう。年甲斐もなく子どものようなリアクションをしてしまった。しかし側から見れば3歳児なので問題はない。

 目の前のテーブルの上に用意された食事はとても豪華だった。七面鳥の丸焼きのようなものに、漫画で出てくるような骨つき肉が山のように皿に盛られている。フライドポテトやピザに似たようなものもある。白いふわふわのパン、見たことのない果実が何種類も用意されている。夜ご飯には関係のないケーキやクッキーなどお菓子も置いてある。

 僕は日本でここまでいかなくとも、ご馳走というものを食べたことはなかった。普段の食事は毎回おにぎり二つ程度。中学の時なんかは給食が僕の中でご馳走とされていた。

 だからこんな豪華な食事は初めてでめちゃくちゃ嬉しい。

「それでは頂くとしよう、カケルの奇跡に!」

「「カケルの奇跡に!」」

 みんながグラスを掲げ、僕が目覚めたことに乾杯してくれた。

 こんな風にしてもらったことなんてなかったので僕は胸がいっぱいになった。

 しかしその感動はすぐに消えていった。

 食事が始まると目の前の二人はもう人ではなくなっていた。

 用意されていたナイフとフォークはすでに床に落ちていて、手掴みで料理を次々と口に放り込んでいる。クチャクチャと音を立てながら食べるその様はまさに動物そのものだった。汚いの一言じゃ済まないくらいひどく、食欲が失せてしまった。

 そんな二人を見ていて料理に手をつけていない僕を見た父は食べるのをやめて隣にやってきた。
 そして汚い手で料理をギュッと握りしめて僕の口に突っ込んできた。突然のことに驚いたがそれよりも喉の奥に食べ物が詰まって、気持ち悪くなり吐き出してしまった。
 父は激怒しそこから料理がなくなるまで僕の口に放り込んでは無理やり飲み込ませた。とても3歳児にすることじゃない。こんなことしたら普通死んじゃうよ。

 最後には、食事を吐き出すなど許さないからなと言い放って部屋へ戻っていった。

 こうして食事の時間はあっという間に終わりを迎えたのだった。


--------

 方法はちがうが、また両親に殺されかけた。

 全くどこの世界に行ったとしても僕は親に恵まれることはないんじゃないかと思う。
 日本とは違ってこの世界で恵まれているとすれば、今のところ領主の息子という立場と容姿が両親に全く似なかった点である。
 2つ目に関しては昨夜寝る前に歯磨きをしようと洗面所に行った時、鏡を見てあまりの嬉しさに声を上げて泣くほど喜んでしまった。サイラは夜ご飯の件で泣いてると思ったらしいが。

 洗面所で顔を洗い、改めて確認する。黒髪、黒い瞳なのは変わらないが鼻や口元が少し違っていて日本人というよりはハーフのような感じ。自分で言うのもなんだが、とても可愛らしい。

 部屋に戻って衣服を着替えてサイラが来るのを待つ。

 タイミングがいいことに今日は両親が出かけるというので、やりたいことがあった僕は、サイラに二人が出かけていったら教えるように顔を洗う前にお願いしておいたのだ。

「失礼します! たった今お出かけになりました。」

 サイラが部屋の扉をノックして入ってきて報告してくれた。


 よし、それじゃあ行動開始だ。

「ありがとう! じゃあお父さんの部屋に連れてって!」

「申し訳ありません。それはできません」

 即答か…… さすがに無理があったかな。

 しかし諦めてなるものか。なんとか押し切ってやる。

「え? なんで? 僕は息子なんだから大丈夫だよ」

「領主様から誰も入れるなと言われてるんです」

「今日だけ! 今日だけだから……だめ?」

 必殺上目遣いだ。こんなのやったことは1度もない。だが今の僕は最強だ。素晴らしい容姿に3歳児ときた。

「……1度だけですからね?」

 ほらきた! そうと決まればすぐに行こう。

 そうしてサイラに案内され父の書斎に着く。

 中に入るとそこには大量の本が棚にぎっしりと並べられてあった。
 机の上には書類が山のように積み上げられている。

 僕の部屋にはおもちゃがあるだけで、本や資料など僕が必要とする情報源が全くなかった。

 僕は領主である父の書斎に行ってあることに関する情報を手に入れたかったのだ。

 横にいるサイラに目をやると、喜んでいる僕とは反対に明らかに落胆した表情をしていた。

「サイラどうしたの?」

「い、いえ……その……」

 何をそんなに言うのを躊躇っているんだろう。

「ここにお父さんはいないよ? だから大丈夫だよ! どうしたの?」

 もう一度聞くとサイラは答えた。

「領主様はお仕事をされていないのではないかと……」

「それってまずいよな……」

「え…?」

 やっちまった、素がでてしまった。

「何でもないよ!」

 誤魔化せたかどうかは分からないが、それよりもこれは確認しなくてはいけないな。
 椅子によじ登り机の書類を1枚適当に手に取り見ると、その書類は税の徴収に関する報告書であった。
 他の書類も数枚見てみるが、王都への報告書ばかりで、それらは全て提出期限が過ぎていた。

 これが見つかるのを恐れて誰も入れないようにしてたのか。

 これじゃ見た目通りダラダラしているだけの豚じゃないか。
 
「ねぇサイラ、お父さんはいつからお仕事していないの?」

「私が把握してる限りおそらく6年くらいだと」

 6年って⁈ それはもう立派なニートだよ。

 僕が欲しかったものとは違ったけど、これはこれで知れてよかった。

 僕はこの時をもって完全にあの二人を親としてみることはなくなった。

 後でこの仕事をしていないということについてはちゃんと考えないといけないかもしれないな。

 今日のやるべきことが終わったら考えみるか。

「あのね! 見つけてほしい本があるの! 魔法の本」

「どうして突然そのようなものを? それにいつ魔法のことを知ったのですか?」

「昨日の夜ご飯の時に料理人が指の先から火を出しているのを見たからだよ! それでおもしろそうだなって!」

「そうだったんですね! わかりました。しかし領主様にバレない程度しか集めることができませんがよろしいですか?」

 ダラダラしてるだけの糞ニートは本が減っていることなんて気づくわけないでしょ。
 まぁ仮にバレた時に面倒なことになるのは避けたいので納得するしかない。

「うん! ありがとう!」

 魔法はおもしろそうだと思ったから。確かにそうなのだが、理由はそれだけではない。

 どの世界にも武器は存在する。木の棒や石、料理包丁、なんでも武器になる。
 しかし魔法というものはどの世界にもあるわけではない。実際日本にはなかった。
 この世界に魔法が存在するのがわかった以上、その魔法を使えるかどうかはかなりのアドバンテージになる。

 これから先、何かをするなら魔法を使えるに越したことはない。

 何より日本での異世界系ラノベによると幼少期から鍛える方が都合がいいらしいからね。できるならなるべく早く習得したい。

「カケル様、集めました」

「ありがとう! じゃあ早く部屋に戻ろう」

 書斎からそそくさと退散した僕とサイラは部屋に戻り、この後の予定について話し合いを始めた。

「じゃあ今日から二日間は二人とも帰ってこないんだね?」

「はい! 先ほど連絡が来ましたので確かかと」

 予想外だが一人の時間が増えたのはラッキーだな。

 これで色々ゆっくり考えることができる。

「今日は集めてくれた本を読みたいから、また用事があったら呼ぶね!」

「かしこまりました! それでは何かご用がありましたらいつでもお呼びください」


 サイラが出て行った後は日本で勉強していた時のように本にのめり込み、全てを吸収する勢いで一冊、また一冊と読み終えていった。
 今まで勉強を頑張っていてよかった。おかげさまで大体魔法については理解することができた。

 魔法とは体内に存在する魔力を元に発動させるものであり、その魔力は生命エネルギーと繋がっている。
 だからこそ魔力の限界を超えて魔法を使うと自らの命を削ることになる。これが魔力欠乏症の原因である。

 幼少期から鍛えれば魔力は増加するという異世界系ラノベの情報はこの世界では証明されていない。どうやら生まれた時から魔力量は決められているらしい。
 しかし例外もあった。ある特別な存在、な存在は計り知れない魔力を体内に宿していると。
 定義によれば僕はその特別に当てはまるだろう。なんせ魂はこの世界の人間ではないのだから。

 また、魔法を上達させるコツ、それは魔力の流れの感覚を掴み、どれだけ使いこなせるか。これに関しては幼少期から鍛えればそれだけ魔法のレベルを上げることができる。

 属性は火、水、風、土、雷、光、闇の7つ。使うことのできる属性は人によって様々らしい。魔力を指に集め、それぞれの属性のイメージを込める。その時魔力に色がつき可視化できるようになればその属性を使うことができるそうだ。
 しかしながら、魔力を目で見ることができる人はほとんどいないらしく、測定器と判定器を用いて魔力量と属性を見ているとのこと。

 少し試しにやってみる。

 僕はまず魔力の流れを感じることから。

 座禅を組み精神を落ち着かせる。へその下のあたりに手を置き、そこに意識を集中させる。
 すると手を置いた部分がだんだん温かくなりそれが全身を血のように巡り流れていくのがわかる。魔力の存在を認知できたのはいいが自分の意思とは関係なく体内を巡っているのがなんとも気持ち悪い感覚だ。
 そしてついにはどんどんと溢れ出す魔力を抑え込むことができずに意識を失った。

 気づくとすでに日が落ちていてベッドの上で寝ていた。起き上がるとそこには寝息を立てているサイラの姿があった。
 
「また心配かけてしまったな」

 あれほど魔力が溢れ出してくるとは思わなかったし制御することがどれだけ難しいかもわかっていなかった。
 魔力を認知し、流れの感覚を掴むことまではできた。後は一定量の魔力を放出しそれを自分の意思で動かし制御することさえできればいよいよ魔法を覚えることができるだろう。

 だが3歳児の体では1日にそんな長い時間耐えられるわけもないのでひとまず今日のところはこれで終わりにしておこう。

 寝ていたサイラに申し訳ないと思いながら起こし、食事をするため食卓に向かう。

 その途中泣きながらお説教されたのは言うまでもない。

 食卓に着くと、昨日とは比べてかなり少ない量の料理が並べられていた。
 今日はあの豚二匹がいないからなのか、昨日の僕が死にかけていたのをみたから減らしてくれたのか。とにかく量を減らしてくれて有り難い。
 それに料理自体は量が減っても豪華なのは変わらない。最高だ。これは生まれ変わってよかったと思えるな。

 用意された料理は全て美味しく頂きました。

 食事を終えて部屋に戻り、ベッドの上に座る。

 僕は今日の出来事を振り返り、明日何をするか考える。

 今日は魔法について知ることができたが、扱いは上手くいかなかったな。少しずつ努力していくしかない。
 次に書斎に入れるのはいつになるだろうか。あの膨大な量の本や資料は僕にとっては価値のあるものだと思う。いつか全部に目を通して情報を自分のものにしておきたい。

 それにしても、6年も仕事をしていないってやばいよな。この世界の常識がどうなのかはわからないけど、あの時のサイラの表情を見る限りダメなんだろうな。

 父は領主で、この領地を治める者なんだよな……

 そんな人が6年も仕事をしていないってことはそれだけの期間領地を放置しているってことになる。

 それなら仕事もしないでどうやってこんな快適な生活しているんだ?

 領民はどのように生活を送っているんだ?

 この領地ってどんなところなんだ?

 
 決めた、明日は外に出掛けよう。

 僕は部屋を出てサイラを呼ぶ。

「サイラー! ちょっと来てー!」

 すると僕のところまで走ってきた。

「何かあったんですか⁈」

 そんなに焦らなくてもいいのにな。まぁさっき魔力を使う練習して気絶したから焦るか。

「ただお願いごとがあって呼んだの! 明日は外にお出掛けしたいからその準備をしておいてほしいなって」

「何もなくて良かったです。準備ですね、分かりました」

「うん、ありがとう! おやすみなさい」

 僕は部屋に入ってベッドにダイブする。

 再び考え事を始めたがいつの間にかぐっすり眠ってしまった。
 


 
 
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