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夢から現実へ

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 徹がファミレスへと向かっている頃、上条直也はクラスメイトと四人でファンタジーランドに来ていた。

 ファンタジーランドとは、フランスのとある企業が運営しているテーマパークで、フランス国内をはじめとして他のヨーロッパの国やアメリカ、日本など世界各国に展開している。日本では夢の国とも呼ばれており、小さい子どもから大人までが楽しめる大人気のスポットだ。

 ファンタジーランドの開園時間は8時からで、上条らはその時間よりも前からこの場所に着いて開園を待っていた。
 そして今はスペースレンジャーという人気のアトラクションに並ぶ長蛇の列の最後尾にいた。

「1時間半待ちとか長くね? しかも俺たち一番後ろだし」

 列の最後尾には1時間半と書かれた待ち時間を知らせる看板を持っているスタッフがいた。
 しかし人気のアトラクションであるためすぐに上条らは最後尾ではなくなった。

「夏休みって最高だな!」

「それな! 俺なんて夏休みになってからニート生活だわ」

「俺もクーラーの効いた部屋でずっとゴロゴロしてるぜ」

「クーラーに慣れすぎて今日はやけに暑く感じるな~」

 上条は待ち時間の間、楽しくクラスメイトと話をしている。そして話の話題は終業式での出来事へと変わった。

「終業式の時は本当にびっくりしたよな」

「あいつって頭良かったんだな」

 その言葉に顔を歪めたのは上条だけであった。しかしそれは一瞬であったため誰にも気づかれることはなかった。

「本当だよ! 授業中指されても答えねーからただのバカだと思ってたのにな」

「俺なんてあいつの順位の7位も下だったぜ? 恥ずかしかったわ」

 この時ここに来ていた四人は全員徹よりも順位の低かった者である。そして上条以外の三人の中でそれはすでに笑い話となっており、徹に対して負の感情を抱いてはいなかった。
 しかし上条だけはちがった。あの時のことをまだ根に持っており、今この話をしているクラスメイトになぜそんなに平気で笑っていられるのかと腹が立っていた。

 上条の心は終業式で徹に負けるという屈辱を味わったことをきっかけに歪み始めた。何もこのことだけが原因という訳ではない。入学してからというもの徹は誰ともつるむことはなく、クラスメイトに何を言われても反応なし。授業で指されても答えることなくただ分かりませんと言うだけ。嘘だらけの体育での噂すら気にしていない。
 終業式の日、上条は家に帰ってからその日に受けた屈辱だけでなくそういった徹の行動にまで苛立ちを覚えるようになった。そしてその屈辱を晴らすためにどうしたらいいかと考えるようになった。

 上条は東野徹を人間として完全に下に見ていた。だからこそそんな人間に負けたという事実は上条の高いプライドを大きく傷つけることとなった。

 そんなことを知らないクラスメイトはしばらくその話題で盛り上がっていた。

「直也ー、さっきから全然喋らないけどどうした?」

 そろそろ限界な上条は話題をそらす。

「別に何でもない。それよりも夏休み始まったばっかだろ? これから何するか話そうぜ」

「そうだな! 俺海とかプール行きてーな! せっかくの夏だからナンパとかしてさぁ」

「俺もそれは賛成だわ! 夏の醍醐味だよな~」

 夏休みだからなのか、夢の国にいるからなのか。はたまたその両方なのか、普段はそんな感じではないのにテンションが上がって出来もしないことを口にしている。
 周りの人はというと『イケてない奴が何調子乗ってるんだ』『どうせできないだろ』と冷たい目を向けていた。

 それに気づかない上条御一行はスペースレンジャーに乗るまでそのまま話を続けた。

「やっぱスペースレンジャー最高だったな」

「優先券取ってもう一回乗ろうぜ」

「じゃあ優先券取ったら何か食わね? 腹減ったわ」

「確かにな。そうするか!」

 上条らは優先券という普通の列とは別で優先的に乗り物に乗れる券を取った後、お腹を満たすために食事のできるところへと向かうが、その途中に問題が発生した。

「俺ピザに一票! お前らは?」

「俺はチキンだなー」

「俺ピザー!!」

「んー、ピザだな」

「じゃあ3対1でピザにけって――ってぇな」

 後ろ向きに歩いていた上条はすれ違う人とぶつかってしまった。しかしテンションの上がっていたため調子に乗った上条は――

「気をつけて歩けよ!」

 後ろ向きで歩いていた上条が悪いのだが、それにもかかわらず振り向きながら声を荒げた。
 
「お前ふざけてんのか? あ?」

 その声が聞こえるのと同時にぶつかった相手を見た上条とその前からぶつかった相手が見えていたクラスメイトは固まってしまっていた。
 それもそのはずで、ぶつかって相手というのは上条らが一番苦手とするヤンキーであったからだ。それに自分が悪いにもかかわらず相手のせいにしてしまったというのも加わって状況は最悪であった。

「……そ、その、すみませんでした」

 あまりにもビビりすぎて声が聞こえないほど小さくなった上条にそのヤンキーがキレる。そして状況はさらに悪化する。

「あ? 聞こえねーよ! テメェが悪い…んだよー……な? お前英才科の奴か?」

 顔を覗くように見てくるヤンキーの言葉にビクッとする上条ら。そしてよく見てみれば体育の時にあの場を仕切っていたスポーツ科の奴だった。

「あー、やっぱりそうだ。サッカーの時にビクビクしてた奴らだよな?」

 上条らはこれからどうなるのか、そのことだけしか考えられず、夢から現実へと引き戻されるのだった。
 
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