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第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―

クロイツと勇者候補選抜御前試合 その二十四 ~恋愛雑魚のクロリア、ゼロスに敗れる?~

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 私はパーティーから抜け出すと一人、城の上階にある牢へと向かった。
 カツコツと石階段とヒールがぶつかり合い、狭い通路に音が響きわたる。
 牢へたどり着くと生気を失ったような目で私を見る女がいた。

 サラサ・ラササである。

「王子を救った英雄様は滑稽な女を笑いに来たの?」
 私の顔を見てサラサが悪態をつく。私は守衛の椅子に腰を掛けただ黙ってサラサを見た。
 数分の沈黙が流れた。その沈黙にサラサは耐えられなくなり私を怒鳴りつける。

「鬱陶しいのよ! なにか聞きたいことがあるならさっさと聞きなさいよ!」
 こちらから話しかければ必ず無視をして、なにも答えてくれないだろう。それがわかった上の戦略だ。

「そう、じゃあ、お言葉に甘えて質問させてもらうわ」

「ふん!」

「なぜポトルガノフじゃなきゃダメだったの?」

「は? なにがよ」
 サラサは私の質問の意味が分からないと言うな表情をして私にその真意を問う。

「ストロガノフもポトルガノフもたいした違いはないでしょ、なぜ面倒なポトルガノフを選んだのか聞きたいのよ」

「つまり、王子を救った英雄様は色恋のイの字も知らないと? フハハハハ!」
 サラサはまるでネンネの少女をバカにするような笑いで大笑いして私をからかう。

「ストロガノフを選べばあなたの地位なら、なんなく王妃になれたでしょ」

「そりゃそうよ、私も小さい頃は父様に言われてストロガノフを狙っていたんだから」

「じゃあ、なんでポトルガノフに恋心をもったの?」
 正直、人の恋路を聞く趣味はないがどおしても聞いておきたかったのだ。私のためにアリエルの為にガリウスの為に。
 サラサは私を呆れるように見るが、私の真剣な表情を見てなれそめを話してくれた。

「……転んで泣く私を背負って治療院に運んでくれたのがポトルガノフ様だっただけ。ただそれだけよ」

「本当にそれだけなの? 剣の腕がたつとか魔法が強いとかじゃなく?」

「ストロガノフは冷酷なのよ。わたしが転んで泣いていたとしても私に手すら伸ばさない。そんな男と手を伸ばしてくれる男どちらを好きになるかなんて火を見るより明らかでしょ」
 手を伸ばしてくれる。ただそれだけで、それだけが恋の分岐点だったと言うの? すべてを捨ててまで愛す価値のあるものだと?

 自問自答している私にサラサは話を続ける。

 一度好きになってしまえば、そこからは雪玉が坂道を転がるようにドンドン気持ちが大きく膨れ上がっていくのだと言う。
 そして、気づいたときにはその人以外のことなど考えられなくなっていたし、その人と子をなすことしか考えられなくなっていたと言う。

「短絡的じゃない?」

「バカね恋はいつだって短絡的なのよ。好きを膨らませるのに理由はいらないの。好きな人の行為なら、おならだって愛せるのよ」

「ただの変態じゃない」

「本当に恋愛雑魚ね」
 自分を囚人に落とした私への当て付けか。サラサはここぞとばかりに罵倒する。

「それで、ポトルガノフと結婚するために罪もない人達を陥れたの? エマをも殺そうとして」

「殺す? 殺す気なんかなかったわよ。あの人との結婚を阻むものは全部邪魔者、その過程で誰かが死んだとしてもそれは仕方ないことよ。まあエマは奴隷にして国外に売り払えと命令しただけどね」
 奴隷? エマはかなり怪我をしていた奴隷にするなら傷物にしたら商品価値が落ちてしまう。
 エマの反撃が思いのほか激しかったということだろうけど。
 なにか裏があるんじゃと勘ぐるのは考えすぎか。

「例えば、あなたが実はストロガノフが好きなんだけど一時の気の迷いでポトルガノフを好きなんだとしたらあなたはどうする?」

「気の迷い?」

「例えばよたとえ・・・

「あんたバカね。恋愛なんてのは勘違いから始まるのよ。例え気の迷いでも積み重ねれば、それは愛よ」

「つまり揺るがないの?」

「だから、好きになると言うのは最初から気の迷いなんだって。相手は自分のことなんてこれっぽっちも考えてないんだから。積み重ねよ、積み重ね。それが恋になって愛になるの」

 気の迷いの積み重ね? なんなのそれ。

「分からないわね」

「はぁ~。まさか王子を救った英雄がここまでネンネだったとはね」

「うるさいわね」

「私が外にいれば恋愛のいろはくらい教えてあげられたのにね」
 そう言うとサラサはバカにしたような笑みを浮かべる。聞きに来なきゃよかったと私は後悔した。

「ふん、あなたに教わることなど無いわよ。それに聞きたいことは聞けたし、あなたはここで罪を悔いなさい」
 サラサは私の言葉に鼻で笑う。

「愛に罪など無いわよ。だから私は絶対に悔いたりしない!」
 私はサラサのその言葉を無視して牢を後にした。

「ねぇ王子を救った英雄様、愛に素直に、好きに嘘をついたらだめよ」
 サラサが遠のく私に最後の助言とばかりに叫ぶ。

『愛に素直に、好きに嘘をつかない』か……。


 次の日、私達はコロシアムへと案内された。すでに観客席は満員で、どいつもこいつもきらびやかな衣装に身を包んでいた。
 貴族と言うのは娯楽に飢えている。そんな連中の退屈しのぎになるのは真っ平ごめんだ、一瞬で終わらそう。

 審判が試合のルールを説明する。魔法はどんな魔法でも使用可能。神の祝福プライムも同じ。ただし剣は刃引きした切れない剣を使うという謎ルールだ。
 理由としては魔法は結界で押さえられるので見物客に被害がいかないから何を使っても大丈夫であり。剣は部位欠損してしまうと治すことができないから実剣刃禁止だという。

 これははめられた。私の剣を使わせないために仕組まれたルールだ。私の天空王エアリアル翼剣ウイングスラッシャーは私の力を何倍にも高める。黒魂ノ勇者剣クロノエクセリオンはどうせ使えないからどうでも良いが。

 しかしゼロスは魔法回路も神の祝福プライムもない。このルールはどちらかと言えば私の方が有利なような気もしないではないが、ハメようとした奴はマヌケなのかな?

 私には神の祝福プライムも魔法剣の全属性魔法回路もある。

 まあ、神の祝福プライムも魔法も禁止されてもステータス的に私の方が上だしアキトゥー流剣術もあるし、これなら楽勝だわ。

 私たちが闘技場に立つと王様やその取り巻きがゾロゾロと出てきて専用のVIP席に座る。

「始めるがよい」

 王様がそう言うと審判は一礼する。

「両者前へ」

 ルール説明が終わり私は渡された大剣を持ち、丸い闘技場へと足を踏み入れる。

「申し訳ありませんが手加減はしませんよ」

 ゼロスは細身の剣を二本持っている。二刀流か、それもあの構えはアキトゥー流剣術 双翼真剣派。たぶんマリアから教わったのね。となるとパワーよりスピードタイプと見た方がいいのかしら?

「試合開始!」

 私はすぐさま神の祝福プライム視線の歩みテンソクを使いゼロスの真後ろに移動して剣を振り落とした。剣は後頭部を直撃しゼロスは仰向けに倒れ気絶した。

 一撃で終わった。

「たいした敵じゃなかったわね」
 私が勝利宣言をしようとした瞬間、背中に鈍い痛みが走り呼吸ができなくなる。
 転がるように逃げるが、背後から攻撃した奴は私を刺し殺さんとばかりに突きを連打する。

 まずい呼吸ができないせいで魔法に集中できない。

 これじゃ魔法剣が出せない。私は大空への飛翔スカイワードを使い上空へと逃げたがそいつの攻撃は上空へも届く。

 上空へ逃げたのは失策だ。足場の無い上空では体捌きもできない。

 私は大剣でなんとかそいつの攻撃を受け流しながら距離をとった。

 距離を取り着地した私はその場にうずくまった。油断した。右肩と左足を折られた。

 私を攻撃した奴を見ると女だった。表示された名前はゼロス。倒れてる男もゼロス。ゼロスが二人いる?

 しかし、さっきまであんな女はいなかった。それに今もマップに表示されていない。いったい、どこから湧き出したの。

「ちょっと待ちなさいよ、あんたどういうことよ二体一なんて卑怯じゃない」
 我ながら情けない言葉だと思いながらも私はゼロスと言う名の女を睨み付ける。

「僕ですか? 僕はゼロスですよ。昨日ご挨拶したでしょ」

「昨日、私に挨拶してきたのはそこに倒れている男よあなたじゃないわ」
 突如現れた女に会場はどよめく。しかし弟王子のピロシキがこの現象について説明をする。どうやらあれは神の祝福プライムで能力の一部と言うことらしい。
 ゼロスは倒れた男に手を当てるとその女の体に男の体が回収された。
 こいつ女だったのか。
 男を吸収した瞬間ゼロスのステータスが激的に増幅した。しかも神の祝福プライムや魔法回路まで備えている。

 これが英雄……。英雄の力なのね。

「クロリア様!」
 アリエルやティア達が私のピンチに声をあげる。嫁たちに格好悪いところ見せちゃったわね。

「これは僕の神の祝福プライム 雌雄金剛ひとりあそびです」

「自分の能力をペラペラしゃべるなんて、ずいぶん余裕じゃない」

「それはそうですよ、もう僕の勝ちは確定ですから。降参すればこれ以上攻撃しませんよ?」
 二本の剣を構えたゼロスは余裕の言葉を吐いても、私からは全く目を離さず隙がない。

「バカね、私にはやりたいことがあるのよ、こんなところで負けるわけにはいかない」

「そうですか、残念です」
 ゼロスが天に向かい手をあげる。その上空にはかなりでかい火球が現れる。エクスプロージョンなど比になら無いほど大きさと熱量。

 不味い、あんなのくらったら死ぬ。

「終わりですクロリアさん”英雄魔法 終焉の太陽ラストブレイブ”」

 その刹那、私を灼熱の太陽が襲った。
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