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第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―
クロイツと勇者候補契約 その三
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昼食を終えた私達は腹ごなしをするために川を散策した。水がすごくきれいで川底が丸見えになっている。
川を見ていると川底に緑がかった白色の石があったので、念糸で拾ってみると翡翠の原石だった。
「ティア、メチャメチャ大きい翡翠の原石拾っちゃった」
それをティアに見せるとグランヘイムでは婚約者に緑色の髪止めを送るのが習わしなんですよと言われた。つまり欲しいのね。
私はその原石を念糸で加工して円柱を二つ作り中をくり貫き角を丸くすると綺麗な髪止めができた。
「はい、花のティアラのお返しよ」
そう言って翡翠の髪止めをティアに渡すと彼女はすごく喜んでくれた。なんでもティアはミスティアに憧れていて、自分も好きな人からいつかは緑色の髪止めをもらうのが夢だったと言う。
ぐふふ、夢を叶えることができる有能バディクロリア、ティアの心も鷲掴みで、逆らうことができなくなるほど私を愛してしまうのね。有能すぎる自分が怖い。
「なんか顔が怖いですよ」
妄想を繰り返す私にティアが引きぎみに注意を促す。
おっと自重、自重。私は顔をパンパンと叩くと歪みを修正した。
腹ごなしが終わった私達は再度大型の魔物を狩る。途中オークの集落があり、足を切り落とせば頭を叩くにはちょうど良い高さなので、そのオークの集落を潰すことにした。
私が念糸で四肢を切り落とし、ライフがあと一撃で死ぬくらいになるまで針状にした念糸を突き刺し、ティアがハンマーで止めを刺すスタイルだ。
完全に流れ作業状態になりコンスタントに経験値が入ってくる。これならすぐにレベル10ね。
そう言えばオークの睾丸には催淫効果があるとか聞いたことあるわね、これ切り取ってアリエルに飲ませて……。
いや、あの色欲魔王にこんなもの飲ませたら色欲魔神に進化してしまうわ、私の体が持たない。
惜しいけど却下ね。
ティアのレベルは10を楽々越えたのだけど、元々のステータスの低さのせいで正直弱い。
そうこうしているうちにオークはほぼ全滅状態となり、奥からオークキングが出てきた。サイズは二回り以上大きく体は褐色に変色しており、豚の丸焼きと言う表現がぴったりな容姿だ。
念糸で四肢を引き裂こうとしたが少し傷をつけただけで弾かれた。
「あれ、念糸が効かない?」
私のその言葉にティアが震えだす。私は大丈夫よと言い足を撫でる。その言葉で安心したのか震えは止まった。
まあレベル10が相手をするような魔物じゃないものね普通は怖いわ。
こん棒を振り回すオークキングの攻撃をアイキドーの足裁きで華麗に避ける。倒すのは簡単だけど……。
念糸が弾かれたと言うことは――。あの体、鋼鉄並みの固さがあると言うことか? いや、私の念糸の使い方が未熟なせいね土蜘蛛の糸ほどの強さが出ていない。
念糸から土蜘蛛の糸に変えオークキングを攻撃すると四肢は切り落とせないまでもかなり深く切り込めた。
私はウルティニウムの剣を抜くと一瞬で四肢を切り落とした。そのくらいじゃ瀕死になら無いので、チクチクと心臓に当たらないように剣を刺す。
高さが合わないのでティアを下ろしオークキングに蹴りを入れて仰向けにさせる。
「ティア叩いて良いわよ」
「はい」
そう返事をするとティアはオークキングの頭をトンカチで殴る。
しかしカコンと言う軽快な音と共にトンカチは弾かれた。弾かれたことで動揺したティアは私を見るが、死ぬまで何度も叩きなさいと言うと意を決して何度も何度もトンカチを打ちつける。
今日ティアは打武器 E級を取得した。E級は才能がないと言う証拠なのだけどA級になれない訳じゃない。死に物狂いでやればだけど。私はティアはそんなに強くなくても良いと思う無理して怪我だけはさせたくない。
ポコポコとリズミカルに叩くティアを見ていると、音がボコボコに変わったステータスを見ると打武器がD級に上がった。
はい?
いや、いや、いや、何で上がったの?ただ叩いてるだけだよね、あれ。今まで倒した魔物の蓄積? いやそれにしても簡単に上がりすぎでしょ。E級は才能がない証し、それはD級に上がるまで血反吐を吐く研鑽が必要になる。
しかしティアはただポコポコ叩いてるだけで上がった。どう言うこと?
あり得ない状況に私が戸惑っていると、またトンカチの叩く音が代わりバコンバコンと言う音になり、ティアの打武器がC級になった。そしてオークキングは絶命した。
「やりました!」
そう喜ぶティアとは裏腹に疑問だけが残る。あり得ない早さでティアの打武器スキルはE級からC級に上昇した。普通こんなことあり得ない。
つまり、普通とは違うことがあった?
何が違った?
ティアは悩む私を除き込むように下から見上げる。
「あ、ごめんねティア。ええとねあなたの打武器スキルが急激に上がってC級になったのよ、それで理由を探ってたの」
「私、C級になったんですか?」
「そう、E級からC級にね。それもものの数分で」
喜ぶティアはトンカチをブンブン振り回すがなにも変わりませんよと言う。そりゃ、そうよねスキルはあくまでも補正で元となる技術がないと意味をなさない。叩くくらいなら補正値が役に立つけど戦闘となると技術が必要なのだ。
「帰ったらアリエルに打武器の戦闘術を知識の苗してもらいましょう」
「はい!」
喜ぶティアの頭をなでるとニヘヘと笑う。スキルアップは嬉しいもんね喜びもひとしおだろう。
しかし普通とは違うこととはなんだろう。
武器トンカチ、普通戦闘で使わない。
オークキングを殴る、普通レベル10では手も足もでないので殴ることもできない。
普通じゃないとしたらこの二つか。
つまり弱い武器で強い魔物を叩くとスキルが上がりやすいと言うことなのかしら。
いや、それにもうひとつあった! ティアは弱い、だからダメージが入らなかったのだ。
まとめると弱い人が弱い武器で強い魔物を殴るとスキルが上昇しやすいってことか。
私はティアを抱き締めた。
「く、クロリアさん?」
「やったわよ! あなた強くなれるわ。才能がないことが逆に才能なのよ」
「もう、なんですかそれ」
そう言われたティアはご立腹だが、ティアに血反吐を吐くような訓練をさせなくて良いことが、すごく嬉しいのだ。
あの地獄の訓練を……。
あれ?
訓練? 地獄?
『何でお前はこんなことができん! 私をからかって楽しんでいるのか!!』
私の目の前に大男がいて、私を蹴り飛ばす。
『ごめんなさいお父様、でも、できません』
少女は素直にそういうと。顔を真っ赤にして顔を歪ませた大男が私を殴る。何度も何度も執拗に。
『痛い、痛い、やめてお父様』
だけど私の声は大男には届かない。
『姫王だと!? 王だと言うのか、こんな小娘が! お前など死んでしまえ』
そう叫びながら私を蹴る大男の目には憎しみの火が燃えていた。
私は悪い子なのかな。
生まれてきちゃいけなかったのかな。
もっと強くなればお父様は優しくしてくれるのかな。
マリアみたいに女の子らしくなれば、優しくしてくれるのかな。
良い子にするから。
ちゃんとできるように頑張るから。
だから……。 ……。 ……。
「ここは? 島?」
私は気がつくと砂浜にいた。周りにはなにもなく。マップを見ると海に囲まれた絶海の孤島だった。
光点が一つある、敵属性ではない。名前はクロイツ え? クロイツって私にそっくりな人と同名だけど、まさかその人? 私はその光点の場所を目指して歩き出した。
ほどなくしてその場所にたどりつくと、一人の女性が剣術に勤しんでいた。
その顔は私だった、そっくりなんて物じゃない、背丈からすべてに至るまで私だ。
あちらも私に気がついたようで驚いている。さてどうしたものか、アリエルを置いてガリウスと二人でハコブネを後にしたと言っていたけど。ガリウスとやらはどこにもいない。
用心深く距離をとっていると、クロイツは私の方に歩み寄る。そのたたずまいからは敵意は感じられない。
「あなた、もしかしてクロリア? どうやってここに来たの?」
「な、なんであなたが私を知っているのよ」
あったこともない私の名前を呼ぶクロイツに私は警戒して剣を抜く。
「あら、警戒しなくても良いわよ。私はあなたを害す気はないから」そう言うとクロイツは自分の剣を捨てた。
敵意がないと自分から剣を捨てるのはブラフですることもあるがクロイツからは微塵も殺気が感じられない。
剣を向けているのもアホらしくなり私も剣を納めた。
「それで、クロイツここはどこなの?」
私がそう訪ねると、少し迷いを見せる。
「そうね、言っても問題ないかな? あなたが挿してるその剣の中よ」と言い私の複製勇者ノ剣を指差す。
剣の中に世界? そんな馬鹿なことが……。いや、あるかもしれないわね、何せこの剣は神様製だ、不思議なギミックがあってもおかしくない。
「それで、なんであなたがこんなところに閉じ込められているの? ガリウスとか言う糞男と一緒にアリエルを捨てたあなたが」
「そうだね、私達はアリエルやカイエルを捨てたんだよね。あれだけ仲間だと言っていたのに」
クロイツを責めると、なんか自分を責めているみたいで嫌になる。私は甘やかされて生きていきたい。だからクロイツを責めるのはやめておこう。自分がやられて嫌なことは人にするなの精神ですよ。
いや、タテマエですけど。
「そんなことよりなんで私この剣の中に入っちゃったの? 帰りたいんだけど」
「それが分からないのよね、ここに来た人はあなたが初めてだから。なにかここに来る前に変わったことあった?」
変わったことと言えば記憶に無い父親の虐待だわね。それを事細かに伝えるとクロイツは青ざめた。
「そう、そんなにその子は殴られてたんだ」
震えるように声を絞り出すクロイツはどこか弱々しく思えた。
「ええ、もし私がその場にいたらその親父殺すくらいにね」
「殺しちゃうんだ?」
「殺すでしょ? あんな糞みたいなやつ、あの娘がかわいそうだわ」
「そう、ありがとう。でも父親だから殺さないで欲しいかな」
どうやら、あの記憶はクロイツの幼少期の頃の記憶のようで、あの大男はクロイツの父親らしい。
そして、その記憶が私に流れ込んだのだろうと言う。
「あなたが戻れないか試してみるわね」
そう言うと目をつぶり、誰かと話をしをしだした。外で見たら頭の痛い不思議ちゃんだわね。
しばらくすると、いつのまにか私は白い手に捕まれていた。
「な、なにこれ」
「大丈夫よ、それはあなたを引き上げてくれる存在だから」
「ちょ、まだ話は終わってないわよ」
「ここはあなたがいるべき世界じゃないから」
そう言って手をふるクロイツはすごく寂しそうだった。
「助けるから、あなたをこの剣から助け出すから!」
なぜか私はそう言わずにはいられなかった。クロイツはただ微笑むだけだった。
目が覚めるとティアが私に抱きつき泣いていた。
「どうしたのティア」
「クロリアさん?」
なんで疑問系なの?
「そうよ、私以外に誰がいるの」
私がそういうとティアは再び抱きつき、大きな声をあげて泣き出した。
なんで私は寝てたんだっけ? オークを殲滅したとは言え、魔物の集落で昼寝とか呑気すぎる。それに……。なにか大切なことを忘れているような気がするけど。
泣きじゃくるティアを抱え私は起き上がると腰がずしりと重かった。
その重みは複製勇者ノ剣の重みだった。重量が変わるわけないのにすごく重く感じ、やはりこれは私ごときが持つ剣じゃないなと、なぜだか思った。
川を見ていると川底に緑がかった白色の石があったので、念糸で拾ってみると翡翠の原石だった。
「ティア、メチャメチャ大きい翡翠の原石拾っちゃった」
それをティアに見せるとグランヘイムでは婚約者に緑色の髪止めを送るのが習わしなんですよと言われた。つまり欲しいのね。
私はその原石を念糸で加工して円柱を二つ作り中をくり貫き角を丸くすると綺麗な髪止めができた。
「はい、花のティアラのお返しよ」
そう言って翡翠の髪止めをティアに渡すと彼女はすごく喜んでくれた。なんでもティアはミスティアに憧れていて、自分も好きな人からいつかは緑色の髪止めをもらうのが夢だったと言う。
ぐふふ、夢を叶えることができる有能バディクロリア、ティアの心も鷲掴みで、逆らうことができなくなるほど私を愛してしまうのね。有能すぎる自分が怖い。
「なんか顔が怖いですよ」
妄想を繰り返す私にティアが引きぎみに注意を促す。
おっと自重、自重。私は顔をパンパンと叩くと歪みを修正した。
腹ごなしが終わった私達は再度大型の魔物を狩る。途中オークの集落があり、足を切り落とせば頭を叩くにはちょうど良い高さなので、そのオークの集落を潰すことにした。
私が念糸で四肢を切り落とし、ライフがあと一撃で死ぬくらいになるまで針状にした念糸を突き刺し、ティアがハンマーで止めを刺すスタイルだ。
完全に流れ作業状態になりコンスタントに経験値が入ってくる。これならすぐにレベル10ね。
そう言えばオークの睾丸には催淫効果があるとか聞いたことあるわね、これ切り取ってアリエルに飲ませて……。
いや、あの色欲魔王にこんなもの飲ませたら色欲魔神に進化してしまうわ、私の体が持たない。
惜しいけど却下ね。
ティアのレベルは10を楽々越えたのだけど、元々のステータスの低さのせいで正直弱い。
そうこうしているうちにオークはほぼ全滅状態となり、奥からオークキングが出てきた。サイズは二回り以上大きく体は褐色に変色しており、豚の丸焼きと言う表現がぴったりな容姿だ。
念糸で四肢を引き裂こうとしたが少し傷をつけただけで弾かれた。
「あれ、念糸が効かない?」
私のその言葉にティアが震えだす。私は大丈夫よと言い足を撫でる。その言葉で安心したのか震えは止まった。
まあレベル10が相手をするような魔物じゃないものね普通は怖いわ。
こん棒を振り回すオークキングの攻撃をアイキドーの足裁きで華麗に避ける。倒すのは簡単だけど……。
念糸が弾かれたと言うことは――。あの体、鋼鉄並みの固さがあると言うことか? いや、私の念糸の使い方が未熟なせいね土蜘蛛の糸ほどの強さが出ていない。
念糸から土蜘蛛の糸に変えオークキングを攻撃すると四肢は切り落とせないまでもかなり深く切り込めた。
私はウルティニウムの剣を抜くと一瞬で四肢を切り落とした。そのくらいじゃ瀕死になら無いので、チクチクと心臓に当たらないように剣を刺す。
高さが合わないのでティアを下ろしオークキングに蹴りを入れて仰向けにさせる。
「ティア叩いて良いわよ」
「はい」
そう返事をするとティアはオークキングの頭をトンカチで殴る。
しかしカコンと言う軽快な音と共にトンカチは弾かれた。弾かれたことで動揺したティアは私を見るが、死ぬまで何度も叩きなさいと言うと意を決して何度も何度もトンカチを打ちつける。
今日ティアは打武器 E級を取得した。E級は才能がないと言う証拠なのだけどA級になれない訳じゃない。死に物狂いでやればだけど。私はティアはそんなに強くなくても良いと思う無理して怪我だけはさせたくない。
ポコポコとリズミカルに叩くティアを見ていると、音がボコボコに変わったステータスを見ると打武器がD級に上がった。
はい?
いや、いや、いや、何で上がったの?ただ叩いてるだけだよね、あれ。今まで倒した魔物の蓄積? いやそれにしても簡単に上がりすぎでしょ。E級は才能がない証し、それはD級に上がるまで血反吐を吐く研鑽が必要になる。
しかしティアはただポコポコ叩いてるだけで上がった。どう言うこと?
あり得ない状況に私が戸惑っていると、またトンカチの叩く音が代わりバコンバコンと言う音になり、ティアの打武器がC級になった。そしてオークキングは絶命した。
「やりました!」
そう喜ぶティアとは裏腹に疑問だけが残る。あり得ない早さでティアの打武器スキルはE級からC級に上昇した。普通こんなことあり得ない。
つまり、普通とは違うことがあった?
何が違った?
ティアは悩む私を除き込むように下から見上げる。
「あ、ごめんねティア。ええとねあなたの打武器スキルが急激に上がってC級になったのよ、それで理由を探ってたの」
「私、C級になったんですか?」
「そう、E級からC級にね。それもものの数分で」
喜ぶティアはトンカチをブンブン振り回すがなにも変わりませんよと言う。そりゃ、そうよねスキルはあくまでも補正で元となる技術がないと意味をなさない。叩くくらいなら補正値が役に立つけど戦闘となると技術が必要なのだ。
「帰ったらアリエルに打武器の戦闘術を知識の苗してもらいましょう」
「はい!」
喜ぶティアの頭をなでるとニヘヘと笑う。スキルアップは嬉しいもんね喜びもひとしおだろう。
しかし普通とは違うこととはなんだろう。
武器トンカチ、普通戦闘で使わない。
オークキングを殴る、普通レベル10では手も足もでないので殴ることもできない。
普通じゃないとしたらこの二つか。
つまり弱い武器で強い魔物を叩くとスキルが上がりやすいと言うことなのかしら。
いや、それにもうひとつあった! ティアは弱い、だからダメージが入らなかったのだ。
まとめると弱い人が弱い武器で強い魔物を殴るとスキルが上昇しやすいってことか。
私はティアを抱き締めた。
「く、クロリアさん?」
「やったわよ! あなた強くなれるわ。才能がないことが逆に才能なのよ」
「もう、なんですかそれ」
そう言われたティアはご立腹だが、ティアに血反吐を吐くような訓練をさせなくて良いことが、すごく嬉しいのだ。
あの地獄の訓練を……。
あれ?
訓練? 地獄?
『何でお前はこんなことができん! 私をからかって楽しんでいるのか!!』
私の目の前に大男がいて、私を蹴り飛ばす。
『ごめんなさいお父様、でも、できません』
少女は素直にそういうと。顔を真っ赤にして顔を歪ませた大男が私を殴る。何度も何度も執拗に。
『痛い、痛い、やめてお父様』
だけど私の声は大男には届かない。
『姫王だと!? 王だと言うのか、こんな小娘が! お前など死んでしまえ』
そう叫びながら私を蹴る大男の目には憎しみの火が燃えていた。
私は悪い子なのかな。
生まれてきちゃいけなかったのかな。
もっと強くなればお父様は優しくしてくれるのかな。
マリアみたいに女の子らしくなれば、優しくしてくれるのかな。
良い子にするから。
ちゃんとできるように頑張るから。
だから……。 ……。 ……。
「ここは? 島?」
私は気がつくと砂浜にいた。周りにはなにもなく。マップを見ると海に囲まれた絶海の孤島だった。
光点が一つある、敵属性ではない。名前はクロイツ え? クロイツって私にそっくりな人と同名だけど、まさかその人? 私はその光点の場所を目指して歩き出した。
ほどなくしてその場所にたどりつくと、一人の女性が剣術に勤しんでいた。
その顔は私だった、そっくりなんて物じゃない、背丈からすべてに至るまで私だ。
あちらも私に気がついたようで驚いている。さてどうしたものか、アリエルを置いてガリウスと二人でハコブネを後にしたと言っていたけど。ガリウスとやらはどこにもいない。
用心深く距離をとっていると、クロイツは私の方に歩み寄る。そのたたずまいからは敵意は感じられない。
「あなた、もしかしてクロリア? どうやってここに来たの?」
「な、なんであなたが私を知っているのよ」
あったこともない私の名前を呼ぶクロイツに私は警戒して剣を抜く。
「あら、警戒しなくても良いわよ。私はあなたを害す気はないから」そう言うとクロイツは自分の剣を捨てた。
敵意がないと自分から剣を捨てるのはブラフですることもあるがクロイツからは微塵も殺気が感じられない。
剣を向けているのもアホらしくなり私も剣を納めた。
「それで、クロイツここはどこなの?」
私がそう訪ねると、少し迷いを見せる。
「そうね、言っても問題ないかな? あなたが挿してるその剣の中よ」と言い私の複製勇者ノ剣を指差す。
剣の中に世界? そんな馬鹿なことが……。いや、あるかもしれないわね、何せこの剣は神様製だ、不思議なギミックがあってもおかしくない。
「それで、なんであなたがこんなところに閉じ込められているの? ガリウスとか言う糞男と一緒にアリエルを捨てたあなたが」
「そうだね、私達はアリエルやカイエルを捨てたんだよね。あれだけ仲間だと言っていたのに」
クロイツを責めると、なんか自分を責めているみたいで嫌になる。私は甘やかされて生きていきたい。だからクロイツを責めるのはやめておこう。自分がやられて嫌なことは人にするなの精神ですよ。
いや、タテマエですけど。
「そんなことよりなんで私この剣の中に入っちゃったの? 帰りたいんだけど」
「それが分からないのよね、ここに来た人はあなたが初めてだから。なにかここに来る前に変わったことあった?」
変わったことと言えば記憶に無い父親の虐待だわね。それを事細かに伝えるとクロイツは青ざめた。
「そう、そんなにその子は殴られてたんだ」
震えるように声を絞り出すクロイツはどこか弱々しく思えた。
「ええ、もし私がその場にいたらその親父殺すくらいにね」
「殺しちゃうんだ?」
「殺すでしょ? あんな糞みたいなやつ、あの娘がかわいそうだわ」
「そう、ありがとう。でも父親だから殺さないで欲しいかな」
どうやら、あの記憶はクロイツの幼少期の頃の記憶のようで、あの大男はクロイツの父親らしい。
そして、その記憶が私に流れ込んだのだろうと言う。
「あなたが戻れないか試してみるわね」
そう言うと目をつぶり、誰かと話をしをしだした。外で見たら頭の痛い不思議ちゃんだわね。
しばらくすると、いつのまにか私は白い手に捕まれていた。
「な、なにこれ」
「大丈夫よ、それはあなたを引き上げてくれる存在だから」
「ちょ、まだ話は終わってないわよ」
「ここはあなたがいるべき世界じゃないから」
そう言って手をふるクロイツはすごく寂しそうだった。
「助けるから、あなたをこの剣から助け出すから!」
なぜか私はそう言わずにはいられなかった。クロイツはただ微笑むだけだった。
目が覚めるとティアが私に抱きつき泣いていた。
「どうしたのティア」
「クロリアさん?」
なんで疑問系なの?
「そうよ、私以外に誰がいるの」
私がそういうとティアは再び抱きつき、大きな声をあげて泣き出した。
なんで私は寝てたんだっけ? オークを殲滅したとは言え、魔物の集落で昼寝とか呑気すぎる。それに……。なにか大切なことを忘れているような気がするけど。
泣きじゃくるティアを抱え私は起き上がると腰がずしりと重かった。
その重みは複製勇者ノ剣の重みだった。重量が変わるわけないのにすごく重く感じ、やはりこれは私ごときが持つ剣じゃないなと、なぜだか思った。
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