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第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―

クロイツと勇者候補契約 その一

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 翌朝、私たちは昨日と同じように、アリエルは魔導具屋に修行に行き、私達三人は山に魔物狩りにと言う計画をしながら朝食を食べていたところ。
 憲兵隊が来て昨日の事件で聞きたいことがあると言うので、詰め所に連行されることになった。

 まあ、あれだけの事をしたのだ、何も事情を聴かないでは済まないのだろう。高圧的ではなく礼儀正しくしてくるので、無下にするわけにはいかないわね。

 朝食を済ませると、取り合えずみんなで詰め所へと行くことになった、詰め所に着くとそれぞれに事情を聞きたいと言うので、皆それぞれ別の部屋へと連れられていった。

 私は念の為みんなに糸を付けておいた。

「それで何が聞きたいんですか?」
 部屋に入り椅子に座った私はぶっきらぼうに憲兵の男に問うた。

「少々お待ちください」
 憲兵の男がそう言うと部屋のドアが開き、見知った男が入ってきた。
「やあやあ、昨日は大活躍のようですなクロリアさん」
 そうオチャラケた挨拶で入ってきたのはガンゼフこと、この国の第一王子の息子ストロガノフ。

「ガンゼフさん、あなたがなぜここに」
 私がそう言うと口許をニヤリとして自分の素性を話し出した。まずい、自分が王族だと言うことをバラすと言うことはこちらに有無を言わさず従わせる気だ。
 とは言え、ここまで聞いたらもう逃げ出すことはできない。マップでこの男の動きを注意しておくべきだったと自分の考えの甘さを痛感した。

 だけど、この男が自分の素性を言った時点で私も手を打たせてもらった。

「それで、その王子のストロガノフ様が平民の私に何かご用でしょうか」

「あなたに我が国の勇者代表として半年後の選抜大会に出場して欲しいのですよ」

「なにそれ? 聞いたこと無いわね」

 そう言う私にストロガノフは大会のことを詳しく説明をする。そして真魔王ガリウスが世界を滅ぼさない条件として、世界は勇者を擁立しなければいけなく、その為の勇者を選抜する大会に出て欲しいと言う。

「もちろんあなたに拒否権はありません」

「ふん、拒否したらどうなるわけ?」

「あなたは牢獄に投獄され仲間は死罪ですね」

「あなたと二人で話がしたいのだけど?」
 私がそう言うと憲兵を外に下がらせた、だけどその憲兵はドアの前で聞き耳をたてていた。それを指摘するとストロガノフは申し訳ないと言ってドアに剣を突き立てた。
マップから男の名前が消えた。死亡したようだ。

「身元を確かなものを仲間にしたのですが、どうやら間者が紛れ込んでいたようです」
 そう言うと王族とは思えない態度で頭を下げる。

「それで、なぜ。私に大会に出場して欲しいの?あなたも中々の手練れだと思うのだけど」

 そう言われたストロガノフは事情を説明する。この国を革命したいのだという。クーデターがしたいのかと聞くと。それは愚か者の選択ですと言う。クーデターでとった政権は反対するものたちにより安定した国家運営ができなく国民にしわ寄せがいくと言う。
 確かにそうね。クーデター程、愚かなものはない。

「でもね、あなた今私を暴力で言うことを聞かせようとしたのだけどそれについては良いの?」
 大なり小なり暴力で言うことを聞かそうとする人間は信用できない。

「それについては申し訳なく思います、しかし私も後がないのです」
 そう言うと切羽詰まった表情でストロガノフは私に懇願する。
 ストロガノフは順当にいけば、いずれは国王になれるのだが、父である第一王子の弟である第二王子が力をつけており、第一王子を追い落とす勢いなのだと言う。そして第二王子は腐敗していると言う。
 事情はわかったけど、私を脅したのと何よりアリエルの命を天秤鋳掛けたのが許せないわね。

 「ねえ、あなた首さわってみなさいよ、何かついてるわよ」
 私にそう言われたストロガノフは首に手をあて拭うとその手を見て目を見開く。

「ち、血……」

「今、この国全ての王族の首に念で作った糸を巻いたわ。私の指が動けばこの国の王族は全て死ぬわよ。そして今アリエルに手を出そうとした3人の兵のあそこを切り落としたわ」

「なっ!」
 見てきても良いわよと言うと、ドアを豪快に明けアリエルのいる部屋に向かった。私もそれについていくとアリエルの前にズボンを下ろした三人の憲兵が呻き声を上げて血の海に倒れていた。まあ足ごと切り落としたらそうなるわよね。
 こんなやつら助けてやること無いのに、アリエルは回復魔法で傷口を塞いであげていた。
 アリエルは部位欠損までは治せないので今後この三人が私たちに仕返しすることなできないだろう。
 夜襲は怖いからね、皆の安全の為には私は躊躇しない。

「あなた、自分の部下も制御できないようじゃ、たかが知れてるんじゃない?」
 私はストロガノフに嫌味を言うと、部下の件は申し訳ありませんでした、ちゃんと選んだはずなのですがと言い訳をする。
 でも、だからこそ私の力だけではなんともできないので、能力のあるものを貴族平民問わず重用したいのですと言う。現在は貴族以外主要な役職にはつけないそれを打破したいと言うのだ。

「まあ、あなたの言いたいことはわかったわ。で、あなたは死ぬ?」

「……ダメです、私はまだ死ねない。この国の人を全て笑顔にしたいんだ!」
 臭いわね、青臭いわ。でも私はこういうのは嫌いじゃない。

「まあ、いいわ。なら条件を変えてもらおうかしら」

「それはどういう?」

「だから、その大会で優勝して上げるから対価をよこしなさいってことよ。報酬よ報酬、お金の話をしましょうってこと」

「お金で解決できるなら」

「で、いくら出せるの?」

「3位までに入っていただければ十分ですので、1億Gゴルスまでだせます」

「それだと弱いわね、迷宮都市に私たちが住む家と、王族、あなたの父親か国王の後ろ楯と私達の身分の保証を約束しなさい」
 アリエルが指名手配されていないとはいえ、ヤマト神国女王の異母姉妹で疎まれている。なら少しでも状況改善のために力がある後ろ楯が欲しい。最終的に私が力を手にいれるつもりだけどそれまでの繋ぎとして、この国に後ろ楯になってもらいたい。

「分かりました王国騎士団長と同じ地位を約束します」
 王国騎士団長なら子爵以上伯爵未満って言うところね。私はそれで良いわと言おうとするとストロガノフはしかしと付け加える。第二王子も勇者候補を擁立しておりその者たちに勝たねばならないと言う。

「なるほど、分かったわ。でも他にもあるでしょう?」

「さすがですね」ストロガノフはそう言うと迷宮の覇王になって欲しいのだと言う。
 勇者候補者は半年以内に勇者の資質を示さなければならず、その為の功績として迷宮踏破及び迷宮の覇王を獲得して欲しいと言う。
 なにより、自国に幻想遺跡ルイナスがあるのに覇王は他国の人間と言うのは国民の士気高揚にも関わると言う。
 なるほど、迷宮の覇王が第一王子の息のかかったものなら、それだけで国王への道が約束されたようなものね。

「まあ、死ぬかもしれない勇者よりも、覇王だけで良いと言うのが本音です」
 すぐにでも国王が死ぬ状態ならいざ知らず、これから持ちつ持たれつになるなら、死ぬ勇者よりも君臨する覇王の方が良いわよね。

「分かったわ、迷宮都市に私たちが住む家と、王族、あなたの父親か国王の後ろ楯と私達の身分の保証を約束、それと月々100万Gゴルスで勇者候補大会3位入賞と迷宮の覇王を取れば良いのね?」

「月々100万Gゴルス増えてますが、それでお願いします。後はこの不届き者たちの始末ですね」
 ストロガノフはそう言うと三人の首をハネた。せっかくアリエルが治療してあげたのに無駄になったわね。
 この冷酷さが今一いまいち信用できないのよね。まあ、裏切りと謀略渦巻く王室で生きてきたら、こうなるのも仕方ないのかもしれないけど。

 ストロガノフは王都に行き対戦の準備をする為すぐに旅立つことになった、私たちは三日遅れで王都入りしてくれと言う。つまり、この町にいられるのも後三日と言うことか。

「アリエルはそれで大丈夫?」

「はい、三日もあれば全部覚えられると思います」
 ぐぅ、さすが我が嫁オババの知識も三日で覚えられる知識量なのか。
 他の二人を迎えに部屋へいくと、ディオナは兵士たちの服のつくろいをしてあげており、兵士達はディオナに熱い視線を送っていた。

 ティアは兵士たちからお菓子をたくさんもらい口を汚してパクパクとクリーム菓子を頬張っていたが私が入るのを見て、急に食べ方を上品に装う。
 私に大人としてみてもらいたいのはわかるけど、口にクリームついてるわよと指ですくって食べると中々美味しかった。これなら我を忘れるのも仕方ないわ。と思いつつティアを見ると顔が真っ赤である。

 ポクポクポク・チン!

 そうか口許についた物は、お弁当と言って後で食べるものなのだ。それを食べちゃった私にティアは怒っているのか。
 私は食べちゃったことを謝ると、後ろのアリエルにバカですか?と言われた、言われた。泣きたい。


 それはさておき、集まったみんなに今後の予定を伝える。後三日しかないのでこの町でやり残したことをやっておくようにと伝えた。
 もちろんあの叔母の件も含めて。だけど叔母の件はすでに終わっていた、昨日倒したヤクザの連中は人拐いの連中と繋がっており叔母が依頼したことも白状して叔母は逮捕されたそうだ。

「あのう、叔母に会いたいのですが」
 ディオナはそんな叔母でも私は好きでしたと言い、最後に挨拶がしたいのだと訴えた。
 ストロガノフは部下に命じて面会できるように取り計らっておくと言いその場を後にした。念の為に副官をあなた達のサポートとして町に置いておくので駒使いにお使いくださいと言う。

 副官は女の騎士で名前をエマと言い。歳を聞くとまだ19歳だと言う。ストロガノフとは幼馴染みだそうなのだがエマは貴族と言うわけではなく平民で城から抜け出したストロガノフと遊んでいた仲なのだそうだ。
 とは言えそんな彼女を残していくのは私たちが逃げないように見張りと言う意味もあるでしょうね?

 ふむ、かわいい娘よね、あの王子にはもったいないわね。出るとこ出てるし中々の曲線美である。

「痛っ!」
 妄想をしている私のおしりをアリエルがつねる。
「ダメですからね」
 いえいえ、私は不埒なことなど考えてませんよ? 本当ですよ?
 美しいものは美しいと言えるそんな世の中になって欲しい。ただそれだけなんですよ?

「また浮気ですか?」
 そう言ったのはディオナだ。クズを見るような蔑むような目で私を見る、こんな目で見られたことがない私の中で、何か生まれそうな気がした。

「ち、違うのよ、ただ綺麗だなって思っただけだから、それだけだから」
 例えば綺麗な花を見たとき、嫁がいるからって綺麗と思っちゃいけないなんておかしいでしょ? そう、だからこれは浮気じゃない。うん、浮気じゃない。

「エマさん気をつけてくださいね、この人ケダモノですから」ディオナがエマにそう言うと、彼女は乾いた笑いをして私と少し距離を置く。

「ディオナさん少しひどいと思うんですよ」

「何いってるんですか? かわいい妹と結ばれる人なのだから、ちゃんとして欲しいと思うのは当たり前でしょ?」

 ハイ、ごもっともです。正論には勝てません。私はフリーマンよ、とか言ったらまた殴られるんだろうなとアリエルとティアを見るが、かわいいから自由捨てても良いやとお思えた、そんな26歳の夏でした。



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