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第二章 真の勇者は異世界人
仲たがい
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誰が殺したのよ!
マリアの叫びが私の心を苛む。
私が、私の弱い心がみんなを不幸にした。
「ふむ、殺したのはガリウスという男だ」
マリアの問いに答えるように神のシンヤはつまらなそうに答える。
「ガリウス?」
その名前を聞きマリアは私を睨むように見る。私はその目から逃れるように顔をそむけた。
「シンヤ様それは……。」
脇に立つ少女がシンヤに異議を申し立てるがシンヤは手を払うように振るとクロイツは自殺だが実際に刺したのはガリウス様だという。いったいどんな状況なのかまるでつかめない。
そのやり取りを苛立だしく思ったマリアがシンヤを問い詰める。
「ガリウスとクロイツは互いに愛し合っておったのじゃが、クロイツがガリウスを使徒と認識してしまってのう。ガリウスを殺したくないクロイツはガリウスの手にかかることを望んで死んだのじゃ」
好き合っていた……。
ガリウス様とこの女性が。
「そんな、あの姉様が色恋で使命を放棄するなんて」
マリアは棺の中の姉を、まるで何かえたいの知れないような生物を見るような目で見ている。
「なんで私の好きな人はみんな使命を蔑ろにするのよ」
マリアが声を殺しながら呟いた。
「まあ、何でも良いわ。明日お主らにパンドラの魔獣を狩ってもらう」
シンヤはこんな状態の私達に戦えという。無理だまたもに戦えないし今は戦いたくない。
「お主達はパンドラの魔獣を倒しに来たのじゃろ? ならば戦え、それが使命だ」
使命、使命、使命。なんで私なのよ。
ただの高校生だった私に何を期待してるのよ。
「これから説明することをよく覚えておけ。いいか雑魚の魔物には絶対に手を出すな、生まれたばかりのあやつらは外に行くことだけしか頭にない。ただし攻撃されれば、すべての魔物はお主達に向かう」
なんで闘うんだっけ?
ガリウス様の為?
私が不幸にしたのに?
「そして、ごく稀にパンドラの魔獣ではなく魔人が出現する。魔人はお主らでは対処が無理ゆえ我が倒そう。我が行くまで時間稼ぎをせよ。何か質問はあるか?」
地球に戻りたい……。
「では各自部屋を用意したので明日までゆっくり休むが良いじゃろ」
神が指を鳴らすと、猫耳の亜人メイド達が現れ私たちを各自の部屋まで案内する。
猫耳の亜人もいるんだ。
私はあてがわれた部屋に逃げるように入ると、ベッドに飛び込み今の出来事を忘れるように眠った。
忘れたかった……。
どのくらい寝たのだろうか、誰かの起こす声で目が覚めた。
それはメルウスだった。
「食事の用意が出来たそうだけど」
「いらない」
マリアに会わせる顔がない、私のせいで姉を失ったのにどの面下げて会えと言うのだろうか。
いらないと言ったのにメルウスは出ていかない。
私を慰めようとしているのだろうか。
彼はいつも私に優しい、ついつい甘えてしまう。
「ねえ、メルウス」
「なんだい?」
「抱いてくれない?」
彼は私のとなりに座り、私を抱き締める。
抱き締める。
「そうじゃない……。男と女の抱いてと言ってるの」
「……それで良いの?」
「うん」
「ガリウスの事は、もういいの?」
「私は彼にふさわしくない……」
「俺なら良いのかい? 見くびらないでよマイラ、俺はそんなに安くないよ」
「……」
拒絶された、メルウスに。
嫌われた、優しいメルウスに。
どうして良いか分からず私は泣いてしまった。
まるで、三才児が泣くような泣き方で、わんわん泣いた。
もうだれも私を愛してくれない、優しいメルウスにも嫌われた、もう終わりだ。
すべて終わりだ。
だけど、あんなバカなことを言った私をメルウスは優しく抱き締め頭を撫でてくれる。
「大丈夫、落ち着くんだ俺はいつまでも君の側にいるから」
暖かい、彼は本心から言っている。
「見捨てないでくれるの?」
「見捨てないよ、側にいる」
満たされていく、彼は本心から言っている。
「嫌いにならない?」
「怒ることはあっても嫌いになることはないよ」
最低な私を好きでいてくれる、本心から。
「本当?」
「本当だよ」
それでも、確認せずにはいられない。
「本当に本当?」
「本当に本当だとも」
優しいメルウスは、私を嫌いにならない。
「でも、もうガリウス様に会えないよ。魔王を倒せばガリウス様と会うことになる、嫌われるのが怖い」
「そのガリウスが君のせいだって言ったのか?」
「……言ってない」
「だったら最後まで自分の想いを貫き通せよ、ガリウスに嫌われるその日まで」
「でも、私は……」
「最低だと思われるかもしれないが、俺は二人の女性が好きだ、その二人に拒絶されたとしても好きだということは変わらない」
「なんでよ、嫌われるのが嫌じゃないの?」
「構わないよ、二人が生きてさえいてくれればそれで良い」
「そうなんだ……。私はそんなに強くなれないよ」
ガリウス様に嫌われるのは嫌だ。
「それにガリウスはマイラの事を嫌わないと思うのよ」
「なんでそう思うのよ」
「ミリアスを頼んだのは、ガリウスなんだろ? 嫌いな人に重要人物を守ってなんて、お願いしないよ」
「……」
「それに魔王を倒さないとガリウスに会えないんだから、本心も聞けないだろ」
「だから、その本心が聞くのが怖いの……」
「じゃあ、フラレたらマイラは俺の嫁にしてやるよ、まあ第三婦人だけどね」
「なによそれ、馬鹿じゃないの」
メルウスが声をあげて笑っている。
私もそれがおかしくて、つられて笑った。
「まあ、なんにせよ魔王を倒さなきゃ話が進まないんだから倒すしかないよ」
「そうね、それでフラレたら私に魅力が無かっただけの話だしね」
「よし、じゃあ食事にしよう、なにも食べないで明日パンドラの魔獣は倒せないよ」
私は頷き、食事が用意されてる部屋へと向かった。
部屋の前に行くとアリエルとカイエルが待っていた。
顔がブカロティなので、ついつい睨んでしまう。
また私を責めるのかと身構えた。
「先程は兄が失礼いたしました」
アリエルは申し訳なさそうに謝るが、カイエルはそっぽを向いている。
「兄様、ちゃんと謝ってください」
「なぜだ、ガリウス様はこやつのせいで!」
「言い過ぎです、ガリウス様はそんなこと思いません。そんな事は兄様だって分かってるでしょう?」
「うぐぐ」
「兄様、ガリウス様の安否が知れないからと言って、八つ当たりは止めましょう」
「……すまなかった、確かに言い過ぎだった」
そう言うと軽く頭を垂れる。
「いいえ、あなたの言うことは間違いではありません、私が逃げなければ起こらなかった不幸はたくさんあります、だからこれは私の背負うべき罪なのです」
「マイラに罪はないよ」
メルウスの発言にカイエルが苛立ちを見せ彼を睨む。
「なんだ貴様、なぜステータスが表示されない」
「ガリウス様……?」
そう言うとアリエルがメルウスの胸に飛び込む。
「ガリウス様! ガリウス様! ガリウス様!」
「な、何を言ってるんだアリエル」
「私は見ました、連れていかれるガリウス様を、あの方のステータスは名前も含め存在してなかった」
「あ、あなたはガリウス様なのですか」
カイエルが恐る恐る尋ねる。
「いいえ、私はメルウスと申します」
アリエルはその言葉を否定する。
「この匂いガリウス様です、洗濯は私がしていたんですよ? 下着の匂いを嗅いでいたから間違いありません」
なにそれ羨ましい……。
ってメルウスがガリウス様? ありえないわよ。黒の戦士がガリウス様の技を使うのを見たし。
私はその場で真奈美との戦いを話した。
二人は真剣に私の話を聞いてくれた。
「そうか、良かった生きていてくれたのか」
そう言ってカイエルは泣き崩れた。
「私の考えた武器を使ってくださってるのですね」
アリエルは泣きながら笑う。
彼女がメルウスに何かを耳打ちしている。
それを聞き、メルウスは泣いているアリエルの頭を撫でた。
少し嫉妬したのは内緒だ。
騒がしかったのか、食事が用意されてる部屋の扉が開きマリアが顔を覗かせる。
「あんたに話あるんだから早く入ってきなさいよ」
あんたとはもちろん私の事だ。
マリアが私をあんた呼びするのはあの時以来か。
勇者だということを黙っていたことだろうか、それとも私のせいで姉が死んだことだろうか。
……全部でしょうね。
よっぽど腹に据えかねているのだろう。
怒気がビシビシと伝わってくる。
何を言われても受け入れよう、私は覚悟を決め部屋に入った。
「あんたは最低の勇者よ」
椅子に座るやいなやマリアは私を責め立てる。
「使命を投げ捨て、一般人の振りをして口を開けばガリウス、ガリウス、この淫乱女! 私の姉様を返してよ」
それはとても辛辣な言葉で、1年間仲良くやって来ただけに私の心に傷を残す。
「何か言いなさいよ、それともまた私を殴る? あの時みたいに」
殴れるわけがない、いまや彼女は私の大切な存在だ。
「マリア、言い過ぎだ」
そんな彼女をメルウスが嗜める
「は? うるさいわよ、全部本当の事じゃない。勇者の使命をまっとうせず、逃げて隠れて知らんぷり、最低じゃない」
「最低だとは思わないよ、勇者は異世界からの転生者だ、その世界は平和で争いがないと聞く、そんな世界の住人がいきなり戦えと言われて戦えるわけがないだろ」
「そんな平和な世界なんて言われても分からないわよ」
「俺も話で聞いただけだから詳しいことはわからない。でも、考えてあげることは出来るだろう?」
「分からないって言ってるでしょ!」
「考えるんだよ、平和な世界の人間と言うものを。例えば母親の庇護が必要な幼児が、魔物と戦えと言われて戦えるかい?」
「戦えるわけがないじゃない!」
「そう言うことだよ、異世界人は母親に守られた幼児と同じなんだよ」
「だから許せって言うの?」
「許せ許さないじゃなく、理解してあげて欲しい」
「なんなのよあんた! さっきからその女の事を擁護しちゃって。なに、あんたらデキテルの? お似合いよね無能と臆病者で」
マリアはメルウスにも攻撃し出した。
さすがにそれはおかしい、私が言われるのは仕方ない。
でも、メルウスは関係ない。
それに、彼を無能扱いするのは容認することはできない
「私の事は何と言っても良い、でもメルウスの事は悪く言わないで」
「うるさい! うるさい! もうあんたとはやっていけないのよ。ここでパーティーは解消する!」
「……マリア一緒に来てくれないの?」
「私の使命は強くなること、黒の神剣を持ち帰ること。だからあんたとは、ここでお別れ」
私は最初マリアを疎ましく思っていた。
でも1年の旅で私は彼女を好ましく思っていた。
そのせいだろう私の目からは涙が流れていた。
「な、泣くなんて、さすが卑怯者の勇者ね」
「ごめんなさい」
「と、取り合えず、パンドラの魔獣討伐には参加するわ、その後は別行動にさせてもらうから!」
「ありがとう、マリア」
「ふん」
マリアは私をそっぽを向き、荒々しく部屋を出ていった。
「ええと、僕は一緒にいきますからね」
部屋の隅で成り行きを見守っていたミリアスが私に声をかける。
「ありがとう、ミリアス」
ミリアスは私を責めず、ただ着いてくると言う。
今は責めないでくれるだけでもありがたい。
「取り合えず食事を食べよう、腹ペコじゃ明日の討伐をまともに戦えないしね」
メルウスがパンと手を叩くと席について食事を始めた。
私達も椅子に座りテーブルに並べられている食事をとり終え明日の討伐戦の話をした後、それぞれの部屋に戻った。
その途中、私はメルウスを呼び止めた。
「メルウスちょっと良い?」
「どうしたの?」
「さっきの事は気の迷いです、忘れてください」
「え、駄目だよ第三婦人確定してるんだから」
「むう、メルウスってそんな意地悪だったっけ?」
「そうだよ、好きな人には意地悪なんだ」
ちょ、なに言ってるのメルウスさん。
そんなこと言われたら押さえてた気持ちが爆発しますよ。
そう言うと彼は私に近付いて来た。
あかんです、この雰囲気、あかんです。
彼は軽く手をあげると、ハンドシェイクからの「うぇ~い」……。
いや、私もつられたけどさ。
空気読んでメルウスさん。
彼は私の両頬を指で挟むと、頬を上に引き上げた。
「ほら笑って、これやったら笑わないとダメだろ」
私は泣きながら笑った。
メルウスは本当に優しい。
もう駄目だ、気づかないようにしていたのに。
優しくし過ぎです。
「ガリウス様……。いいえ、今はメルウスで良いです、私にさせたいのも分かってます。でも、今はその胸で泣かせてください」
そう彼はガリウス様だ、先ほどのアリエルへの態度で確信した。
前から疑ってはいた。
私と会った時のタイミングや、黒い戦士が現れたとき、彼は意識がなかったそれなのに戦いの事を聞きもしなかった。
それ以外にも色々おかしかったのだ。
あの黒い戦士もガリウス様、メルウスもガリウス様、私には分かる。
ここは異世界だ何があってもおかしくないのだ。
彼の胸で泣く私の頭を優しく撫でてくれた。
その夜、私は彼に抱かれて眠った。
マリアの叫びが私の心を苛む。
私が、私の弱い心がみんなを不幸にした。
「ふむ、殺したのはガリウスという男だ」
マリアの問いに答えるように神のシンヤはつまらなそうに答える。
「ガリウス?」
その名前を聞きマリアは私を睨むように見る。私はその目から逃れるように顔をそむけた。
「シンヤ様それは……。」
脇に立つ少女がシンヤに異議を申し立てるがシンヤは手を払うように振るとクロイツは自殺だが実際に刺したのはガリウス様だという。いったいどんな状況なのかまるでつかめない。
そのやり取りを苛立だしく思ったマリアがシンヤを問い詰める。
「ガリウスとクロイツは互いに愛し合っておったのじゃが、クロイツがガリウスを使徒と認識してしまってのう。ガリウスを殺したくないクロイツはガリウスの手にかかることを望んで死んだのじゃ」
好き合っていた……。
ガリウス様とこの女性が。
「そんな、あの姉様が色恋で使命を放棄するなんて」
マリアは棺の中の姉を、まるで何かえたいの知れないような生物を見るような目で見ている。
「なんで私の好きな人はみんな使命を蔑ろにするのよ」
マリアが声を殺しながら呟いた。
「まあ、何でも良いわ。明日お主らにパンドラの魔獣を狩ってもらう」
シンヤはこんな状態の私達に戦えという。無理だまたもに戦えないし今は戦いたくない。
「お主達はパンドラの魔獣を倒しに来たのじゃろ? ならば戦え、それが使命だ」
使命、使命、使命。なんで私なのよ。
ただの高校生だった私に何を期待してるのよ。
「これから説明することをよく覚えておけ。いいか雑魚の魔物には絶対に手を出すな、生まれたばかりのあやつらは外に行くことだけしか頭にない。ただし攻撃されれば、すべての魔物はお主達に向かう」
なんで闘うんだっけ?
ガリウス様の為?
私が不幸にしたのに?
「そして、ごく稀にパンドラの魔獣ではなく魔人が出現する。魔人はお主らでは対処が無理ゆえ我が倒そう。我が行くまで時間稼ぎをせよ。何か質問はあるか?」
地球に戻りたい……。
「では各自部屋を用意したので明日までゆっくり休むが良いじゃろ」
神が指を鳴らすと、猫耳の亜人メイド達が現れ私たちを各自の部屋まで案内する。
猫耳の亜人もいるんだ。
私はあてがわれた部屋に逃げるように入ると、ベッドに飛び込み今の出来事を忘れるように眠った。
忘れたかった……。
どのくらい寝たのだろうか、誰かの起こす声で目が覚めた。
それはメルウスだった。
「食事の用意が出来たそうだけど」
「いらない」
マリアに会わせる顔がない、私のせいで姉を失ったのにどの面下げて会えと言うのだろうか。
いらないと言ったのにメルウスは出ていかない。
私を慰めようとしているのだろうか。
彼はいつも私に優しい、ついつい甘えてしまう。
「ねえ、メルウス」
「なんだい?」
「抱いてくれない?」
彼は私のとなりに座り、私を抱き締める。
抱き締める。
「そうじゃない……。男と女の抱いてと言ってるの」
「……それで良いの?」
「うん」
「ガリウスの事は、もういいの?」
「私は彼にふさわしくない……」
「俺なら良いのかい? 見くびらないでよマイラ、俺はそんなに安くないよ」
「……」
拒絶された、メルウスに。
嫌われた、優しいメルウスに。
どうして良いか分からず私は泣いてしまった。
まるで、三才児が泣くような泣き方で、わんわん泣いた。
もうだれも私を愛してくれない、優しいメルウスにも嫌われた、もう終わりだ。
すべて終わりだ。
だけど、あんなバカなことを言った私をメルウスは優しく抱き締め頭を撫でてくれる。
「大丈夫、落ち着くんだ俺はいつまでも君の側にいるから」
暖かい、彼は本心から言っている。
「見捨てないでくれるの?」
「見捨てないよ、側にいる」
満たされていく、彼は本心から言っている。
「嫌いにならない?」
「怒ることはあっても嫌いになることはないよ」
最低な私を好きでいてくれる、本心から。
「本当?」
「本当だよ」
それでも、確認せずにはいられない。
「本当に本当?」
「本当に本当だとも」
優しいメルウスは、私を嫌いにならない。
「でも、もうガリウス様に会えないよ。魔王を倒せばガリウス様と会うことになる、嫌われるのが怖い」
「そのガリウスが君のせいだって言ったのか?」
「……言ってない」
「だったら最後まで自分の想いを貫き通せよ、ガリウスに嫌われるその日まで」
「でも、私は……」
「最低だと思われるかもしれないが、俺は二人の女性が好きだ、その二人に拒絶されたとしても好きだということは変わらない」
「なんでよ、嫌われるのが嫌じゃないの?」
「構わないよ、二人が生きてさえいてくれればそれで良い」
「そうなんだ……。私はそんなに強くなれないよ」
ガリウス様に嫌われるのは嫌だ。
「それにガリウスはマイラの事を嫌わないと思うのよ」
「なんでそう思うのよ」
「ミリアスを頼んだのは、ガリウスなんだろ? 嫌いな人に重要人物を守ってなんて、お願いしないよ」
「……」
「それに魔王を倒さないとガリウスに会えないんだから、本心も聞けないだろ」
「だから、その本心が聞くのが怖いの……」
「じゃあ、フラレたらマイラは俺の嫁にしてやるよ、まあ第三婦人だけどね」
「なによそれ、馬鹿じゃないの」
メルウスが声をあげて笑っている。
私もそれがおかしくて、つられて笑った。
「まあ、なんにせよ魔王を倒さなきゃ話が進まないんだから倒すしかないよ」
「そうね、それでフラレたら私に魅力が無かっただけの話だしね」
「よし、じゃあ食事にしよう、なにも食べないで明日パンドラの魔獣は倒せないよ」
私は頷き、食事が用意されてる部屋へと向かった。
部屋の前に行くとアリエルとカイエルが待っていた。
顔がブカロティなので、ついつい睨んでしまう。
また私を責めるのかと身構えた。
「先程は兄が失礼いたしました」
アリエルは申し訳なさそうに謝るが、カイエルはそっぽを向いている。
「兄様、ちゃんと謝ってください」
「なぜだ、ガリウス様はこやつのせいで!」
「言い過ぎです、ガリウス様はそんなこと思いません。そんな事は兄様だって分かってるでしょう?」
「うぐぐ」
「兄様、ガリウス様の安否が知れないからと言って、八つ当たりは止めましょう」
「……すまなかった、確かに言い過ぎだった」
そう言うと軽く頭を垂れる。
「いいえ、あなたの言うことは間違いではありません、私が逃げなければ起こらなかった不幸はたくさんあります、だからこれは私の背負うべき罪なのです」
「マイラに罪はないよ」
メルウスの発言にカイエルが苛立ちを見せ彼を睨む。
「なんだ貴様、なぜステータスが表示されない」
「ガリウス様……?」
そう言うとアリエルがメルウスの胸に飛び込む。
「ガリウス様! ガリウス様! ガリウス様!」
「な、何を言ってるんだアリエル」
「私は見ました、連れていかれるガリウス様を、あの方のステータスは名前も含め存在してなかった」
「あ、あなたはガリウス様なのですか」
カイエルが恐る恐る尋ねる。
「いいえ、私はメルウスと申します」
アリエルはその言葉を否定する。
「この匂いガリウス様です、洗濯は私がしていたんですよ? 下着の匂いを嗅いでいたから間違いありません」
なにそれ羨ましい……。
ってメルウスがガリウス様? ありえないわよ。黒の戦士がガリウス様の技を使うのを見たし。
私はその場で真奈美との戦いを話した。
二人は真剣に私の話を聞いてくれた。
「そうか、良かった生きていてくれたのか」
そう言ってカイエルは泣き崩れた。
「私の考えた武器を使ってくださってるのですね」
アリエルは泣きながら笑う。
彼女がメルウスに何かを耳打ちしている。
それを聞き、メルウスは泣いているアリエルの頭を撫でた。
少し嫉妬したのは内緒だ。
騒がしかったのか、食事が用意されてる部屋の扉が開きマリアが顔を覗かせる。
「あんたに話あるんだから早く入ってきなさいよ」
あんたとはもちろん私の事だ。
マリアが私をあんた呼びするのはあの時以来か。
勇者だということを黙っていたことだろうか、それとも私のせいで姉が死んだことだろうか。
……全部でしょうね。
よっぽど腹に据えかねているのだろう。
怒気がビシビシと伝わってくる。
何を言われても受け入れよう、私は覚悟を決め部屋に入った。
「あんたは最低の勇者よ」
椅子に座るやいなやマリアは私を責め立てる。
「使命を投げ捨て、一般人の振りをして口を開けばガリウス、ガリウス、この淫乱女! 私の姉様を返してよ」
それはとても辛辣な言葉で、1年間仲良くやって来ただけに私の心に傷を残す。
「何か言いなさいよ、それともまた私を殴る? あの時みたいに」
殴れるわけがない、いまや彼女は私の大切な存在だ。
「マリア、言い過ぎだ」
そんな彼女をメルウスが嗜める
「は? うるさいわよ、全部本当の事じゃない。勇者の使命をまっとうせず、逃げて隠れて知らんぷり、最低じゃない」
「最低だとは思わないよ、勇者は異世界からの転生者だ、その世界は平和で争いがないと聞く、そんな世界の住人がいきなり戦えと言われて戦えるわけがないだろ」
「そんな平和な世界なんて言われても分からないわよ」
「俺も話で聞いただけだから詳しいことはわからない。でも、考えてあげることは出来るだろう?」
「分からないって言ってるでしょ!」
「考えるんだよ、平和な世界の人間と言うものを。例えば母親の庇護が必要な幼児が、魔物と戦えと言われて戦えるかい?」
「戦えるわけがないじゃない!」
「そう言うことだよ、異世界人は母親に守られた幼児と同じなんだよ」
「だから許せって言うの?」
「許せ許さないじゃなく、理解してあげて欲しい」
「なんなのよあんた! さっきからその女の事を擁護しちゃって。なに、あんたらデキテルの? お似合いよね無能と臆病者で」
マリアはメルウスにも攻撃し出した。
さすがにそれはおかしい、私が言われるのは仕方ない。
でも、メルウスは関係ない。
それに、彼を無能扱いするのは容認することはできない
「私の事は何と言っても良い、でもメルウスの事は悪く言わないで」
「うるさい! うるさい! もうあんたとはやっていけないのよ。ここでパーティーは解消する!」
「……マリア一緒に来てくれないの?」
「私の使命は強くなること、黒の神剣を持ち帰ること。だからあんたとは、ここでお別れ」
私は最初マリアを疎ましく思っていた。
でも1年の旅で私は彼女を好ましく思っていた。
そのせいだろう私の目からは涙が流れていた。
「な、泣くなんて、さすが卑怯者の勇者ね」
「ごめんなさい」
「と、取り合えず、パンドラの魔獣討伐には参加するわ、その後は別行動にさせてもらうから!」
「ありがとう、マリア」
「ふん」
マリアは私をそっぽを向き、荒々しく部屋を出ていった。
「ええと、僕は一緒にいきますからね」
部屋の隅で成り行きを見守っていたミリアスが私に声をかける。
「ありがとう、ミリアス」
ミリアスは私を責めず、ただ着いてくると言う。
今は責めないでくれるだけでもありがたい。
「取り合えず食事を食べよう、腹ペコじゃ明日の討伐をまともに戦えないしね」
メルウスがパンと手を叩くと席について食事を始めた。
私達も椅子に座りテーブルに並べられている食事をとり終え明日の討伐戦の話をした後、それぞれの部屋に戻った。
その途中、私はメルウスを呼び止めた。
「メルウスちょっと良い?」
「どうしたの?」
「さっきの事は気の迷いです、忘れてください」
「え、駄目だよ第三婦人確定してるんだから」
「むう、メルウスってそんな意地悪だったっけ?」
「そうだよ、好きな人には意地悪なんだ」
ちょ、なに言ってるのメルウスさん。
そんなこと言われたら押さえてた気持ちが爆発しますよ。
そう言うと彼は私に近付いて来た。
あかんです、この雰囲気、あかんです。
彼は軽く手をあげると、ハンドシェイクからの「うぇ~い」……。
いや、私もつられたけどさ。
空気読んでメルウスさん。
彼は私の両頬を指で挟むと、頬を上に引き上げた。
「ほら笑って、これやったら笑わないとダメだろ」
私は泣きながら笑った。
メルウスは本当に優しい。
もう駄目だ、気づかないようにしていたのに。
優しくし過ぎです。
「ガリウス様……。いいえ、今はメルウスで良いです、私にさせたいのも分かってます。でも、今はその胸で泣かせてください」
そう彼はガリウス様だ、先ほどのアリエルへの態度で確信した。
前から疑ってはいた。
私と会った時のタイミングや、黒い戦士が現れたとき、彼は意識がなかったそれなのに戦いの事を聞きもしなかった。
それ以外にも色々おかしかったのだ。
あの黒い戦士もガリウス様、メルウスもガリウス様、私には分かる。
ここは異世界だ何があってもおかしくないのだ。
彼の胸で泣く私の頭を優しく撫でてくれた。
その夜、私は彼に抱かれて眠った。
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