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第一章 勇者と魔王
勇者パーティーの女戦士クロイツ。
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この女、町中でなんて殺気だすんだ。冒険者ってこんなヤバイ奴の集団なのか?
女のLVは138もある。
ウィルソンが言っていた一握りの高ランク冒険者だ。
ステータス的には俺の方が上だが、その殺気は掻い潜ってきた修羅場の数を物語っている。
女は先程と違い無動作からいきなり斬りつけてきた。
動きが先程とは桁違いに速い。そして完全に殺意のこもった一撃だ。
俺の真名命名は鎮圧するには攻撃力が高すぎる。
MP1を使い魔力操作で身体強化をして対処をすることにした。
女の動きは速いが身体強化をした俺の動きはもっと速い。
「ちょこまかと!」
剣が当たらないことに女が苛立つ。
何度振ろうが無意味だ俺の目には剣の軌道が止まって見える。
とは言え結局身体強化に回しているMPは5だ、そのくらい回さないとこいつの剣を避けきれなかった。
もっと魔力を込めれば圧倒できるだろうがあまりMPを回すと力加減ができなくなってしまう。
身体強化によって動体視力が上がったおかげで俺の腕を傷つけた正体が見えた。
剣の他にも細い糸のようなものを魔力で操っていてそれがまるでムチのように攻撃に参加してくるのだ。
「スゲーなあいつ、勇者のパーティーメンバーのクロイツさんに触れさせもしねぇぞ」
他の冒険者が俺たちの戦いを見て驚きの声をあげる。
「勇者? お前、勇者のパーティーなのか?」
「それがどうしたっていうの! この戦いに関係あるの!?」
あのイケメン両手に花なのか。
まるで大人向け小説に出てくる主人公みたいな奴だな。
考え事をしてすきを作ったようでクロイツは渾身の力で、剣を振り下ろしてくる。
自己暗示「金剛不壊」
身体を金剛不壊で硬化させ、黒剣の横っ腹に拳を当てた。その瞬間、黒剣にヒビが入りポキリと折れて地面に落ちた。
しかし、ダメージ交換と言わんばかりに俺の体をクロイツの糸が切り裂く。
だが、糸は金剛不壊を貫くことができず、服がボロボロになっただけだった。
「私の剣が……」
黒剣を折られてショックなのかクロイツの動きが止まった。
その隙を見逃がさずに、俺はクロイツのおでこにデコピンを入れた。
身体強化された肉体に硬化された指の一撃はクロイツの頭を揺らすには十分な衝撃で、脳震盪をおこし膝から崩れ落ちるとクロイツは意識を失った。
これ以上かかわり合いになるのはゴメンなので俺は介抱せずにその場を去った。
できれば二度と会いたくないな。
冒険者登録はまた後日ということにしよう。
ボロボロになった服と傷だらけの腕を治すべく石を拾い全ての力で復元するを使った。
傷もふさがり、服も元の通りだ。
だが匂いは消えないので少し臭い気がする。後で洗濯しないとな……。
そうそう、王都に来たら欲しいものがあったのを思い出した。
アイテムバックだ。
旅人や冒険者には必須アイテム、何せ1つのカバンで200Kgの物を収容できるのだ。
ただしその価格は一個金貨15枚お高いのだ。だが俺の資金は潤沢だ。
今なら買える、値切れば二つ買える!
俺はアイテム屋を探しながら町を散策した。
しかし、この都はでかいな、アイテム屋がまったく見つからない。
暫く歩いていると、奴隷商の看板が見えた。
奴隷か……。
頭の良い奴隷に、俺の能力を研究してもらうのはどうだろうか?
現状、俺は能力を使いこなせていない。もっと効率良くしたいし、正直なところ一人で居るのは辛いし寂しい。
そう考えていたら、ふらふらと誘われるように奴隷商の店に入ってしまった。
「いらっしゃいませ、どのような奴隷をお探しでしょうか?」
かっぷくの良い店主が、揉み手で近寄ってくる。
「頭の良い子とかいますか?」
「そうでうね、頭の良い奴隷ですと、少しお高くなりますが、宜しいでしょうか?」
「予算は最大でも金貨25枚で考えてるんですが」
奴隷の価格は千差万別だが安い奴隷でも金貨10枚からだ。予算としては心もとない。
奴隷商は少し考える仕草をして、ポンと手を叩く。
「ちょうどいい奴隷がいます。傷物ななのですが、ご希望に添えると思います」
そう言うと、奴隷商人の男は俺を奥に案内した。
奴隷商人の男は歩きながら、その奴隷の話をした。
名前はアリエル、さる貴族の妾の娘で貴族の相続争いで相続権の無い兄が謀反を企み、家を乗っ取ろうとしたらしい。
だが、謀反は事前にばれ二人とも捕らえられて奴隷に落とされたそうだ。
その際、兄は腕を切られ妹は顔を焼かれた。
奴隷商人が一番奥の部屋で止まる、そこには顔の焼けただれた少女がいた。
なにか薬のようなものをかけたのか、片目が完全につぶれ、顔全体が焼けただれている。唇もなく歯も剥き出しだ。
「この娘でしたら、金貨10枚でいかがでしょうか」
どう考えても傷物ってレベルじゃない。最低価格でも高いのだろう。
完全にもて余して処分に困っているようだった。
「おねがぃじまず……あにをだずげで」
焼けただれた喉で声にならない声を出す少女。
この子は自分の身より兄を心配するのか。貴族の娘だから高飛車かと思ったら、ステータスは気立てがよく優しい心の持ち主となっていた。
「この子のお兄さんも、ここにいるのか?」
「はい、いますが、両手がありませんので人を殺したことがない貴族用の試し切り奴隷として保管してあります」
「ちなみにいくら?」
奴隷商の男は顎に手を当てて考える。
「二人を引き取っていただけるのでしたら金貨22枚でよろしいですよ」
抱き合わせ販売にしてきたか。
頭が良くてもこの傷じゃ商品価値も無い。なら、抱き合わせにして少しでも利益を得た方がいいと判断したか。
「じゃあ、二人とも買います」
「おお、お買い上げ、ありがとうございます」
そう言うと大袈裟に頭を下げた。
奴隷商人の男と契約成立の握手をする。これで解約はできない。
待合室で待つ俺の前に腕のない男と先程の少女が連れてこられた。
契約は呪術によるもので呪術師が行う。一人金貨1枚だ。
二人の首に奴隷紋ができ、そこに俺の血をつける。これで契約完了だ。
アリエルの顔には白い布が被された。アリエルは何度も泣きながら俺にお礼を言う。
兄の方は、先程から俺をにらんでいる。
敵意を持てば奴隷紋がその身を苦しめると言うのによくやるものだ。
「妹を、慰みものにしたら殺す」
兄のカイエルは奴隷契約が終わったとたん、俺を脅してきた。
契約前に脅せば妹を買ってもらえないと思って何も言わなかったのだろう。治療しなければアリエルの怪我でも死ぬからな。
「まあ、なんだ。詳しいことは後で聞くから」
二人を連れて俺はカルガモの宿へ向かった。
街を歩いていると二人への視線がすごかった。手の無い奴隷と顔を隠した奴隷じゃ目立つ、俺の配慮がたらなかったことを悔やむ。
カルガモの宿につくと、俺は二人の部屋を取った。宿の二人は奴隷だからとか言う差別はなく普通に宿を貸してくれた。
奴隷はどこの国でも物扱いで人権はない。そのせいか割りと差別的扱いを受ける。
俺の居た村では奴隷を嫁にしてる人がいて、その奴隷の女性とは子供の頃から仲良くしてたので奴隷に差別意識はない。
二人を俺の部屋までつれてくると、二人の傷を全ての力で復元するで治した。
腕がニョキニョキ生えてくる様はちょっと不気味だ。
「こんな、腕が……」
カイエルはハッとしてアリエルの顔にかかっている布を取った。
「アリエル 、お前の顔も元の白く透き通る艶のある美しい顔に治っているぞ!」
そう言うと、カイエルは大粒の涙を流し、アリエルを抱き締め「すまなかった」と何度も謝る。
ひとしきり二人で泣いた後、カイエルは俺に臣下の礼をとった。
「このご恩、我が命つきるまで、あなた様に報いましょうぞ」
「いや、そんな大袈裟なものじゃ……」
続いてアリエルも膝をつく。
その後、三人で身の上話をした。
二人は嵌められたのだという。
妾とはいえ剣の腕がたつカイエルは騎士団にも所属していた。
現当主である異母兄弟は剣の腕も駄目、頭も悪いので役職もなく、家で引きこもっていたそうだ。
そんなおり、父親である公爵が死去。ある程度の遺産をカイエルとアリエルに渡すように遺言で書いてあったのが、それが気に食わなかったらしく、ありもしない容疑をかけられ今に至るらしい。
「その異母兄弟に怨みはないの?」
「無いと言えば嘘になりますが、今はガリウス様に仕えたい気持ちの方が強いです」
「私はお姉さまに嫌われたのが正直信じられませんが、私もガリウス様に一生仕えたいです」
「そうか、できれば主従関係じゃなくて仲間だと思ってくれるとうれしい」
俺はカイエルにそう言うとハッと礼を取る。
カイエルさん、それ仲間じゃなくて家臣ですよね……。
「私はガリウス様を主人と認めました。ですが先程も言いましたが妹には手出し無用でお願い致します」
その言葉をアリエルが拒否をする。
「私はガリウス様の夜伽の相手ならしたいです」ときっぱりといい放った。
「お前、それは……」
「兄さんは黙っててください」
アリエルにそう言われカイエルはシュンと落ち込む。
確かに美人だし、15歳にしては出るところも出て引っ込むところは引っ込んでるよ。
だからと言って手を出したら結局そういう意味で買った奴隷ということになる。俺が欲しいのは知識であり仲間であり友達なのだ。
「俺はアリエルをそう言うことをさせるために買った訳じゃないから」
俺はアリエルの申し出を断った。だが今度はアリエルがその言葉にシュンとする。
それを見てカイエルが俺を睨んで言う。
「妹の何がいけないのですか!」
いや、お前どっちだよ! くっ付けたいのか、くっ付けたくないのか分からないよ!
カイエルのステータスを見るとシスコン(極)となっていた。
性格にもランクあるんだ?
まあ、それは良いとして俺がアリエルたちを買った本題を話す。
「俺には三つの能力がある」
「神の祝福を三つですか……」
カイエルとアリエルが驚いて俺を見る、この力は神の祝福というのか。
アリエルの説明では神の祝福は最初から持つものは稀でレベル100から得るのが普通だという。もちろんレベル100といえども手に入れられるのは稀だという。
それと俺は今までの出来事をすべて二人にに話した。真名命名、自己暗示、必殺技命名この三つがあること。ミスティアを勇者にしたこと。包み隠さずすべて。
「つまり、ミスティア様はガリウス様が真名命名で勇者にしたということですか?」
「そうなるね」
「でも、そうなると……」
アリエルが難しい顔をする。
「どうしたの?」
「他に勇者がいるということになります」
確かにそうだ。ミスティアが偽勇者なら他に勇者がいるはずだ。ではその本当の勇者は今何をしているんだ?
その俺の疑問にアリエルは答える。
試しの剣は勇者が持つと勇者の剣に変わるそうなのだが、その試しの剣がない為に本物の勇者が分からないというのだ。
「いつから無いんだ?」
「10年前、突如神殿に祀られていた試しの剣が消えてしまいました」
「10年前か、俺がひのきの棒で勇者の剣作った時と同じ時期か」
「「それだ!」」
カイエルとアリエルがハモった。
勇者の剣は世界で一本しか存在しないもので、二本は存在しない。つまり二本目が出来たせいで一本目が消失したと言うことらしいのだ。
知らない事とは言え、関係者の皆様すみませんでした。
話は戻すが、つまりミスティアは勇者の素質がないのに勇者をしている。
試しの剣がないから誰が勇者かわからないせいもあり。無理矢理、勇者に据え置かれている可能性があると言うことなのだ。
以前から勇者にしては弱すぎると酷評され。クロイツと同程度の力しか持っていないミスティアを最弱勇者と貴族の間で嘲笑されているというのだ。
そんな彼女を公私ともに支えているのがランスロットであり。ミスティアも彼に全幅の信頼をよせている。
そりゃあ、惚れても仕方ないか。
俺は「よし」と手を叩くと二人に役割を与えた。
「という事でアリエルには俺の能力の解明。カイエルは……アリエルの護衛? を任せたい」
「は! 喜んで!」
めちゃ喜んでるよカイエルさん 、妹好きすぎだろ。
″コンコン″
唐突にドアがノックされる、この街に知り合いなどいないので宿の人だろう。
ドア越しだと名前が見えないようだ。
「ガリウスさん、女性のお客様が来ておられますが……」
まさかミスティアか? 俺の胸は高鳴った。そんなわけないと思いつつも未練があるのだ。
「お客様困ります!」
その声と共に鍵のかかっているドアがぶち壊され、女性が入ってきて抱きついてきた。
「旦那様!」
その女性はクロイツだった。 だが抱きついてる相手はカイエルだった。
「「あんた、だれ?」」
二人の声が虚しくハモった……。
女のLVは138もある。
ウィルソンが言っていた一握りの高ランク冒険者だ。
ステータス的には俺の方が上だが、その殺気は掻い潜ってきた修羅場の数を物語っている。
女は先程と違い無動作からいきなり斬りつけてきた。
動きが先程とは桁違いに速い。そして完全に殺意のこもった一撃だ。
俺の真名命名は鎮圧するには攻撃力が高すぎる。
MP1を使い魔力操作で身体強化をして対処をすることにした。
女の動きは速いが身体強化をした俺の動きはもっと速い。
「ちょこまかと!」
剣が当たらないことに女が苛立つ。
何度振ろうが無意味だ俺の目には剣の軌道が止まって見える。
とは言え結局身体強化に回しているMPは5だ、そのくらい回さないとこいつの剣を避けきれなかった。
もっと魔力を込めれば圧倒できるだろうがあまりMPを回すと力加減ができなくなってしまう。
身体強化によって動体視力が上がったおかげで俺の腕を傷つけた正体が見えた。
剣の他にも細い糸のようなものを魔力で操っていてそれがまるでムチのように攻撃に参加してくるのだ。
「スゲーなあいつ、勇者のパーティーメンバーのクロイツさんに触れさせもしねぇぞ」
他の冒険者が俺たちの戦いを見て驚きの声をあげる。
「勇者? お前、勇者のパーティーなのか?」
「それがどうしたっていうの! この戦いに関係あるの!?」
あのイケメン両手に花なのか。
まるで大人向け小説に出てくる主人公みたいな奴だな。
考え事をしてすきを作ったようでクロイツは渾身の力で、剣を振り下ろしてくる。
自己暗示「金剛不壊」
身体を金剛不壊で硬化させ、黒剣の横っ腹に拳を当てた。その瞬間、黒剣にヒビが入りポキリと折れて地面に落ちた。
しかし、ダメージ交換と言わんばかりに俺の体をクロイツの糸が切り裂く。
だが、糸は金剛不壊を貫くことができず、服がボロボロになっただけだった。
「私の剣が……」
黒剣を折られてショックなのかクロイツの動きが止まった。
その隙を見逃がさずに、俺はクロイツのおでこにデコピンを入れた。
身体強化された肉体に硬化された指の一撃はクロイツの頭を揺らすには十分な衝撃で、脳震盪をおこし膝から崩れ落ちるとクロイツは意識を失った。
これ以上かかわり合いになるのはゴメンなので俺は介抱せずにその場を去った。
できれば二度と会いたくないな。
冒険者登録はまた後日ということにしよう。
ボロボロになった服と傷だらけの腕を治すべく石を拾い全ての力で復元するを使った。
傷もふさがり、服も元の通りだ。
だが匂いは消えないので少し臭い気がする。後で洗濯しないとな……。
そうそう、王都に来たら欲しいものがあったのを思い出した。
アイテムバックだ。
旅人や冒険者には必須アイテム、何せ1つのカバンで200Kgの物を収容できるのだ。
ただしその価格は一個金貨15枚お高いのだ。だが俺の資金は潤沢だ。
今なら買える、値切れば二つ買える!
俺はアイテム屋を探しながら町を散策した。
しかし、この都はでかいな、アイテム屋がまったく見つからない。
暫く歩いていると、奴隷商の看板が見えた。
奴隷か……。
頭の良い奴隷に、俺の能力を研究してもらうのはどうだろうか?
現状、俺は能力を使いこなせていない。もっと効率良くしたいし、正直なところ一人で居るのは辛いし寂しい。
そう考えていたら、ふらふらと誘われるように奴隷商の店に入ってしまった。
「いらっしゃいませ、どのような奴隷をお探しでしょうか?」
かっぷくの良い店主が、揉み手で近寄ってくる。
「頭の良い子とかいますか?」
「そうでうね、頭の良い奴隷ですと、少しお高くなりますが、宜しいでしょうか?」
「予算は最大でも金貨25枚で考えてるんですが」
奴隷の価格は千差万別だが安い奴隷でも金貨10枚からだ。予算としては心もとない。
奴隷商は少し考える仕草をして、ポンと手を叩く。
「ちょうどいい奴隷がいます。傷物ななのですが、ご希望に添えると思います」
そう言うと、奴隷商人の男は俺を奥に案内した。
奴隷商人の男は歩きながら、その奴隷の話をした。
名前はアリエル、さる貴族の妾の娘で貴族の相続争いで相続権の無い兄が謀反を企み、家を乗っ取ろうとしたらしい。
だが、謀反は事前にばれ二人とも捕らえられて奴隷に落とされたそうだ。
その際、兄は腕を切られ妹は顔を焼かれた。
奴隷商人が一番奥の部屋で止まる、そこには顔の焼けただれた少女がいた。
なにか薬のようなものをかけたのか、片目が完全につぶれ、顔全体が焼けただれている。唇もなく歯も剥き出しだ。
「この娘でしたら、金貨10枚でいかがでしょうか」
どう考えても傷物ってレベルじゃない。最低価格でも高いのだろう。
完全にもて余して処分に困っているようだった。
「おねがぃじまず……あにをだずげで」
焼けただれた喉で声にならない声を出す少女。
この子は自分の身より兄を心配するのか。貴族の娘だから高飛車かと思ったら、ステータスは気立てがよく優しい心の持ち主となっていた。
「この子のお兄さんも、ここにいるのか?」
「はい、いますが、両手がありませんので人を殺したことがない貴族用の試し切り奴隷として保管してあります」
「ちなみにいくら?」
奴隷商の男は顎に手を当てて考える。
「二人を引き取っていただけるのでしたら金貨22枚でよろしいですよ」
抱き合わせ販売にしてきたか。
頭が良くてもこの傷じゃ商品価値も無い。なら、抱き合わせにして少しでも利益を得た方がいいと判断したか。
「じゃあ、二人とも買います」
「おお、お買い上げ、ありがとうございます」
そう言うと大袈裟に頭を下げた。
奴隷商人の男と契約成立の握手をする。これで解約はできない。
待合室で待つ俺の前に腕のない男と先程の少女が連れてこられた。
契約は呪術によるもので呪術師が行う。一人金貨1枚だ。
二人の首に奴隷紋ができ、そこに俺の血をつける。これで契約完了だ。
アリエルの顔には白い布が被された。アリエルは何度も泣きながら俺にお礼を言う。
兄の方は、先程から俺をにらんでいる。
敵意を持てば奴隷紋がその身を苦しめると言うのによくやるものだ。
「妹を、慰みものにしたら殺す」
兄のカイエルは奴隷契約が終わったとたん、俺を脅してきた。
契約前に脅せば妹を買ってもらえないと思って何も言わなかったのだろう。治療しなければアリエルの怪我でも死ぬからな。
「まあ、なんだ。詳しいことは後で聞くから」
二人を連れて俺はカルガモの宿へ向かった。
街を歩いていると二人への視線がすごかった。手の無い奴隷と顔を隠した奴隷じゃ目立つ、俺の配慮がたらなかったことを悔やむ。
カルガモの宿につくと、俺は二人の部屋を取った。宿の二人は奴隷だからとか言う差別はなく普通に宿を貸してくれた。
奴隷はどこの国でも物扱いで人権はない。そのせいか割りと差別的扱いを受ける。
俺の居た村では奴隷を嫁にしてる人がいて、その奴隷の女性とは子供の頃から仲良くしてたので奴隷に差別意識はない。
二人を俺の部屋までつれてくると、二人の傷を全ての力で復元するで治した。
腕がニョキニョキ生えてくる様はちょっと不気味だ。
「こんな、腕が……」
カイエルはハッとしてアリエルの顔にかかっている布を取った。
「アリエル 、お前の顔も元の白く透き通る艶のある美しい顔に治っているぞ!」
そう言うと、カイエルは大粒の涙を流し、アリエルを抱き締め「すまなかった」と何度も謝る。
ひとしきり二人で泣いた後、カイエルは俺に臣下の礼をとった。
「このご恩、我が命つきるまで、あなた様に報いましょうぞ」
「いや、そんな大袈裟なものじゃ……」
続いてアリエルも膝をつく。
その後、三人で身の上話をした。
二人は嵌められたのだという。
妾とはいえ剣の腕がたつカイエルは騎士団にも所属していた。
現当主である異母兄弟は剣の腕も駄目、頭も悪いので役職もなく、家で引きこもっていたそうだ。
そんなおり、父親である公爵が死去。ある程度の遺産をカイエルとアリエルに渡すように遺言で書いてあったのが、それが気に食わなかったらしく、ありもしない容疑をかけられ今に至るらしい。
「その異母兄弟に怨みはないの?」
「無いと言えば嘘になりますが、今はガリウス様に仕えたい気持ちの方が強いです」
「私はお姉さまに嫌われたのが正直信じられませんが、私もガリウス様に一生仕えたいです」
「そうか、できれば主従関係じゃなくて仲間だと思ってくれるとうれしい」
俺はカイエルにそう言うとハッと礼を取る。
カイエルさん、それ仲間じゃなくて家臣ですよね……。
「私はガリウス様を主人と認めました。ですが先程も言いましたが妹には手出し無用でお願い致します」
その言葉をアリエルが拒否をする。
「私はガリウス様の夜伽の相手ならしたいです」ときっぱりといい放った。
「お前、それは……」
「兄さんは黙っててください」
アリエルにそう言われカイエルはシュンと落ち込む。
確かに美人だし、15歳にしては出るところも出て引っ込むところは引っ込んでるよ。
だからと言って手を出したら結局そういう意味で買った奴隷ということになる。俺が欲しいのは知識であり仲間であり友達なのだ。
「俺はアリエルをそう言うことをさせるために買った訳じゃないから」
俺はアリエルの申し出を断った。だが今度はアリエルがその言葉にシュンとする。
それを見てカイエルが俺を睨んで言う。
「妹の何がいけないのですか!」
いや、お前どっちだよ! くっ付けたいのか、くっ付けたくないのか分からないよ!
カイエルのステータスを見るとシスコン(極)となっていた。
性格にもランクあるんだ?
まあ、それは良いとして俺がアリエルたちを買った本題を話す。
「俺には三つの能力がある」
「神の祝福を三つですか……」
カイエルとアリエルが驚いて俺を見る、この力は神の祝福というのか。
アリエルの説明では神の祝福は最初から持つものは稀でレベル100から得るのが普通だという。もちろんレベル100といえども手に入れられるのは稀だという。
それと俺は今までの出来事をすべて二人にに話した。真名命名、自己暗示、必殺技命名この三つがあること。ミスティアを勇者にしたこと。包み隠さずすべて。
「つまり、ミスティア様はガリウス様が真名命名で勇者にしたということですか?」
「そうなるね」
「でも、そうなると……」
アリエルが難しい顔をする。
「どうしたの?」
「他に勇者がいるということになります」
確かにそうだ。ミスティアが偽勇者なら他に勇者がいるはずだ。ではその本当の勇者は今何をしているんだ?
その俺の疑問にアリエルは答える。
試しの剣は勇者が持つと勇者の剣に変わるそうなのだが、その試しの剣がない為に本物の勇者が分からないというのだ。
「いつから無いんだ?」
「10年前、突如神殿に祀られていた試しの剣が消えてしまいました」
「10年前か、俺がひのきの棒で勇者の剣作った時と同じ時期か」
「「それだ!」」
カイエルとアリエルがハモった。
勇者の剣は世界で一本しか存在しないもので、二本は存在しない。つまり二本目が出来たせいで一本目が消失したと言うことらしいのだ。
知らない事とは言え、関係者の皆様すみませんでした。
話は戻すが、つまりミスティアは勇者の素質がないのに勇者をしている。
試しの剣がないから誰が勇者かわからないせいもあり。無理矢理、勇者に据え置かれている可能性があると言うことなのだ。
以前から勇者にしては弱すぎると酷評され。クロイツと同程度の力しか持っていないミスティアを最弱勇者と貴族の間で嘲笑されているというのだ。
そんな彼女を公私ともに支えているのがランスロットであり。ミスティアも彼に全幅の信頼をよせている。
そりゃあ、惚れても仕方ないか。
俺は「よし」と手を叩くと二人に役割を与えた。
「という事でアリエルには俺の能力の解明。カイエルは……アリエルの護衛? を任せたい」
「は! 喜んで!」
めちゃ喜んでるよカイエルさん 、妹好きすぎだろ。
″コンコン″
唐突にドアがノックされる、この街に知り合いなどいないので宿の人だろう。
ドア越しだと名前が見えないようだ。
「ガリウスさん、女性のお客様が来ておられますが……」
まさかミスティアか? 俺の胸は高鳴った。そんなわけないと思いつつも未練があるのだ。
「お客様困ります!」
その声と共に鍵のかかっているドアがぶち壊され、女性が入ってきて抱きついてきた。
「旦那様!」
その女性はクロイツだった。 だが抱きついてる相手はカイエルだった。
「「あんた、だれ?」」
二人の声が虚しくハモった……。
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