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2章 ゴブリンの花嫁たち

サラ・ゴメスティリス・バラドンナの独白

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 ゴブリンの数が多い一体何体いるんだ。

 それに、あの頃とは桁違い強い。ただのゴブリンがまるでオーガだわ。

 ケンタが作ってくれた魔剣がなければ入り口で死んでいた。

 いや、孕女にされていたと言った方が正解か。

 死ぬのは怖くない。でもケンタを裏切ったことだけは心残りかな。

雅斬ガザン!」

 右足の関節がほとんど動かない私は右足に頼らない戦闘術を編み出した。

 この日のために備えた。この魔剣と戦闘技術が合わされば、あの当時の私よりも遥かに強いはず。

「グギャアアア」

 単体では勝てないと察したゴブリン達が一斉に襲い来る。

「エアーストラッシュ!」

 無数の風の刃がゴブリン達を切り裂く。ぶつ切りになったゴブリン達の死肉が私の足元を不安定にする。

 それに剣の切れ味が落ちてきた。+2あった切れ味がなくなってしまった。

 だけど元々の切れ味がすごいので、たいしたマイナスにはならないはずだ。

 一歩ずつ、一歩ずつ行くんだ。あの娘を助けるために。

 いつのまにか周りをゴブリンの群れに囲まれていた。

 私の目的地が分かっているのだし当然か。

 それにしても数が多い。1000、いや2000匹はいるわね。

 圧倒的物量の前に抜けそうになる気力を奮い立たせる。

 中央に一際大きいゴブリンがいた。あれはゴブリンキング!?

 あいつを倒せば。

 ゴブリンキングの腕が上がり私に向かって腕が振られる。その合図に従いゴブリン達が雪崩となって襲いかかる。

「旋風斬」

 左足を軸に回転し、360°の方向に剣を薙ぐ。

 その剣撃からは真空の刃が出て雪崩のように襲い来るゴブリンたちをなます切りにするを。

 コブリンがまるで流れ作業のように死んでいく。死体はどんどん積み重なり私の数メートル先に山を作る。

 殺しても殺しても、次から次へと襲い来る。

「いつまで持つかな人の子よ」

 ゴブリンキングが人語を話し私を嘲り笑う。あの時よりも進化したということだろうか?

「猿がしゃべるんじゃないわよ!」

「我を愚弄するか矮小な人の子よ。ならば死ぬがよい魔導部隊前へ」

 その合図で杖をもったゴブリンが前に出て呪文を唱える。ゴブリンが魔法を使うの!? 逃げないと。

 逃げようとする私は周りを見て愕然とした。ゴブリンの死体がまるでコロシアムのように壁となって私の退路を断つ。あのゴブリン達は捨て石だったのだ。私を逃がさないための。

「ふはは、これがゴブリンの兵法殺死亜夢コロシアムよ!」

「ヒ ヨ キタレ」

 ゴブリン達の杖からリンゴサイズの火の玉が飛び出る。相殺するしかない。

「エアーストラッシュ!」

「ヒョウ ヨ キタレ」

 私の魔法剣と同時に後方から呪文が響く。

 私のエアーストラッシュが火魔法を切り裂くのと同時に背中を人の頭ほどあるひょうが襲う。

 3発以上のひょうが当たり、私の体力を削る。

 ゴブリンキングがニヤケた面を見せる。

 普通に考えれば分かったはずだ、あの火魔法はブラフだ孕女にしたいのだから焼き殺すわけがない。

 氷魔法で体力を削りきったあとに捕まえれば良いのだから。

 今度は氷魔法を使った魔法使い達が火魔法を使う。

 私はそれを無視して待機している魔法使いの方を向く。

 火魔法は当てる気がないなら警戒しても無駄だ。次の氷魔法を警戒した方がいい。

 だけど、私の予想はハズレた、火の玉が私の背中を焼いたのだ。

「ぐっ、なんで」

 それと同時に警戒していた氷使いの魔法使いがひょうを撃ち私に追撃を与えた。その衝撃に耐えきれず私は膝をついた。

「グハハハ、愚か愚かなり巨人の娘よ。我らが貴様を孕女にするとでも思うたか。我らが望は亜人種よ、貴様のような人の出来損ないではないわ」

 知恵をもったゴブリンキングは私たち人間種と亜人種の区別がつくようで私のような巨人の女は不要だと罵る。

「やれ!」

 再びゴブリンキングが手を下ろすと魔法使いが呪文を唱える。

「カゼ ヨ キタレ」

 緑の風かゴブリンの持つ杖から放たれる。

 私はその風が放たれた瞬間、地面にエアーストラッシュを放った。

 エアーストラッシュがダウンバーストとなり魔法を掻き消す。

 その力で私の体が浮かび上空に舞い上がる。更にエアーストラッシュをゴブリンキングとは反対方向に撃つ。そのエアーストラッシュに何体かのゴブリンが巻き込まれてコマ切れになる。

「グハハハ、愚か者めどこに撃っておるワシはこっちだぞ」

 だが私の放ったエアーストラッシュの威力で私の体は流れ星のごとく一直線にゴブリンキングに向かった。

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

「ヌッ!? 身動きできない空を飛ぶとはつくずく愚かよな」

 ゴブリンキングは傍らの斧を肩に背負う。

 その斧は人間が両腕を広げたような斧で柄から突端まで2メートルはあるほどの大きさだ。

 奴はそれを私に向かい投げつけた。空中では逃げ場はない。私は魔剣の切っ先をその斧に向かい突き出した。

「そんな細い剣で我が罪人ノ磔斧ゴルゴダの一撃を防ぐことなどできぬわ!」

 超回転する斧の動きを見切ることはできない。剣で防いでも回り込まれて私の身体は寸断される。

 少しで良い少しだけずらせることができれば。

 斧が私を襲う瞬間、剣を斜めに受け流しの型をとる。スルッという感触と共に斧が私をカスメ後方に飛んでいく。

「なッ!?」

 ゴブリンキングが驚きの声をあげる。

 受け流しが成功した。ケンタの鍛冶師の力にかけて正解だった。

 まさか避けられるとは思っていなかったゴブリンキングは私の攻撃に対応できない。

 そしてこの距離ならはずさない。

「蛇突!」

 剣がまるで蛇のようにうなり敵を穿つ、この技は回避不能の戦士最終奥義の一つ。

 私に向かいゴブリンキングは手刀を伸ばす、その腕をかいくぐるように私の剣撃が奴に向かう。

 手刀が私の右肩をえぐる。傷は深く右腕から感覚が失せ剣を持つこともできなくなり私は剣を離した。

 だけど私は奴を見て笑った。私の剣はやつの喉を貫いて、その傷は心の臓を貫いていた。

 私は左腕で剣を再び取り、首を切り落とすとトドメを刺した。

 ゴブリン達はゴブリンキングが死んで統率がとれなくなったのか悲鳴のような雄叫びを上げる。

 右腕が使えない。利き腕じゃない左じゃ技を繰り出すこともできない。

 ここで終わりか……。もう少しでシーファを解放することができたのに。

 せめてシーファの近くで死にたい。

 シーファを見捨ててないことを知って欲しい。

 私は襲い来るゴブリンを左手持ちの魔剣で捌きつつ前に進んだ。

 だがゴブリン達の猛攻の前には左手の剣士では3メートル進めずに私は地に伏した。

 シーファを解放できなかったのは悔しいけど。少しでもシーファの側で死ねるなら……。

 いいえ、まだよ。

 まだ、死ねない。

 私はシーファを殺すまで死ねないのよ!

「邪魔なのよ、このごみ虫どもが!! エアーストラッシュ!」

 左手の魔剣を右手に寄せ魔剣を触らせた。

 右手は剣に添えるだけで魔法剣を発動さることができた。

 私を押さえつけていたゴブリン達は風で切り裂かれたが。私を囲むゴブリンの数は数えきれないほどだ。

 先程かなり倒したのにまだ同じ数以上いる。と言うか最初より増えてる?

 何匹いるのよ。あんたらは台所に現れるゴキブリか。

 良いわよとことんやってやるわよ。

「殺し尽くしてあげるわ。かかってきなさい!」

「ギャアワァァァ!」

 私の挑発に怒りを覚えたのかゴブリン達はこん棒でバシバシと地面を叩き私を威嚇する。

 それが鳴り止むと一気にゴブリン達が飛びかかってきた。

「アローレイン!」

 どこからともなく呪文を叫ぶ声が聞こえゴブリン達を光の矢が襲う。

 すべてのゴブリンが光の矢に撃ち抜かれサラサラと粒子になって消え去った。

 その声の主を探すと小高い丘に4人の人影が見えた。

 その中の一人が私に親指を立てサムズアップする。

 私の大好きな人だ。

 他の三人も私の大切な仲間だ。

 安堵からか後悔からか、生きてもう一度会えたからか分からない。

 でも、その四人の姿を目にした私は涙せずにはいられなかった。

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