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2章 ゴブリンの花嫁たち
どんなときにも止まらない妄想族のケンタが妄想を我慢する。もうそうなんですよ。
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「ケンタはゴメスの行き先分かるです?」
「ギルドで小鬼軍団の王国の情報を聞いて、分からなければ守衛のガイロスさんにサラが歩いていった方向を聞いて、そっちに向かう」
「行き当たりばったりです」
「ケンタさんらしいです」
二人は笑って俺の裾をつかむ。
俺は二人を引っ張るようにギルドへと向かった。
冒険者ギルドに到着すると受付は夜勤のおじいさんに代わり、見知らぬ女性が座っていた。
異世界ならではの濃い青紫の髪の毛でメガネを掛けた受付嬢は俺たちをビクビクしながら見ていた。
「すみません研ぎ師のケンタと申しますが。」
「はい!すみません。新人のリリカですよろしくお願いします」
リリカは席を跳ね上がるように立ち上がると頭を受付の上の書類棚にぶつける
「グッ!」という声をあげてそのまま椅子に座ると溢れんばかりの巨乳が机にぶつかり反作用で弾かれ後頭部を椅子の頭にぶつける。
踏んだり蹴ったり。泣きっ面にハチ。弱り目に祟り目をリアルで見るとは思わなかったな。
まるで判を押したようなテンプレドジっ娘に危うく妄想の世界に入りそうになる自分を押し留めた。
ドジっ娘は最高であるが、さすがにあざとい。守ってあげたいと思う仕草も同性なら嫌われる仕草だ。
だがあえて言うね。俺はこの娘なら妄想だけでご飯三杯いけると。
しまった脱線した。
姦話休題。
(この間0.1秒)
俺は妄想を追い払うように頭を振り涙目の彼女に話しかける。
「大丈夫ですか?」
「はい!すみません。ごめんなさい!」
ああ、そうか新人で緊張しているのか。
「受付は頭をうちつける場所じゃないからね?」
俺が小粋な親父ギャグを言うと彼女は首を傾げた。
分かっていないようなのでうけつけとうちつけをかけたギャグだよと説明した。
リリカは分からなくてすみませんと何度も何度も頭を下げる。
……死にたい。
謝るたびに大きい胸が服からはみ出ようとティラノサウルスの首振りダンスのごとく暴れ狂う。
が、我慢だ。妄想したいところだが、今はその時じゃない。
「それで、聞きたいことがあるんですが小鬼軍団の王国について分かることはないでしょうか?」
「小鬼軍団の王国ですか? 少々お待ちください」
リリカは棚から数冊のファイルを取り出すとペラペラと調べ始めた。
「小鬼軍団の王国……、え。こんな側にあるんですか!?」
リリカは口を抑えて驚愕する。
「どこにあるんだい?」
怯えながらもファイルを受付の台に置くと地図の一点を指差す。
ふむ、どこだかさっぱりわからない。
エルダートレインのインターフェイスを表示し、そこからマップを選択肢してファイルの場所と比較した。
小鬼軍団の王国はホムルス渓谷と書かれており、側には難易度の低い魔窟があった。
「魔窟グラニッジの東か」
「ケンタさんわかるんですか?」
「うん把握できたよ。じゃあ行こう!」
「はいです!」
ギルドを出ようとする俺は忘れ物をしたことを思い出し、くるりと踵を返しリリカに指を差す。
「リリカさん。帰ってきたら、ただじゃおかないんだからね!」
「ふあぁ!?」
俺はリリカさんにお礼を言うとギルドを飛び出した。
いや、正確には飛び出し損なった。
”ぼよよ~ん”と大きな二つの果実に弾き飛ばされたからだ。
筋力極振りの俺を弾き飛ばすとは中々のパイ力だ。
S級パイ険者の称号を与えよう。
「すみませんシャーロンさん」
俺はS級パイ険者のシャーロンさんにぶつかったことを謝罪した。
「ケンタさん急いでどちらへ行くんですか」
「すみません急いでいるので、二人とも行こう」
「「はい」です!」
リリカで妄想の臨界点まで達しているのだ、シャーロンさんと関わったらコップの表面張力が破れるがごとく妄想が溢れ出るだろう。
「お待ちください!」
ギルドを出ようとする俺の裾をひっぱり引き止める。
「すみません本当に急いでいるんです離してください」
「お姉さま……。ゴメスさんに何かあったんですね?」
そういえば彼女は元々サラのパーティーメンバーだった。ならば伝えた方がいいだろう。
「すまない、サラは小鬼軍団の王国に乗り込んでいった」
「な、なんで」
「捕らえられたリーダーを、殺し……、救いに行ったんだ」
シャーロンさんは一瞬動揺し唇をかみしめる。
「わかりました。ならば私もお供します」
「いや、しかし……」
「ゴメスお姉さまは私の師匠です。その方を見捨てることはできません」
確かに今は一人でも戦力がほしい。S級冒険者のシャーロンさんならかなりの戦力になる。
「命の危険を伴うけど、その覚悟はある?」
「当時、私は何もできなかった、ゴメスお姉さまがすべての罪を背負って……。だから今こそ恩返しをゴメスお姉さまを助けたいんです!」
「分かった。シャーロンさんサラを助けるのを手伝ってください」
「はい!」
俺の差し出した手をシャーロンさんは両手で握り俺たちは固い握手をした。
強力な仲間を得た俺達は一路ホムルス渓谷へと向かった。
「ケンタさん小鬼軍団の王国の場所はお分かりですか?」
「ホムルス渓谷にあるというのは分かっています」
だがシャーロンさんは首を振る。
「それでは入れません。小鬼軍団の王国は巫女様により封印されていますので外からは入れないのです」
「封印されいて入れないならサラも入れないんじゃないか?」
その封印は調査のために一箇所だけは入ることが可能な場所があと言う。ただ、入り口は王国兵士が警備しており一般人では入ることが叶わないのだとか。
それとなぜ封印が必要なのかも教えてくれた。
ゴブリンは5種の進化する魔物の一種なのだと言う。
進化する魔物とは五悪徳の種族属性を持っている魔物を差す。
怠惰:?
貪欲:ゴブリン
欺瞞:デーモン
邪婬:オーク
怨念:アンデット
の五種類でそれぞれの魔物が分類配置されている。
怠惰だけはそれに対応する魔物が存在せず不明なのだと言う。
現在、世界には3つの悪徳の王国が存在し、この悪徳の王国が五国誕生すると世界は滅ぶと言い伝えられている。
そして五悪徳の王はそれぞれ自分の持つ五悪徳に対応した能力を持ち絶大な力を発揮する。
五悪徳の王が発生するとS級冒険者でも対応できないほどなので、王クラスが発生する前に全兵力を以て殲滅するのが国際社会のルールなのだ。
王クラスが発生してしまうと、封印するしか対処法がなくホムルス渓谷にある小鬼軍団の王国は巫女により封印された。
討伐にあたった”太陽の華”はゴブリンキングを誕生させたとして糾弾された。
当時A級だったシャーロンさん達二人を庇うようにS級のサラは非難を一人で受けたのだと言う。自分の失策だったとA級の二人は関係ないと。
そして貴族の子弟だったサラは放逐されすべての資産を没収され”太陽の華”は解体された。
「だけどあのときは既にゴブリンキングは居たのです。情報が……。と今更文句を言っても仕方ありませんね」
「なぜそれを俺に言うんです?」
「あなたなら、お姉さまを助けてくれる気がして……」
「助けますよ、大切な家族ですから」
「家族?」
俺たちは指輪をシャーロンさんに見せた。そしてまだ渡していない指輪も。
「これをサラの指につけて連れて帰るんですよ」
「……私も欲しいものですね」
シャーロンさんはサラの指輪を見て物欲しげそうに見る。
そんなに高いものでも特殊能力がついているわけでもないのに、なんで欲しいんだろうと俺は訝しんだ。
いや、欲しいというのは家族のことかもしれないな。もしかしたら彼女は天涯孤独なのかもしれない。
それよりも、クニャラの息が荒い。
よくよく考えれば俺たちには早歩きでもクニャラにとっては全力疾走のランニングレベルなのだろう。
俺はクニャラを抱き上げると背中に背負った。
「なんです!?」
「きついんだろ俺の背中に乗ってろ」
「クニャラだけ特別は許されないのです」
「クニャラは俺たちの重要な遠距離攻撃手段だ。本番で倒れられたら困る俺たちの生存率が変わるんだ。だからこれは特別扱いじゃない」
「わ、分かったのです」
クニャラは俺の背中にすべてを預けるようにもたれ掛かる。
かなり疲れたのだろう、もっと早く気がつくべきだった。
俺は体力回復薬をクニャラに渡し飲ませた。それでもペタりと俺の背中にもたれ掛かるあたり、ちゃんと体力温存を考えているようだ。
「しかし、二人の武器や防具はなんですか? 見たこともない形ですね」
シャーロンさんはクニャラの持つ杖に手を伸ばし触れる。
魔法使いではないシャーロンさんが情報を読み解くことはできないと思って油断していた。
杖に触れた途端シャーロンさんは驚愕の表情を浮かべた。
「な、なんですかこの杖は!?」
「ケンタが作ったです。天才なのです」
珍しくクニャラが俺を誉める。おじいちゃん孫に誉められて、もう思い残すこと無いよ……。
クニャラの言葉を聞いてシャーロンさんは難しい顔をする。コロコロ表情が変わる人だな。それがシャーロンさんの魅力なんだろうけど。
「ケンタさん、もしかして王都で剣を売りませんでした?」
「あ~はい。一振りの剣を売りましたね」
「あなたですか……」
シャーロンさんが俺をなんとも言えない表情で見る。ビックリしているような困惑してるような。
「……何かあったんですか?」
「ケンタさんあなた指名手配されてますよ」
「え、なんでケンタさんが!?」
「どういうことなのです」
俺が指名手配されていると言うことに二人も驚くが、犯罪者としてではなく重要人物として拘束するための指名手配だそうだ。
あの剣はその後王国に献上され、その性能があまりに高く、他国にその製作方法が回るのは不味いと言う判断から製作者を探すために売った俺が指名手配されたというのだ。
ただ、俺の指名手配の顔が全然違う顔なので、今まで気がつかなかったと言う。
「そんなに違うんですか?」
「金髪で鼻が高くて、いけすかない感じの顔ですよ」
そしてシャーロンさんは俺の顔を見てクスッと笑う。すみませんね、おっさん顔で申し訳ないですね。
でもこれでも現実世界ではフツメンなんですよ。
フツメンなだけに仏面なんです。目が細いんですよ!
知ってますよ自分でフツメンだと言うやつは大体不細工だと言うことを。
だがあえて言わせてもらおう吾輩はフツメンであると。
しかし、なんで金髪で鼻が高いとか誤った情報が伝わっているんだ?
黒髪で低い鼻でタレ目で何なら腹も出てる日本人だぞ。
しかもおっさんだぞ。
もしかしたら、あの店の人たちがわざと違う顔を言ってくれたのかもしれないな。
客を売るような店じゃなかったと言うことか。
そうこうしているうちに、シャーロンさんの案内でホムルス渓谷にたどり着いた。
そのまま後をついていくと隠された洞窟へと案内された。
この洞窟だけが唯一の小鬼軍団の王国への入り口なのだそうだ。
入り口は狭いが中は普通に立って歩くことができ整備されていた。
壁にはヒカリゴケが繁茂しており松明がなくても明るかった。
ヒカリゴケのおかげで奥の方まで明るく見渡せた。
良く見ると兵士が数人倒れていた。
俺たちが駆け寄ると兵士たちは意識を取り戻した。
「誰にやられたのです」
シャーロンさんが兵士達に聞くと、すまなそうに答える。
「ゴメスだ、ゴメスが俺たちを倒して中に入ってしまった」
決定だサラはこの先にいる。
大事な仲間を悪夢から救う為に命をかける気だ。
「よし三人とも最終確認だ。中に入ったら生きて帰れないかもしれない。それでもいくか?」
「あたり前なのです」
「当然です、ゴメスさんを怒らないと気がすみません」
「お姉さまを死なすわけにはいきません」
俺は手を前にだし皆に手を乗せるように促した。
皆が手を乗せると俺はその上に自分の手を乗せギュッと力を込める。
「分かった。俺も死力を尽くす。皆で生きてサバラの家に帰ろう」
「「「ハイ」」なのです!」
決意は固まった、絶対にサラを救う。
この三人も絶対に守る。
そしてまた楽しい毎日を送るんだ。
俺たちは仲間の絆を信じて結界の中へと足を踏み入れた。
「ギルドで小鬼軍団の王国の情報を聞いて、分からなければ守衛のガイロスさんにサラが歩いていった方向を聞いて、そっちに向かう」
「行き当たりばったりです」
「ケンタさんらしいです」
二人は笑って俺の裾をつかむ。
俺は二人を引っ張るようにギルドへと向かった。
冒険者ギルドに到着すると受付は夜勤のおじいさんに代わり、見知らぬ女性が座っていた。
異世界ならではの濃い青紫の髪の毛でメガネを掛けた受付嬢は俺たちをビクビクしながら見ていた。
「すみません研ぎ師のケンタと申しますが。」
「はい!すみません。新人のリリカですよろしくお願いします」
リリカは席を跳ね上がるように立ち上がると頭を受付の上の書類棚にぶつける
「グッ!」という声をあげてそのまま椅子に座ると溢れんばかりの巨乳が机にぶつかり反作用で弾かれ後頭部を椅子の頭にぶつける。
踏んだり蹴ったり。泣きっ面にハチ。弱り目に祟り目をリアルで見るとは思わなかったな。
まるで判を押したようなテンプレドジっ娘に危うく妄想の世界に入りそうになる自分を押し留めた。
ドジっ娘は最高であるが、さすがにあざとい。守ってあげたいと思う仕草も同性なら嫌われる仕草だ。
だがあえて言うね。俺はこの娘なら妄想だけでご飯三杯いけると。
しまった脱線した。
姦話休題。
(この間0.1秒)
俺は妄想を追い払うように頭を振り涙目の彼女に話しかける。
「大丈夫ですか?」
「はい!すみません。ごめんなさい!」
ああ、そうか新人で緊張しているのか。
「受付は頭をうちつける場所じゃないからね?」
俺が小粋な親父ギャグを言うと彼女は首を傾げた。
分かっていないようなのでうけつけとうちつけをかけたギャグだよと説明した。
リリカは分からなくてすみませんと何度も何度も頭を下げる。
……死にたい。
謝るたびに大きい胸が服からはみ出ようとティラノサウルスの首振りダンスのごとく暴れ狂う。
が、我慢だ。妄想したいところだが、今はその時じゃない。
「それで、聞きたいことがあるんですが小鬼軍団の王国について分かることはないでしょうか?」
「小鬼軍団の王国ですか? 少々お待ちください」
リリカは棚から数冊のファイルを取り出すとペラペラと調べ始めた。
「小鬼軍団の王国……、え。こんな側にあるんですか!?」
リリカは口を抑えて驚愕する。
「どこにあるんだい?」
怯えながらもファイルを受付の台に置くと地図の一点を指差す。
ふむ、どこだかさっぱりわからない。
エルダートレインのインターフェイスを表示し、そこからマップを選択肢してファイルの場所と比較した。
小鬼軍団の王国はホムルス渓谷と書かれており、側には難易度の低い魔窟があった。
「魔窟グラニッジの東か」
「ケンタさんわかるんですか?」
「うん把握できたよ。じゃあ行こう!」
「はいです!」
ギルドを出ようとする俺は忘れ物をしたことを思い出し、くるりと踵を返しリリカに指を差す。
「リリカさん。帰ってきたら、ただじゃおかないんだからね!」
「ふあぁ!?」
俺はリリカさんにお礼を言うとギルドを飛び出した。
いや、正確には飛び出し損なった。
”ぼよよ~ん”と大きな二つの果実に弾き飛ばされたからだ。
筋力極振りの俺を弾き飛ばすとは中々のパイ力だ。
S級パイ険者の称号を与えよう。
「すみませんシャーロンさん」
俺はS級パイ険者のシャーロンさんにぶつかったことを謝罪した。
「ケンタさん急いでどちらへ行くんですか」
「すみません急いでいるので、二人とも行こう」
「「はい」です!」
リリカで妄想の臨界点まで達しているのだ、シャーロンさんと関わったらコップの表面張力が破れるがごとく妄想が溢れ出るだろう。
「お待ちください!」
ギルドを出ようとする俺の裾をひっぱり引き止める。
「すみません本当に急いでいるんです離してください」
「お姉さま……。ゴメスさんに何かあったんですね?」
そういえば彼女は元々サラのパーティーメンバーだった。ならば伝えた方がいいだろう。
「すまない、サラは小鬼軍団の王国に乗り込んでいった」
「な、なんで」
「捕らえられたリーダーを、殺し……、救いに行ったんだ」
シャーロンさんは一瞬動揺し唇をかみしめる。
「わかりました。ならば私もお供します」
「いや、しかし……」
「ゴメスお姉さまは私の師匠です。その方を見捨てることはできません」
確かに今は一人でも戦力がほしい。S級冒険者のシャーロンさんならかなりの戦力になる。
「命の危険を伴うけど、その覚悟はある?」
「当時、私は何もできなかった、ゴメスお姉さまがすべての罪を背負って……。だから今こそ恩返しをゴメスお姉さまを助けたいんです!」
「分かった。シャーロンさんサラを助けるのを手伝ってください」
「はい!」
俺の差し出した手をシャーロンさんは両手で握り俺たちは固い握手をした。
強力な仲間を得た俺達は一路ホムルス渓谷へと向かった。
「ケンタさん小鬼軍団の王国の場所はお分かりですか?」
「ホムルス渓谷にあるというのは分かっています」
だがシャーロンさんは首を振る。
「それでは入れません。小鬼軍団の王国は巫女様により封印されていますので外からは入れないのです」
「封印されいて入れないならサラも入れないんじゃないか?」
その封印は調査のために一箇所だけは入ることが可能な場所があと言う。ただ、入り口は王国兵士が警備しており一般人では入ることが叶わないのだとか。
それとなぜ封印が必要なのかも教えてくれた。
ゴブリンは5種の進化する魔物の一種なのだと言う。
進化する魔物とは五悪徳の種族属性を持っている魔物を差す。
怠惰:?
貪欲:ゴブリン
欺瞞:デーモン
邪婬:オーク
怨念:アンデット
の五種類でそれぞれの魔物が分類配置されている。
怠惰だけはそれに対応する魔物が存在せず不明なのだと言う。
現在、世界には3つの悪徳の王国が存在し、この悪徳の王国が五国誕生すると世界は滅ぶと言い伝えられている。
そして五悪徳の王はそれぞれ自分の持つ五悪徳に対応した能力を持ち絶大な力を発揮する。
五悪徳の王が発生するとS級冒険者でも対応できないほどなので、王クラスが発生する前に全兵力を以て殲滅するのが国際社会のルールなのだ。
王クラスが発生してしまうと、封印するしか対処法がなくホムルス渓谷にある小鬼軍団の王国は巫女により封印された。
討伐にあたった”太陽の華”はゴブリンキングを誕生させたとして糾弾された。
当時A級だったシャーロンさん達二人を庇うようにS級のサラは非難を一人で受けたのだと言う。自分の失策だったとA級の二人は関係ないと。
そして貴族の子弟だったサラは放逐されすべての資産を没収され”太陽の華”は解体された。
「だけどあのときは既にゴブリンキングは居たのです。情報が……。と今更文句を言っても仕方ありませんね」
「なぜそれを俺に言うんです?」
「あなたなら、お姉さまを助けてくれる気がして……」
「助けますよ、大切な家族ですから」
「家族?」
俺たちは指輪をシャーロンさんに見せた。そしてまだ渡していない指輪も。
「これをサラの指につけて連れて帰るんですよ」
「……私も欲しいものですね」
シャーロンさんはサラの指輪を見て物欲しげそうに見る。
そんなに高いものでも特殊能力がついているわけでもないのに、なんで欲しいんだろうと俺は訝しんだ。
いや、欲しいというのは家族のことかもしれないな。もしかしたら彼女は天涯孤独なのかもしれない。
それよりも、クニャラの息が荒い。
よくよく考えれば俺たちには早歩きでもクニャラにとっては全力疾走のランニングレベルなのだろう。
俺はクニャラを抱き上げると背中に背負った。
「なんです!?」
「きついんだろ俺の背中に乗ってろ」
「クニャラだけ特別は許されないのです」
「クニャラは俺たちの重要な遠距離攻撃手段だ。本番で倒れられたら困る俺たちの生存率が変わるんだ。だからこれは特別扱いじゃない」
「わ、分かったのです」
クニャラは俺の背中にすべてを預けるようにもたれ掛かる。
かなり疲れたのだろう、もっと早く気がつくべきだった。
俺は体力回復薬をクニャラに渡し飲ませた。それでもペタりと俺の背中にもたれ掛かるあたり、ちゃんと体力温存を考えているようだ。
「しかし、二人の武器や防具はなんですか? 見たこともない形ですね」
シャーロンさんはクニャラの持つ杖に手を伸ばし触れる。
魔法使いではないシャーロンさんが情報を読み解くことはできないと思って油断していた。
杖に触れた途端シャーロンさんは驚愕の表情を浮かべた。
「な、なんですかこの杖は!?」
「ケンタが作ったです。天才なのです」
珍しくクニャラが俺を誉める。おじいちゃん孫に誉められて、もう思い残すこと無いよ……。
クニャラの言葉を聞いてシャーロンさんは難しい顔をする。コロコロ表情が変わる人だな。それがシャーロンさんの魅力なんだろうけど。
「ケンタさん、もしかして王都で剣を売りませんでした?」
「あ~はい。一振りの剣を売りましたね」
「あなたですか……」
シャーロンさんが俺をなんとも言えない表情で見る。ビックリしているような困惑してるような。
「……何かあったんですか?」
「ケンタさんあなた指名手配されてますよ」
「え、なんでケンタさんが!?」
「どういうことなのです」
俺が指名手配されていると言うことに二人も驚くが、犯罪者としてではなく重要人物として拘束するための指名手配だそうだ。
あの剣はその後王国に献上され、その性能があまりに高く、他国にその製作方法が回るのは不味いと言う判断から製作者を探すために売った俺が指名手配されたというのだ。
ただ、俺の指名手配の顔が全然違う顔なので、今まで気がつかなかったと言う。
「そんなに違うんですか?」
「金髪で鼻が高くて、いけすかない感じの顔ですよ」
そしてシャーロンさんは俺の顔を見てクスッと笑う。すみませんね、おっさん顔で申し訳ないですね。
でもこれでも現実世界ではフツメンなんですよ。
フツメンなだけに仏面なんです。目が細いんですよ!
知ってますよ自分でフツメンだと言うやつは大体不細工だと言うことを。
だがあえて言わせてもらおう吾輩はフツメンであると。
しかし、なんで金髪で鼻が高いとか誤った情報が伝わっているんだ?
黒髪で低い鼻でタレ目で何なら腹も出てる日本人だぞ。
しかもおっさんだぞ。
もしかしたら、あの店の人たちがわざと違う顔を言ってくれたのかもしれないな。
客を売るような店じゃなかったと言うことか。
そうこうしているうちに、シャーロンさんの案内でホムルス渓谷にたどり着いた。
そのまま後をついていくと隠された洞窟へと案内された。
この洞窟だけが唯一の小鬼軍団の王国への入り口なのだそうだ。
入り口は狭いが中は普通に立って歩くことができ整備されていた。
壁にはヒカリゴケが繁茂しており松明がなくても明るかった。
ヒカリゴケのおかげで奥の方まで明るく見渡せた。
良く見ると兵士が数人倒れていた。
俺たちが駆け寄ると兵士たちは意識を取り戻した。
「誰にやられたのです」
シャーロンさんが兵士達に聞くと、すまなそうに答える。
「ゴメスだ、ゴメスが俺たちを倒して中に入ってしまった」
決定だサラはこの先にいる。
大事な仲間を悪夢から救う為に命をかける気だ。
「よし三人とも最終確認だ。中に入ったら生きて帰れないかもしれない。それでもいくか?」
「あたり前なのです」
「当然です、ゴメスさんを怒らないと気がすみません」
「お姉さまを死なすわけにはいきません」
俺は手を前にだし皆に手を乗せるように促した。
皆が手を乗せると俺はその上に自分の手を乗せギュッと力を込める。
「分かった。俺も死力を尽くす。皆で生きてサバラの家に帰ろう」
「「「ハイ」」なのです!」
決意は固まった、絶対にサラを救う。
この三人も絶対に守る。
そしてまた楽しい毎日を送るんだ。
俺たちは仲間の絆を信じて結界の中へと足を踏み入れた。
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