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閑話

ソラ④

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 ソラと一緒に空の旅。
 なんてくだらない駄洒落が頭を過ぎったが、馬鹿らしいので口にしない。
 とにもかくにも僕たちは、ユルティエナへ向けて出発した。

「その服って自分で選んだのかい?」

「いいえ、自分ではわからなかったで皆さんに聞きました」

「なるほど、みんなよくわかってるね」

 ソラの良さを際立たせるチョイスだ。

「それよりもウィル様」

「ん?」

 ソラの視線は、僕の手元へと向けられる。

「ハンドルを握らなくても大丈夫なのですか?」

「うん。自動操縦に切り替えたからね」

 空飛ぶバイク改良版は、目的地を登録するだけで勝手に動いてくれる。
 もちろん偶には確認したほうがいいけど、基本的には手放し運転で大丈夫になった。
 ちなみに半径五十メートル以内に魔物が接近したら、警報がなるようにしてある。
 防犯対策もバッチリだ。

「片道二十時間かかる道のりだからね。行き帰りで疲れちゃったら勿体ないでしょ」

「確かにそうですね」

 そんな感じにのんびりと、僕らは移動の時間を過ごす。
 寛ぎながら昔話に花を咲かせたり、眠くなったらスヤスヤ眠る。
 ソラは特に、屋敷での生活では味わえないような緩い時間が過ぎていく。
 
 そして――

「ソラ、見えてきたよ」

 下を見下ろし指をさす。
 ソラが覗き込むように顔を出すと、そこに見えたのは湯煙が立ち昇る街並みだった。

「あれがユルティエナ、温泉の街ですね」

「うん、見ての通りだね」

 ユグドニア共和国は、いくつもの活火山を有した国だ。
 その影響から、どの街も比較的暖かい気候を維持している。
 雪が降るほど寒い北の大地で、唯一半袖で過ごせる国でもあった。
 中でもユルティエナは特徴的で、一週間に一度という一定周期でしか雨が降らない。
 つまり、観光に際して天候を気にかける必要がないんだ。

「一週間に一度の雨の日は、街全体が休業するらしいよ」

「客足が途絶えますからね。実に合理的です」

 僕らはバイクを近くの岩陰に降ろす。
 さすがに直接向かうと、何事かと騒がれてしまうからね。
 途中からは徒歩に切り替える。
 幸いなことに、ユルティエナ周辺に魔物は生息していない。
 俺たちはゆるりと散歩するように、ユルティエナに向けて歩いていく。

「中に入ったら、先に宿をとろうか」

「そうですね。荷物も置いておきたいです」

「うん。良いところを見つけなきゃね」

「はい」

 ユルティエナに入るときは、簡単な検問がある。
 怪しい物を持っていないかとかをチェックされる。
 場合によっては身元も確認されるけど、よっぽど怪しまれない限りは大丈夫だ。
 僕らは普段通りに接しながら、検問のおじさんと話す。
 問題なく許可が下りて、街へと入っていく。

「温泉の匂いがするね」

「はい。私たちの街とは違った活気がありますね。悪くないです」

 ユルティエナの街並みは、これまでのどの街とも違う。
 温泉街と呼ばれていて、建物は全て木造建築。
 二階建て以下の建物しかなく、色合いも特徴的だ。

「皆さんの服装も変わっていますね」

「あれは浴衣っていうらしいよ。この国独自の衣装なんだって」

「そうなのですね」

 ソラは通り過ぎる浴衣姿の女性を眺めている。

「あとで買いに行こうか」

「良いのですか?」

「もちろん。僕もソラの浴衣姿が見てみたいし」

 きっと似合うに違いない。
 そう思って楽しみにしておこう。

「その前に宿だ。えっと……」

 ぐるりと見渡す。
 いくつか宿らしき看板はあるが、どこが良いのかわからない。

「こういうときは直感に頼ろうかな? ソラの」

「私のですか?」

「うん。どこが良いと思う?」

「そんな急に……そうですね。じゃあ――」

 ソラが指をさしたのは、二階建てで赤っぽい屋根の宿だった。
 看板には『ユノハナ亭』と書かれている。

「あそこにしましょう」

「よし! 決まりだね」

 彼女の直感を信じて、僕らは宿の中へと入る。
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