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花嫁編

242.ウィル様誕生祭

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 一夜明け、僕とユノは屋敷へ戻ってきた。
 束の間の休息を満喫して、心も身体もリフレッシュできている。
 そうして戻ってくる直前まで、僕は忘れていた。
 今日が何の日で、どうして彼女が僕を誘ったのか。

「ただいま~」

 パン!
 軽い爆発音が聞こえる。
 びくっと反応した僕は、目の前の光景に目を丸くする。

「ウィル様! お誕生日おめでとう!」

「「おめでとうございます!」」

 元気なニーナの掛け声を合図に、他の皆からもお祝いの言葉が飛び出す。
 
 そうだった。
 七月七日――今日は僕の誕生日だ。

「準備は間に合ったようじゃな」

「はい。お陰さまで」

 ユノとソラが二人で話している。
 やっぱりユノが僕を誘ったのは、この準備をするためだったのか。
 僕は屋敷の中をぐるりと見渡す。
 キラキラとした装飾に彩られ、まるでパーティー会場のようだ。

「ウィル様、どうぞ外へ」

「外?」

「はい」

 ソラが屋敷の扉を開け、先に外へ出て行く。
 僕は彼女の後に続いて屋敷を出た。
 そうして、本日二度目の驚きが押し寄せてくる。

「なっ……これって!」

 街を彩る装飾。
 着飾った街の人々の行列。
 そして何より目立つ場所に、僕の姿をした石造が立っていた。

「よぉ旦那! いい出来だろ?」

「ギラン! これをギランが造ったのかい?」

「おうよ! この街のシンボルつってな」

「シ、シンボル……」

 格好つけたポーズの僕。
 これは中々に恥ずかしい。

「何で急にこんな物を?」

「あぁ? 今日が旦那の誕生際だからに決まってんだろ?」

「た、誕生際!?」

 驚いた直後、僕は目にした。
 ギランが建てた石造の横に、大きな看板がたて掛けられていたことを。
 その看板には――

 ウィル様誕生祭

 と、書かれていた。

「ソラ! 誕生祭ってどういうこと?」

「見た通りです。ウィル様の誕生を祝う祭典ですよ」

「誕生パーティーとかじゃなかったの?」

「それは夜に、私たちだけで行います。誕生際は街の皆様が、ウィル様の誕生日を祝う場です」

 ソラの説明によると、当初は屋敷でのパーティを計画していたらしい。
 しかし一週間ほど前から、街の住民から僕の誕生日を祝いたいという声が上がった。
 一人や二人ではなく、何百人にも上るほどたくさんだ。
 そんな人数を屋敷に入れることは出来ない。
 悩んだソラは、街をあげての祭りにしてしまうことを思いついた。
 そうして密かに計画が進み、今日という日を迎えたのだ。

「ウィル様に内緒で、街の皆さんにも協力していただいていたんです」

「そう……だったんだ」

 全然気付かなかったな。
 街には毎日出ていたのに、様子の変化もわからなかった。
 こんなに大きな祭りを計画していたなんて、本当に驚きだよ。

「さぁウィル様、皆さんが待っておられます」

 ソラが示した先には、街のみんなが待っている。
 僕が屋敷から出てくるのを、今か今かと心待ちにしている。
 視界に橋には石造も見えていて、いっそう恥ずかしくて悶えそうだ。
 この中を一人で歩くなんて……

「ソラも一緒に来てくれるかい?」

「もちろんです」

「じゃあ行こうか。盛大に祝われにね」

「はい」
 
 街を歩けば祝福の声が飛び交う。
 子供からお年寄りまで、様々な種族が一同に介し、僕という一人を見ている。
 こんな光景が見られるとは、僕はなんて幸福なのだろう。
 まるで王様にでもなった気分だ。

「王様みたいなものですよ?」

「僕はそんなつもりもないんだけどね」

「だとしても、皆様にはそう見えているのです」

「ははっ、そうみたいだね」
 
 彼らに見合う王様に、僕はなれているんだろうか?
 王様なんて柄じゃなし、なりたいなんて思ったこともないけど。
 この光景を見られるのなら、王様も悪くないと思えるよ。

「お望みなら、来年も開きましょう」

「石造が増えないなら、喜んでお願いするよ」

「ギラン様が悲しみますよ?」

「そこは仕方がない。割り切ってもらうとしよう」

 こうして僕の誕生を祝う祭りは、盛大に幕を下ろす。
 夜は屋敷でパーティーだ。
 メイドたちはもちろん、各種族の代表、交流の深い人たちを呼んでいる。

「ウィル! 改めてお誕生日おめでとう!」

「ありがとう、ヒナタ」

 ぐるっと見回せば、二十を超える人数が集まっている。
 たった一年で足らずで、ここも随分と賑やかになったものだ。
 
「今年はどんな一年になるかな?」

「きっと楽しい一年になるよ! 私たちがそうさせるから!」

 ヒナタは満面の笑みを見えてそう言った。
 他の皆からも、熱い視線が向けられている。

「そうだね……うん、そうなると良いなぁ」

 この一年を振り返る。
 目まぐるしく変わっていく日常に、追いつこうと必死だった。
 辛いことや悲しいこと、苦しいこともたくさんあった。
 だけど、充実した一年だったと思う。
 楽しかったんだ。
 心の底からハッキリと言えるくらい。
 みんなが一緒だったから、この一年は楽しかった。
 だから来年も――

「みんなと一緒なら、きっと楽しいはずだ」

 そう思えるくらいには、僕の心は満たされている。 
 今日、僕は十九歳になった。
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