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花嫁編
237.もうすぐ一年
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時の経過は、思いのほか速いものだ。
一日、一ヶ月、一年……順調に、確実に過ぎていく。
経験してきた物が大きく、より濃い物であるほど、時は速く感じられる。
もしもそう感じられたのなら、その人の毎日が充実していたという証拠なのだろう。
この世界で時間は、唯一すべてにおいて平等だ。
新たな命となってこの世に生れ落ちた瞬間から、刻一刻と消費されていく。
人は限りある時間の中で、命の灯火を燃やし、自らが生きた証を残そうとする。
命に与えられた時間には限りがあるのだ。
だからこそ命は尊く、故にこそ美しい。
ならば、永遠を手に入れた者はどうだろうか?
人の身でありながら、数奇な巡り会わせによって、人の身を外れた僕は?
僕の人生は、未来は……この先どうなっていくのだろう?
「――ぅ、う~ん」
寝室のベッドで目覚めた僕は、身体を起こして背伸びをした。
重たい瞼を擦り、ベッドから降りて窓へ向かう。
カーテンを開ければ、雲ひとつない青空と、サンサンと照らす太陽が見える。
「ふぅ……またか」
最近、同じような夢を見る。
何もない荒野に、自分一人だけが立っている。
本当に何もない。
人も動物も、建物すらない。
ここが街になる前を髣髴とさせる光景だった。
そんな場所に、僕は一人で立っている。
とり残されていると言ったほうが正しいかもしれない。
だってこの夢は、あり得るかもしれない未来の光景なんだから。
「いや、そんなことない。全く僕は情けないな」
トントントン
考え事をしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
扉の向こう側から声が聞こえる。
「ウィル様、おはようございます」
「ソラかい? 入っていいよ」
「失礼します」
扉を開けて入ってきたソラ。
僕は窓を離れ、ソラのほうへと歩み寄る。
「おはよう、ソラ。どうしたの? 朝食にはまだ早いと思うけど」
「実は先ほど、王国の使いを名乗る方から伝言を承りました」
「王国の使い?」
「はい。本日正午、レミリア様がお忍びでいらっしゃるそうです」
「えっ、そうなの?」
「はい」
「用件は何か言っていたかい?」
「いえ何も。いらっしゃるという報告だけでした」
相変わらず唐突だなレミリア様は……。
まぁ来る前に一報をくれるようになっただけ、気を使ってくれているんだろう。
「出迎えの準備をなさいますか?」
「いいや、必要ないよ」
「よろしいのですか?」
「うん。いつも通りなら、僕に何か報告がしたいだけだろうし。それにお忍びって言われたんでしょ? 変に大きくしないほうがいいかな」
「かしこまりました」
そう言った後、ソラは僕の顔を黙って見つめていた。
何かを聞きたそうな表情だったので、僕のほうから聞いてみることに。
「どうしたの?」
「いえ、その……ウィル様はいつも、レミリア様とどんなお話をなさっているのかと」
「あぁ~、それは内緒かな。レミリア様から、他の誰にも話さないでって言われてるんだよ」
一国の王女から恋愛相談を受けていて、意中の相手は兄上。
なんてこと、軽々しく話せるはずもない。
僕がそう答えると、ソラは不安そうな表情をして尋ねてくる。
「それは良くないこと……でしょうか?」
「ううん、良いことだよ。いずれ話せるときが来ると思うから、それまで待っててね」
「もしかして……いえ、わかりました。期待しております」
ソラは何かを言いかけたが、察したように飲み込んだ。
一礼をして去っていく後姿は、どこか悲しそうにも見えた。
「何だか、違う予想をしてそうだな」
僕の言い方がよくなかったかな?
これは誤解される前に説明したほうが良さそうだ。
レミリア様が帰った後で、機を窺うとしよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
正午。
約束の時間が来る。
屋敷を目指し、街を行く馬車が一台。
馬車の窓から覗き込めば、街の様子がよく見える。
賑やかに、楽しそうに暮らす人々。
「ふふっ、街も似ているわね」
その光景に微笑む。
揺れがピタリと止まって、一人の女性が降りてくる。
僕は手を差し伸べ、彼女に言う。
「ようこそ、レミリア様」
「御機嫌よう、ウィリアム」
レミリア様は僕の手を取り、ヒラリと舞うように馬車を降りた。
馬車を降りた彼女は、僕の後ろや周りを見渡す。
「あら? 出迎えはあなた一人?」
「ええ、だってお忍びなんでしょう?」
僕がそう言うと、レミリア様は小さく笑う。
「ふふっ、よくわかっているわね!」
「当然ですよ」
口ではそう言いながら、内心は安堵している。
レミリア様の笑顔を見て、正解だったと確信できた。
「では、いつも通り僕の部屋で?」
「ええ、お願いするわ」
そうして僕は、レミリア様をエスコートして屋敷に入る。
執務室までの道中は、偶然にも誰ともすれ違わなかった。
「使用人たちは留守?」
「いえ、何人かは外に出ていますが」
「そう。やけに静かね」
「ははっ、外が賑やかになっただけですよ」
「そういうこと。確かに、また人が増えたのかしら?」
「はい、お陰さまで」
魔界と行き来できるって知ったら、レミリア様はどんな反応をされるかな?
時間があるなら、あとで案内してみよう。
一日、一ヶ月、一年……順調に、確実に過ぎていく。
経験してきた物が大きく、より濃い物であるほど、時は速く感じられる。
もしもそう感じられたのなら、その人の毎日が充実していたという証拠なのだろう。
この世界で時間は、唯一すべてにおいて平等だ。
新たな命となってこの世に生れ落ちた瞬間から、刻一刻と消費されていく。
人は限りある時間の中で、命の灯火を燃やし、自らが生きた証を残そうとする。
命に与えられた時間には限りがあるのだ。
だからこそ命は尊く、故にこそ美しい。
ならば、永遠を手に入れた者はどうだろうか?
人の身でありながら、数奇な巡り会わせによって、人の身を外れた僕は?
僕の人生は、未来は……この先どうなっていくのだろう?
「――ぅ、う~ん」
寝室のベッドで目覚めた僕は、身体を起こして背伸びをした。
重たい瞼を擦り、ベッドから降りて窓へ向かう。
カーテンを開ければ、雲ひとつない青空と、サンサンと照らす太陽が見える。
「ふぅ……またか」
最近、同じような夢を見る。
何もない荒野に、自分一人だけが立っている。
本当に何もない。
人も動物も、建物すらない。
ここが街になる前を髣髴とさせる光景だった。
そんな場所に、僕は一人で立っている。
とり残されていると言ったほうが正しいかもしれない。
だってこの夢は、あり得るかもしれない未来の光景なんだから。
「いや、そんなことない。全く僕は情けないな」
トントントン
考え事をしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
扉の向こう側から声が聞こえる。
「ウィル様、おはようございます」
「ソラかい? 入っていいよ」
「失礼します」
扉を開けて入ってきたソラ。
僕は窓を離れ、ソラのほうへと歩み寄る。
「おはよう、ソラ。どうしたの? 朝食にはまだ早いと思うけど」
「実は先ほど、王国の使いを名乗る方から伝言を承りました」
「王国の使い?」
「はい。本日正午、レミリア様がお忍びでいらっしゃるそうです」
「えっ、そうなの?」
「はい」
「用件は何か言っていたかい?」
「いえ何も。いらっしゃるという報告だけでした」
相変わらず唐突だなレミリア様は……。
まぁ来る前に一報をくれるようになっただけ、気を使ってくれているんだろう。
「出迎えの準備をなさいますか?」
「いいや、必要ないよ」
「よろしいのですか?」
「うん。いつも通りなら、僕に何か報告がしたいだけだろうし。それにお忍びって言われたんでしょ? 変に大きくしないほうがいいかな」
「かしこまりました」
そう言った後、ソラは僕の顔を黙って見つめていた。
何かを聞きたそうな表情だったので、僕のほうから聞いてみることに。
「どうしたの?」
「いえ、その……ウィル様はいつも、レミリア様とどんなお話をなさっているのかと」
「あぁ~、それは内緒かな。レミリア様から、他の誰にも話さないでって言われてるんだよ」
一国の王女から恋愛相談を受けていて、意中の相手は兄上。
なんてこと、軽々しく話せるはずもない。
僕がそう答えると、ソラは不安そうな表情をして尋ねてくる。
「それは良くないこと……でしょうか?」
「ううん、良いことだよ。いずれ話せるときが来ると思うから、それまで待っててね」
「もしかして……いえ、わかりました。期待しております」
ソラは何かを言いかけたが、察したように飲み込んだ。
一礼をして去っていく後姿は、どこか悲しそうにも見えた。
「何だか、違う予想をしてそうだな」
僕の言い方がよくなかったかな?
これは誤解される前に説明したほうが良さそうだ。
レミリア様が帰った後で、機を窺うとしよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
正午。
約束の時間が来る。
屋敷を目指し、街を行く馬車が一台。
馬車の窓から覗き込めば、街の様子がよく見える。
賑やかに、楽しそうに暮らす人々。
「ふふっ、街も似ているわね」
その光景に微笑む。
揺れがピタリと止まって、一人の女性が降りてくる。
僕は手を差し伸べ、彼女に言う。
「ようこそ、レミリア様」
「御機嫌よう、ウィリアム」
レミリア様は僕の手を取り、ヒラリと舞うように馬車を降りた。
馬車を降りた彼女は、僕の後ろや周りを見渡す。
「あら? 出迎えはあなた一人?」
「ええ、だってお忍びなんでしょう?」
僕がそう言うと、レミリア様は小さく笑う。
「ふふっ、よくわかっているわね!」
「当然ですよ」
口ではそう言いながら、内心は安堵している。
レミリア様の笑顔を見て、正解だったと確信できた。
「では、いつも通り僕の部屋で?」
「ええ、お願いするわ」
そうして僕は、レミリア様をエスコートして屋敷に入る。
執務室までの道中は、偶然にも誰ともすれ違わなかった。
「使用人たちは留守?」
「いえ、何人かは外に出ていますが」
「そう。やけに静かね」
「ははっ、外が賑やかになっただけですよ」
「そういうこと。確かに、また人が増えたのかしら?」
「はい、お陰さまで」
魔界と行き来できるって知ったら、レミリア様はどんな反応をされるかな?
時間があるなら、あとで案内してみよう。
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