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花嫁編

227.不思議な眼

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 二人は訓練場の掃除を続けている。
 周りからはイチャイチャしやがって、という視線を向けられたりもしているが、当の本人たちは気付いていない。
 風で飛んでいきそうになる落ち葉を集めながら、トウヤはぼそりと呟く。

「暖かいねぇ……そんなこと言われたのは、生まれて初めてだな」

「えっ、そうなの?」

「ああ、何ならリンにも言われたことねぇよ」

「へぇ~ あたしには、そーいう風にしか見えないけどなぁ~」
 
 ニーナは空を見上げてそう言った。
 トウヤは彼女に、見えないという言葉に反応する。

「そーいや、ウィルが言ってたけどよぉ。お前の眼って変わってるんだよな?」

「へ? うん、たぶんそうだよ!」

「たぶん?」

「あたしにもよくわからないんだ。普通じゃないっていうのは、間違いないと思うんだけど」

 ニーナの眼には、見えない物が見える。
 より正確に言えば、人や動物の後ろに、色違いのオーラが見えるらしい。
 それは魔力とは異なる者で、当人の性格や魂の色ではないかと言われている。
 そういう眼を持つ者たちを、世間では【感受者】と呼んでいた。

「感受者ねぇ~ オレも噂くらいしか知らねぇからな~」

「あたし以外にもいたよ! 王都にも五人くらい! みんな人間だったけどね」

「ふぅ~ん」

 トウヤも、人間と亜人の扱いの差はよく知っている。
 だからこそ、ニーナが普通よりも辛い道を通ってきたのだろうと、すでに察している。
 それでも偽りない笑顔で笑う彼女を、トウヤは凄いと思っていた。

「ちなみによ。オーラってどんな風に見えるんだ?」

「えっとね~ みんなバラバラかな!」

「そうなのか?」

「うん! 人によって全然違うよ!」

 ニーナ曰く、オーラは大きさ、形、色が異なるらしい。
 さらに細かく言うと、色は一種類とは限らず、模様が出来ている物もあるとか。
 オーラは大きいは、才能や力を表している。
 形は性格や考え方が繁栄されていて、色は魂の本質を映し出している。
 現在、様々な研究がなされていて、わかっているのはこれくらいだそうだ。

「前にウィル様も調べてくれたんだけどね~ 今までにわかってること以上は、まだわからないんだって~」

「ほぉ~ でもよ? それから結構時間も経ってるわけだろ? 何か進展でもねーのか?」

「さぁ? あたしが別に調べなくて良いよ~って言っちゃたし、それからは何にもじゃないかな?」

「そーなのか? 何で止めたんだよ」

「えぇ~ だって別に何でもいいかなーって。何かわかっても、あたしにはどうしようもないじゃん」

「まぁ確かにそうだな」

 トウヤはニーナらしいと納得した様子。
 
「ちなみによ? オレのはどんな感じなんだ?」

「炎だよ!」

 ニーナは即答した。

「炎?」

「うん! 真っ赤で燃えてるみたいだから、炎だよ!」

「それって……むしろ怖くねぇか?」

 確かに暖かいだろうけど、炎で連想されるものは、どちらかといえば怖い物が多い。
 火事とか火傷とか、近寄り難いイメージなんじゃないか?
 と、トウヤは疑問に思った。

「そんなことないよ~ 暖かくて気持ちい感じがするもん! それとウィル様に似てるし!」

「ウィルに?」

 あいつに炎……は似合わねぇよな。
 どっちかというと、あいつのイメージは……

「太陽?」

「そう! ウィル様はねぇ~ 優しくて暖かい太陽みたいなオーラなんだ~」

「だろうな」

 トウヤは予想通りだと感じ、小さく微笑む。
 それと同時に、新しい疑問も浮かんできたようだ。

「どっちかってーと、オレよりウィルのほうが日向に近いだろ」

「あーそうかも!」

「何だそりゃ」

 そう言って、トウヤは少しガッカリしたように乾いた笑いを見せる。
 それに気付いたのか、すぐにニーナがフォローする。

「でもねでもね! あたしはトウヤの色のほうが好き!」

 好きという言葉に不意をつかれ、またも照れてしまうトウヤ。
 今度は顔を隠さず、照れながらも質問する。

「何でだ?」

「ウィル様の色はね? 暖かいけど優しすぎるの。あたしは、もうちょっと熱いくらいが丁度良いんだ!」

 にへへっ、と照れるように笑うニーナ。
 そんなニーナを見て、思わず顔を赤くしてしまうトウヤは、ぎこちない顔をする。

「そ、そうかよ」

「うん!」

 ニコニコ顔でトウヤを見つめるニーナ。
 トウヤは恥ずかしくなって、話題を逸らそうとする。

「じゃーさ! 自分のオーラとかは見たことあんのか?」

「自分のはわかんない」

「えっ、わかんない?」

 ニーナはこくりと頷く。

「見たことない、とかじゃなくて?」

「見ようとしたことはあるよ? 鏡で見てみたけど、自分のは見えなかったな~」

「へぇ~ 他のやつらもそうなのか?」

「それもわかんない。他の人に会ったこともないから」

「ふぅ~ん……」

 トウヤはじーっとニーナを見つめる。
 そうして、ふと思ったことを口にする。

「形はわかんねぇーけど、お前には明るい色が似合いそうだな」

「本当!?」

「おう! 黄色か似合うんじゃねーかな?」

「黄色かぁ~ 何で何で?」

「ただのイメージだ」

 お前を見てると、知らねぇーうちに楽しくなるしよ。
 と、心の中で呟く。
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