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花嫁編

226.微笑ましい光景

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 見えない物が見えてしまう眼。
 極々稀に、そういう変わった眼を持って生まれてくる子供がいる。
 人間として生まれるか、亜人としれ生まれるか。
 その子供の運命は、たったそれだけの違いで大きく変わってしまう。
 人間として生まれたなら、神の使いとして崇められるだろう。
 しかし、亜人として生まれてしまったら、悪しき者の象徴、将来大犯罪者となる因子として罰せられてしまう。
 そして、ウィルの街にも一人、同じような眼を持つ少女がいた。
 彼女は今日も笑い、楽しく生きている。
 
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 警備部隊の本部。
 早朝から隊員が集まり、毎日のように厳しい訓練に勤しんでいる。
 その集団の中に、イズチとトウヤの姿もある。

「おらぁ!」

「っと、相変わらず際どいな。トウヤ」

「何が際どいだよ。そーいって普通に躱しやがるじゃねぁか」

 二人の実力は拮抗している。
 訓練の相手としてはもってこい。
 お互いにライバル意識もあって、良い具合に高めあっている。
 そんな彼らを見て、他の隊員たちも気合を入れている。
 
 タッタッタッタ――

 そこへ駆け込むリズミカルな足音。
 ガシャっと扉を勢いよく空け、元気いっぱいに声を出す。

「おっはよ~」

「おっ」

「ん? あぁ、もうそんな時間だったか」

 訓練場に入ってきたニーナを見て、イズチは時計を確認した。
 現在は午前八時を回ったところだ。

「やっほー! みんなは元気かな?」

「お前より元気な奴なんて、ここにはいねぇよ」

「えぇ~ そんなことないよ~」

 ニーナはニコニコしながら、トウヤの元へ駆け寄ってきた。
 二人が話す様子を眺めながら、イズチがクスリと笑う。
 トウヤがそれに気付き、ムスッとした顔で聞く。

「何笑ってんだよ」

「いや? 仲が良いなと思っただけだよ」

「んなっ! からかってんじゃねぇよ」

 イズチはニヤッと笑う。
 それからニーナに目を向けあいさつをする。

「おはよう、ニーナ。今日もトウヤに会いに?」

「うん!」

 ニーナは元気いっぱいに返事をした。
 満面の笑みは、隣にいるトウヤへ向けられている。
 イズチがチラッとトウヤを見ると、照れくさそうにそっぽを向いていた。

「なら、訓練はここまでにしよう」

 そう言って、イズチは剣を治める。
 他の隊員たちも、ゾロゾロと訓練場から歩き去っていく。

「じゃあ俺も、ネコマタの様子でも見てくる」

「はーい! ロトンちゃんが待ってるよ~」

「そうか。だったら急いで行かないとな」

 イズチは駆け足で訓練場を出て行く。
 その後姿を見ながら、トウヤがぼそりと呟く。

「ったく、お前も大概じゃねぇかよ」

「んー? 何か言った?」

「いいや、何でもねぇーよ。んで、今日もあれか?」

「うん! お仕事手伝ってほしいな!」

 トウヤは呆れた顔で、やれやれとジェスチャーをする。
 悪い鬼の事件依頼、二人の仲は急激に深まっていた。
 ニーナは毎日のように、同じ時間になると訓練場へやってくる。
 用件は大体いつも同じで、仕事を手伝ってほしいとか、暇だから遊んでほしいとか。
 そういう下らないものばかりだ。
 トウヤは嫌々ながらそれに付き合っている……わけでもなさそうだ。

 ニーナに連れられ、二人は訓練場の周りの掃除を始める。
 箒で落ち葉をかき集めていく。

「あぁ~ もう疲れたよぉ~」

「はぁ? まだ十分も経ってねぇーだろ」

 先にへばってニーナが座り込んでしまう。
 トウヤの言うように、まだ始めてから十分しか経っていない。
 これもいつものことだった。

「お前な~ 人に頼んどいて、自分がサボるなよ」

「うぅ~ だってだって~ 本当はもっと遊びたいんだもん!」

「もん!じゃねぇよ。大体、昨日も遊んだろ?」

「そーだけど~ 今日も遊びたいの~」

 子供みたいに駄々を捏ねるニーナ。
 それにため息を漏らすトウヤ。

「遊びだけなら、こいつが終わったらそーすりゃーいいだろ?」

「本当? じゃあ遊んで!」

「オレは無理だ。午後から警備の仕事だからな」

「えぇ~ じゃあやだよ~」

 ニーナはあからさまにガッカリした顔をする。

「別にオレじゃなくても良いだろ? 他にもたくさんいるんだから」

「あたしはトウヤと遊びたいの!」

 ニーナはキッパリと言い切った。
 これにはトウヤも面を食らい、驚いた様子で目を丸くする。
 そうして何気なく、興味本位で尋ねる。

「何でオレなんだ?」

「トウヤといるとね? 暖かい気持ちになれるんだ! 日向ぼっこしてるみたい! だから好きなの」

 ニーナは好意を隠さず口にした。
 屈託のない笑顔が、嘘偽りでないことを証明している。
 もしもこの場にイズチがいたら、またからかわられるだろうとトウヤは思った。
 そして同じくらい、彼女の好意を嬉しく思っているようだ。

「そーかよ」

 そっぽを向き、照れている顔を隠そうとする。

「ん~ どうしたの?」

「なっ、何でもねぇよ! あんま見るんじゃねぇ」

「えぇー何でー! もっと見たいよ~」

 顔を覗き込もうとするニーナと、隠そうと背を向けるトウヤ。
 二人の微笑ましい攻防を、他の隊員たちはこっそり眺めている。
 ほっこりする光景を、密かに楽しんでいた。
 
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