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花嫁編

224.ラルクの不安

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 ラルクは事前に、ユナンの商人と連絡をとっていた。
 予めほしい品を予約し、積荷として運んできている。
 最初にそれらの積荷を降ろしていく。
 予約されていた物の半数が野菜などの食品で、残りの半分は資材だ。
 ユナンの商人の一人が、積荷を開けて中を確認する。

「おぉ~」

「どうです? 良い出来の野菜ばかりでしょう?」

「確かに、これは一級品だな。しかも――」

 ずらっと並べられた木箱。
 数はいくつなのか数え切れないほど大量にある。

「こんだけの量、よく集められたな」

「ええ、自分でもそう思いますよ」

「そういや、どっかの街の専属になったんだって? これも全部その街で作ったものって聞いたが、そりゃー本当なのか?」

「事実ですよ」

「へぇ~ 何て街なんだ?」

「ウィルの街という、ここから南に下った所にある街です」

 名前を聞いて、ユナンの商人はピクリと反応する。
 さらに表情を暗くして、ラルクに尋ねる。

「そいつは確か……噂になってる亜人の街じゃねぇのか?」

「ええ、そうですが?」

 ラルクは表情を変えずに聞き返す。
 ユナンの商人は言い辛そうに頭を掻きながら、周りを気にして小声で言う。

「その……大丈夫なのか? 人間が入ったら変な実験されるとか、魔物の餌にされるとか、変な噂が流れてるぞ?」

「えっ、そうなんですか?」

 ユナンの商人はこくりと頷く。
 それを聞いたラルクは、豪快に笑って否定する。

「あははははっ、そんなわけないじゃないですか。全然普通の街ですよ」

「そ、そうなのか?」

「はい。あっ、でも普通ではないですね。他にないくらい素敵な街です」

 ラルクは真剣に、笑顔でそう語った。
 ハッキリと言い切ったラルクの態度に、ユナンの商人は呆気にとられている。
 話の途中で、ラルクの後ろをシーナが通りかかる。
 彼女がフードで顔を隠している所を見て、ユナンの商人は気付く。

「もしかして、他の従業員は全部亜人なのか?」

「はい。街から私を助けるために、一緒についてきてくれました」

「……」

 ラルクが答えると、ユナンの商人は再び表情を曇らせる。
 それからヒソヒソ声で、彼に忠告する。

「気をつけろよ? 俺ら商人はあんまりだが、買い手はどこで誰が作ったのかを気にする。亜人の街から来たって知られたら、二度と入れなくなるかもしれねぇーぞ」

「……そう、ですね」

「悪いが俺も、製造元は暈かして売らせてもらうよ」

 そう言って、ユナンの商人はぽんとラルクの肩を叩く。

「まぁ頑張れよ」

「はい」

 励ましの言葉も、ラルクには重く圧し掛かる。
 亜人と一緒にいるリスクは、彼自身も理解している。
 それを承知でここまで来たが、商人仲間から言われると、また違った重みを感じている。
 不安が脳裏に過ぎる中、作業は進んでいく。

 昼を過ぎて、積荷を降ろす作業は一段落ついた。
 ここからは街中での物販に移る。
 本来ならば船ごと商店として利用するのだが、街まで距離があるため、今回は別の方法をとることに。

「まさか、最初にこれを使うことになるとは」

 移動式小商店。
 五つの屋台が横並びになって、地上を移動できるように改造した乗り物。
 小さな町や、船で近づけない場所で店を開くように造った物だ。

「さぁ、行きますよ」

 ラルクが運転して、小商店は街へと入っていく。
 見た目のインパクトにつられ、入ったとたんに大行列が出来た。
 これを逃すまいと、急いで物販開始の準備をする。
 シーナや他の乗組員も協力して、十数分後には販売を開始した。

「さぁーよってらっしゃい見てらっしゃい! 新鮮な野菜はいかがかな~?」

「こっちには焼きたてのパンもあるよ?」

「武器や防具だけじゃない! 農業で使う道具も、質の良いのが揃ってるよ~」

 練習した掛け声が、各店舗から聞こえてくる。
 順調に客足がついてきたと、ラルクはニヤリと笑う。

 商品の質は良い。
 それは間違いないし、買えばわかってもらえる。
 よし……よし!
 この調子ならいけるぞ!

 ラルクは心の中でガッツポーズをしている。
 その後も客足は途絶えず、順調すぎるほど順調だった。
 しかし、その所為で忘れてしまっていた。
 最初にされた忠告を……

 夕刻に近づき、徐々に人が減っていく。
 販売できる商品も減り、そろそろ引き時を匂わせる。

「シーナさん、店を閉める準備をしましょうか」
 
「そうですね」

 シーナが店の外に出る。
 看板を片付けていると、小さな子供が近くに立っていた。
 子供は指をくわえたまま、シーナをじっと見つめている。

「どうしたの?」

 シーナは優しく話しかけた。
 すると、子供は無邪気に――

「お姉ちゃんの耳、尖がってて変だね!」

 一瞬で場の空気が凍りつく。
 周囲にいた街の人たちが、血相を変えてシーナを睨む。
 そのうちの一人が、シーナへ近寄る。
 
「失礼」

 そして、がさっと乱暴にフードを挙げた。
 露見してしまうシーナの耳。

「エルフだと!」

「うそっ! 亜人なの!?」

「もしかして、亜人がこれを……」

 周囲から様々な声が飛び交う。
 その全てが、亜人に対する罵詈像音だった。
 シーナの耳には、嫌というほどそれらが聞こえてくる。

「亜人ごときが俺たちから金を……」

 くわっと怖い顔をする男性。
 さらに男性は、右手を大きく振りかぶり、シーナを叩こうとする。

「亜人風情が、よくも騙したな!」

「っ……え?」

 振り下ろされる手。
 それを止めたのは、ラルクだった。
 
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