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花嫁編

222.観光ガイド

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 魔界への門が開通する。
 これまで僕らしか行き来できなかった場所に、街のみんなが入れるようになる。
 街の発展へと繋げるため、試みた取り組みだが……

「あれが……」

「……どうする?」

「止めておこう」

「そうね。やっぱり怖いし」

 そんな会話をして通り過ぎる人たち。
 チラチラ見て、興味を示しつつも、一歩を踏み出せないでいる若者。
 予想通り、最初は誰も通ろうとはしなかった。

「悲しいけど思った通りだね」

「であるな! まぁ仕方がないことだ」

 現状を見ての作戦会議。
 僕とベルゼは互いの状況を伝え合う。

「そっちはどう?」

「同じようなものだな」

「興味はあるけど、行く勇気はないって感じ?」

「まさにそうだ」

「だったら予定通り、あれを始めようか」

「うむ!」

 観光ガイド作戦。
 僕やベルゼがそれぞれの街を案内して魅力を伝える。
 楽しいと感じてくれれば良い。
 そういう噂が広まって、自分から行ってみたいと思えるようになれば、作戦は成功だ。

「先にそちらから始めてもらっても良いか? 発展したとは言え、城下町はまだ見せられるところも少ないのでな」

「構わないよ。じゃあさっそく募集をかけようか」

 先に取り掛かったのはポスター作りだ。
 城下町に配ったり張ったりして、ガイドを希望する人たちを集める。
 定員は特に決めていない。
 最初は少なくても良いから、一人でも多く来てほしい。
 そういう願いで、ポスター作りをする。

「みんな集まってくれてありがとう」

 ポスター作りには、メイドのみんなに加え、ハツネも手伝ってくれることになった。
 絵は僕よりみんなのほうが断然上手いからね。
 そうして作業に取り掛かる。
 みんなで案を出し合いながら、ワイワイ楽しく作る。
 そんな中で、ふとソラが尋ねてくる。
 
「案内役はウィル様が?」

「うん、最初はね」

「その後はどうなさるのです?」

「一応、専属で誰かに働いてもらおうと思ってる」

「はいはい! 私がやります!」

 僕らの会話に割り込むように、ヒナタが元気よく手を挙げた。
 ソラが驚き、確認するように僕を見る。

「っていう立候補がさっきあってね。ヒナタにお願いしようと思ってるよ」

「なるほど……しかし大丈夫なのですか?」

「もっちろん大丈夫だよ! リハビリで街中を歩き回ったりとかしてたからね! この街のことはソラより知ってると思うよ?」

「それはどうでしょうね?」

 少しだけ、ソラが不機嫌な顔をしたように見えた。
 気のせいだろうか?
 二人の間に、バチバチと火花が立っているように見えるんだけど……。

「えっと……ヒナタ一人じゃ大変だろうから、偶には僕もやるつもりでいるんだ。ソラにも手伝いお願いできるかな?」

「はい、もちろんです」

 ちょっぴり嬉しそうに答えるソラ。
 それを見ながら、むすーっとするヒナタ。
 僕は苦笑いしながら、作業に戻って意識を逸らすことにした。

 そうしてポスターは完成し、城下町に配られる。
 壁に張り付け、町を歩きながら配ったり。
 そして、たった一日足らずで――

 二百人を超える希望者が集まった。

「……予想より全然多いね」

「うむ……数名だと思っておったが、これは期待できそうだな?」

「そうだね。だけど一度にこの人数は案内できないよ」

「日を分けるか?」

「そうしよう」

 あと、今度から定員を設けよう。
 そんな話をベルゼとして、先に来てくれた半数をつれ、僕の街を案内することにした。
 さっそく参加者を門の前に集め、先頭に立った僕があいさつをする。

「えー皆さん! 今日はお集まりいただきありがとうございました! 出発の前に、いくつか僕と約束をしてほしいです」

 一つ、列を勝手に抜けたりしないこと。
 二つ、道にゴミを捨てないこと。
 三つ、街の人たちに迷惑をかけないこと。

「以上のことを守って、楽しく観光しましょう!」

 説明を終え、集まった人たちの表情を確認する。
 期待しているのがわかる表情だ。
 興味を持って集まってくれたから、当たり前なのかもしれない。
 ちゃんと応えられるように、精一杯案内するとしよう。

「では、さっそく行きましょう」

 そして、僕らは門を潜る。
 普段なら、ただいまという所だけど、今回は別の言葉が相応しい。

「ようこそ! 僕の街へ」

 ベルゼ以外の悪魔が、ウィルの街の地面を踏みしめた瞬間。
 決定的で記念すべき瞬間が訪れた。
 観光の順序は決まっている。
 まずは僕の屋敷からスタートして、畑や牧場を見て回る。
 城下町でもやっていることだから、参考になれば良いと思ってのことだ。
 それから各エリアを回る。
 居住エリアはもちろん、遊泳施設や大樹も回る。
 魔界にはない物がたくさんあって、彼らは目を丸くしていた。

「ねぇ見て! 楽しそうだよ!」

「……そうね、楽しそうだわ」

 観光中、僕らを見つめる視線はたくさんあった。
 興味本位が多かっただろう。
 僕らが楽しそうに進んでいる様子を見て、彼らから恐怖心が消えていく。
 目論見通り、楽しさは伝播する。

「この調子なら、僕の役目も早く終わりそうだね」

 呟きながら、観光を楽しむ悪魔たちを見つめる。
 僕が思っていること。
 悪魔も人間も亜人も、同じように生きている。
 変わらないんだということが、他のみんなにも伝わってほしい。
 そうなる未来は、遠くはないだろう。
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