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魔界開拓編

209.異質な力

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「アガリアレプト、貴様……」

「これこそ……封印を解く儀式。私はそのための供物となる」

 ベルゼは哀れみの視線を向けている。
 アガリアレプトは満足げに笑いながら、両膝を地につける。
 
 アガリアレプトの能力は、【あらゆる謎の解明】。
 彼の前では、どんな秘密も無意味。
 その力によって、秘密は暴かれてしまう。
 彼が語った過去の真実や、狂った魔女の封印場所、その解除方法まで。
 すべては彼の能力で知りえたことだった。
 かつて先代魔王はアガリアレプトの能力を、もっとも恐ろしい力だと語ったらしい。
 強大な力を持つ魔王ですら、彼の能力には畏怖を覚えた。

 そんな力を使ってまで、自らを犠牲にする道を選んだ彼を、ベルゼは哀れに思っていた。

「供物……か。アガリアレプトよ、残念だが無駄な犠牲だ」

「……いいえ、そうはなりません。私の能力が告げている……あなたは負けると」

「ほう、ならば試してみるとしよう」

「ええ、ご存分に……あぁ、とても残念だ。あなたが負ける瞬間を、この目で見届けられないのは」

「安心するが良い。そんな瞬間は、もとより訪れん」

 ベルゼが否定すると、アガリアレプトはニヤリと笑い、力尽きて地面に倒れこんだ。
 すると、赤い光が彼の遺体を覆う隠すほど強くなる。
 彼の死をもって、封印の儀式は完了する。
 赤い光は束となり、柱となって天井を突き抜ける。
 強力なエネルギーをベルゼは感じ取る。
 天井は抜け、周囲の石畳が宙へ浮かんでいる。
 ベルゼが赤い光の柱を見つめていると、中に長い髪の女性の影が映った。

「現れたか……」

 ベルゼは女性を睨むように見つめる。
 
 遺跡から伸びる光の柱は、外で戦闘を続けている者たちにも見えていた。
 ネビロスが気付き、驚きと疑問の表情をする。

「何だ……あれは……」

 ネビロスは異様な力を感知し、不安が頭を過ぎっていた。
 それと同じくして、赤い光の柱は収束し、影しか見えなかった女性の全身が姿を見せる。
 彼女は宙に浮かんでいた。
 薄紫色のカールがかった長い髪をなびかせ、白いワンピースのような服を着ている。
 眠っているように目を瞑り、宙で浮かんだまま動かない。

「ほう、これが狂った魔女、中々美しい女性ではないか。まっ、我のサトラには劣るがな」

 暢気に容姿の感想を口にしているベルゼ。
 しかし、同時に違和感を感じ取る。

「妙だな……」

 復活の儀式の途中、光の柱からは強大な力を感じていた。
 魔力とも異なる極めて異質な力ではあったが、強大であることは理解できた。
 それがどうだろう。
 復活した今となっては、何も感じ取れなくなっていた。
 魔力はもちろん、異質な力すら感じられない。
 目の前にいる女性は、間違いなく狂った魔女なのだろう。

「もしや、失敗したのか?」

 という結論に至った。
 が、それは間違いだったとすぐに気付かされる。
 狂った魔女は目を覚ます。
 ゆっくりと重たそうな瞼をあげ、世界を認識する。
 その瞬間、狂った魔女は叫ぶ出す。

「■■■――■――!」

「っ――」

 異様な叫び声に、思わずベルゼも耳を塞ぐ。
 叫び声は衝撃はとなって周囲に広がり、遺跡の壁を破壊していく。
 遺跡だけではない。
 遺跡のあった周辺の地面を砕いていく。
 激しく、奇妙な叫び声は、当然ネビロスにも届いていた。
 外で戦っていた彼らの視線が、破壊された遺跡に集まる。

「くっ……魔王様は!?」

 ネビロスは視線の先にベルゼを見つけ安堵する。
 それと同時に、狂った魔女を視界にとらえ、ベルゼと同じ疑問を抱き眉をひそめる。
 そして、狂った魔女は叫びながら、上空へと昇っていく。
 ベルゼは耳を塞ぎながら空を見上げて言う。

「何をするつもりなのだ?」

 狂った魔女は上空でピタリと静止する。
 叫びを覚め、両手をダランとぶらさげる。
 数秒の沈黙を挟み――

「■■■――」

 なぞの言語を使い、自身の周囲に大量の魔法陣を展開した。
 魔法陣はすべて、地上へ向けられている。

「まさか――」

 ベルゼは気付く。
 しかし、すでに遅かった。
 魔法陣から雨のように砲撃が放たれ、地上を焼き尽くす。
 これにより、すでに勝利目前だった魔王軍は半壊した。
 立ち昇った土煙が晴れる頃、地上には無数のクレーターと、悪魔の遺体が転がっていた。
 咄嗟に防御した一部を除き、壊滅的は被害を受けてしまったのだ。

「貴様……」

 惨状を見て怒りをあわらにするベルゼ。
 ベルゼの怒りを無視して、狂った魔女は再度砲撃しようと魔法陣を展開している。

「させぬわ!」

 それより速く、ベルゼが同数以上の魔法陣を展開して攻撃した。
 空中で大爆発が起こる。

「魔王様!」

「ネビロス! 残った兵を下がらせろ! こやつは我が討つ!」

 命令を下し、ベルゼは空へと飛び上がっていく。
 一人で戦うのは危険だと感じたネビロスだったが、ベルゼの命令を遂行するため動き出す。

「皆下がれ! 城まで撤退するのだ!」

 事態は急を要していた。
 相手は強敵。
 ベルゼも本気で戦おうとしている。
 弱い味方は邪魔になる。
 だから、負傷した悪魔たちを逃がしていく。
 その様子を横目に確認しながら、ベルゼは宙で魔女と相対する。
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