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魔界開拓編

200.大事な話?

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 城下町開拓も十日が過ぎた。
 みんなの協力もあって、無事に畑と飼育場が完成している。
 さらに次のステップへ!
 と行きたい所だけど、あまり根を詰めすぎてもよくないので、この辺りで休憩を入れることになった。
 城下町開拓十一日目はお休み。
 各自で羽を休め、翌日からの作業再開に備えてもらう。
 そんな中、僕は一人で魔界に訪れていた。
 畑の様子をチラッと見て、問題なければ帰るつもりだった。
 のだが――

「よし、問題なし」

「おぉ! もう畑が出来ておるのか!?」

「うわっ、ベルゼ?」

 後ろから大きな声が聞こえて、思わず転びそうになった。
 済んでのところで耐え、身体を起こして振り返ると、ベルゼが立っていた。
 ベルゼは右手を額に当て、遠くを見つめるポーズで、畑を右から左へ見渡している。

「すごいな! これは驚かされたぞ!」

「いや、驚いたのはこっちだよ」

「む? なぜウィルが驚くのだ?」

「え? それは……まぁいいや。いつ戻ってきたの?」

「つい先ほどだ! 我の用は片付いたのでな」

「へぇ~」

 確かベルゼは、反魔王軍との戦いに行っていたはず。
 帰ってきたってことは、もう戦いは終わったってことなんだろうか?
 僕はじーっとベルゼの身体を見回す。

「ん? な、何なのだ?」

 僕の視線にたじろぐベルゼ。
 見たところ怪我はしてないないようだ。
 むしろ出発前より元気なんじゃないか?

「さすが魔王だね」

「んん!? よくわからんが、褒められるのは気分が良いな!」

 首を傾げた後、ベルゼは豪快に笑った。
 本当にピンピンしている。
 というか、逆にうるさいと思えるくらいだ。

「してウィルよ! 今から時間は空いておるか?」

「え、うん」

「そうかそうか! ならば我の話を聞いてくれぬか?」

「話?」

「ああ! 大事な話なのだ」

 そう言ったとき、ベルゼはちょっぴり真剣な顔になった。
 僕は頷いて答える。

「わかった」

「感謝するぞ!」

 そういうわけで、ベルゼの大事な話を聞くため、彼と一緒に魔王城へ向かう。
 道中、ベルゼが僕に質問してくる。

「そういえば、町の皆とは上手くやれておるのか?」

「うん。作業と一緒で順調だよ」

「そうか、なら良い。畑に誰も集まっておらんから心配したぞ」

「あぁー、今日は休みなんだよ」

「なるほど」

 どうやらベルゼなりに、僕らのことを気にかけてくれていたらしい。
 子供っぽい見た目のせいか、それが可愛らしく思えてしまう。
 魔王に対して、こんな感情は失礼だろうな。
 感覚的には、年下の子供なんだけどね。

 そうして、僕らは魔王城に到着した。
 場内は慌しく、戦闘が終わった後処理に負われている様子だった。
 ネビロスはまだ現場にいるらしい。
 僕らは働く悪魔たちの横目に、ベルゼの寝室に移動した。

「さて、ここなら誰にも聞かれる心配はない」

 ベルゼが前置きを口にした。
 何かとんでもないことを言い出しそうな雰囲気をかもし出す。
 僕はごくりと息を飲む。
 そして――

「ウィル、我にお前のことを教えてくれぬか?」

「……え?」

 ベルゼが口にした一言が予想外すぎて、僕は気の抜けた声を出した。
 戸惑った僕は理由を尋ねる。

「えっと、何で?」

「うむ、実はな? サトラがことあるごとに、お前の話をするのだ」

「え、あ……うん、そうなんだ」

「しかも、その全てが良い話なのだ! ウィル様は素晴らしいだのと……あぁ! 思い出すだけで羨ましい!」

 ベルゼは頭をぐしゃぐしゃに掻きながら悶えていた。
 僕は終始戸惑っていたよ。
 ベルゼはさらにこう続ける。

「話を聞いていればわかる。サトラが、お前を心から慕っていることがな。加えてサトラだけではない。ウィルよ、お前はもっと多くの者たちから好かれておる」

「そう……かな?」

 僕はあえて暈かすように言った。
 そんな様子にベルゼはむくれながら言う。

「正直に言って悔しい! が、逆に考えたのだ! お前のことを知り、我も同じように実践すれば良いのではないか? そうすれば、サトラも我を慕ってくれるのではないか?」

 あぁ……そういう感じか。
 ようやく話の中身が伝わったよ。
 ようするにこれ、恋愛相談的な何かだ。
 ベルゼはサトラに好かれたいから、悪しからず思われている僕を見習おうとしている。
 って、自分で言うのも恥ずかしいけど、そういう話だ。

「良いよ。僕の話でよければ」

「本当か!」

「うん。参考になるかは別だけどね」

「構わん! さっそく聞かせてくれ!」

「はいはい」

 ベルゼにせがまれ、僕は話す。
 生まれてから何があって、何を知って、どうしてきたのか。
 僕のルーツから、みんなとの出会い。
 今日までに歩んできた道程を……物語を伝えた。
 最初はウキウキで聞いていたベルゼも、途中から真剣に、静かに聞いていた。
 笑って聞けるような内容ではないと、彼なりに感じ取ったからだろう。
 すべてを話し終わったとき、ベルゼは立ち上がり、窓の外を見ながら言う。

「どうやら、参考にはならんようだな」

「そう?」

「うむ。それは、お前にしか出来ない生き方、選んだ道だ。たとえ我であっても、真似で気はせんだろう」

「……そうかもね」

 自分でも、そう思うのが不思議だ。

「だが、他者を尊ぶ心と、揺るがぬ精神は見習うべきだと思った。どちらも、今の我には不足しておるものだ」

 そう言いながら、ベルゼはクルリとこちらを向く。
 いつになく真剣な眼差しで、じっと僕を見つめる。
 それから笑顔を見せ、こう言う。

「聞けて良かった。ありがとう」

「どういたしまして」

 僕は笑顔でそう返した。
 
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