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時間旅行編

165.家出魔王

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 悪魔族。
 彼らが暮らしているのは、長靴のような形をした大陸だ。
 呼びにくいので、僕らはブーツグランドと呼んでいる。
 僕も話に聞いているだけで、詳しい事情までは知らないけど、大陸の七割は彼ら悪魔族によって統治されているらしい。

 悪魔族は亜人種とは起源が異なる。
 かつて、人類種の中にずば抜けて魔力の高い者たちが生まれた時代があった。
 その者たちは魔人、魔女と呼ばれていたそうだ。
 人々は彼らを恐れた。
 強大な力を持っているが故、危険だと判断され迫害された。
 数で劣る彼らは、滅びを避けるためにひっそりと暮らす道を選択した。
 その際に移住地として選んだのが、ブーツグランドだった。
 ブーツグランドは気候が荒く、暮らすにはとても厳しい環境だった。
 月日が流れ、彼らの身体は環境に合わせて変化した。
 世代を重ねるごとに魔力は強まり、角や羽、尻尾が生えたりした。
 そうして誕生したのが、現在の悪魔族なんだ。
 
 そして魔王とは、彼らを従える悪魔の王。
 最強にして最恐の破壊者――

 のはずなんだけど、ベルゼを見ていると認識がぶれるな。

「先代の父上が亡くなり、我が新たな魔王になったはつい数ヶ月前のことだ。だが魔王と言っても玉座に座っておるだけ……城や街のことは部下が全部やっておる。退屈で退屈で仕方がなかった。そんなとき、貴様らのことを知ったのだ!」

「え、僕らの街ってそっちの大陸まで知られているの?」

「いいや我以外は知らんと思うぞ? 我も水晶を通して知ったからな」

「水晶?」

「念じた光景を映し出す魔道具だ。暇つぶしによく見ておったら、偶然貴様らが船を飛ばしている光景を見た。そのとき我は確信したのだ! ここに行けば、退屈から解放されると!」

 アルゴーが出発した日のことかな。
 つまりベルゼは、それを見てすぐに城を飛び出したのか。

「要するにあれじゃろ? こやつは退屈に耐えられなくて家出してきたわけじゃな」

「まぁそういうことになるな! 否定はしないぞ!」

「素直だね。だけどいいの? 五日も留守にしてるってことは、向こうは大変なことになっているんじゃ……」

「大慌てで探しておるかもしれんのう」

「構うものか。どの道、我はお飾り魔王だ。座しておるだけなら、人形でも事足りる」

「いや、さすがにそれは無理があるんじゃ……」

「知ったことか。というわけで、しばらくここで厄介になるぞ!」

「えぇ!?」

「急に話が飛躍したのう」

「いやいや! やっぱりもう帰ったほうが良いって!」

 そのほうが助かる……。
 このまま居座られたら、いつかベルゼを部下が探しに来て、面倒なことになりそうだし。
 さっきの騒動で、街の皆も怖がっているはずだ。
 だから出来ればすぐに帰ってほしい。
 のだけど……

「嫌だ! 我は帰るつもりなどない!」

 ベルゼはかたくなに拒否した。
 さらに続ける。

「帰ってもつまらぬ日が続くだけだ! さっき空から見たが、この街には面白そうなものがたくさんあるだろう? ここに入れば退屈も紛れそうだ。何より、美味い食事が食べられるしな!」

 そう言って、ベルゼはサトラに視線をおくった。
 サトラはニコリと微笑んでいるけど、どこか意味有り気な笑顔だと思った。

「とにかく我は帰らんぞ!」

「う~ん……」

 どうしようかと悩んでいると、服の裾をユノが引っ張ってくる。

「ウィルよ」

「ん?」

「これ以上粘っても無駄じゃ。というか、変に暴れられても困る」

「確かに……」

「じゃから適当に数日滞在させてしまえ。そのうち飽きるはずじゃ」

「あ、飽きるかな?」

「ワシは飽きると思うのじゃ。そんな感じの性格をしておるし」

 それって完全に見た目の判断じゃ……
 まぁでも、ユノの言うことも一理あるんだよね。
 このままごねて癇癪を起こされても困る。

「はぁ……仕方ないね。滞在を許可するよ!」

「感謝するぞ! えっと……名前はなんだったか?」

「ウィリアムだよ。ウィルで良い」

「感謝するぞ! ウィル!」

「どういたしまして」

 何だか、本当にただの子供を相手している気分になってきたな。
 悪魔族とか魔王とか言っているけど、根は人間の子供と同じなんじゃないかな。
 そう思うと、ちょっと親近感が沸いてくるかも。

「あぁ、でも一人でウロウロされるもの困るかな」

「じゃな」

「なぜだ? 我は迷惑などかけんぞ?」

「いや……すでに結界を壊してくれたよね? あれも修繕が大変なんだよ?」

「そ、それは仕方ないだろ! 壊す以外に入れんかったのだ!」

 ベルゼは開き直ってそう言った。
 結界のことだけじゃなくて、街の皆も心配なんだ。
 きっと怯えているだろうし、ベルゼ一人で歩かせたら、もっと怖いと思う。

「せめて一人、案内役をつけたい所だけど」

 ここはやっぱり僕がやるべきか?
 そう思った矢先、ふっと彼女が手を挙げた。

「ウィル様、案内役なら私がします」

「サトラ? いいのかい?」

「はい」

「おお! そなたが案内してくれるのか!」

 ベルゼもノリノリだった。

「じゃあお願いするね?」

「はい、お任せください」

 こうして、家出魔王ベルゼを匿うことになった。
 いや、なってしまった。
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