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魔法学園編(本編)

124.料理は愛情

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 調理場に並ぶ金色の双子。
 調理台にはたくさんの食材が並べられ、調理器具たちが自分の出番を今か今かと待ちわびている。
 その姿を俺は見守っていた。

 何となく心配になって見に来たけど、何だ大丈夫そうだな。
 食材も普通のものばかりだし、料理長に習ったのなら間違いないだろう。
 これなら見に来る必要なかったな。
 まぁでも、せっかくだし見学していくか。

「ねぇレイム、何作ろうかな?」

「お兄様が好きなものを作りたいね! ライム」

「そうだよね! でもどうしよう、ライム達お兄ちゃんの好きな食べ物知らないよ?」

「それならたくさん作ろうよ! せっかくこんなにたくさん食材もあるんだから」

「うん! それが良いね!」

 俺はその様子を観察しながら思った。
 普通に聞きにこれば良いのに……
 教えてあげた方がいいかな?
 いやでも、ここで教えたら覗いてるのばれるし、別に嫌いな食べ物とかもないし良いか。
 手作りなら何でも美味しいしね。
 
 そうこうしていると、二人が動き始めた。

 おっ、さっそく調理開始か?

「じゃあまず野菜を洗おう!」

「うん!」

 ちゃんと料理っぽい手順が始まったな。
 やっぱり気のせいだったみたいだ。
 その光景に安心してほっとしていると、ライムの野菜を洗う手順に若干の違和感を感じた。

 ん? 何だろう……今野菜に何かかけたような……っていうか泡立ってないかあれ?
 
 俺はそっと近づいて、ライムが手に持っているものを確認した。
 彼女が手に持っているボトルには、洗剤と大きな文字で記されていた。

 洗剤?? 今野菜に洗剤かけたの?
 野菜って洗うのに洗剤必要だったっけ?

「やっぱり野菜は綺麗に洗わないとね!」

「そうだね! でもレイム達が見た時、料理長は水で洗ってたけど……」

 そう、それが普通だよ?

「でもでも! やっぱり綺麗にするならコレ使ったほうが良いと思う!」

 どうしてそうなったんだ。
 さっきまで物凄くまともだったのに……
 いや待てよ?
 最近は野菜用の洗剤もあるってアリスが言ってた気がする。
 もしかしたらこれも―――

 そう思ってボトルを再確認した。
 ボトルには食器用としっかり記されていて絶望した。

「よし! これで全部洗い終わったね! レイム」

「うん! 完璧だね! ライム」

 うん、完璧に洗う終わっちゃったね。
 まっ、まぁ洗剤は洗い流せば問題ないし大丈夫だろう。
 味付けに使うのは勘弁してくれよ。

「これはもう使わないね!」

 ライムが洗剤のボトルをしまった。
 その光景にほっとしたのも束の間、次の問題が目に飛び込んできた。
 いつの間にか調理台には、百以上の小瓶が並べられていたのだ。
 これは一体……いやもう何となく予想は付くけど。

 調理の作業が進んでいく。
 その過程の中で、大量の小瓶は大活躍していた。

「せっかく作るんだもん! ライム達にしかできない味付けにしないとね!」

「そうだねライム、忘れられない味付けにしようね!」

 もはや言うまでもなく、小瓶はすべて調味料だった。
 それも一般的なものはほとんど無く、どれもあまり家庭的に使われていないものばかり。
 確認はしたけど、ほとんど何なのかわからなかった。
 ただ小瓶のうちいくつかには、使用上の注意的なものが濃く書かれているものもあって、正直ぞっとする内容が書いてあるものもあった。

 料理初心者のタブーを惜しみなく踏んでいく二人に、もはや清清しさすら感じ始めていた頃、すべての調理工程が完了し、俺も覚悟を完了しなければならない状況になった。
 そして現在、並べられた料理を前ににらめっこしている。
 その横には、満面の笑みを浮かべる二人の姫様がいた。

「たくさん食べてね! お兄ちゃん!」

「おかわりもありますよ? お兄様」

「おっおう、ありがとう。二人とも……」

 見た目……は普通なんだよな。
 その辺りはちゃんと料理長から教わった感じが出てるのに、どこで方向性を間違えたんだ。
 というか、国王この事知ってたな?
 だから俺に、幸運を祈るなんて意味深な言葉残したのか。
 わかってるなら先に教えてほしかったよ。
 さて、この状況をどうすべきか?
 俺は二人の顔を再確認した。
 まず食べないという選択肢は無い。
 この状況になった時点で、もはやそこに選択の余地は無い。
 問題は食べた直後のリアクションだ。

「そ、それじゃあいただこうかな」

 俺は目の前にあったスープに手をつけた。
 スプーンで掬い、飲む前に一度心の中で確認する。

 いや、まだ不味いと決まった訳じゃない!
 もしかしたら初心者のミラクルが起こって、奇跡的に味が成立している可能性もある。
 その可能性に、俺は賭ける!
 
 そう信じて口に運ぶ。
 刹那、口の中に広がった未知の風味に戦慄した。
 なっ、何コレ?
 苦いのか、辛いのか、甘いのか、そもそも味なのか??
 ただ確信をもって言えるのは一つ―――めちゃくちゃ不味いって事だけだった。
 やばい、目が潤んできた。

「どうかな?」

「美味しくなかったですか?」

 言葉を無くしていた俺に、二人が不安そうに訊ねる。

「いや……美味しいよ!」

 ここで俺は、満面の笑みで嘘をついた。
 せっかく俺のために作ってもらったんだ。
 それに相手は王女、不味いなんて口が裂けても言えない。
 実際口が裂けそうなくらい痛いんだけど……

「ホント! やったー!!」

 嬉しそうにはしゃぐライムを見て、俺は少しだけ安心した。
 しかし、

「たくさんありますから、いっぱい食べてくださいね!」

 レイムのその一言で、俺は再度覚悟を決めた。
 後に全てを完食した俺は、料理は愛情という常套句を思い受けベる。
 そしてこう思った。

 愛情を受け取るには覚悟が居るんだな……

 二人の花嫁修業は、まだ始まったばかりだ。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

次回更新は12/15(土)12時です。
今回の話はちょっとした息抜き、次回から新展開です!
感想お待ちしております。
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