上 下
72 / 132
魔法学園編(本編)

116.フレンダ・アルストロメリア⑤

しおりを挟む
 魔女キルケーが戦場に現れた。
 それによって意識を失ってしまうフレンダ。
 レイブ達は騎士団員達と協力して怪我人の手当てをした。
 今回の襲撃での負傷者は37名、死者3名。
 その内の一人が、レイブ達の案内をしてくれたマレクだった。
 そして一行は、倒れたフレンダの眠る部屋に集まっていた。

「全員揃ったな」

 レイブが言う。
 彼の周りには、リルネット達チームメンバーとマッケンが集まっていた。
 同室のベッドではフレンダが眠っている。

「皆、辛い事をいうようだけど落ち込んでいる暇は無い。早急に状況把握と打開策を考えよう」

「うん……」

 レイブの声かけにリルネットだけが答えた。
 他の皆は黙ったままだが理解はしている。
 だからこそ黙ってレイブの方へ視線を向けた。
 レイブは視線が自分に集まった事を確認してから話し始める。

「それじゃ、最初にこっちの被害だけど……それはさっきマッケンさんから報告された通りだ。死者を含めた被害者は40名。決して少なくは無いが極端に多いわけじゃない。今日の襲撃の規模からして、この被害者数なら戦う事はできる。ただ問題なのは、眼に見える被害がこれだけだって事だ」

「精神面の被害ですね?」

 アリスが言う。

「そうだ。今回の襲撃者はネクロマンサーだった。すでに死人とは言え、何回も人間を殺す感覚を味わって平気な奴なんていない。いくら訓練を積んだ団員でも同じだよ」

「その通りだ。現に確認した所、騎士達の半数に鬱症状のようなものが見受けられた。彼らはとても戦えるような状況じゃない」

 マッケンの調べた状況によれば、次も戦える者は半数以下。
 その半数でも次戦えば、戦闘中に戦意を喪失する可能性も考えられる。
 となると……

「最悪の場合、ここにいるメンバーだけで戦わないといけないかもしれないな」

「マジかよ? それはさすがにきついぞ」

「わかってるよグレン。それにここにいるメンツだって同じリスクを持ってる。俺達だけで戦う状況は避けたい。そのためには……」

「魔女本体を倒す―――――」

 リルネットが閃いたように言う。

「正解だ」

 死霊魔法は死者の魂を遠隔操作する魔法だ。
 確かに強力な魔法ではあるが、術者本体を倒せば解除される。
 こちらの被害を最小限で終わらせるためには、少しでも早く魔女を討伐するしかない。

「そのためには彼女の力が必要だ」

 レイブが視線をベッドに向ける。
 皆の視線も同じ方向へ移動する。
 視線が集まった先にはフレンダが眠っていた。

「レイ、フレンダ先輩どうなっちゃったの?」

「何しても起きないっすよ」

「何かの魔法にかかっているのでしょうか?」

「ああ。先輩は今、キルケーが持つ固有魔法によって眠らされているんだ」

「固有魔法? 特異魔法の事?」

 リルネットが首を傾げて言う。

「少し違う。皆も知っていると思うけど、特異魔法は特定の人物にしか使えない特別な魔法のことだ。だけど特別と言っても条件さえ満たせた他者が行使する事もできる。対して魔女の用いる固有魔法は、文字通り魔女固有の魔法……魔女本人にしか使えない魔法なんだ」

 そして七大罪の魔女達は、それぞれに一つ固有魔法を持っている。
 自身が背負う大罪の名を冠する魔法。
 キルケーの場合『嫉妬』と呼ばれる固有魔法だ。

「【嫉妬】の魔女キルケー、七大罪の一人……聞いた事無かったな」

「だろうな」

 七大罪の魔女が活動していたのは、今より数百年以上前だ。
 今では4人になっているし身を潜めていたらしいから、現代で知っているのは俺とエレナくらいだろう。
 加えて【嫉妬】の魔女に関しては情報が一番少ない。
 特に固有魔法については予想の域を出ていなかった。

「それで結局先輩は大丈夫なのか?」

「ああ、今の所はな。おそらく先輩は今、悪夢を見せられている」

「悪夢だって? お前あの魔女の魔法がわかるのか?」

 グレンが尋ねる。
 それに肯定で返したレイブ。
 今まで予想でしかなかった魔女の能力……でも今回の一件でハッキリした。
 固有魔法『嫉妬』の能力は――――――

「相手の意識を悪夢の中に閉じ込め壊す―――――それがキルケーの能力だ」

「意識を閉じ込める? 間違いないのか?」

 マッケンが聞く。
 レイブは縦に首を振る。

「これは所謂【干渉魔法】の亜種と呼べる魔法です。相手の意識に干渉しトラウマを呼び起こす。そして相手を夢の中に閉じ込め、永遠にトラウマから生み出した悪夢を見せ続ける。おそらく発動条件は相手と眼を合わせることだったんでしょう」

 キルケーはフレンダと眼を合わせていた。
 その直後に彼女は倒れた。
 他にも条件はある可能性はあるが、直接の発動は眼を合わせることで間違い無さそうだ。
 そして問題はその解除方法にある。

「反魔法で解除できないのか?」

「それはもう試したよ。結果はこの状況を見ればわかるだろ?」

 質問したグレンも察した。

「ねぇレイ、このままだとどうなるの?」

 心配そうな顔でリルネットが聞く。

「精神が完全に壊れれば最後、二度と目覚めないだろうな。最悪そのまま肉体も死ぬかもしれん」

「そんな……」

 暗い雰囲気になる一同。
 そんな中でアリスが言う。

「助ける方法は無いのですか?」

 皆の視線が再びレイブに集まる。
 レイブは真剣な顔でこう答えた。

「方法はある」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

次回更新は12/1(土)12時です。
現在キャラ文芸大賞用の作品を執筆中です。
11/30の20時に投稿予定でいます。
ぜひぜひお気に入り登録、投票お願いいたします。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠
ファンタジー
長く苦しい戦いの果てに、魔王を倒した勇者トウヤは地球に帰る事となった。 だがそこで予想もしない出来事が起きる。 なんとトウヤが強くなりすぎて元の世界に帰れなくなってしまったのだ。 仕方なくトウヤは元の世界に帰るアテが見つかるまで、平和になった世界を見て回る事にする。 しかし魔王との戦いで世界は荒廃しきっていた。 そんな世界の状況を見かねたトウヤは、異世界を復興させる為、ついでに自分が住み良くする為に、この世界の人間が想像も付かない様な改革を繰り広げてしまう。 「どうせいつかは地球に帰るんだし、ちょっとくらい住み良くしても良いよね」 これは故郷に帰れなくなった勇者が気軽に世界を発展させてしまう物語である。 ついでに本来勇者が手に入れる筈だった褒美も貰えるお話です。 ※序盤は異世界の現状を探っているので本格的に発展させるのは10話辺りからです。 おかげさまで本作がアルファポリス様より書籍化が決定致しました! それもこれも皆様の応援のお陰です! 書き下ろし要素もありますので、発売した際はぜひお手にとってみてください!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)
ファンタジー
 15歳ですべての者に授けられる【スキル】、それはこの世界で生活する為に必要なものであった。  世界は魔物が多く闊歩しており、それによって多くの命が奪われていたのだ。  ある者は強力な剣技を。またある者は有用な生産スキルを得て、生活のためにそれらを使いこなしていたのだった。  エメル村で生まれた少年『セン』もまた、15歳になり、スキルを授かった。  冒険者を夢見つつも、まだ村を出るには早いかと、センは村の周囲で採取依頼をこなしていた。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。