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魔法学園編(本編)

112.フレンダ・アルストロメリア①

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 後悔している。
 父を失ったあの日、なぜ私は共に戦えなかったのか。
 幼かったのだから仕方がいないと……
 そう言ってしまえばお終いだ。
 だけど、私はそんな風には納得できなかった。
 父のような立派な騎士になりたい。
 いつか父に認められたい。
 それが私の夢で、生きる目標でもあった。
 今でもそれは変わらない。
 立派な騎士なるためにこれまで研鑽を重ねてきた。
 そうして遂に、念願の騎士団へ入団することができたのだ。
 嬉しかった。
 この嬉しさを父に伝えたいと思った。
 でもそれは叶わない。
 嬉しいはずなのに、なぜだか涙が止まらない。


「うぅ……」

 フレンダは懐かしい夢を見て目が醒める。
 目が醒めた時、瞳から涙が流れた跡が残っている。
 とても悲しくて切ない夢だった。
 今は亡き父の姿が脳裏に浮かぶ。

「いけないわ」

 フレンダは自分の頬をパンッと叩く。
 脳裏に浮かんだ父の姿を吹き飛ばすため渇を入れる。
 それから騎士服に着替えた後、自分の部屋を出て行く。
 朝食をとるため食堂へ向かう途中、隊長室の前を通りかかった。
 扉の向こうから声が聞える。

「それじゃ今の件、お願いしますね」

「ああ、任せてくれ」

 この声……
 レイブ君かしら?

 隊長室の扉が開く。
 声の主は予想通りレイブだった。

「失礼しました」

 レイブは部屋を出て扉をしめる。
 そのまま扉から離れた時、フレンダの存在に気づく。

「フレンダ先輩、おはようございます」

「おはよう、レイブ君。隊長に用事でもあったの?」

「ええ、まぁちょっとした相談事ですよ。先輩はこれから食堂ですか?」

「ええ」

「俺も朝食まだなんで、一緒に行ってもいいですか?」

「もちろんよ」

 そのまま二人で食堂に向かう。
 食堂に到着すると、すでにリルネット達4人が座っていた。
 気づいたリルネットが声をかける。

「あっ、おはよう! レイ! それからフレンダ先輩も!」

「おはようリル、皆も」

「おう!」

「おはよーっす!」

「おはようございます」

「おはよう。皆早いのね」

 二人が食卓の輪に加わる。
 リルネット達は騎士団員では無いが、依頼中はここで寝泊りをしている。
 本当はあまりよく無いらしいけど、国王からの依頼だから特別なのだと言う。

「そういえばレイブ君、昨日はどこへ行っていたの? 途中から姿が見えなかったけど」

 朝食をとっていると、フレンダが昨日の事を思い出し聞いた。
 リルネット達も、あーそういえば……という表情をしている。

「ちょっと街を散歩してただけですよ? なんとなく静かな場所でリラックスしたいな~なんて思って」

「そう? だったらいいのだけど」

「そんな事言って、実は逢引でもしに行ってたんじゃないのか~」

 ニヤつきながらグレンが言う。
 その単語に反応した3人の視線が、レイブにささる。

「グレン……冗談はよしてくれ」

 リル達の視線が痛いから……

「あっはっは、悪い悪い。だけど気をつけろよ? 最近変な噂もあるらしいからさ~」

「変な噂? この街にか?」

「そうだぜ? なぁ、クラン」

 グレンが話題をクランにふる。
 クランは食事の手を止めた。

「そうっすね~ 昨日の巡回の時なんすけど……街の人が妙な話をしてたんすよ」

 昨日の巡回でこの二人は組んで仕事をしていた。
 その最中、街のあちこちで同じ噂を耳にする。

「ねぇ聞いた? また出たらしいわよ?」

「えぇ……またなの? 本当に怖いわね~ あれでしょ? 死んだはずの人が街を歩いてるって言う……」

「そうそう。本当なのかしらね?」

「さぁね~ 信じられないけど、もう何人も目撃してるんでしょう?」

 噂する街人をクランが見つめている。

「死人が街を?」

 レイブが言った。

「そうみたいっすよ? あたしも最初は嘘だと思ったんすけど……街行く人が毎回同じ話をしてて、現に見たって人にも会ったんすよ」

「本当なの? クランちゃん」

 リルネットが聞く。

「本当っすよ。その人は死んだ母親が歩いてたらしいっす」

「幻覚か何かじゃないのか?」

「それがどうも違うみたいなんすよ~ その目撃した人なんすけどね? ずいぶん酔ってたらしいんすけど、亡くなった母親に会えた嬉しさで声をかけたらしいんす」

「へぇ~ 声を……それで?」

「返事は無かったみたいっす。何度呼びかけても無視されて、その人今度は近寄って引きとめようとしたんすよ」

「引き止めようと? まさか触れられたのですか?」

 今度はアリスが聞く。
 それに対してクランが頷く。
 他の皆も驚いている様子だ。

「だけど、それでも反応しなかったんす。だからその人――――」

 その男性は、掴んだ肩を引っ張った。
 そうすれば当然顔がこちらに向く。
 男性は至近距離でその顔を見た。
 その瞬間、鳥肌が立ったという。
 彼が目にしたのは、紛れも無く母親の顔だった。
 しかし懐かしいと感じるより、嬉しいの思うより……
 目の前に居る母親の、異常なまでの生気の無さに恐怖した。
 その様はまるで――――

「ゾンビみたいだった……らしいっす」

「ゾンビか」

 この時、レイブの脳裏にはあの魔女が浮かんでいた。
 そして同時に、もう一つの可能性に思い当たる。
 今の話が事実ならば、もしかすると彼女も……
 フレンダも出会ってしまうかもしれない。

 亡き父に―――――

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

次回更新は11/24(土)12時です。
感想お待ちしております。
また現在執筆中の新作ですが、諸事情により投稿開始を来年にする可能性があります。
その前にキャラ文芸で一つ書くのでそっちは今月中に出します。 
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