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魔法学園編(本編)

106.頂の戦い

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 剣戟の音が木霊する。
 激しく討ちあう鋼がその音を響かせる。
 アルベルトとレイブの戦いは、新たな局面を迎えていた。
 剣帝優勢だった戦況は、レイブが二刀目の剣を振るい始めた事で拮抗する。

「すげぇ―――」

 誰かが言ったこの言葉を最後に、もはや誰も声を発しなかった。
 思考する事すら馬鹿らしくなるほど凄まじく、見る者全てを魅了した。
 誰もが永遠に続けばいい……
 そう思ってしまうほどの交錯。
 しかしそんな願いは叶わない。
 戦いに永遠は存在しない。
 いずれ必ず勝者と敗者が決まる。
 
 あんたは強いよ剣帝……
 剣術単体なら、あんたより優れた奴なんていないだろう。
 間違いなく剣士の頂に君臨する男だ。
 条件が限定された戦いなら、俺やエレナにだって勝てるだろうよ。
 だけど、

「ぐっ……」

 拮抗していた戦況が傾く。
 レイブの剣戟に圧倒されていく剣帝。
 手数が減り、競り合いで押し負け始める。

 何なんだこの男は……
 二刀目を持ってから、急に動きが変わった?
 いや違う!
 変わってなどいない。
 そう、変わってなどいない。
 なのにどうして押し負ける?

「うぉあ!」

 レイブの斬撃を受けたアルベルトが、その衝撃で後方へ押し出される。
 それを両足で地面を踏みしめなんとか留まった。
 一旦互いの間合いが離れた事で、三度にらみ合いになる。
 今回はすぐに剣戟を再開した。
 すでに優劣は五分ではない。
 最初と立場が逆転しレイブが優勢となっている。

 重い……なんて重い攻撃なんだ。
 剣術では私の方が確実に上。
 だがこれは―――

 そうだ剣帝!
 確かにあんたは、間違いなく剣士の頂点!
 剣術じゃ……俺はあんたに勝てないだろう。
 だがそれと戦いの勝敗は別だ!
 たとえ魔法を禁止した状況だろうと、戦いの優劣を決めるのは何も剣術だけじゃない。
 身体能力、反射速度、戦術、直感……個人を構成するあらゆる要素が、戦いの優劣に影響を与える。
 もうわかっているだろう?
 俺に剣術で勝っていようとも、それ以外の全てで勝っていれば関係ないのさ!

 瞬きの攻防の中、アルベルトは直感した。
 今目の前にいる男は、単なる人間ではない。
 それは別に、種族が異なるとか、そういう単純な意味ではない。
 剣帝であるアルベルトを、剣士の頂に立つ存在だとするのなら……
 レイブは宛ら、

 全生命の頂点に君臨する存在なのだろう。

 レイブの刃が彼の喉元に触れる。
 遂に決着の瞬間が訪れたのだ。

「私の負けだ」

 歓声が上がる。
 賞賛の声が飛び交う。
 見る者全てを魅了し堪能させた戦い。
 その勝者は、レイブ・アスタルテだった。

「完敗だよレイブ君。剣でここまで圧倒されたのは初めてだ」

「それは俺も同じですよ。あなたは間違いなく史上最強の剣士です」

「今それを言うと嫌味にしか聞えないな……」

「まさか? 俺が勝ったのは、俺が剣士ではなかったからですよ。剣術であなたに勝てる奴なんていません。俺が言うんだから間違いないですよ」

「不思議だな。君が言うと、なぜだか本当のように感じられる」

 こうして頂に達した者同士の戦いに幕がおりる。
 それから時が進み、夕暮れ時になった頃。
 帰路についたレイブは、リルネット達と談話している。

「へぇ~ そんな事があったんだね。それで結局秘密は話したの?」

「ん? ああ、話したよ。その方が今後楽そうだったし」

「どんな反応してた?」

「あんまり驚いては無かったかな? まぁあれだけ戦った後だったから当然だと思うけど」

 むしろ納得したって顔してたな。

「そうなんだ。やっぱり噂通り強かった?」

「強かったよ。剣術は俺以上だったし、今回は魔法とかスキル無しの勝負だったからな。実際はもっと強いと思うぞ」

「ふ~ん、でもさすがだね! そんな人にも勝っちゃうなんてさ! それに貴族だよ貴族! 本当にもう、凄いとしか言えないよ!!」

「当たり前だ。俺を誰だと思ってるんだ?」

「えっへへ、そうだよね!」

「……」

 楽しそうに話すレイブとリルネット。
 そんな二人をアリスはじっと見つめていた。

「ん? どうしたんだアリス」

「いえ、さすがですねレイ様。それで話は今ので以上だったのですか?」

 アリスの質問に、リルネットが僅かに違和感を感じた。
 その違和感が大きく膨れ上がる前に、レイブが答える。

「ああ、全部だよ」

「そうですか」

 今、俺は嘘をついた。
 彼女達に話したのは、貴族になる事とアルベルトとの一件について。
 つまり、国王から提案された、王女専属騎士に勧誘された話はしていない。
 別に大した意図は無い。
 ただ、その事を話せば、なぜ断ったのかも話すことになりそうだったから。
 俺が専属騎士の話を断った理由……
 それは彼女が―――リルが居るから。
 これからも彼女の傍で、彼女の笑顔を守りたいと思っているからだ。
 とどのつまり、俺はその話をする事が恥ずかしかった。
 まったく情けない話だ。
 全生命の頂に立っているというのに、未だ素直に言葉を発することすら出来ないでいる。
 自分の想いすらまともに理解できていない。
 まるで赤子と一緒だ。

「どうしたの? レイ」

「なんでもないよ」

 彼女を守りたい理由。
 その答えに辿り着くのは、頂に上り詰めるより険しい道のりになるかもしれない。
 
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