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魔法学園編(本編)

103.民衆の声

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 王国から突然来た招待状。
 言われるがまま訪れた王城で、まず二人の王女が出迎えた。
 双子の姉ライムと妹のレイム。
 二人はレイブの活躍を知り、彼をずっと慕っていたらしい。
 これを機にお近づきになったあと、二人の親である国王と王妃が訪れる。
 それから色々あって、国王から賛辞と活躍に見合った褒美として、貴族の地位と権利が与えられる事になった。

「では、もっと具体的な話をしよう。今回君に与えられるのは貴族としての地位、要するに爵位と資産、そして領地だ」

 爵位とは、貴族の血統による世襲または国家功労者への恩賞に基づき授与される栄誉称号である。
 もっと詳しく言えば、貴族の称号を序列化したものであり、国家が賦与する特権や栄典の制度でもある。
 五爵と呼ばれるこの制度では、公爵こうしゃく侯爵こうしゃく伯爵はくしゃく子爵ししゃく男爵だんしゃくに分類され、各地位によって優劣が存在する。
 今回レイブに授与される爵位は、序列第3位『伯爵』の称号である。
 爵位の授与において、初めから『伯爵』の地位が与えられた事例は、未だかつて存在しない。
 まさに異例の昇格だった。

 伯爵……
 レイブ伯爵……
 なんかしっくりこないな。
 呼び名は今まで通りか別の案を考えてもらおう。

「資産については、国が保有する資金の一部を譲渡する予定でいるよ」

「国の資金を? そんな事して大丈夫なんですか?」

「心配は不要だよ。国の資金は民衆の資金でもある。君に与えられるなら、民衆から文句も出ないだろうからね」

「そうですか。陛下がそうおっしゃるなら大丈夫なんでしょう」

 国王は特異な言い方をした。
 民衆から文句も出ないだろう……
 ここでの民衆とは、王都の町に住む人々、所謂庶民と呼ばれる者達を指している。
 要するに国王は、民衆は納得するだろうが、それ以外は別かもしれないと言っている。
 レイブはいずれ、国王が言った意味を実感する事になるが、それはまだ少し先の話だ。

「最後に領地だね」

「領地ですか……」

 領地を得るという事は、その地を統治する権利を得るという事だ。
 いやこの場合、権利というより義務になるだろうか?
 この話を始めた時、国王は貴族になっても義務は発生しないと言っていた。
 その時はあえて何も突っ込まなかったけど、そんなはずが無いのはわかっている。
 貴族は人々の上に立つ地位。
 それに何の義務も発生しないはずが無い。
 かつて魔王として魔界を統べたレイブは、その事をよく理解していた。

「そう難しい顔をしなくても良い。おそらく今、君が考えているような事は必要ないよ」

 レイブの表情を見て察した国王は、その不安が不要な物だと言った。
 続けて理由を言う。

「領地と言っても、今回君に譲渡するのは王都の一区画でね?」

「王都の一部ですか?」

「ああ。場所は君が以前、悪魔に墜ちた貴族と戦った区画になる」

 あそこか。
 しかし……

「宜しいのですか? 王都は王国直下の街ですよ?」

「宜しいも何も、それを住民が強く望んでいるんだよ。自分達を救ってくれた人なら、ぜひお願いしたとね?」

 王が差し出す区画の住民達は、レイブが戦う様を見ていた。
 黒魔法によって変貌した貴族。
 その男から放たれる攻撃を、自らの身体を盾にして守り戦う姿を。
 そしてレイブは再び王都の街を救った。
 住民達は彼に恩返しがしたかったのだ。
 命をとして戦う英雄に、ほんの少しでも感謝を伝えたい。
 だから住民達は、王からの要望を躊躇無く受け入れた。

「これは私の独断ではなく、民衆の意志でもあるんだよ?」

「そう言われると、もう何も言えないですね」

 レイブは少し呆れた顔で笑った。
 国王もそんな彼の表情につられ笑顔を見せる。

「はははっ、そうだろうね。それに王都の一部であれば、引き続き運営はこちらで執り行うことができる。爵位を与えられるとはいっても、君はまだ学生で我々から見れば子供だからね? 正式な領地を譲渡するのは、もう少し先にしようと思っているよ」

「その方が助かります」

 俺は現時点でいろいろな問題を抱えている。
 正直これ以上増えるのは遠慮したいと思っていた所だ。
 国王から掲示された条件は、今の俺には都合が良い。

「説明はこれで終わりになるが、何か質問はあるかな?」

「いえ大丈夫です」

「お父様、お話は終わったのですか?」

「終わったのなら、またお兄様とお話がしたいです!」

 ライムが聞き、レイムがそれに続く。
 ずっと長い話で退屈していたらしく、早く遊びたい様子だった。

「すまないが二人とも、それはもう少し待ってからだ」

「えぇ~ どうしてですか?」

 ライムが駄々を捏ねるように言う。

「陛下、私なら時間もあるし構いませんよ?」

「ありがとうレイブ君、しかしそういうわけにもいかないんだよ」

「まだ他に話が?」

「いいや、私からの話は今終わったよ―――」

 私からの?
 国王の言葉を察したレイブ。
 それと同時に、扉の前に気配が近づくのを感じる。

「―――今からは、彼から話があるそうだよ?」

「失礼いたします」

 一人の男性が入室する。
 騎士の服装に漂う強者の風格。
 俺は彼を知っている。
 彼の名は―――――

「【剣帝】アルベルト・サーペイン」
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