上 下
99 / 113
第二部 祐

99 やらかした責任をとらなくては 

しおりを挟む
 私に宛がわれていた部屋に着くとアンディは私を応接間のソファに、そっと下ろした。そのまま離れようとする彼に私は再び抱きついた。

「ジョゼ様」

 困ったように私の愛称を呼んだ後、アンディは隣に腰を下ろすと壊れ物に触れるように私を抱きしめた。

 どれくらいそうしていただろう。

「……ごめん」

 私は、ようやくアンディから離れた。

「いいのです。それだけショックだったという事でしょう」

 ただ「彼」が目の前に現れただけでも私にはショックだとアンディには分かっている。

 しかも、その肉体は今生の私の父親だ。

 二重の意味で私にはショックだった。

「百聞は一見に如かず」とは、よく言ったものだ。いくら心構えはしていたとはいえ想像するのと実際見るのとでは大違いだ。

「……まさか、お父様が祐になるなんて」

 いつかのアンディと同じような事を私は呟いた。

 知っていれば、お父様ジョセフにざまぁしようなどと考えなかった。

 今生の人格ジョゼフィーヌのように泣き寝入りした。

「知っていれば」と考えても無意味なのは分かっている。もう起きてしまった出来事だ。神ではない人間である以上、時間は巻き戻せない。

「……今生の人格ジョゼフィーヌが虐待されてもお父様ジョセフを慕っていたのは、前世の人格わたしの影響だったのかもしれないわね」

 無意識下で気づいていたのかもしれない。ジョセフと祐の魂が同じだと。

 祐に目の前で両親を殺されても一目で心を奪われた相原祥子わたし

 その前世の人格わたし恋心おもい今生の人格ジョゼフィーヌに影響を及ぼしていたのかもしれない。

 それを考えれば、ジョセフが母親お祖母様が自分に無関心でも慕った気持ちを理解できる。……ロザリーの顔が《エンプレス》になったのを見て「愛人になれ」と迫ったのも。

 前世のお祖母様、《エンプレス》、武東祥子は、祐が唯一恋した女性だったからだ。

「ジョゼフィーヌ」もジョセフも結局、前世の人格の影響を受けていたのだろう。

「……やらかした責任はとらなければ、ね」

 いつかのお祖母様の科白だ。

 お祖母様が言っていたのは、今私が思っている事ではないのは百も承知だ。

 祐を目覚めさせた責任をとる事は即ち……私がブルノンヴィル辺境伯でなくなる事だからだ。

 お祖母様が絶対に、そんな事望んでいないのは分かっている。

 大嫌いな異母姉の血も引く孫に家を継がせたくなくて、メイドロザリーにジョゼフィーヌを産ませた人だ。お祖母様が私に望んだのは立派なブルノンヴィル辺境伯である事だけだ。

 それでも、お祖母が望まなくても、祐というパンドラの箱最悪な人格開け目覚めさせてしまった責任は取らなければならない。

 彼を目覚めさせた責任として私がすべきだろう。

 まして、祐は私を殺す気満々なのだ。生き延びるためには、どちらにしろ、彼との殺し合いは避けられない。

 祐に殺されれば当然辺境伯ではいられないし、生き延びたとしても……彼の今生の肉体が私の父親である以上、親殺しという人として最大の禁忌を犯した娘が辺境伯で居続ける事などできやしない。

 それに――。

「……お祖母様には申し訳ないけど、私に辺境伯は無理だわ」

 この数日で身に染みた。

 祐の噂を聞いただけで貴族の仕事である社交ができなくなった。

 お祖母様であれば、どれだけショックな出来事が起きようが公務を優先しただろう。あの人は、そういう人だ。

 けれど、私には、お祖母様のようにノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)の生き方はできない。

 国と民に命を捧げるのが貴族の在り方だのに、私はまず自分自身と身近な大切な人達を優先してしまう。

 こんな私が辺境伯、貴族の当主などできるはずがない。

「……私は所詮、兵士でしかなかったのよ」

 前世では《アネシドラ》の実行部隊員だった。

 領民の命と生活を背負う領主よりも、一兵士として上官の命令を遂行すればいいだけの立場のほうがずっと楽だ。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッシヴ様のいうとおり

縁代まと
ファンタジー
「――僕も母さんみたいな救世主になりたい。  選ばれた人間って意味じゃなくて、人を救える人間って意味で」 病弱な母、静夏(しずか)が危篤と聞き、急いでバイクを走らせていた伊織(いおり)は途中で事故により死んでしまう。奇しくもそれは母親が亡くなったのとほぼ同時刻だった。 異なる世界からの侵略を阻止する『救世主』になることを条件に転生した二人。 しかし訳あって14年間眠っていた伊織が目覚めると――転生した母親は、筋骨隆々のムキムキマッシヴになっていた! ※つまみ食い読み(通しじゃなくて好きなとこだけ読む)大歓迎です! 【★】→イラスト有り ▼Attention ・シリアス7:ギャグ3くらいの割合 ・ヨルシャミが脳移植TS(脳だけ男性)のためBLタグを付けています  他にも同性同士の所謂『クソデカ感情』が含まれます ・筋肉百合要素有り(男性キャラも絡みます) ・描写は三人称中心+時折一人称 ・小説家になろう、カクヨム、pixiv、ノベプラにも投稿中!(なろう先行) Copyright(C)2019-縁代まと

【完結】忘れられた王女は獣人皇帝に溺愛される

雑食ハラミ
恋愛
平民として働くロザリンドは、かつて王女だった。 貴族夫人の付添人としてこき使われる毎日だったロザリンドは、ある日王宮に呼び出される。そこで、父の国王と再会し、獣人が治める国タルホディアの皇帝に嫁ぐようにと命令された。 ロザリンドは戸惑いながらも、王族に復帰して付け焼刃の花嫁修業をすることになる。母が姦淫の罪で処刑された影響で身分をはく奪された彼女は、被差別対象の獣人に嫁がせるにはうってつけの存在であり、周囲の冷ややかな視線に耐えながら隣国タルホディアへと向かった。 しかし、新天地に着くなり早々体調を崩して倒れ、快復した後も夫となるレグルスは姿を現わさなかった。やはり自分は避けられているのだろうと思う彼女だったが、ある日宮殿の庭で放し飼いにされている不思議なライオンと出くわす。そのライオンは、まるで心が通じ合うかのように彼女に懐いたのであった。 これは、虐げられた王女が、様々な障害やすれ違いを乗り越えて、自分の居場所を見つけると共に夫となる皇帝と心を通わすまでのお話。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

ポンコツ天使が王女の代わりに結婚したら溺愛されてしまいました

永江寧々
恋愛
フローリアの仕事は天使として恋人や夫婦、赤ん坊に神の祝福を届けること。 結婚式の鐘の音、赤ん坊の喜ぶ声、幸せそうな両親の笑顔。 フローリアにとって天使は生まれながらにして天職であり、誇りでもあった。 同じ顔、同じ性格、同じ意思を持つ天使たちの中で顔も意思も別物を持って生まれた異端者であるフローリア。 物覚えが悪く、物忘れが激しいマイペースさは天使の中でもトップで、所謂【出来損ない】のレッテルを貼られていた。 天使長アーウィンの頭痛の種であるフローリアも一人前と認められれば神から直々に仕事を任されるのだが、成績が最下位であるフローリアはなかなかその機会が巡ってこない。 神から直々に受ける仕事は【神にその努力を認められた者の願いを一つ叶えに行く】こと。 天使にとって最大の名誉ともなる仕事。 成績最下位の出来損ないであるフローリアが受けられるはずもない仕事だが、神の気まぐれによって直々に与えられることとなった。 フローリアが任された相手はとある国の王女様。 願い事は【私の代わりに王女になって】 天使に拒否権はない。 これは神が人間に与える最大の褒美。どんな内容でも叶えなければならない。 戸惑いながらも叶えることになったフローリアは願いと引き換えに天使の証明であり誇りでもある羽根を失った。 目を覚まし、駆け込んできた男女が『お父様とお母様よ』と言う。 フローリアはいつの間にか王女クローディア・ベルの妹、フローリア・ベルとなっていた。 羽根も天使の力も失ったフローリアは人間として生きることを決意するが、クローディアの代わりに受けた縁談で会った美しい王子は顔を合わせた直後「結婚してください」と膝をつき—— 恋心を持たない天使が王子から受ける過剰ともいえる愛情で少しずつ変わり始めていく。 溺愛主義な王子とポンコツな元天使の恋愛物語。 ※改筆中

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

処理中です...