異能力正義社

アノンドロフ

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桐島凧

09

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 それから、一年が経過した。
 
 彼は、よく笑う子供になった。一体、誰に似たのだろうか。少なくとも俺でないのは確かだろう。
 この一年、彼には生活する上で必要な知識と、義務教育で習う程度の教養を教えた。実家に、教科書が残っていたのが幸運だった。その後、彼が機械に興味を持っているのが分かり、あのボイスチェンジャーを作った技術者に頼んで、暇なときに工房で見てもらうようになった。初めは、ホムンクルスの存在が広まることを恐れ、彼を外部の人間と触れ合わさない方がいいのではとも思ったのだが、あのホムンクルスの製造計画自体が極秘のものであり、今の彼の姿を知る者は俺だけであるということから、自分からホムンクルスだと言わない限り大丈夫だろうと判断した。
 ここまでで気づかれるかも知れないが、俺は彼──FZ・0027に名前を付けていない。何度か考えようと努力したのだが、そのたびに日向小春の名前がちらつき、集中できなくなったのだ。もちろん、彼を日向と呼ぶわけにもいかず、製造番号で呼ぶのも間違っているように感じ、結局は「おい」「お前」「小僧」などでごまかしている。
 それが、この一年間であったことだ。

 ここからが本題となるのだが、とある日、昼食を済ませて「今から何をしようか」と思案する頃、突然インターホンが鳴った。
 来客の予定はなかったので、ドアスコープを覗くと、少女が一人立っていた。全く見覚えのない少女が。
 ドアの向こう側にいる少女は表情を変えないまま、もう一度インターホンを鳴らす。
 ……どうする? 開けるか、開けないか。
 ドアノブに手をかけて悩んでいると、ドアの向こうからくしゃみが聞こえた。
 ドアスコープを覗くと、少女が無表情で震えていた。
 ……この寒いなか放置していると、間違いなく風邪をひくだろう。仕方がない。
 おそるおそるドアを開けると、少女は曇りのないガラス玉のような瞳を向けた。
「あなたが、桐島凧?」
 少女の質問に、俺は答えない。彼女が何者なのか、全くわからないからだ。
 抱いている不信感が伝わったのか、少女は右手を自分の胸に当てる。
「私は、赤川頼朝。父様──赤川義朝の命令で、桐島凧に会いに来ました」
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