異能力正義社

アノンドロフ

文字の大きさ
上 下
36 / 49
桐島凧

05

しおりを挟む
「安定してきてるような気がする」
 週に一度の定期検診。パソコンの画面を見つめながら、医者はそう言った。
「本当ですか?」
「うん。発作の回数も随分減っているし。最近入院の期間も短くなってる」
 そういえば、最後に長期の入院をしたのが一年の終わりだったはずだ。それから今日までの一年間は、たしかに今までのなかで最も穏やかなものだった。
 変わったことといえば、予定を立てるようになったことぐらいだろうか。それまでは、いつ死ぬかわからないという不安があり、それをなくすために、生に執着しないように生きてきた。生きることを、諦めていた。しかし、日向と出会ってから、変わった。不安が完全になくなったわけではないが、希望を持てるようになった。そして、この病が治った後にやりたいことを見つけることができた。一年前の俺には考えられないことだろう。
 前向きになれたことが病気に作用しているのかどうかはわからないが、ストレスが病気を引き起こすことも、笑いが病気を癒すこともあるのだ。少しぐらいは関係しているのではないのだろうか。


 症状が落ち着いてきたと言っても、治ったわけではない。発作もなくなったわけではなく、いつ死ぬかわからないという状況も続いている。だから、今も勉強は続けている。それだけでなく一年後は受験生になるわけで、周囲も進路を考え始めていた。
「桐島君って、高校どこにするの?」
 あるとき、日向にそう尋ねられた。テスト勉強で数学をみているときだった。
「高校は行かない」
「え? 行かないの? 同じところに行きたかったのに」
 残念そうだったが、俺はすでに高校で習う内容は勉強し終えている。それなら認定試験を受けた方がいい。時間が多くできる。
 そのできた時間で何をするのかといえば、この病気の原因である寄生虫の研究だ。経験から寄生虫の性質をつかめてはいるが、個人で検証できるものではなく、どこかの研究所で雇われるか、自分の研究室を持って人を雇うかのどちらかで研究することになるだろう。ただ、前者は自分のやりたい研究ができるかの確証がなく、そもそも雇ってくれるところがあるのかどうかわからない。後者は、金がないため不可能に近い。
 このことを、定期検診でいつもの医者に話してみると、中学卒業後の一年間だけその人が所属する大学の研究室を手伝うことになった。彼が研究室で研究しているのがその寄生虫であるため俺のしたいことにも繋がり、研究の仕方も学ぶことができ、その一年の間に認定試験も受けられる。あと、その間に何か結果を出すことができれば、雇われやすくなるだろう。俺にとっていいことづくめだった。


 その後大きな発作が起きることもなく、順調に計画通り進んでいった。
 中学を卒業し、大学の研究室で手伝いをする。認定試験は合格し、寄生虫について書いた論文の一つが雑誌に掲載され、想像していたより早く雇われ先が見つかった。その研究所の職員の一人が論文を読み、興味を持ってくれたらしい。研究所で行われている研究の手伝いをする代わりに、寄生虫の薬の開発をさせてもらえることになった。
 日向ともよく会っていた。日向は無事第一志望に合格することができ、楽しそうに高校生活を送っていた。
 全てが順調だった。不気味なほど、平和だった。
 平穏な日々が崩れたのは、忘れもしない六月十日。十七歳の誕生日。
 その日を境に、俺の人生は破滅することとなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...