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桐島凧
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「安定してきてるような気がする」
週に一度の定期検診。パソコンの画面を見つめながら、医者はそう言った。
「本当ですか?」
「うん。発作の回数も随分減っているし。最近入院の期間も短くなってる」
そういえば、最後に長期の入院をしたのが一年の終わりだったはずだ。それから今日までの一年間は、たしかに今までのなかで最も穏やかなものだった。
変わったことといえば、予定を立てるようになったことぐらいだろうか。それまでは、いつ死ぬかわからないという不安があり、それをなくすために、生に執着しないように生きてきた。生きることを、諦めていた。しかし、日向と出会ってから、変わった。不安が完全になくなったわけではないが、希望を持てるようになった。そして、この病が治った後にやりたいことを見つけることができた。一年前の俺には考えられないことだろう。
前向きになれたことが病気に作用しているのかどうかはわからないが、ストレスが病気を引き起こすことも、笑いが病気を癒すこともあるのだ。少しぐらいは関係しているのではないのだろうか。
症状が落ち着いてきたと言っても、治ったわけではない。発作もなくなったわけではなく、いつ死ぬかわからないという状況も続いている。だから、今も勉強は続けている。それだけでなく一年後は受験生になるわけで、周囲も進路を考え始めていた。
「桐島君って、高校どこにするの?」
あるとき、日向にそう尋ねられた。テスト勉強で数学をみているときだった。
「高校は行かない」
「え? 行かないの? 同じところに行きたかったのに」
残念そうだったが、俺はすでに高校で習う内容は勉強し終えている。それなら認定試験を受けた方がいい。時間が多くできる。
そのできた時間で何をするのかといえば、この病気の原因である寄生虫の研究だ。経験から寄生虫の性質をつかめてはいるが、個人で検証できるものではなく、どこかの研究所で雇われるか、自分の研究室を持って人を雇うかのどちらかで研究することになるだろう。ただ、前者は自分のやりたい研究ができるかの確証がなく、そもそも雇ってくれるところがあるのかどうかわからない。後者は、金がないため不可能に近い。
このことを、定期検診でいつもの医者に話してみると、中学卒業後の一年間だけその人が所属する大学の研究室を手伝うことになった。彼が研究室で研究しているのがその寄生虫であるため俺のしたいことにも繋がり、研究の仕方も学ぶことができ、その一年の間に認定試験も受けられる。あと、その間に何か結果を出すことができれば、雇われやすくなるだろう。俺にとっていいことづくめだった。
その後大きな発作が起きることもなく、順調に計画通り進んでいった。
中学を卒業し、大学の研究室で手伝いをする。認定試験は合格し、寄生虫について書いた論文の一つが雑誌に掲載され、想像していたより早く雇われ先が見つかった。その研究所の職員の一人が論文を読み、興味を持ってくれたらしい。研究所で行われている研究の手伝いをする代わりに、寄生虫の薬の開発をさせてもらえることになった。
日向ともよく会っていた。日向は無事第一志望に合格することができ、楽しそうに高校生活を送っていた。
全てが順調だった。不気味なほど、平和だった。
平穏な日々が崩れたのは、忘れもしない六月十日。十七歳の誕生日。
その日を境に、俺の人生は破滅することとなる。
週に一度の定期検診。パソコンの画面を見つめながら、医者はそう言った。
「本当ですか?」
「うん。発作の回数も随分減っているし。最近入院の期間も短くなってる」
そういえば、最後に長期の入院をしたのが一年の終わりだったはずだ。それから今日までの一年間は、たしかに今までのなかで最も穏やかなものだった。
変わったことといえば、予定を立てるようになったことぐらいだろうか。それまでは、いつ死ぬかわからないという不安があり、それをなくすために、生に執着しないように生きてきた。生きることを、諦めていた。しかし、日向と出会ってから、変わった。不安が完全になくなったわけではないが、希望を持てるようになった。そして、この病が治った後にやりたいことを見つけることができた。一年前の俺には考えられないことだろう。
前向きになれたことが病気に作用しているのかどうかはわからないが、ストレスが病気を引き起こすことも、笑いが病気を癒すこともあるのだ。少しぐらいは関係しているのではないのだろうか。
症状が落ち着いてきたと言っても、治ったわけではない。発作もなくなったわけではなく、いつ死ぬかわからないという状況も続いている。だから、今も勉強は続けている。それだけでなく一年後は受験生になるわけで、周囲も進路を考え始めていた。
「桐島君って、高校どこにするの?」
あるとき、日向にそう尋ねられた。テスト勉強で数学をみているときだった。
「高校は行かない」
「え? 行かないの? 同じところに行きたかったのに」
残念そうだったが、俺はすでに高校で習う内容は勉強し終えている。それなら認定試験を受けた方がいい。時間が多くできる。
そのできた時間で何をするのかといえば、この病気の原因である寄生虫の研究だ。経験から寄生虫の性質をつかめてはいるが、個人で検証できるものではなく、どこかの研究所で雇われるか、自分の研究室を持って人を雇うかのどちらかで研究することになるだろう。ただ、前者は自分のやりたい研究ができるかの確証がなく、そもそも雇ってくれるところがあるのかどうかわからない。後者は、金がないため不可能に近い。
このことを、定期検診でいつもの医者に話してみると、中学卒業後の一年間だけその人が所属する大学の研究室を手伝うことになった。彼が研究室で研究しているのがその寄生虫であるため俺のしたいことにも繋がり、研究の仕方も学ぶことができ、その一年の間に認定試験も受けられる。あと、その間に何か結果を出すことができれば、雇われやすくなるだろう。俺にとっていいことづくめだった。
その後大きな発作が起きることもなく、順調に計画通り進んでいった。
中学を卒業し、大学の研究室で手伝いをする。認定試験は合格し、寄生虫について書いた論文の一つが雑誌に掲載され、想像していたより早く雇われ先が見つかった。その研究所の職員の一人が論文を読み、興味を持ってくれたらしい。研究所で行われている研究の手伝いをする代わりに、寄生虫の薬の開発をさせてもらえることになった。
日向ともよく会っていた。日向は無事第一志望に合格することができ、楽しそうに高校生活を送っていた。
全てが順調だった。不気味なほど、平和だった。
平穏な日々が崩れたのは、忘れもしない六月十日。十七歳の誕生日。
その日を境に、俺の人生は破滅することとなる。
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